「性遍歴」第3章 松本侑子著

 門限におくれまいと、駅から走りに走っている。
 肉のすき間には徳明の精液がのこり、地面をけって走る体と一緒にたぷたぷ波打って揺れている。ぬらぬらともれ出て、肌着を湿らしている。
 好きだ麻美子、と耳元で吐き出された声が、走っている私によみがえってくる。
 やっと女子学生会館が見えてきた。間にあった。乱れた息をととのえると、なに食わぬ顔をしてエントランスに入る。
 管理人室では、夜警のおじさんが横目で見て、軽くうなずいてくれる。「お帰り」という意味だ。
 私はにっこり笑って会釈しながら、「ただいま帰りました」と答える。
 これがついさっきまで、男の腰に両足をからめてあえいでいた女だと、いったい誰が思うだろうか。
 門限には、一度もおくれたことがない。会館内でも、礼儀正しい女の子として、寮生たちから見られている。
 ……(以下略。続きは単行本でご覧下さい)

小説集『性遍歴』(松本侑子著・幻冬舎刊・定価1500円・2001年4月26日発行)より引用。
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