ビオクリマティック・デザインのように 102

■■ 2 太陽を追いかけて

2009年01月20日


 今日は二十四節気の大寒、江戸時代に編纂された『暦便覧』によると、「冷ゆることの至りて甚だしきときなれば也」とある、一年で最も寒い時期である。二十四節気は中国の古来の暦で、月の運行に基づく太陰暦の季節とのずれを補正するため、太陽の見かけの通り道である黄道を24等分し、それぞれの点を太陽が通過する日に、季節を表す名称をつけたものである。それが日本に伝わり、日本の気候に即して土用などの雑節が付け加えられ、明治時代(1872年)にグレゴリオ暦が採用されるまで使われてきた。かつては、種撒き、植え付け、収穫など、農耕のためには必要欠くべからざる情報であったし、今でも、春分、立夏、夏至、立秋、秋分、立冬、冬至、立春…など、季節や気候を示すのによく使われる。太陽とそれがつくりだす季節とわたしたちの生活は、強く結びついているのである。

 いま例示した春分に始まる8つの節気は、太陽のみかけの通り道である黄道を45度ずつ8等分した地点にあたる。実際には地球が太陽の周りを回っているので、太陽の通り道とはおかしな言い方だが、地球上にいる私たちにとっては、やはり「太陽が地球の周りをまわる」天動説の立場に立ったほうが分かりやすいのは、昔も今も変わらない。太陽は毎日、東から上って西に沈み、ある地点ある日ある時刻の太陽の位置は、毎年毎年同じである。地動説が正しいと知った上で、観測者の視点に基づき異なる立場を採用することに、かのガリレオも怒りはしないだろう。今年は、ガリレオがはじめて天体望遠鏡を製作して天体観測をしてからちょうど400年にあたり、世界天文年に定められている。

 ではここで地動説に移って、昔理科の時間にならったはずの、地球と太陽の関係をおさらいしておこう。地球の直径は約1万3千Km、太陽の直径は140万km、地球と太陽の距離は約1億5000万km。地球を直径1mmの球とすると、太陽は10m先にある直径10cmのボール、といったところだ。太陽がいかに巨大か、また太陽から見れば地球は見えないほど小さく遠い天体であることがよくわかる。その遥かかなたの太陽と、そこから届くエネルギーの潤沢さを思うと、不思議な気がしてならない。

 太陽の表面温度は6000℃、太陽のまわりの大気の層であるコロナはもっと高温で100万℃以上もある。わたしたちが、太陽光線、太陽熱、太陽エネルギーなどと呼んでいるのは、全てこの高温な太陽の表面から放射されるさまざまな波長の電磁波である。そのうち、地球の大気圏外に到達するのは0.2〜3ミクロンの波長の電磁波で、大気で反射・散乱・吸収されながら地表まで到達する。人間の目は、0.35〜0.7ミクロンの波長のものを光として感知するので可視光と呼ぶが、それは人間側の都合であって熱も光も電磁波である。電磁波というとものものしい気がするが、絶対零度より温度の高いあらゆる物体は、その温度に応じた波長の電磁波を放射していて、温度が高いほど強い=短い波長のエネルギーを発する。私たち人間のからだも石ころも、長波長の電磁波を発している。日向ぼっこが暖かいのは人体が発する電磁波=熱よりも太陽から受け取るそれのほうが大きく、洞窟がひんやり涼しいのは人体のほうが岩壁よりも強い電磁波=熱を発しているからである。

 巨大な太陽が四方八方に放射する莫大なエネルギーのうち、地球に届くのはごくごく一部、太陽の全放射エネルギーの約20億分の1!である。地球の長い歴史の中で、地球上の環境はさまざまに変わってきたが、この太陽エネルギーのおかげで、そして太陽と水と大気の絶妙なバランスによって、現在の生物が生存できる環境がつくられた。さらにいえば、現在私たちが使用するエネルギー、化石燃料と呼ばれる石油、天然ガス、石炭は動物の死骸が地中で変成したものであるし、薪や木炭は植物由来、いずれも地球の生命活動を可能にしている太陽があればこそ、存在するものである。

 さて、太陽の周りを地球は約365日かけて周回する(=公転)。地球も1日に1回転する(=自転)。公転の軸に対して自転の軸が23.4度傾いているため、地球上にはそれぞれ地域によって固有の季節ができる。地球に届く太陽光線は、太陽が非常に大きく遠くにあるため、ほぼ平行光線とみなしてよい。それが地球に届くとき、垂直に近い角度で当たる場所ほど、受け取るエネルギーの密度は大きくなるため、赤道付近が暑く、極地が寒くなる。そしてこの地軸の傾きによって、例えば夏、北半球は太陽に向かって傾斜して、日照時間が長くなるとともに、太陽光の入射角度も地表からの鉛直線に近くなり、受ける太陽エネルギーが大きく=暑くなるのである。二十四節気では、受ける日射エネルギーが最も大きくなる=太陽高度が最も高くなるのが夏至、その反対が冬至である。

fig2-1 太陽と地球

 天動説と地動説を行ったり来たりしながら、駆け足で太陽と地球の関係を見てきたが、なんとなくわかっていただけただろうか。この潤沢に降り注ぐ太陽の恩恵を受けない地球上の生き物はいないし、地球の歴史の中では新参者の人間も、古今東西、さまざまな形で太陽の光と熱とつきあってきた。例えば、一番素朴ともいえる日向ぼっこは、現代の住まいに取り入れても有効である。外の日向ももちろん気持ちよいが、ガラス張りの温室はもっとポカポカと温かくなる。これは当たり前のことのようだが、太陽からの光と熱(=短波長放射)は通しやすいが、暖められた温室の中から放射される熱(=長波長放射)は通しにくい、ガラスの性質を利用しているものだ。

 そしてこれまで見てきた通り、太陽の動きは規則的なので、太陽熱を効率よく取り込むことをシミュレーションするのは、そう難しいことではない。その場所の緯度がわかれば、いつどのような角度で日射が当たり、どれだけ日射量が得られるかもわかる。

 例えば東京あたりで、太陽高度が最も高い夏至の南中時の太陽高度は約77度、冬至は約31度。ここで三角関数を使って、影の長さを計算してみよう。南中時の高さ1の棒の影の長さは、夏至は1/tan76≒0.23、冬至は1/tan31≒1.66、冬至は夏至の7倍にもなる。午前や午後にはもっと長い影ができる。一番日照条件の厳しい冬至には、軒の高さ約5mの2階建ての建物なら、北側約8m先まで影を落とす。つまり、一年中、地面のレベル(≒1階)で日差しを受けるためには、南側に8mの空地が必要になる。南側に道路や開けた土地があると有利になるが、南に4m道路があっても敷地内を4mあけなければならないということだ。

fig2-2 冬至と夏至の日差しと日影

 太陽の動き、日照、日射量、日影などの検討をするには、現在ではさまざなまツールがそろっている。緯度ごと・基準日ごとの太陽の方位角・高度のデータ、アメダスの気象データ、理科年表などは手軽にアクセスできる。パソコンを使って、日影を検討したり、その建物が取得する日射量や建物内の温熱環境をシミュレーションできるソフトなどもある。また、とてもアナログな方法だが、ある場所から見える太陽の動きを示すサンチャートという図を書くこともできる。自分の家の居間などを基準にしたサンチャートを見れば、日差しが入る時期と遮られる時期が一目瞭然で、1日の移り変わり、1年の過ぎ行き方を直観的に捉えられる。

fig2-3  サンチャート

 こんなふうに、太陽を追いかけながら、住まいやそこでの生活のことを考えていくと…… ほかにもさまざまな、困難にして面白いさまざまなできごとに突き当たるのである。

〈インターネット新聞JANJANに掲載〉