ブーゲンビレア  Bougainvillea spectabilis

ブーゲンビレア(大阪府都市緑化植物園:1999.9.19.)

ブーゲンビレア (大阪府都市緑化植物園:1999.9.19)

オシロイバナ科* ブーゲンビレア(イカダカズラ)属 【*APGⅢ:オシロイバナ科】

Bougainvillea:フランスの科学者 Louis-Antoine de Bougainville にちなむ spectabilis:すばらしい、美しい

私が初めてブーゲンビレアを見たのは学生時代のことで、実習か何かで私市の植物園へ行ったときのことだった。 当時副園長だった玉利先生が他の植物と一緒に名前を教えて下さったが、うす紫の大きな花弁が目立つ、きれいな花だというのが第一印象だった。

ブーゲンビレアの花(2001.9.9) しかし、そばへ寄ってその花を間近かに見たとき、一瞬、わが目を疑った。花びらと見えたのは、実はうす紫の色のついた葉っぱが3枚集まったもので、 たしかに花びらのように薄いのだが、形はまさに1枚の葉、主脈もあれば側脈もある。おまけに、その主脈の途中には小さな筒状の花がついている。 まるで花弁のような大きな苞葉をもつこの植物は、ガクがあり花弁があり、雄しべ・雌しべがあるという教科書的な花の成り立ちからかけはなれており、 植物にとって花とは何か、昆虫の擬態にもつながる生き物の底知れぬ力を見たようで、心に強く刻まれた。

Bukittinggi, Sumatra:1995.7.23 華やかで、長期間色あせしない苞葉で樹冠全体を飾りたてるブーゲンビレアは温室植物の定番で、 ほとんどどこの温室にも植えられている。また、沖縄はもちろん、熱帯・亜熱帯のどんないなかへいっても、 この植物をみないところはないといってよいだろう。多くの場合、数本の幹を立て、樹冠全体を丸く刈り込んで色彩のマスを強調しているが、 本当は短いトゲをもったツル性木本植物で、ほうっておくとどんどん伸びていき、ガラス室の中なら天井近くまではいあがるし、 熱帯の野外なら、高さ10mをこえる他の木の樹冠をおおってしまう。 わたしが数年前、スマトラのブキティンギでみた何本かもそんな木で、見上げるほど高い木の樹冠を赤橙色の花でおおいつくし、 根元の太さは10数センチもあった(右写真:1995.7.23)

ブーゲンビレアの原産地は南アメリカで、この属には約20種があるそうだが、観賞植物としては Bougainvillea spectabilis B. glabra の原種、 およびさまざまな交配品種があり、花(苞葉)の色かたちには驚くほどたくさんの変異がある。

ところで、ブーゲンビレアは、われわれにもごく身近なオシロイバナと同じオシロイバナ科に属している。 そしてこの科の植物の花はすべて花冠(花弁)を欠き、ブーゲンビレアの鮮やかな苞葉に添え物のようにくっついている小さ筒状の花も、 厳密には花冠ではなく、ガク筒ということになる。したがって、オシロイバナのきれいな紅紫色の花もガクということになるが、 これはオシロイバナ科のような単花被花の場合、これをガクと呼ぶという植物学上の約束に従ったもので、 おなじ単花被花をもつアケビやクレマチスの花弁状のものもガクとよばれている。

(補足的説明) ブーゲンビレアはおもに南アメリカの熱帯に20種ほどがあるとされるが、 花木として利用されるのは、B. spectabilisB. glabraで、後者は葉が大きく、 光沢があるのでテリハイカダカズラの和名を持つ。それぞれ多くの園芸品種がある一方、交配種も多い。
 花はもともと一本の枝が変化したもので、雌しべ、雄しべ、花弁、ガク片などもその起源は葉と考えられ、 これらは特に花葉ともよばれる。本文中の「単花被花」とは花被(花弁(=内花被)とガク(=外花被)を総称)が一種類しかない花で、 このような場合は存在する花被が花弁状になっていても「ガク」とよぶ。
【初出:「都市と自然」No.253(1997年4月号)「よもやま図鑑(48)」】

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