カエデの語源は「蛙手(かえるで)」ですから、この仲間はみんな手のひら状に切れ込んだ葉っぱをつけると思いこんでいると、チドリノキや、メグスリノキ、ネグンドカエデ(別名:トネリコバノカエデ)などの例外的な葉をつけるカエデ類に出会ったとき、面食らってしまいます。
三出複葉で、葉身や葉柄に密に毛をもつメグスリノキ(日本の温帯産)や、トネリコのようなやや大きな羽状複葉をつけるネグンドカエデ(北米原産)などは特徴が際だっていますから、一度覚えればすぐにそれと分かります。ただし、これらは大阪近辺では夏の高温が原因で寿命が短く、たとえ公園などに植えられてもあまり大きくならないうちに枯れてしまうため、めったに見ることがありません。
これに対しチドリノキは金剛山や六甲山系にも生育し、クマシデやクヌギのように葉身の真ん中をとおる一本の主脈にたくさんの側脈をつけた単葉をもち、ふつうのカエデのような掌状脈ではないため、かなりの経験を積まないうちは、これがカエデの仲間だとは信じられません。しかし、クマシデの仲間(カバノキ科)やクヌギの仲間(ブナ科)はすべて葉が互生するのに対し、カエデ科に属するチドリノキは葉が対生するので、まず、カバノキ科やブナ科から除外して考えなければなりません。
チドリノキがカエデ科であることを納得するにはその実を見る必要があるかもしれません。すなわち、さきのメグスリノキやネグンドカエデをふくめ、カエデのなかまはすべて羽根(翼)をもった二つの実がくっついた状態になっていますから、チドリノキの果実が枝分かれした細い果柄に穂状にぶら下がっているのを確かめると、いやでもカエデの仲間であることが認識できます(左写真:森林植物園(2000.8.13))。
チドリノキは晩秋に鮮やかな黄色に色づき、ひときわ強く人の目を引きつけます(右写真:神戸森林植物園(2000.11.19))。