とらいあんぐる・らぶ


どういう訳か、三橋と待ち合わせしていた場所へ赴いた阿部の視界に目障りな付属物が映り、たちまち眉根を顰めて己の気分が一気に急降下していくのを感じていた。

――何であいつがこんな所に居るんだっ! つか、三橋に何話してやがんだ?

阿部には心底理解し難い事だが、三橋は榛名に好感を持っているらしく、これ又意外な事に榛名も三橋を気に入っているようだった。故にお互い姿を見掛ければ会話を交わしている事は珍しくも無い。まぁ、会話と言ってもほぼ一方的にではあったがそれでも二人共楽しげであり、やはり投手同士は何か感じる事があるのだろうかと僅かに寂しさを感じたりもしていたのだが。
何やら遠慮無しに構っている相手に困惑気味の三橋を見兼ね、出来ればUターンしたいと切実に願う気持ちを抑え込んで近付いた。


「やっぱ細っけーよなぁ。こんなんでよくあそこまで勝ち残って…」
「ウチの投手に気安く触んな」

背後から怒気を孕ませた冷たい声で睨みを効かせている阿部に気付いた榛名は、明らかに迷惑そうな視線を向けられているというのに全く意に介する事も無く、わざとらしく大袈裟に肩を竦めてみせた。

「んだよ、減るもんじゃねーだろ」

不貞腐れたようにそう言えば、フンと鼻を鳴らして二人の前まで歩いてくる。榛名に捕まっている三橋は阿部の不機嫌さに怯えて声も無く、口をパクパクと動かしているのが精一杯だった。

「あんたの手荒い扱いで三橋が怪我でもしたらどーしてくれんだよ」
「てめーは相変わらず口の減らねェ奴だな」

苦々しく呟く目の前の男を無視して阿部は徐に手を伸ばす。

「良いから離せって」

ベリッと二人を引き剥がし、即座に三橋の身体を確認する。「どっか痛いトコとかねェか?」と訊ねる阿部に三橋はブンブンと首を横に振って「ない、よ!」と返事を返した。それを榛名は憮然とした表情で眺める。

「……」
「何だよ」
「オレん時とはエライ違う態度だよな」
「はぁ?」

何言ってんだコイツ、と侮蔑の視線を投げ掛ける。男の拗ねた顔なぞ可愛くも何とも無い。しかも相手は年上で、阿部にとって何よりも腹立たしい存在なのだ。

「当たり前だ、気色悪い」

行こうぜ、と三橋を促してさっさとその場を立ち去ろうとした阿部に流石にムカッときた榛名は、すぐさまニンマリと嫌な笑みを浮かべて言った。

「んじゃ、投手じゃなきゃ良―んだよな!」

ガシッと阿部の腕を取り、グイッと自分の腕の中に引き込んで抱き締める。

「げっ!!!」
「はわっ!」
「あー、やっぱ良いサイズだよな、お前」

スッポリと腕の中に納まった阿部の身体に満足げな笑みを浮かべて「それにあったけーし」と低く漏らして首筋に擦り寄る。三橋は驚愕のあまりブルブルと震えるばかりで、当の阿部は声にならない程激怒してその中から身を離そうと躍起になって暴れていた。

「…ちっくしょ! てめ、この、離せっ!」
「ヤだね」

益々力強く抱き込まれて、一瞬息をするのも辛くなる。首筋に当たる榛名の息と触れ合っている背中に熱が篭り、混乱で冷静な判断が失われそうになる事に恐れを感じる。

「ちょっ…離せっ! い、一体何がしたいんだ、あんた…」
「んー、何って」

クイ、と指で阿部の顎を上げさせると、そのまま顔を近付けた。

「え」
「!」

硬直したまま目を丸くしている阿部と、口を大きく開けたまま呆然としている三橋を見てニッコリ笑う。

「誕生日おめでとさん♪」
「て…」

ワナワナと震えて怒りを爆発させた。

「てんめぇ〜! ふざけんじゃねー、バカ野郎っ!」

殴りかかろうとした阿部を予想していたらしい榛名は、ヒョイと身をかわすと足取りも軽く歩き出した。数歩進んだ所で立ち止まり、クルリと振り向いてニカッと笑う。

「んじゃ、又な。タカヤ」
「二度と来んな!」

怒鳴る阿部に「ごちそーさん」と笑って機嫌良く去って行く榛名を脱力した表情で見送る。三橋は始終呆然としたまま口を挟む事も出来なかった。

「ったく、何しに来やがったんだ…? あいつはホントに訳判んねェ」

バリバリと首の裏を掻いてぼやくと、何とか立ち直ったらしい三橋がキョドリつつも答えた。

「…お、オレ、判る よ」

突然の台詞に吃驚した表情で阿部がじっと見やると、三橋も怯みながらも黙って見詰め返す。言葉の意図が判らない阿部は、思わず眉間に皺を寄せる。

「え、何?」

阿部の不機嫌オーラを感じた三橋がビクッと身を竦ませ、たちまち視線を彷徨わせてキョドリ始める。阿部はイライラし始めて怒鳴りたい気持ちを何とか抑え、三橋の返事を黙って待つ。三橋は視線を逸らしてビクビクしながらも、精一杯答えた。

「い、言わな…」
「ほぉ〜、良い度胸だな?」

睨みを効かせてウメボシの素振りを見せても、三橋は震えながらキッパリ返した。

「い、言わない、よっ!」

今にも泣きそうな…というか半べそ状態の三橋に怒りも失せて、阿部はフウと息を吐く。卑屈で弱気な癖に強情な己の投手は、こうと決めたら梃子でも動かなくなるのだ。きっとどんなに問い詰めても答えは返って来ないだろう事が予想され、今度は諦めるように大きな溜め息を零した。

「…ったく」

呟いた声に慌てた三橋が顔を上げる。既に顔は涙でボロボロになっていた。

「あ、阿部 く」
「ん?」
「ご、ゴメ…」

嫌われたくない、と必死に赤くなった目で見詰める三橋に苦笑する。

「……バーカ。嫌わねっつってんだろ」
「う ん」

ふえっ、と泣き出した三橋の身体を引き寄せて、背中を軽くポンポンと叩いてやる。まるで幼稚園児の子守のようだと苦く笑う。とても同い年の男とは思えない。少し収まったのを確認すると、もう一度顔を向ける。その顔を見て、思わずプッと笑ってしまった。

「おっ前、スッゲー変な顔」
「う ひ」

まだ涙で濡れている顔でぎこちなく笑う三橋に、阿部の胸が愛しさで締め付けられる。
右腕を上げて、無造作にグイと裾で己の口を拭った。


「三橋。消毒」
「え」

キョトンとしていた三橋に顔を近付けると、軽くその唇に触れて離れた。満足げに笑んだ阿部は、当初の目的を思い出して時計を見た。

「おし。んじゃ行くぞ。あんまし時間無くなっちまったけど、祝ってくれんだろ?」
「……」
「三橋?」

固まったままの三橋にもう一度声を掛けて顔を覗き込む。途端、三橋の顔が茹蛸のように真っ赤に染まった。

「う、え?!」
「こ、こらっ、逃げんな! んな反応されると、オレが傷付くだろーが!」
「はうっ」

動揺して今にもダッシュしそうな三橋の腕を掴んで引き止める。混乱しながら恐々見上げた阿部の顔も又真っ赤になっていて、三橋は吃驚してその顔をじっと見詰めた。

「あ べ君」
「…何だよ」

照れを隠すかのように横を向いて仏頂面で返すが、顔は赤いままなのであまり迫力は無い。

「あ う、えっと。た…誕生日 おめでと」
「おう」
「あ! 阿部君っ。今の…」

突然勢い良く身を乗り出した三橋は、何やら急に恥ずかしくなったのかシュルシュルと小さくなって俯いてボソボソと呟き、その言葉が聞き取れなかった阿部は怪訝そうに首を捻る。

「何?」
「…い、今の。お オレからも、も一回…」
「え」

三橋の精一杯の台詞を聞いて、阿部は目を丸くした。真っ赤な顔でブルブルと震えながらも必死に自分を見詰めている誰よりも大切な己の投手を見返すと、阿部は照れを隠す事も出来ずに笑うしか無かった。

「いちいち確認すんなっつーの」

お前ならいつでも大歓迎だよと、幸せそうに笑う阿部に三橋も嬉しそうに笑った。




END




田島を祝って阿部を祝わないなんて!と奮起して、再びラクガキ話を誕生日話に急遽細工してみたんですが…オメデトー!っていう内容とは何かが違うか な?(爆) しかもミハベっぽい気も……ち、違っ!(汗)
えーと、阿部と三橋の誕生日デートを見つけた榛名が邪魔してたという無理矢理設定で宜しく(無理矢理スギだよ…!)。うちの阿部は鈍いので、榛名の行為は嫌がらせとしか思ってません。阿部は三橋の事しか考えてません(本気)。…なら榛名出すなと自分でも思う…why?

てかこの話のバッテリー、カップルになってんだ…!(其処驚くトコか?)


この後なかなかキス出来ない三橋に焦れて怒鳴る阿部が予想されます。そんなアベミハが好き…!(迷惑な愛)


ともかく阿部ハピバ! 

20061211