アンの青春の明日が輝く言葉−第16回                 松本侑子ホームページ

 アンは「樺の道」を歩いてグリーン・ゲイブルズへ帰った。すでに日は陰り、木々の葉はさやさや鳴り、シダが薫っていた。「すみれの谷」を通り、「ウィローミア」を抜けると、モミの下で、夕闇と西日の光が口づけをするように溶けあっていた。それから「恋人たちの小径」へとおりていった。どの場所も、子どもだったころ、ダイアナと一緒に名づけたところだった。夕陽に照らされた森と野原、星がまたたきはじめた夏の黄昏の美しさをうっとりながめながら、アンはゆっくり歩いた。

                        
『アンの青春』第4章

 この文章を訳しているとき、夕闇と西日が混じりあうプリンスエドワード島の夏の黄昏のなかを歩いたことを思い出し、ありありと思い浮かべました。
 夕方から夜へと移り変わっていく微妙に美しいひととき。アヴォンリーの舞台となったキャベンディッシュには、日暮れの涼しい海風がふき、高いビルも街灯もない広い広い天空が夕焼けに染まります。
 やがて広大な夕空にちらほら星が光りはじめ、空は濃い桃色から深い青色へ、墨色へとうつろっていきます。星はますます冴え冴えと光をはなちます。
 夏の夕暮れを、アンのようにうっとりと楽しんで下さい。

松本侑子 


『アンの青春』(モンゴメリ著、松本侑子訳、集英社)より引用
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