現代社会と人間   「 貧 困 と 開 発 」   小貫  仁


第 11 回  経 済 思 想 の 諸 理 論 T
〜 構 造 学 派 と 従 属 論



1. 開発経済学の系譜

 1) 1950年代〜 構造学派

 2) 1970年代〜 従属論、BHNアプローチ           cf. 新古典派アプローチ

 3) 1980年代〜 世界システム論、レギュラシオン理論   cf. 新制度派アプローチ

 4) 1990年代〜 社会開発、社会的経済、人間開発


2. 構造学派 (Structuralist School)

 先進国起源の国際分業論、近代化論に対抗
 途上国経済の構造分析 〜 工業化論を形成

 構造学派の貢献
   低開発には、経済指数だけでなく、経済構造をみる視点
   世界経済は、同一の市場経済でなく、異質とみる視点
   途上国には、独自の発展形態があるとみる視点

 構造学派の分析
   貧困の悪循環(購買力の不足〜供給制約)
   市場メカニズムの限界(市場の失敗〜政府の介入が不可欠)

 プレビッシュ「一次産品の長期的低下説」(於 国連貿易開発会議、1964)
  途上国は先進国と異なる経済構造をもつ
  格差の原因は技術進歩の差にある
  途上国発展の道は一次産品輸出ではなく独自の工業化にある
     ↓             
  政府主導の輸入代替型工業化
  保護主義と先進国企業の誘致
     ↓
  産業の基礎を築くが、離陸できず、貿易赤字拡大      cf. 輸出志向型工業化

 ミュールダールの制度分析
  成長の伝播(トリックルダウン)が機能しない構造が問題
  投資を増やすばかりでなく、経済構造の是正や民主化は必要

 従属論の登場 (根本問題は国内でなく、世界の不公正な構造にある)


3.従 属 論 (Dependency Theory)

 従属論の構造学派批判
   市場の問題以前に、世界の支配−被支配(従属)への視点が必要
   中心への経済従属関係が、輸入依存や搾取を生み、債務の累積をもたらしている
   周辺は、支配関係を維持する社会経済構造があり、この是正が不可欠

 従属論の観点
   従属的社会経済関係は、国・地域により独特に発展している
   従属関係を是正し、民主化を遂げ、国内市場を拡大しなければならない
   是正は、従属的発展の矛盾を自覚する政治的連合の力によってなされる

 フランクの「低開発性の発展説」
  世界経済は、絶えざる両極分解が生み出され、支配−従属関係で規定されている
  衛星地内は、従属を維持する諸制度が温存され、貧富格差が進行
  中枢−衛生関係の打破(革命)が不可避

 アミンの「周辺資本主義論」
  中心部では、設備財と大衆消費財の循環過程を備えた自立的発展が実現
  周辺部では、原料輸出と奢侈的消費がバラバラに発達しているのみ
  従属国の発展は、大衆参加による中心部型への転換が必要


4. 従属論思想の今日

 現代社会の4視点
 1) 途上国の工業化を正当化
         ↓
      「新国際経済秩序」(1074)
        ↓
      「開発・発展の権利」
 2) 開発目標の転換
        ↓
     経済成長のパイ拡大より、設備財−大衆消費財の形成を重視
        ↓
     BHNアプローチ、制度変革のアプローチ、人間開発アプローチ
 3) 世界認識の視座
        ↓
     中心−周辺(従属)の構造
        ↓
     世界システム論
 4) 学際的アプローチ
        ↓
     ヨーロッパ中心史観の克服 
        ↓
     多文化的発展論



<文献紹介>
・ テキスト (『人間のための経済学』)
・ 『開発の政治経済学』 (絵所秀紀、日本評論社)





 [ 戻 る ]