3-4 2002 March-April
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3/3(日)、3/10(日)
No.813「オプト・マニエリスム」
印刷で出せない再現性をもった艶めく色たちは、魔術的な組み合わせにより光の織物
となる。『レン・ライ回顧展』(3/9~ シアターIF)と共に楽しめるキネティック・アー
トとしての映画。
◇発光メディアの持つ霊力(澤隆志)
映画の最中、極端な長廻しのショットで、それが映画のタイトルバックにあるよう
な赤や青等の強烈な原色の光だったりすると、今みているのが動画というより前前世
紀の幻灯(マジック・ランタン)であるかのような錯覚にかられる。同様に錯覚を自
覚(?)するのは一時期社会現象にもなったフリッカーの映像である。白と黒、または
反対補色が目まぐるしく交代する映像は猛烈な刺激を観客に与える。動画としての映
画の楽しみとは異なる、これらキラキラした光束の劇としての映像作品を今回は3つ
のプログラムで紹介する。テーマは光学的マニエリスム。
映画やビデオといった光学メディアはなにより発光するメディアである。同時に往々
にしてそれは暗闇の中にあるものだ。それから記録メディアであるゆえ何度でも正確
なタイム・コントロールでの再現が可能なことも大事な要素。レンズを通して光を入
出力する装置が持っているマテリアル特性を最も効果的に作品化しているのは実験映
像の作家たちである。そして飽くなき追求の結果、マニエリスム美術が発するような
奇妙な迫力をみせている。時にはその精密さ、実直さが度を過ぎてユーモラスに映る
事もある。
プログラムAは色彩の旅。ティントカラーの3画面コンポジション作品『青少年のた
めの映画入門』から、3色旗の美しい固定ショット(『フランス映画』)、2色の往復(
『間男』)1画面で色彩の目まぐるしく交代する映像に移行する。(『YELLOW』から
『TELEVISION BY VIDEO BY TELEVISION』まで)。画面内の点のダンス『モーション・
ルミネ』を経て、フィルムマテリアルのカラフルな楽しい解剖実験2作品(『サンドイッ
チ』『サンクタス』)に至る。
プログラムBでは作家が捉えた風景や建築物に多様な光学的変形が加わって、電灯
や太陽光の反射からなる私たちの日常生活の視覚からはかけ離れた光景が生まれる。
するとたちまち運動や質感、構図などが物語の主役に立ち上がる。印刷の網点(『人
工の楽園』)やジェルメディウム(『産業とダッチワイフ』) による物質的アプローチ
や、バルブなどの特殊撮影(『THUNDER』『イコノクラスムNo.1』『太陽風』)、デジ
タルエフェクト(『RIDE THE LIGHT』『CHROMATIC CLIFF』)に方法は大別される。
プログラムCはBほど過激ではないが非常に印象に残る2つのサイレント作品のカッ
プル。それぞれの作品評を引用する。
「この作品『発生蝕』は、一種の光による詩であり、また光によって照らし出せるイ
メージと出せないものの目録の様であると言っていいだろう。文字通りの"蝕"として、
カメラの動きによって街の灯が太陽を覆い隠す。」(フレッド・キャンパー)
「この作品『ジェロームの時間』は、スタイルとしては一種の日記映画であるが、単
に被写体を再現的に映し出すたぐいの日記ではない。つまり日記を身辺雑記風に描く
のではなく、日々のうつろいをフィルムにおける創造とかかわらせているのである。
作者はあらゆる被写体をカメラで撮るばかりではなく、カメラで創ろうとしているの
だ。ド−スキィの作品には、幸運と一体になった輝きが随所に見受けられる。」(か
わなかのぶひろ)
プログラムA
青少年のための映画入門
寺山修司/16ミリ(ビデオ版)/3分/1974
フランス映画 帯谷有理/16ミリ/10分/1994
間男 芹沢洋一郎/8ミリ/6分/1989
YELLOW アラン・クラブ/ビデオ/3分/1994
色即是空 松本俊夫/16ミリ/8分/1975
分析的探求・フレームでないライン
ポール・シャリッツ/16ミリ/30分/1978
TELEVISION BY VIDEO BY TELEVISION
前田真二郎ビデオ/12分/1993
モーション・ルミネ 古川タク/16ミリ/3分/1978
サンドイッチ 奥山順市/16ミリ/6分/1998
サンクタス バーバラ・ハマー/16ミリ/19分/1990
プログラムB
人工の楽園 田名網敬一/16ミリ/14分/1975
太陽風 水上弘/ビデオ/6分/2000
RIDE THE LIGHT 岡本彰生/ビデオ/4分/2000
THUNDER 伊藤高志/16ミリ/5分/1982
産業とダッチワイフ 白尾一博/8ミリ/36分/1994
イコノクラスムNo.1 黒川芳朱/16ミリ/12分/1999
CHROMATIC CLIFF 山本信一/ビデオ/11分/1996
プログラムC
発生蝕 宮崎淳/16ミリ/7分/1992
ジェロームの時間 ナサニエル・ドースキィ/16ミリ/50分/1982
3/3 A 2:30 B 4:30 C 7:00
3/10 C 3:00 B 4:30 A 7:00
受付(各回入替制)
当日900円 会員600円
3回券2,000円
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3/15(金)〜3/24(日)
No.814「イメージフォーラム付属映像研究所
IF付属映像研究所は77年の発足から四半世紀を迎えた。「個」が発するイメージは普
段得難いがゆえに送り手も受け手も真剣勝負!! 107本の新作が今まさに歩み始める。
プログラムA
O0 中村美由紀/8ミリ/13分
突然 伊藤進也/8ミリ/5分
落ち葉 真保裕美/8ミリ/3分
見張り台 玉木謙太郎/8ミリ/10分
マグネット 吉村文徳/ビデオ/17分
今日のニュース 鎗田理恵/ビデオ/10分
永遠の奥処より現れて 野本洋介/8ミリ/15分
ヨモヤマドレス、脱ぐ女 寺島由紀/8ミリ/15分
プログラムB
hierophanie 大門未希生/ビデオ/8分
干物の星 青山あゆみ/ビデオ/15分
紅茶の時間 大岡なでし子/8ミリ/15分
お楽しみ袋 土川藍/8ミリ/3分
エロティック・煩悩ガール 山内洋子/ビデオ/20分
極楽鳥花ハドコヘユク 上條洋子/8ミリ/8分
View Point 阿野裕政/8ミリ/3分
tapon 西沢孝広/8ミリ/3分
プログラムC
EMBRACE 水上大作/8ミリ/7分
川 岡田雄介/ビデオ/13分
ナムナム-namunamu- 山根千恵子/ビデオ/3分
喪失 児玉寛弘/8ミリ/15分
絵空事セミモロジー 佐川桂代/8ミリ/10分
ループコード 広瀬毅/8ミリ/7分
S.S.H. STILLS STORMING HEAVEN
村島慶史 /ビデオ/5分
蛸サイドの人 小潟巌/ビデオ/20分
プログラムD
錆色のカノン 吉村雅利/8ミリ/15分
日常からの離脱 槙本愛/ビデオ/8分
引退試合 有賀勇人/ビデオ/10分
橋の下 丹直紀/8ミリ/15分
夜光虫 松山ひとみ/8ミリ/3分
かそけき光のつばさ ノナカマサノリ/8ミリ/15分
ドロップトリップ 永田まどか/8ミリ/10分
白玉楼 荒井真紀/8ミリ/9分
最高にして瀕死 宗孝雄/8ミリ/10分
プログラムE
脳内上映 錦織恵子/8ミリ/10分
夜 岸本成悟/8ミリ/3分
マンドラグース 増村啓悟/8ミリ/7分
詩小説 池田正雄/8ミリ/11分
風 貞方吉次郎/8ミリ/10分
月の裏側に住むモノ 加藤美佳子/ビデオ/3分
無国籍 陳天璽/ビデオ/12分
LINE 千田真理子/ビデオ/5分
サザナミ 奥谷洋一郎/8ミリ/10分
コピオ 山木戸はるみ/8ミリ/4分
日常の泡 横山桂子/8ミリ/10分
プログラムF
手 清水泰紀/8ミリ/10分
満ちたりない月 吉田圭/8ミリ/5分
Souvenirs 回想 西真理/8ミリ/5分
薔薇ひらく夜 吉田正人/8ミリ/4分
talk 岡崎愛司/ビデオ/7分
朝昼晩ごはん まんまさちこ/ビデオ/20分
市松 篠原奈緒/8ミリ/10分
君のハートを探して 堤貴子/8ミリ/3分
TATAZM 武田晋助/8ミリ/10分
SPY 大内伸悟/ビデオ/12分
プログラムG
メタモルギブス 上山瑞那/8ミリ /5分
牡丹雪 村上太陽/8ミリ/8分
できあがりはいつも 奥山智明/8ミリ/3分
ambivalence 大住佑介/8ミリ/3分
太陽の終焉 相田静香/8ミリ/10分
暗闇 西康子/ビデオ/5分
太陽と鳥と友達 宗田英立大/ビデオ/25分
うでのいたみ 渡辺賢一/ビデオ/13分
東京12チャンネルズ 三村千由/ビデオ/5分
OUT OF 八宝菜 石原亜由子/ビデオ/7分
プログラムH
キリコ 中臺隆平/8ミリ/15分
窓-mado- 堀正人/8ミリ/10分
dis-contemporary 比嘉琴/8ミリ/15分
迷宮入り 京屋裕子/ビデオ/8分
死せ、そして成れ 小林かをり/ビデオ/40分
バンビの足はすぐ折れる 大久保京子/8ミリ/8分
プログラムI
モジラマ 荒井靖斗/ビデオ/15分
巷の死に損ない 三国さやか/8ミリ/20分
新旧交代劇 谷口美愛/8ミリ/5分
希求 浜谷みほろ/8ミリ/10分
くるい咲き 柳田章一郎/8ミリ/40分
プログラムJ
遊び 濱口勝也/8ミリ/20分
私の名はミミ 横山真理/ビデオ/15分
自前の星の下 田中剛/ビデオ/8分
こぼれおちるもの 南崎健/8ミリ/25分
DOT/S 羽出和也/8ミリ/7分
monorama 守谷啓介/8ミリ/5分
あろは歌留多 関原直子/16ミリ/5分
プログラムK
東京神曲 大西量明/8ミリ/20分
きらきらひかる 増本真美/8ミリ/3分
遠くはなれて 柳沼良介/ビデオ/20分
夕暮れの頃 熊谷栄里子/ビデオ/15分
ドッグカメラ 和田淳子/ビデオ/15分
空席 後藤武志/8ミリ/15分
DANCE DANCE DANCE 伊藤英洋/8ミリ/10分
プログラムL
MIDORI 堀ノ内達也/ビデオ/3分
坊主の国からこんにちは 海老澤英輔/ビデオ/10分
男になりたい 柴田真理子/ビデオ/15分
ガラクタたちの共鳴 赤嶺征司/8ミリ/10分
不死者は語る 華房孝年/8ミリ/15分
解熱 川口アサ/8ミリ/3分
カリスマ 西山千晴/ビデオ/40分
プログラムM
住人 鈴木全太/ビデオ/25分
夢の涯てまでも… 佐藤晶子/16ミリ/ 7分
待合せ 大野聡司/ビデオ/15分
クモラス・テラス 井伊隆展/8ミリ/15分
壊れた瞳から... 島田剛/8ミリ/7分
四丁目ではじまって 小澤ともみち/ビデオ/40分
プログラムN
逝きの音 村瀬幸浩/8ミリ/15分
エミュ/amu 神崎愛子/8ミリ/10分
おもかげ 佐藤晶子/8ミリ/30分
犬の棺 清水好美/8ミリ/10分
<専科共同制作>
アタマの森 ビデオ/35分
※本科(A〜Lプログラム)、専科(M,Nプログラム)
3/15 M 5:00 I 7:00
3/16 A 1:00 G 3:00 B 5:00 F 7:00
3/17 D 1:00 L 3:00 C 5:00 J 7:00
3/18 E 5:00 K 7:00
3/19 L 5:00 D 7:00
3/20 H 5:00 N 7:00
3/21 K 1:00 E 3:00 I 5:00 M 7:00
3/22 J 5:00 C 7:00
3/23 F 1:00 B 3:00 G 5:00 A 7:00
3/24 N 1:00 H 3:00
受付 一般900円/会員600円(入替えなし)
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4/7(日)、4/14(日)
No.815「仕掛けの技法、仕込みの技法」
大統領選を傍受せよ! 日常を演じきれ! パニックを起こせ! 都合よく編集してしま
え! いかにもTV的演出だが、これらは全て真実と作為に自覚的な4人の作家による過
激な罠である。
プログラムA-仕掛けの技法
一方はプロの役者の巧妙な演技による見事なまでのアメリカ人のステレオタイプを表
出。他方は作者の家族や友人による"演出されたパニック"が特殊な画像処理でグロテ
スクにデフォルメされた戯-実録を物語る。
ミート・ザ・ピープル●14人の男女がそれぞれの仕事、人生、恋愛、幸福などについ
てインタビューに答える。そこからはきわめてアメリカ的な成功を信じる生き方が浮
き彫りにされる。しかし一見単純なインタヴューと思えるこのテープは、次第にそれ
が典型的にメディア的な「アメリカの市民」のイメージであり、語られる言葉が(生
き生きしているにも関わらず)ステレオタイプであると気づかせる。エンディングの
クレジットでこの市民達がすべてプロの役者によって演じられたと明かされ、ドキュ
メンタリーとフィクション、真実と作為、現実とメディアの作ったイメージの間の境
界は一段と曖昧になっていく。
でかいメガネ● IFF2000カタログ 坪田義史インタヴュー(2000年3月14日)より
---全体の構成のイメージを聞かせて下さい。
坪田義文(以下、TY) なにかこう、となりの家のケンカを覗いているようなドキドキ
するような感じにしたかったんです。その家は近所で噂になったりする下世話な感じ
で・・・
---見ている人にパニックを期待しますか?
TY そうですね。目の前に突然パニックが起こる感じになればいいなあと思います。
冗談にならない冗談みたいなものが大好きで。だから撮影前にも役者を煽ったり。そ
れで、感情が高まってきたところでカメラを回しています。手伝ってくれているスタッ
フも、編集して音が入った時点まで自分が何をしているのか分からないままだったり
します。かつての"ドッキリカメラ"みたいに。
---何かを仕掛けるということが好きなようですね。
TY もう本当に小さいころから好きで。人がだまされている時に顕れる本質を見るの
が好きなんです。本当ヤな奴ですよね。
プログラムB- 仕込みの技法
かたや2人の男性間にエロティックに介入する暴力装置としてカメラが機能し、かた
やクリティックの立場でメディアの虚飾を問うべく普段表にでないカメラの視線を"
傍受"し"編集"する。
[cameRa]●映像は事象の表皮のみを剥ぎ取り、縫い合わせ、意味を人造する。私に
はこれらが映像に宿命的に癒着した、根深い原罪と感じられてならなかった。仮にこ
の原罪を、過程の再現の中で把捉するのであれば、その最初段階にある素材には秘密
裏に奪取されたものを採用するべきだと考えた。かくして表皮の剥離・切除器具とし
てのカメラは隠匿され、よりその罪性を強められてある。およそ付き纏う不快さはこ
の残照であろう。また、必然、形式にはシナリオのある記録映画、所謂フェイク・ド
キュメンタリーが採択されたが、捏造によって現実レベルを調整するかのような、こ
の手法の製作過程を通路としながら、現代においてはもはや、現実と虚構が、‘二項
対立とその綯交ぜ’ではなく、‘虚構そのものの内部に、現実が多層化して存在する’
ことを再認識させられたように思える。(徳永富彦)
SPIN●『SPIN』は大統領候補者の本番前の素顔を捉えている。スプリンガーは自宅
に2つのパラボラ・アンテナを備えたスタジオを設置し、普段家庭には流されないテ
レビ局間交信用の映像を受信、これを編集し、一つの作品を作りだした。あのクリン
トンが何かを喉につまらせ、ハンカチを当て咳き込んでいたり、ジェリー・ブラウン
が鼻スプレーを使っているショットもある。スプリンガーは1992年のほとんどをテレ
ビの前で過ごし、フィードと呼ばれる衛星放送(未編集、生のフッテージ)を600時
間録画。他のすべてのメディアがいかに作られたイメージで支配されているかを露に
した。テレビ報道の研究者が今まで語ろうとしなかった分野に踏み込んでいるのだ。
「この実験でメディアが持っている公共への軽蔑という性質を暴き出したかった。」
結果、メディアにおける政治の洗練された分析であると同時に、底抜けに面白いもの
ができあがった。
(アニア・チザトロ)
シェリー・シルバー●1957年生まれ。79年より映画・ビデオによる創作を開始。既存
のジャンル、有名人や紋切り型の映像を解体、再構築することでアイデンティティー・
セクシャリティ・知覚・物語性にまつわる一般概念を問いただしている。
坪田義史●1975年生まれ。01年多摩美術大学卒業。本作品はIFF2000一般公募部門大
賞。
徳永富彦●1974年生まれ。98年早稲田大学卒業。[cameRa]が初作品。IFF2001一般公
募部門入選。
ブライアン・スプリンガー●ニューヨーク州バッファロー在住のインディペンデント・
メディアメーカー。ニューヨーカー誌には 「 監視こそ彼のお気に入りのテーマであ
る」と謳われている。放送されることのなかったフッテージを集めた75分の作品
『FEED』の仕掛け人。
プログラムA
ミート・ザ・ピープル シェリー・シルバー/ビデオ/17分/1986
でかいメガネ 坪田義史/8ミリ/72分/2000
プログラムB
[cameRa] 徳永富彦/ビデオ/33分/2001
SPIN ブライアン・スプリンガー/ビデオ/55分/1995
4/7 A 3:00 B 5:00 A 7:00
4/14 B 3:00 A 5:00 B 7:00
受付(各回入替制)
当日900円 会員600円
2回券1,500円
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シネマテーク・ディレクター・澤隆志
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