「初恋」 松本侑子著

 むかし、男と女は、一目で性別がわかるような服をきていたらしい。
 そんなことはとても信じられないけれど、今日、学校で習った。
 むかしむかしの西暦1990年頃の街のようすを、画像で先生が見せてくれた。
 パパから聞いていたけど、やっぱり本当だったんだ!
 画像を見ると、奇妙なことに、街にスカートをはいた男のひとがいなかった。
 ロングヘアの男がいなかった。口紅やアクセサリーをつけた男も歩いていなかった。
 男はみんな、黒とか灰色の暗い服だ。だれもが同じような上着とズボン……。靴や持っているカバンまで似ている。全体に地味なので、刑務所の囚人のように見える。
 でも女は、色とりどりの装いだ。ズボンのひともいるし、スカートのひともいる。服のデザインも、髪の色も形もいろいろ。化粧しているひともいるし、素顔のひともいる。
 先生は言った。
「むかしは、女のひとだけに、服装を選択する自由が保証されていました」
 クラスのみんなはびっくりして、口々にヒドイと騒いでいる。
 放課後になっても興奮していた。
 ……(以下略。続きは単行本でご覧下さい)

小説集『性遍歴』(松本侑子著・幻冬舎刊・定価1500円・2001年4月26日発行)より引用。
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