オケラのくりごと  胡散

  昔々その昔、中国の西は、胡(コ)と呼ばれた。 イランの方であったらしい。 シルクロード沿いに通商が盛んで、胡瓜、胡桃、胡麻、胡椒等が中国にもたらされた。 胡国には胡蝶が舞い飛び、胡人は胡粉を塗り、胡服を着て胡馬に乗り、胡座(アグラ)を掻いて胡弓を弾き、胡歌を歌った。 中でも薬は漢方薬とは趣を異にし、その効き目の故に珍重された。 古くは、秦の始皇帝の求めた不老長寿の薬もあったと言う。 唐の時代になって、胡は、ウと読まれるようになったけれど、この関係は変わらず、依然として胡薬は貴重なもので、中でも代表格である胡散(ウサン)はとてつもなく高価で、庶民にとっては高嶺どころか天空の花であった。 この時大和から訪れた遣唐使の中の、船の乗組員達は、長い碇泊の間に港の居酒屋に通い、胡散の効き目の噂を嫌と言うほど聞かされた。 そう言えば、俺のお袋も、今頃故国で病気をしているのではなかろうか。 是非欲しい。 伝を頼って探したけれど、遂に手に入れることは出来なかった。 何しろ、珍薬なんだからね。 思いを残したままその船員達は帰ってきたけれど、この連中は、遣唐使の正使達の朝廷に対する報告とは別に、巷にこの薬の噂を流した。 不老長寿、難病にたちどころに効く万能薬なんだよ、欲しかったけれど、手に入りそうになったところで帰って来ちゃってさ。 惜しかった。 あれがあればお袋は死ななかっただろうに。 需要があれば、供給が生まれる。 俺、やっとの思いで手に入れたよ、譲ろうか。 こうして大和に胡散が現れた。 然し、元々が幻の薬、効く筈がない。 でも、藁にもすがりたい病人は、ひょっとしたらこれは本物かもしれない、と偽物を掴まされる。 ところが中には、丁度治るタイミングで、それを服んだらすっきり治ってしまうのが現れるから、話はこんがらがる。 やっぱり胡散は効くよ。 こうして人々の頭には、胡散には偽物があるけれど、本物は確かに効く、という概念が植え付けられた。 そしてやがて、これが、胡散に、怪しい、とか、不思議な、とかの意味を持たせる事になる。 胡散臭い、の臭いは、胡散のにおいではなく、胡散のような、偽物ではないかも知れないけれど偽物くさい、のくさいと同じ用法で、何となく怪しい、の意になった。 弘法の護摩の灰を押し売りしたものから転じて、旅人をだましたり、財物を掠めた、護摩の灰と一寸似たような関係だけれど、それほど暴力的な、向こうから積極的に仕掛けてくるものではなく、単に怪しい感じ。 こうして胡散は日本語に定着した。 今でも、胡散臭いの言葉の中には、本物1%、偽物99%ぐらいの否定概念と、怪しい感じが含まれるのはこの所為である。 と言うのが、胡散の語源に関するオケラの説なんだけど、駄目? 胡散の意味に疑問を持って、辞書を引いたけれど、語源に直接言及しているものが見つからず、この仮説を立てて、裏付けを取ろうとしたが果たせなかった。 途中、ネットで検索していたら、こんな説があったよ。 転載を禁じられているから、サイトだけ明らかにしておくね。 それからね、啓成社の大字典を引いたら、胡=何、の意味があるんだってさ。 でも、それだけじゃぁ何だか詰まらないよね。 何故、胡=何なのかが判らなければさ。 そしてね、オケラみたいなことを言うのを、胡説乱道(コセツランドウ)、北方えびすの如くわからぬ説をはき、乱暴なることを云うこと、と言うらしいよ。 結局オケラも、胡散臭い、胡乱(ウロン)な仲間と言うことなんだろうね。 尚、このでっち上げに際し、上の大字典(今は多分講談社で復刻されていると思う)の他に、広辞苑(岩波書店)、明解国語辞典、新明解国語辞典(ともに三省堂)、世界大百科事典(日立デジタル平凡社)などを参考にしたよ。 本格的でしょ。

−−−−−−−−−−2001.03.07. 四季より

六尺褌の締め方

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