対談
わたしを通り過ぎていった
田島貴男 二見裕志vs魂列車一号

田島貴男。通称T.T.(本当か?) 一流の音楽家ということはわかる。しかしどことなく3枚目風に見える風情もオカしい。なんだか、慌てて見える人だし。T.T.をよく知る2人に語ってもらった本人抜きの暴露話。ほめなくていいんです。笑える話をたくさんください、と編集者からもお願い。


二見裕志…クラブDJ、ラジオ番組ディレクター、音楽ライターなどで活躍中。田島貴男がパーソナリティーを務めた2つのラジオ番組「Pulse of Love」「Mighty Mighty」の構成を手がける。
魂列車一号…通称タマイチ。レコードやくざとして文筆活動&レコ買い活動啓蒙中。オリジナルラブの前身バンド、レッドカーテンのべース小里誠(現コレクターズ)と同居していた大学時代に田島と出会う。以来14〜15年の仲。ラジオ番組「Mighty Mighty」にも、出演中。

二見(以下F)何の話でも一回引っかかると深入りしちゃう人。テンション落とさずに1つの話題だけでずーっとしゃべっている。

魂列車一号(以下T)最近騒いでいたのは、裸のラリーズ(※注…フランス&日本を中心に60年代より活動する、今だ現存するサイケデリックバンド)のライブの話。学生時代に鹿鳴館というライブハウスで見たらしい。7時にスタートして最初の1時間半は暗い照明とサイケデリックなBGM。いよいよ本人たちが登場すると、ギタリストの目の前に数台のワウペダルがある。それをぺこぺこふむんじゃなくて、1台ずつ踏みっぱなしにしていくんだって。その度に“ギョワィ〜ン!”というノイズが生まれる。俺たちもそういうパッション持とうよ、とか言って田島君はずっと「ギョワィ〜ン!」と叫んでいたね。

F こっちもつられて叫んだりして。ラーメン屋さんで、その話ばっかりで3時間。酒も飲まずに。しかも支払いはぴったり割り勘。友達同士だからいいんだけど、たまにはおごってほしい(笑)。

T 事務所の社長なんだから領収書切れるのにね。豪勢なパーティーくらい開いてほしいよ。他人におごるという男気が見たい、俺はノーギャラで彼のラジオに出ている(笑)。

F 今日は俺がおごるなんていう発想が元々ないんだろうね。だからこちらもそういう飾り気のない男だからまあいいか、なんて思うんだろう。ということも含めてセルフプロデュース能力が劣っているとかじゃなくて、彼の場合ははなからない(笑)。こんなことをしたら自分はどう人から見られるだろうか、なんてことについてはあんまり考えてないみたい。

T 音楽は相変わらず熱心だね。ドラムンベースが気になると実際にロンドンのクラブへ行く。サウンドシステムも調べてきて、ちゃんと消化して自分のライブで再現する。一昨年の年末年始はニューヨークへ行ってた。Eメールが届いてね、“凄かったよーNY。いやーやられた。いやもうね、シルバーアップルズってバンド知ってる? 凄かった。アナログシンセバリバリに弾きまくってた。凄いよ、以上。”という、いかにも彼らしい文面だった(笑)。

F 慌て者っぽい感じは確かにあるよね。ラジオ番組で次のトークの固まりを3分間分を録るとする。段取りを把握してもらって始めるんだけど、途中で話が止まってしまうか、おしまいまで行っても入れなきゃいけない情報がこぼれてしまうことが多い。

T いい意味でも悪い意味でも、一度に一つのことしかできないんだな。一直線の男なんだよね。あることに没頭すると周りが何も見えなくなる。学生時代に家でレコーディングしていたときのこと。田島君はギターを入れるだけだったのに、ギターを弾いているうちに曲づくりを始めてしまった。しばらくして、「あ、できた。」なんて言う。そんなこと頼んでないのに(笑)。プロになっても同じだね。レコーディングの最中は飯も食わない。飯を食うということを忘れているみたい。ただ、何か口に入れたいみたいで、スタッフが用意したお菓子をむさぼり食いながら作業を進めている。

F 好きなアーティストの作品は、その人が何歳でその作品を書いたのか結構気にしているみたいだね。不思議なこだわりがある。

T 結構長いつきあいなのに、音楽以外の話ってあまりしていないような気がするな。最初からファッションに興味がなかった男だし。聞いた話なんだけど、これも学生時代に、皆でスキーに行こうということになった。田島君は普段着ているモッズパーカーをそのまま着てきて、マッシュルームヘアーでスキーをしていた。せっかくスキーに行くのなら専用のウエア買おう、という発想がないんだよ。車の運転も下手だよね。僕は彼の車、絶対に酔う。ハンドルさばきも落ち着かないし、方向に迷いがある。次の角、右ねと言うと「うん」と答えながら左に曲がる。同じ場所で2回も間違えた(笑)。その前に音楽の話をしているから、それをずっと考えているのかも。

F 人格や人柄を音楽ににじませるタイプの人じゃない。音を積み重ねて音の力だけで勝負しようとする人。その方が作業は困難だと思うし、だからこそ彼の仕事は男っぽいものだと感じている。僕にはどことなく彼の音楽の変化の方向がわかる気がする。弁証法的な方法で成長していく人だよね。理想を求める音楽がらせん状に極まってきている、そのさなかに彼はいる、というのが僕の見方。何年先か知らないがいずれ極まるだろう。そのときに大衆性のあるシングル曲が書ける自分と、実験的な音づくりをする自分が分離するんじゃなくて、訳なく一つに重なるんじゃないかな。実験はもう少し続くだろうけど、その日が楽しみ。レコード会社もファンもその日を見届けてくれるといいんだけど。

T この10年を一区切りとして、一度吹っ切れた田島貴男を見てみたいな。試行錯誤を繰り返しているのも知っているし、吹っ切れようと努力しているのも分かるから、もっと気楽に行こうよというノリの田島君も見てみたい。で最終的には矢沢永吉さんになってほしい。チンマリまとまるんじゃなくて、ロックンロールバカ一代なんていう大きな存在に。

F ラジオの時も「この喋りはロックスター的にはどうかな?」と聞いてくるときがある。妙なところを気にしているんだよね(笑)。全然OKだよ、と言うと「ああ、そうか」と安心したりして。もう少し自信を持ってもいいのかも。徹底的に自己演出を排除し、もっとまるっきり裸の田島貴男になっていくというのも面白いかも知れない。


「変身ファイル」

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