ハンカチノキ Davidia involucrata

ハンカチノキ(北山緑化植物園(西宮市:2011.5.4)

ハンカチノキ (北山緑化植物園(西宮市:2011.5.4))

ハンカチノキ科* ハンカチノキ属 【*APGⅢ:ミズキ科】

Davidia:人の名前(David)  involucrata:総ほうを持つ

ダビッディア、ハンカチノキという木の名を初めて聞いたのは、私が大阪市大の付属植物園へ転勤して間なしの頃、樹木担当の安藤先生が外国の植物園から届いたたった一つのタネを大事に植木鉢に植えようとしていた時で、もう45年ほども前のことになる。聞けば枝一杯に白いハンカチをぶら下げたように花が咲く1科1属1種の珍木で、日本にはほとんど植えられていないという。くだんの種子は結局発芽さえしなかったが、ハンカチをぶら下げたようと表現されるこの木の花を一度は見たいと思いつつ、長い年月が過ぎた。

15~16年前に東大・小石川植物園で初めてこの木を見、その後何度か訪れたがいずれも時期が悪く、花を見ることは出来なかった。同じ頃、西宮の北山緑化植物園にもこの木があることに気がついた。西宮市は中国紹興市との友好関係が深く、園内に小蘭亭などの中国風建築物があり、ハンカチノキもそのそばに数本植えられている。ただ、これらはいずれも若く、毎年、何度かこの植物園へ出かけるものの開花しそうな雰囲気はなかった。

念願の花を見る扉が突然開いたのは、昨年11月初め亀岡市の花明山植物園へ行ったときのことで、事務所の近くにクルミ大の見慣れぬ実を一杯つけた木が1本あり、これがハンカチノキだった (右写真)。実がなるということは花が咲くということ、春にここへ来さえすれば確実に見ることが出来る。さらに同じ月の下旬、北山緑化植物園でも1本の木に1つだけ実が残っているのを見つけ、ここの木もすでに花をつけていることが確認できた。

今年(2011年)4月17日、様子見に北山植物園へ出かけたが、まだ裸木で花の気配はなかった。
4月29日、展葉・開花はしていたものの苞(ほう)はまだ黄緑色で小さかった。
そして5月4日、1本の木にたくさんの花が咲いているのを見て、長年の願いを果たすことが出来た。

ハンカチノキ Davidia involucrata

Davidia科に属する1科1属1種の落葉樹で、中国湖北西部、四川、貴州、雲南の標高1800~2200mに自生、樹高15~20mに達する。花は径約2cmの頭状花序で赤紫色の多数の雄花と1本の両生花があり、ともに花弁はない。白いハンカチのように見えるのは大小2枚の大きな苞で、長さ7~15cm。外国文献ではHandkerchief Tree よりもDove(鳩)Tree、Ghost(幽霊)Treeを優先して掲げる。最近の文献ではDavidiaをカンレンボクが属するNyssa(ヌマミズキ)科や、Nyssa科、Davidia科ともどもミズキ科に分類することが多い。
 属名Davidiaはこの木をヨーロッパに紹介したフランスの神父、博物学者のArman David にちなむ。この人は中国のジャイアントパンダやシフゾウ(四不象)、キンシコウ(錦絲猴)などをヨーロッパに紹介した人物としても知られる。種名involucrataは「総苞をもっている」の意。

(初出:「都市と自然」 2011年10月号(No.427))