アンの青春の明日が輝く言葉−第41回                 松本侑子ホームページ

 九月のある日、プリンスエドワード島の丘には、すがすがしい海風が浜の砂丘をこえて吹いていた。一本の赤土の道が野原を通り、森をぬけ、遠くまで曲がりくねって続いていく。道はエゾ松の深い森のはずれで大きく曲がり、若いカエデの林をぬうようにのびていく。カエデの木陰には、シダの葉が大きな羽根のようにゆらゆら揺れているのだ。やがて森の窪地へくだり、小川がきらりと水しぶきをあげて木々の間に姿をあらわし、また木立のむこうへ消えてゆく。道は今また、さんさんと陽のあたる開けた野に出て、黄色いアキノキリン草と水色のアスターの花咲く中を通っていた。夏の丘に住む小さなコオロギたちは楽しげに歌い、無数の鈴を鳴らし空気をふるわせている。そんな初秋の道を、肥えた茶色の馬(ルビ/ポニー)がのどかに進んでいった。後ろの馬車では二人の娘が、若い日を生きる素朴だが何ものにも代えがたい歓びを満ちあふれさせていた。
                        
『アンの青春』第6章

 去年の9月中旬、プリンスエドワード島へ行って来ました。モンゴメリがここに書いている100年前の景色とまったく同じでした。
 アヴォンリーのモデルとなったキャベンティッシュには、すがすがしい海風が吹いて、森ではシダの葉がゆれ、野には、アキノキリンソウ(セイタカアワダチ草を小さくした草)の黄色い花が咲き、あわい青紫のアスター(小菊の一種)の花もたくさん咲いていて、そして草かげでは秋の虫たちが、涼やかに鳴いていました。秋の野をゆくうら若いアンとダイアナの歓びを、私も思いなぞらえました。

松本侑子 


『アンの青春』(モンゴメリ著、松本侑子訳、集英社)より引用
著作権保護のため、無断転載を厳禁します