Cornus hongkongensis 常緑ヤマボウシ

Cornus hongkonensis(大阪市中央区瓦町:2021.6.6))

Cornus hongkongensis (大阪市中央区瓦町:2021.6.6)

ミズキ科* ミズキ属 【*APGⅢ:ミズキ科】

Cornus:Cornu(角:材が堅いので)から hongkongensis:香港の

 もう、7~8年も前になろうか、京都府立植物園大温室の前に小さな群植があり、遠目には赤い花が咲いているとしか見えない潅木があった。気になってそばでよく見るとそれは花ではなく、色も形もまさしく日本のヤマボウシそっくりな果実で、一見してCornus(ミズキ属)と分かった。しかし、濃い緑の葉は常緑で葉脈の走りもまったく異なり、わたしが初めて見る木だった。

木にラベルはなく、帰宅後、何枚か写した写真とむかし買った「中国高等植物図鑑」を引き比べ、香港四照花 Cornus hongkongensis にいきついた.。当然、和名は無く、仮に「ホンコンエンシス」と呼ぶことにした。

この実を見たのは11月で花はなく、どんな花が咲くのか分からなかったが、2~3年後、靫公園近くの瀟洒な新築住宅の前庭で花を実見し、日本のヤマボウシによく似ていることを確認した。

ホンコンエンシスの自生地は中国南部の標高350~1700mの山林で、かなりの耐寒性をもつ。現在身近で見かける個体はいずれも若木で、せいぜい高さ2~4m、大きいものでも京都府立植物園北山門の前にある6~7m程度であるが、本来は15m、大きいものは25mにも達し、材は堅硬で木目が細かく、加工のしやすい良材とされている。

C. hongkongensisの花 C. hongkongensisの花  本種の花期は5~6月。白い花弁のように見えるのは日本のヤマボウシと同様4枚の総苞で、本来の花はごく小さく、50~70個が球状に集まって頭状花序をなし、長さ3.5~10cmの花梗の先につく。秋になると数十の花の子房が肥大・合着して1つの集合果となり、赤または黄色に熟す。集合果は生食でき、酒や酢の醸造にも供されるという。 (写真上:花(大阪市中央区瓦町 2021.6.6)、花梗の先につく苞と頭状花序(同 2022.6.13)/写真下:集合果(同 2021.10.5)

C. hongkongensisの集合果 C. hongkongensisの花 初見の頃はこの木を見ることはほぼ皆無だったが、3~4年した頃から目にする機会が増え始め、とくにここ1~2年、目撃機会が急激に増えた気がする。とはいえ、その多くは新築マンションやオフィスビルの前庭、個人住宅の玄関先などの植栽に限られ、公園や街路で見た記憶は無い。これはこの木の造園木としての認知度がまだ低く、一部の先駆的な造園家が植栽に用いるにとどまる一方、造園木としての苗木生産がまだ軌道に乗らず、供給量が少ないことも関係していよう。

ところで、本稿では京都府立植物園の新植樹に付されたラベルに依り漢字交じりの「常緑ヤマボウシ」としたが、これは多分造園業界での流通名で、これが正式和名として認知されるかどうかは分からない。個人的には「ホンコンヤマボウシ」がいいと思うが、この種は多くの亜種や変種を認める説があるほど花や果実、葉などの色、形、大きさに変異が大きく、固定したホンコンエンシス像を結びにくいことを考えると、当面「常緑ヤマボウシ」と括っておくのもいいかも知れない。
(初出:大阪自然環境保全協会機関誌「都市と自然」第47巻1号・通巻531号(2022.4.1))

(補注) ミズキ属(Cornus)については、例えば平凡社「日本の野生植物・木本II」などのように、これをさらに次の4つの属(または亜属)に細分する有力な考えがあり、その場合、本種やハナミズキ(アメリカヤマボウシ)はこの中のヤマボウシ属に含まれる。中国では現在こちらの分類体系が採用されているようで、「中国植物志」や「百度百科」などのWebサイトで Cornus hongkongensis を検索しても出てこない。なお、APGⅢ分類体系では細分説はとっていない。
 ゴゼンタチバナ Chamaepericlymenum(亜)属
 ミズキ Swida(亜)属
 サンシュユ Cornus(亜)属
 ヤマボウシ BenthamidiaまたはDendrobenthamia(亜)属