バナナ(ミバショウ) Musa acuminata

バナナ(ミバショウ)(京都府立植物園:2006.4.9)

バショウ科* バショウ属 【*APGⅢ:バショウ科】

Musa:この植物のアラビア名  acuminata:先が次第に尖った

バナナは大きな葉をつけた、一見ヤシの木に似た植物ですが、厳密にいえば樹木ではありません。直立した茎のような部分も実は茎ではなく、葉のつけねが茎を取り巻いている葉鞘という部分がたくさん集まったもので、茎でない茎という意味で偽茎とよばれています。本当の茎は土の中にあります。

バナナは極めて古くから人類の改良の手が加えられてきた植物で、世界の熱帯地方で広く栽培されています。冬の寒い大阪や京都ではもちろん野外では育たず、冬期加温された温室で標本的に栽培されるだけです。

栽培バナナの起源と考えられているのはインド東部から西部マレーシア地域に野生分布するM. acuminata で、本来、果実の中にたくさんの種子ができます。今でも種子のあるバナナが栽培されていて、もう10年以上も前にタイへ行ったとき、一度だけ食べる機会がありました。大変おいしいものでしたが、直径1cmほどの黒くて堅い種子がいっぱい入っていました(右写真:最近写した乾燥標本)。いまの栽培バナナのほとんどは受精しなくても果実が大きくなる無種子の二倍体品種や三倍体化して種子なしになった品種です。種子ができないので、繁殖するときは根元からできてくる吸芽とよばれる小さな植物体を切り離して栽培します。

私達がふだん食べているのは甘みの多い生食用のバナナですが、熱帯地方では甘みの少ない料理用のバナナ(リョウリバナナ M. paradisiaca、バナナとリュウキュウイトバショウとの交雑三倍体)がたくさん栽培されていて、それはバナナ(banana)と言わずプランテ-ン(plantain)と呼ばれています。生食すると渋いのですが、加熱するとおいしくなるそうです。banana と plantain の区別がどの程度厳密なのかよく分かりませんが、名前が違うということはかなり本質的な違いが認識されている証拠で、単なる外見的類似以上の違いがあるのかもしれません。

バナナによく似た植物で私達に身近なものはバショウ (M. basjoo写真は西宮市都市緑化植物園(北山植物園:1999.11.24)) です。バショウはバショウ属の中で最も耐寒性があって日本の野外で育ちます。また沖縄で栽培されるリュウキュウイトバショウ (M. balbisiana) はバショウに次いで耐寒性があり、偽茎から繊維を取って芭蕉布を織ります。また、葉鞘からロープや敷物用の繊維を取るバナナそっくりな植物にマニラアサ (M. textilis)があり、化学繊維ができるまではフィリピンの極めて重要な作物でした。