(注)本時は、質疑応答に多くの時間を費やした。 その内容を記すことは、これまでの繰り返しになるので、 ここでは、質疑応答の背後にある幾つかの事柄を整理しておく。 1. 「人間開発」 と 「経済開発」 の関連性 「人間開発」 は国連援助機関の元締めである国連開発計画UNDPの新たなスローガン その定義は 「人びとの選択の拡大過程」 これは、アマルティア・センの潜在能力 (capability) 概念による 人びとの潜在能力を決定する最も重要な要因は一人当たり所得の大きさ その観点において、「経済開発」と直接リンクはしないものの矛盾しない 同時に、センの所得を超えた開発概念とは ズレ それでも、経済成長優先へのアンチテーゼとしての意義は失わない センの開発概念を十全に活かすことは今後の課題 2. 総合的処方箋としての 「ミレニアム・プロジェクト」 2000年9月、国連ミレニアムサミットは、「国連ミレニアム宣言」 を採択 平和と安全、開発と貧困、人権とグッド・ガバナンスなど諸課題を総合的に掲げた そこから共通の枠組みを示した 「ミレニアム開発目標 (MDGs)」 8つの目標 1)極度の貧困と飢餓の撲滅 2)普遍的初等教育の達成 3)ジェンダーの平等の推進と女性の地位向上 4)乳幼児死亡率の減少 5)妊産婦の健康の改善 6)HIV/エイズ、マラリア、その他の疾病の蔓延防止 7)環境の持続可能性の確保 8)開発のためのグローバル・パートナーシップの推進 注目すべきは、ジェフリー・サックス率いる 「ミレニアム・プロジェクト」(2002) サックスは、これまでの開発経済学を古い医療としてして批判 実情を理解し問題を分析して対処する近代医学としての新しい手法を提示 生き詰まりの原因を理解し、その国の状況にあった治療法を提案する試み 対象をシステムとして総合的に捉えるとともに、個別な対応を用意する 個別な診断のためのチェック項目 @貧困の罠 A経済政策の枠組み B財政の枠組みと財政の罠 C物理的な地理的条件 D政治の形態と失策 E文化的障壁 F地政学 3. 日本のODAとその方向性 日本のODAの特徴は、高い借款比率、インフラ重視、アジア重視 借款比率は他国との比では依然高い 贈与と貸付の比では減少傾向 プロジェクト借款におけるタイド比は全体は2割程度 大規模プロジェクトでは日本企業の受注率高い ODA改革の新しい視点 基本方針としての 「人間の安全保障」 これもまた、経済成長優先主義を超える考え方 1994年版 『人間開発報告書』 に初めて登場 人間の安全保障 の定義 「人間の生にとってかけがえのない中枢部分を守り、 すべての人の自由と可能性を実現すること」 生存・生活・尊厳を確保するための戦略は 「プロテクション」 と 「エンパワーメント」 4. 思索を深めるためのヒント (1)経済的欠乏と経済援助の限界性を超えるために 貧困とは、開発とは、・・・すべては原点から捉え直すことから (2)経済的欠乏以外の貧困を捉えるために センにおける人間の選択可能性の剥奪 (南北に共通の概念) (3)どうしたら良いかを考えるために これまでの何がいけないのかを確認し、総合的な処方箋を模索する (4)何をするかを選択するために 主体性を重視する方法論と問題の構造的な原因分析を課題とする <文献紹介> ・ 『貧困の終焉』 (ジェフリー・サックス、早川書房) [ 戻 る ] |