ブナ  Fagus crenata

ブナ(金剛山:2004.6.30) ブナ(金剛山 2004.6.30)

ブナ (金剛山:2004.6.30)

ブナ科* ブナ属 【*APGⅢ:ブナ科】

Fagus :食用にする crenata :鈍鋸歯(きょし)のある

わたしの観察会(百樹会)では、アラカシやシラカシ、シイなど、ドングリのなる木がみんなブナ科の樹木だと説明していましたので、ブナという名前そのものをご存じの参加者も多いと思うのですが、大きなブナの木を見たことのある人はそれほど多くないかもしれません。しかし、ブナは日本の樹木の中でも特に重要な木ですので、是非知っていて欲しいものの一つです。

ブナが何故それ程重要なのかというと、この木が気候帯でいう「温帯」を一番良くあらわしているからす。極端に言えば、ブナが無く、カシやシイのような常緑樹が多く生えているところは暖帯、ブナが生えているところが温帯、シラビソやコメツガなど常緑性の針葉樹が生えているところは亜高山帯(亜寒帯)、というふうに考えて大きな間違いはありません。というよりも、ブナ林の成立する気候条件のところを温帯と決めた、というべきかもしれません。

ブナは、本来大変大きくなる樹木で、高さ30m、幹直径1.5mにも達することがあります。樹肌は滑らかで割れ目がなく、灰色ないし灰白色をしており、ふつう地衣類がくっついて大きな斑紋ができ、よく目立ちます。堀田満先生の「野山の木」から引用した右の分布図からも分かるように、ブナは北海道の南部(渡島半島:黒松内低地)から九州、四国にかけて広く分布しています。日本の広葉樹の中ではもっとも材の蓄積量が多い木で、家具や合板の材料やパルプ材として多く用いられますが、ここ30年ほどの間に各地で伐採が進み、乱伐として問題となっています。

大阪の近くにあるブナ林は、金剛山や大和葛城山にせよ、また、国指定の天然記念物である和泉葛城山にせよ、本来の分布域からすると高温側の限界に位置しており、ブナの成育環境としてはかなり厳しい条件におかれています。それだけに、規模は大変小さいもののこれらの森林は貴重であり、大切にしていかねばなりません。