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Ohsam Higuchi EXHIBITION
樋 口 大 寒      







エッセイ 

…気ままに、書いて行きます…
        趣味のことは「プロフィール」のところに書き加えました。



● Vol.3  「ピョコタンという犬」の話

私が中学生だった時、我が家の隣には水田を埋め立てた広い空き地が広がっていました。
気が付くと何時の間にかそこに3本足の野良犬が住みついていました。
交通事故にでも合ったのでしょうか。足が1本なくなっています。
3本足なので歩く時はピョコピョコしています。それでピョコタンと名づけました。
大人しい犬で、直に仲良くなりました。餌も与えました。
姿が見えなくても私が口笛を吹くと雑草の繁った中から飛んできます。
私の口笛だけに反応するのが嬉しかった。
3本足ですけれど歩く時と違って走る時は健勝犬?と遜色がありません。
学校から帰った午後の一時をピョコタンと走り回りました。
飼おうかとも思ったのですが、自由に生きている姿に今のままの方が良いと思いました。
その判断がどうだったのか…1ヶ月ほどしてピョコタンの姿は忽然と消えてしまいました。
交通事故に合ったのか、野犬狩りに捕まったのか、分かりません。
手がかりは何もなく、想い出だけが残りました。
何処から来たのかも分かりませんから、また何処かで生きていると信じることにしました。



● Vol.2  「何処かの白猫」の話

我が家には代々白ねこが住みついていました。
家の周りで何度も生まれているのですが、父親は誰なのだろう、一度の例外はありましたが白猫ばかりが生まれます。
遺伝が徹底しているのか、みんな頭の上に黒い筋が薄くありました。
こどもが生まれると、里親捜しが大変です。(のちに避妊して騒動からは解放されましたが)

ある時、母猫が子猫をくわえて行きました。
子猫を捕られると警戒して場所を移す気だなと思いました。
暫くすると母猫だけが庭で佇んでいます。
何となくのんびりしているように見えて、子猫はどうしたのかと思いました。
人の手を煩わせることなく、自分で捨ててきたのだろうか…、そんな筈はありませんから、キツネにつままれた心境でした。

それから一年…、私の部屋に入り込んで、またこどもを生みました。
何日かして猫同士が唸り合っている声で外に出てみました。
母猫と何処かの白猫です。
その突然現れた何処かの白猫は、母猫に向かわれても、どうしても家の周りから離れません。
それどころか2階の私の部屋に入ろうとさえします。
私は何処かの白猫に「ここにはもう猫がいるんだからダメだよ」と言ったのですが、
もう何日も唸り合っています。
母猫には生まれて直ぐの子猫がいますから気が立っています。

家の前の道端でいつものように唸り合っている時に、自転車で通りかかった高校生ぐらいの男の子が、
「あっ、○○だ!」と叫んで「何処かの白猫」を抱きかかえました。
その男の子に話を聞いてみると、ここの直ぐ近くの橋の袂で、近くのアパ−ト住まいの人が何人かで
捨て猫がいるけれどどうしょうと困っているところに通りかかって貰って来たのだと言います。
そして自分の旅行中に、妹に世話を頼んだのだけれど、いなくなってしまい捜していたそうです。

もしや、と思って、抱きかかえられた白猫の頭を見せてもらいました。
そこにはうっすらと黒い筋が…。
間違いありません、一年前の子猫です。
男の子の家とこことは800メ−トル程離れているそうですが、
不思議なことにその白猫は生まれてきた場所に戻ってきたのです。
いなくなった時はまだまだ小さかったのですが、本能なのか何なのか、分かりません…。
そして他の兄弟がどうなったのか、それも分からないままです。



● Vol.1  「ウシねこ」の想い出

「ウシねこ」と最初に会った時のことは覚えていません。いつのまにか家の周りにいたという感じです。
それで話しかけたりしたのですが、しゃがむと、膝の上をねらって登ってくるねこでした。
歳のころは、人間でいうとハイティ−ンといった若いねこです。
身体が汚れているわけでもなく、飼い猫か野良猫かも分からなかったのですが、
部屋の中にもついてくるので、結果的には同居が始まりました。
その頃は家の近くのアパ−トに仕事場があったのですが、夕方帰ってくるとドア−の前で待っています。
部屋の中に入ると、私がいつ椅子に座るかと待ち構えていて、座ると同時に膝に乗ってきました。
どうしてそんなに膝の上が好きなのか、不思議でした。

二週間ほど経ったある時、ウシねこと外にいると、通りかかったおばさんが「あっ、きょんちゃん…」とウシねこを呼びました。
そのおばさんの話しによると、野良猫がおばさんの家の軒下で生んだ猫だということでした。
家に入れても、元からいる猫を嫌ってか、どうしても外に出てしまうのだそうです。
「ウシねこ」は「きょんちゃん」でした。キョロキョロしているような感じだったので、「キョロちゃん」が「きょんちゃん」となったそうです。
そのおばさんの家の外猫だったんですね。いなくなったのでどうしたのかと思っていたそうです。
それ以来、一週間に一度、ドア−の前にネコ用の缶詰が置いてあるようになりました。
おばさんにとっては、きょんちゃんを預けてある扱いのようでした。メス猫ですが避妊手術はしたということでした。

それから三ヶ月ほどして、ウシねこが突然いなくなりました。夕方、ドア−の前で待っていません。おばさんの家にもいないそうです。
あばさんの家から私のところに流れてきたように、他所の場所をみつけたのだろうか、と考えたりしました。

いなくなってから一週間ほどした夜に、ひさしの下にうずくまっている猫を見つけました。ウシねこでした。
呼びかけると、ゆっくり上げた顔にはすでに死相が現れていました。
目や鼻や口からは汁が流れて、それらはすでに乾いていました。呼んでもきません。
何度も何度も呼ぶと、やっとヨロヨロときました。抱き抱えて部屋の中に入れたのですが、最後の力を振り絞って外に出て行こうとします。
死にに行くのは分かっていたのですが、外には出しませんでした。
そして明方に逝ってしまいました。

病気になってから一週間の間、何処かで回復を待つために篭っていたのだと思います。
そして治らずに死を悟って、最後に一目会うために帰ってきたのでしょう。
ベタベタ甘えるねこでしたが、野生動物のように自力で治るのを待ったとしか考えられません。
自立心も持ち合わせていたようです。
例のおばさんに電話をして呼び出し、お別れのあと火葬しました。




(C) Ohsam Higuchi

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