アンの青春の明日が輝く言葉−第3回                  松本侑子ホームページ

 彼女のゆくところ次々と花が咲きいづる
 日々の務めを注意深く果たし歩んでいく道に
 難儀で思うようにならない我らの人生も
 彼女とともにあれば美しい筋道をたどるであろう

                        
ホィティアー
                  『アンの青春』の題辞

 『アンの青春』は、アメリカの農民詩人ホィティアー『丘のふところにて』の清らかな4行で幕が開きます!
 この詩は、若い娘が村にやって来て、その明るさ、真面目さ、優しさで、村の人々を幸福にしていく様子を歌ったすがすがしい作品です。
 周囲に良い影響をおよぼし人々を幸福にしていく詩のヒロイン像が、『アンの青春』のヒロイン、アンと同じであると考えて、モンゴメリは、この美しい言葉を物語の始まりにかかげたのでしょう。
 
 日々の務めを注意深く果たしていく働くあなたのゆくところ、次々と成果の花が咲きひらき、困難の多い人生も、あなたと一緒ならば、楽しく実りあるものになるだろう……。
 生きていると、つらいことは少なくありません。だからこそ、善良さとまじめさでまわりを幸福にする、そしてあなた自身も幸せの花を咲かせる……、そんなアンのような人になってください。

松本侑子

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
☆以下は、小さな付録です。

 モンゴメリがこの4行を『アンの青春』の冒頭にかかげた理由は、私の考えでは、もう一つ、あります。
 それは、前作『赤毛のアン』の最終章(第38章)とのつながりです。
『赤毛のアン』の最後の一段落は、次のように始まります。
 
「クィーン学院から帰って、ここにすわった晩にくらべると、アンの地平線はせばめられていた。しかし、これからたどる道が、たとえ狭くなろうとも、その道に沿って、穏やかな幸福という花が咲き開いていくことを、アンは知っていた。真面目に働く喜び、立派な抱負、気のあった友との友情は、アンのものだった。」
    『赤毛のアン』モンゴメリ著、松本侑子訳(集英社文庫、2000年発行)

 大学進学をあきらめたアンですが、真面目に働き、高い抱負をもち、友との友情を育んでいけば、村の教師となる道にも、幸福の花が咲き開いていくであろとアンは信じています。

 そして続編の『アンの青春』の冒頭では、
「彼女のゆくところ次々と花が咲きいづる」という一節を、モンゴメリはかかげて、アンの人生行路に幸福の花が咲いていることを、私たちに教えているのです。
 このように、『赤毛のアン』の末尾と『アンの青春』の題辞がうまくつながるように、モンゴメリは工夫しています。

 同じことは、『アンの青春』と『アンの愛情』にも言えます。『アンの青春』の最後の章の言葉が、『アンの愛情』の題辞(「眠り姫」をモチーフにしたテニスンの詩の一節)と、見事につながっています。
 これはまた、いずれ『アンの愛情』が本になったときに、詳しくご紹介したいと思います。


『アンの青春』(モンゴメリ著、松本侑子訳、集英社)より引用
著作権保護のため、無断転載を厳禁します