バクチノキ  Prunus zippeliana

バクチノキ(京都府立植物園:2004.3.14)

バクチノキ (バクチノキ(京都府立植物園:2004.3.14)

バラ科* サクラ亜科サクラ属*バクチノキ亜属 【*APGⅢ:バラ科バクチノキ(Laurocerasus)属】

Prunus:スモモの仲間  zippeliana:人名(Zippel)から

木の名前にはさまざまなものがありますが、そんな中でもバクチノキというのは傑作なものの代表かも知れません。この木は時として直径1mに達するといわれますが、ある程度太くなると樹皮がウロコ状にはがれ、そのあとが鮮やかな赤褐色をしています。このようすをバクチに負けた博徒が身ぐるみはがれ、赤裸のまま賭場から放り出された姿になぞらえてこの名が付いたとされ、江戸時代には博徒の信仰の対象になったとさえいわれます。このいわれを知っていますと、はじめてこの木を見てもそれとわかるくらいです。もっとも、万博記念公園・自然文化園にある木はまだ若くてそれほど樹皮がはがれていませんが、たとえばむかし見た松江城内にある個体などは幹の直径が20~30cmほどあってみごとに樹皮がはがれ、なるほどとその名前のいわれを納得してしまいます。また、京都植物園にも少し大きく、樹皮のはがれた木があります。

バクチノキは常緑樹で、その分布は房総半島から西の本州、四国、九州、沖縄の太平洋岸に限られており、標高の高いところには生えることのできない暖地性の樹木であることがわかります。葉はやや革質で葉縁に鋭い鋸歯があり、なんとなくタラヨウなどのモチノキ科樹木のような印象を与えますが、実はバラ科サクラ亜科に属します。このことは、花がウワミズザクラやイヌザクラのような総状花序につくことや、葉柄の上の方に一対の蜜腺があることからわかります(写真右:2002.11.17:京都府立植物園)。

日本産の常緑性のサクラはバクチノキのほかにはリンボクがあるだけで、開花時期も春ではなく秋の9月ごろですのでサクラとしては例外的です。

なお、最近の分類では、たとえば朝日百科「植物の世界」のようにサクラ属をモモ属、スモモ属、アンズ属、サクラ属、ウワミズザクラ属、バクチノキ属など6つの独立した属に細分する考え方も有力です。このうちバクチノキ属だけ常緑性ですが、ウワミズザクラ属とはごく近縁だと考えられています。