『アイス売り発見』編
運転を申し出た青島に『地元案内だから』と言って助手席に座らせ、慣れた道程を無表情で運転する室井の横顔を、幸せを噛み締めながら青島は眺めていた。緩みそうになった顔を引き締めようと、ふと窓の外に目をやると、道端に転々と所在する簡易式の店(あれも屋台と言うのか?)に目が止まった。
「室井さん」
「何だ?」
「えっと、…何か、道々にアイス屋さんが居るんスけど」
「ん? ああ、食べたいのか?」
「え、いや…」
そうでは無く、と言おうとした青島の言葉を最後迄聞かずに、室井はキキッと車をアイス屋の前に止めて、青島には聞き取り難い方言で平然とアイスを購入し、唖然としている青島にソレを差し出した。
「ほら」
言う言葉が見付からずに、取り敢えず素直に「ありがとうございます」と言ってそれを受け取った青島は、しげしげとアイスと室井を交互に見遣り、自信な気に訊ねた。
「…あのぅ、今、4月ですよね?」
「ああ、もう暖かいからな」
「…今日の最高気温は14度だそうですよ?」
「何だ、14度も有るのか。どおりで暖かい筈だ」
「……」
長袖のシャツに、決して薄くは無い上着を着ている状態で『暖かい』と言われても、青島としては素直に頷けないモノがあった。がしかし、室井のさも当然とばかりの口調に、流石の青島も口を挟む事は出来なかったので、室井から受け取ったアイスをじっと見詰めた後、意を決してパクリとかぶりついた。
「……冷て」
やっぱり、まだアイスを食べるには早い時期だと、東京生まれの青島はしみじみ思うのだった。
END
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