京阪・1997年春ダイヤ改正

大学院工学研究科 電気工学専攻 修士1年 たらちゃん

I はじめに

 京阪電鉄は1997年3月22日(土)に平日朝ラッシュ時の混雑緩和と休日の昼間時の利便性向上を主眼としたダイヤ改正を実施した.
 本稿ではこのダイヤ改正について,最大の変更点である朝ラッシュ時の特急が枚方市駅に停車することを中心に述べていくことにする.なお写真はすべて筆者撮影のものである.

II ダイヤ改正の概要

 今回の改正は平日朝ラッシュ時の混雑緩和と休日の昼間時の利便性向上に主眼が置かれていて,乗客に対する更なるサービスアップが図られた.
 特に京阪本線では,平日朝ラッシュ時に運転されていた中書島に停車する特急6本が新たに枚方市駅にも停車するようになった.同駅は40万都市枚方市の玄関口であり多数のバス路線が発着しているため京阪電鉄の駅では第3位の乗降客数を誇っていて,また交野線からの乗り換え客も多いため,朝ラッシュ時の大阪方面行き急行・準急は同駅から急激に混雑する.そこで,特急が新たに枚方市に停車することで,同駅から大阪市内への所要時間が短縮されたとともに,特急・急行・準急の混雑の平準化が図られた.
 またこれらの特急用に,3扉セミクロスシートの通勤型車両9000系8連4本がデビューし,朝ラッシュ時は枚方市停車の特急に,オフピーク時は急行・準急中心に使用されている.
 加えて,平日朝ラッシュ時の天満橋行き準急1本,休日昼間時の淀屋橋行き準急3本が増発された.また,夕ラッシュ時および夜間の区間急行の一部を,準急へ格上げしたうえで運転区間が延長された.準急が深夜まで守口市に停まるようになった現在では,区間急行の存在意義が薄れてきたため,現状に即した変更といえるだろう.

III 朝ラッシュ時の特急の枚方市停車

 今回の改正の最大の変更がこの平日朝ラッシュ時の特急が枚方市に停車することである.特急が枚方市か樟葉に停車するという噂はかなり以前からあったが,「くらわんか花火大会」開催日に樟葉に特急が臨時停車していた程度であった.ようやく枚方市民の長年の夢「特急停車」が実現した.

(1)背景

 一番大きな要因と考えられるのは,やはりJR東西線開業を意識してのことであろう.JR東西線開業によって,交野市・枚方市域の中には,大阪市内中心部へ出る場合,JR学研都市線・東西線利用が断然便利になる場合がある.例えば,京阪交野市駅付近に住んでいて北新地付近へ通勤する場合,京阪で一駅乗って河内森で学研都市線に乗り換えた方が京阪で大阪市内へ出るよりも便利である.そこで京阪は,京阪からJRに切り換える客を少しでもくい止めようと,枚方市駅への特急停車というかなりインパクトのある方法を採ったのであろう.私は,特急停車駅プラス中書島・枚方市に停車する列車は,もはや特急ではなく快速急行であると思っている.しかし,種別名が「特急」だからインパクトがあるのであって,これが「快速急行」ではあまりインパクトがないのである.
 また,今年(1997年)市制50周年を迎える枚方市が昨年3月,「枚方市駅への特急停車」と「交野線の本線乗り入れ」の要望書を提出していた.この要望に対して京阪電鉄が一部ではあるが応えたものと考えることもできる.

(2)枚方市停車特急の運転時刻

表1 枚方市に停車する特急の運転時刻表
列車番号 出町柳発 三条発 中書島発 枚方市発 京橋着 淀屋橋着 車両
C0601A 6:31 6:34 6:46 7:01 7:20 7:27 特急型車両
C0603A 6:53 6:56 7:08 7:24 7:41 7:48 特急型車両
C0701A 7:14 7:17 7:29 7:45 8:02 8:10 9000系
C0703A 7:32 7:36 7:50 8:06 8:24 8:31 9000系
C0705A 7:45 7:47 8:01 8:16 8:35 8:43 9000系
C0707A 7:58 8:01 8:16 8:33 8:49 8:56 9000系
(注1)この他,四条,七条,天満橋,北浜にも停車する.
(注2)特急型車両とは8000系または3000系を指す.
 枚方市停車の特急運転時刻は表1の通りである.枚方市から京橋まで最短16分と,所要時間の短縮が図られた.ダイヤ自体はダイヤ改正前とほとんど変わっていないが,特急に乗客が集中しないように,天満橋先着の淀始発の準急が増発されたり,従来萱島で特急待避していた枚方市発天満橋行き準急が天満橋先着になった.しかし,表2のように,特急は枚方市以西(枚方市・香里園・萱島)で急行・準急を追い越す.よって,これらの列車から枚方市で特急に乗り換える乗客が見られる.
 なお,特に混雑する列車4本には3扉の新型車両9000系が使用されるが,それ以外の2本には2扉の特急型車両(8000系または3000系)が使用される.9000系は8両編成であるが,特急型車両は7両編成である.だが,特急型車両も1998年春までに全列車が2階建車両付きの8両編成になることが決定している.
表2 枚方市以西で特急が追い越す急行・準急
追い越す特急の列車番号 各駅での追い越される列車
枚方市 香里園 萱島
C0601A  淀 発淀屋橋行き準急
C0603A 淀発淀屋橋行き準急 枚方市発淀屋橋行き準急
C0701A 淀発淀屋橋行き準急 樟 葉発淀屋橋行き急行 枚方市発天満橋行き準急
C0703A 淀発淀屋橋行き準急 樟 葉発淀屋橋行き急行
C0705A (天満橋行き普通) 樟 葉発淀屋橋行き急行 樟 葉発淀屋橋行き準急
C0707A (天満橋行き普通) 出町柳発淀屋橋行き急行  淀 発淀屋橋行き準急

▲枚方市駅に到着する9000系特急
1997-3-25

(3)利用状況

 枚方市に停車する特急の実際の利用状況を調べてみた.調査日は1997年4月2日水曜日である.私は,この改正で特急に乗客が集中し,乗れない乗客が現れてパニックになるのではと予想していたからである.
▲枚方市停車の特急は枚方市から非常に混雑する.このように押し屋が多数必要な状態だ.写真は4本目の特急.
枚方市 1997-4-2
 1本目の特急は枚方市から多数の客が乗ったが,それでもまだ少し余裕があった.しかし2本目以降からは相当の混雑が見られた.2本目は扉付近に乗客が集中し,ぎゅうぎゅう詰めになったが通路にはまだ余裕があり,9000系車両にすれば問題ない程度の混雑である.3本目と4本目はラッシュにも耐えられるはずの9000系が使用されるが,ぎゅうぎゅう詰めである.混雑する大阪側の車両は押し屋が多数必要な状態である.枚方市駅の駅員は放送で,香里園または萱島で特急に抜かれる急行・準急が到着したとき,「次の特急は大変混雑します.京橋・淀屋橋方面へお越しの方はなるべくこの電車をご利用下さい」と言っている有り様である.5本目は前の2本と比べればましであるが,やはり相当混雑している.6本目は,押し屋が必要なほどは混雑していない.
 表2で示した列車から枚方市で特急に乗り換える乗客の数であるが,座っている人はそのまま乗り通すが,それ以外の人で大阪市内まで行く人はかなり乗り換えているようである.特に樟葉始発の急行は座席が埋まり立ち客がちらほらという状態で枚方市を出発するようになった.淀始発の準急は萱島で普通に乗り継ぐ人が相当いるので,吊革が埋まる程度の混雑で枚方市を出発するが,特急に乗り換える人も相当いる.しかし,実際に枚方市から特急に乗る人の大部分は,交野線からの乗り換え客か枚方市駅からの乗客である.

(4)停車の効果

 前節のように,大阪市内への朝ラッシュ時の輸送では,特急がかなり混雑するようになった.しかし,改正前は殺人的な混雑であった淀始発の準急(特に寝屋川市→萱島間が混雑していた)の混雑がいくぶん解消された.淀始発の準急は枚方市で特急に接続することによりかなりの乗客が特急に移ったためである.特急はぎゅうぎゅう詰めであっても,ひとたび乗ってしまえば京橋までノンストップであるため比較的楽である.というのは,急行や準急では香里園・寝屋川市から大勢の乗客が乗ってきて,これがけっこううっとうしいからである.つまり枚方市から乗る場合,急ぐ人は特急に,座って行きたい人は始発の準急に乗れば良いのである.よって,特急の混雑はみられるものの,これまで非常に混雑していた急行・準急の混雑緩和が図られたので,適切なダイヤ改正であったと言えるだろう.しかし調査したのが春休み期間中であったため,新学期が始まるとますます特急が混雑するのではと心配になる.京阪としては看板の特急列車をロングシートにするのは抵抗があるかもしれないが,3・4本目の特急に6000系や7200系といったロングシート車を投入したり,特急を増発する必要がでてくるかもしれない.
 今までは,枚方市から大阪市内への輸送ばかりを考えて来たが,その他の輸送についても考えてみる.まず,京都市内から枚方市への通勤が格段に便利になった.以前は混雑する急行に乗らざるを得なかったが,今回からは比較的空いていて速い特急で行けるようになった.しかし,京都市内から大阪市内へ通勤する人にとっては特急の枚方市停車は大迷惑である.以前までは,特急型車両でしかも比較的空いていたものが,今回からは車両が悪くなりさらに枚方市からぎゅうぎゅう詰めになるからである.

IV 新型車両9000系デビュー

 9000系は今回のダイヤ改正用に製作された新型車両で8連4本の計32両がデビューした.1997年度の早い時期に予備編成1編成が増備され,最終的には5編成40両の陣容となる.
 この車両は3扉セミクロスシートという従来の京阪車両にはないタイプの通勤型車両である.外観は7200系車両とそっくりであるが,一般車と識別するためにグリーンのツートンカラーの塗り分け部分にパステルブルーの帯が加えられた.

(1)内装

淀屋橋← →出町柳
(注1)矢印は座席の向きを表す.
(注2)A,B,Cは補助椅子で,それぞれの意味するところはコラム1参照.
図1 9000系の座席配置(中間車)
 9000系の最大の特徴であるセミクロスシートの座席配置であるが,変則的集団離反型固定式クロスシートと2人掛けロングシートとの組み合わせで,図1のようになっている.図は中間車のもので,先頭車は運転室直後の座席がロングシートとなるなど若干違う.また各車両に12名分の補助椅子が設けられ(コラム1参照),着席定員の増加が図られた.クロスシートとロングシートの境には,乗客同士の目線が合わないように磨りガラスのしきいが設けられた.
 座席配置以外は7200系とほとんど同じで,「パワーウインドゥ」や「車内案内表示器」が設けられている.

コラム1 9000系の補助椅子
 9000系の補助椅子は各車両に6カ所12席分あるが,おもしろいことに3通りのロックのかけ方がある.
 一つは,車椅子スペースの所にあるもの(図1のA)で,これにはロック機構がなくいつでも使用できる.このことはあまり知られていないようで,急行や準急運用では利用している人をあまりみかけない.
 それ以外の補助椅子は車掌の操作によりロックが可能であるが,中央扉の周りの4カ所(図1のB)は中央扉を閉め切ったときはいつでも使用できるように別回路になっている.その4カ所以外の補助椅子(図1のC)は通常中央扉を閉め切った特急運用の京橋・七条間でのみロックが解除される.

コラム2 特急型車両使用の普通列車
 今回のダイヤ改正では一部の特急運用に9000系が使用されるようになったため,運用の都合上特急型車両が使用される普通列車が登場した.該当列車は次の2本である.
 ・萱島10:08発淀屋橋行き普通
 ・萱島10:23発淀屋橋行き普通

(野江にて 1997-3-31)

(2)9000系の運用

▲9000系はオフピーク時は急行・準急中心に使用される.
野江 1997-3-31
 朝ラッシュ時の特急運用に就くが,オフピーク時は急行・準急中心に使用される.また運用の都合上,朝方の通常の特急にも使用されるが,これには中央扉を閉め切り2扉で使用される.
 詳しい運用は以下にまとめた.掲載したものは平日のものである.なお※印の運用は,中央扉を閉め切り2扉で使用されることを意味する.
・運用1
特急 出町柳 7:14→淀屋橋 8:10
特急 淀屋橋 8:19→出町柳 9:12 ※
急行 出町柳 9:19→淀屋橋10:30
急行 淀屋橋10:35→出町柳11:42
急行 出町柳11:50→淀屋橋12:58
急行 淀屋橋13:05→出町柳14:12
急行 出町柳14:20→淀屋橋15:28
急行 淀屋橋15:35→出町柳16:43
急行 出町柳16:51→淀屋橋18:03
急行 淀屋橋18:07→樟 葉18:44
・運用2
特急 出町柳 7:32→淀屋橋 8:31
特急 淀屋橋 8:39→出町柳 9:33 ※
特急 出町柳 9:46→淀屋橋10:36 ※
準急 淀屋橋10:41→樟 葉11:19
準急 樟 葉11:29→淀屋橋12:07
準急 淀屋橋12:11→樟 葉12:49
準急 樟 葉12:59→淀屋橋13:37
準急 淀屋橋13:41→樟 葉14:19
準急 樟 葉14:29→淀屋橋15:07
準急 淀屋橋15:11→樟 葉15:49
準急 樟 葉15:59→淀屋橋16:37
準急 淀屋橋16:41→樟 葉17:19
回送 樟 葉   →天満橋
準急 天満橋18:22→枚方市18:49
回送 枚方市   →淀屋橋
準急 淀屋橋19:41→樟 葉20:19
区急 樟 葉20:47→淀屋橋21:26
準急 淀屋橋21:29→枚方市21:58
・運用3
特急 淀屋橋 6:40→出町柳 7:33 ※
特急 出町柳 7:45→淀屋橋 8:43

区急 萱 島16:27→天満橋16:44
区急 天満橋16:49→萱 島17:06
普通 萱 島17:21→天満橋17:46
準急 天満橋17:53→枚方市18:20
・運用4
準急 枚方市 6:25→淀屋橋 6:53
特急 淀屋橋 7:01→出町柳 7:52 ※
特急 出町柳 7:58→淀屋橋 8:56
特急 淀屋橋 9:00→出町柳 9:49 ※
特急 出町柳10:01→淀屋橋10:51 ※
準急 淀屋橋10:56→樟 葉11:34
準急 樟 葉11:44→淀屋橋12:22
準急 淀屋橋12:26→樟 葉13:04

区急 萱 島16:57→淀屋橋17:17
急行 淀屋橋17:21→出町柳18:28
急行 出町柳18:41→淀屋橋19:47
準急 淀屋橋19:51→樟 葉20:30

(3)9000系の問題点

 9000系は3扉セミクロスシートという新しいタイプの車両となったが,評価はどうなのであろう.昼間の乗客の反応を見ていると,「変わった座席配置の車両やなあ」という程度で,特に何も感じていないようである.
 朝ラッシュ時の混雑緩和という目的で登場した9000系であるが,ダイヤ自体に少々問題があるため,9000系をもってしても満員になる特急がある.特急が先行列車をあまり追い越さないようにするか特急を増発するなどダイヤの工夫が必要であろう.また,運用の都合上どうしようもないのかもしれないが,通常の特急にも使用されるのは残念である.9000系は8000系と比べてかなり見劣りする.
 昼間時のサービスアップという点では9000系の登場は評価できる.従来,急行はすべてロングシート車両で運転されており,中間駅(寝屋川市や枚方市など)から京都市内へ出るのには30分以上要していたため,少々苦痛であった.これがクロスシートになるとちょっとした旅行気分で乗車することができる.ただ残念なことに,9000系のクロスシートは固定式であるということである.最近の関西の新車では転換式シートが当たり前となっているのにである.私個人は,後ろ向きに座るのはかなり抵抗感がある.
 また,前節の運用を見ていただければわかるように夕ラッシュ時にも9000系が使用されているが,これは問題である.最も混雑する列車は避けているようであるが,混雑ピーク時間帯にも比較的乗客数の多い急行・準急に使用されている.乗務員の間からも「乗り降りがスムーズにいかず,列車が遅れる.」という不満の声が聞かれる.夕ラッシュ時は車庫で休むか,空いている区急・普通中心に使用すべきではなかろうか.

V その他のダイヤ変更点

 今回のダイヤ改正は枚方市に特急が停車するという点以外はあまり変更がなかったが,その他の変更点について簡単に触れておくことにする.
 平日朝ラッシュ時の変更であるが,前述のように特急に追い越されない天満橋行き準急が一本増発された.運転時刻は,淀7:15発天満橋8:03着である.交野線でも7時帯に1往復増発された.夕ラッシュ時は,従来天満橋発萱島行き区間急行として運転されていたもの2本が,準急に格上げされ枚方市まで運転区間が延長された.
 また今回の改正で休日昼間時の輸送力が増強された.増発列車は以下の淀屋橋行き準急3本である.以前はこの時間帯の大阪方面行き急行は非常に混雑していたが,この増発によりいくぶん解消された.
 ・枚方市 9:54発淀屋橋着10:26
 ・樟 葉10:17発淀屋橋着10:55
 ・枚方市10:54発淀屋橋着11:25

参考文献

[1]「1995京阪時刻表」(1995年)
[2]「くらしのなかの京阪」各号(1997年)
[3]ダイヤ改正のパンフレット(1997年)
[4]ホームページ"http://www.keihan.co.jp"
           以上は京阪電気鉄道
[5]「鉄道ファンNo.433」交友社(1997年)
[6]「広報ひらかたNo.903」枚方市役所(1997年)

(注意)
 これは,1997年春に発行した大阪大学鉄道研究会機関誌「パンタグラフNo.52」の原稿です.したがってデータなどはすべて当時のものとなっています.現在は変更になっているものがあるかもしれませんのでご注意下さい.
 この原稿の無断転載は禁止します.

この原稿を書き上げてから現在までに変更になった点を以下に挙げます.

ホーム鉄道京阪