アオモジ  Litsea citriodora

アオモジ (神戸市立森林植物園:2001.4.2)

クスノキ科* ハマビワ属 【*APGⅢ:クスノキ科】

Litsea:中国名からといわれるが漢字は不明  citriodora:柑橘の香り

生態学会の見学会で屋久島へ行ったのはもう何十年も前のことだ。 寝袋、食料持参の自炊で小杉谷の山小屋に2泊し、小雨の中、縄文杉やウィルソン株に初めてふれた感激は今も新しいが、 このとき見たアオモジのこともよく覚えている。宿舎そばの小さな谷に数本かたまって生え、 直立した幹は高さ10mほど、緑白色の葉はうすく、柔らかく、スマートで美しい木だと強い印象を受けた。

森林植物園:2001.4.2 アオモジは、本来、九州西部から奄美に分布する木で大阪には自生しないから、 大阪でこの木を見ることはまずあるまいと思っていたが、10数年前、 3月末に八尾市神立(こうだち)の庭木産地を歩いているとき、枝いっぱいに花を咲かせた見慣れぬ木があって、 これが意外にもアオモジだった。樹高は屋久島のものよりずいぶん低く、 枝の数もやたら多いずんぐりした樹形だったが、こちらは切り枝用に畑の真ん中に植えられ、 屋久島のは谷すじに群生していたことを考えれば、樹形のこんな違いもあり得る事と納得し、 その後は、アオモジ見たくば神立へと、何度かここへ会いに行った。

それから数年後、(株)環境設計の梅原さんから泉南の方でアオモジが自生しているというニュースを聞いた。 自生といってももちろん栽培からの逸出が野生化したものだが、もともとこの木は暖地の植物で、 大阪では人の保護・管理なしには生きられないと思いこんでいたから、 その情報には正直のところかなり驚いた。

ところが、昨年、泉佐野市内の林道工事現場から集めたという森林表土を大阪府からもらって播きだし実験をしたところ、 思いもかけず埋土種子から多くのアオモジが発芽した。 提供された森林表土がたまたまアオモジ成育地のものだったからだが、 まさかアオモジ種子がこんなにたくさん土壌に含まれ、また、容易に発芽するとは夢にも思っていなかった。

アオモジは、現在、大阪での分布をかなりの早さで広げつつあるのかもしれない。 泉南市では樹高数m、太さ10cm以上のアオモジがたくさんあって完全に定着しているし、 梅原さんの話では、生駒山系のあちこちでアオモジ実生が確認されているそうだ。 また、我々は去年暮れ、箕面の国際文化公園都市造成地の荒れた林縁で、 樹高1m余りの若い実生を何本か見つけた。もし、今から数年間隔でアオモジ分布図がつくれれば、 分布の拡大経過を示すおもしろいデータが得られるのではなかろうか。

アオモジ
 林縁や道路法面などの攪乱の大きい場所に生える雌雄異株の落葉樹で、 昔はクロモジやシロモジと同じ属に分類されていたが、現在はカゴノキなどと同じハマビワ属に分類される。 材に芳香があるためヤマコショウやショウガノキなどの別名を持ち、楊枝を作る。 また、果実にレモンのような香りがあり、種名 citriodora(柑橘の香り)はこれによる。
奈良公園/鹿苑近くのアオモジ(2000.5.3  最近、大阪で野生分布が拡大しつつある理由については、 単に、切り花用に栽培された木が充実種子を多くつけるほど大きくなったからなのか、 気候の温暖化が多少とも関係しているのか、よく分からない。なお、意外なところでは、 奈良公園の飛火野、鹿苑の近くの柵で保護された一角に私の背(160cm)より やや高くなったアオモジがあるのを見つけている(写真左:2000.5.13)
(初出:都市と自然:よもやま図鑑。鹿苑近くのアオモジは、現在さらに大きく成長し、5m近くに達している(写真右:2004.11.3))。