嬉しい楽しいダイスキ!



オレの誕生日を祝え(構え)!と騒ぐ田島によって、都合良くその日はミーティングのみの日であった為に半ば強制的に、そして必然的に皆で陽気に騒いで部室でのささやかなパーティは終了した。後片付けも終わって最後の確認をして鍵を掛ける花井を待っていた田島は、自分より背の高い同級生を見上げてしみじみと呟いた。

「花井カッコイー」
「はぁ? 何言ってんだよ。世辞言ったって、もう何にも出て来ねェぞ」

プレゼントちょーだい!と部員全員にお菓子や飴を貰っていた田島に、漏れなく花井もキャラメル(妹からの貰い物)を強奪…もとい、あげていた。

「バーカ、世辞じゃねェよ。そうじゃなくって…」

言いたい事が上手く出て来なくて、田島は「うーんっと」と唸ってからパチリと大きな目を開けて向き直った。

「えっと花井ってさ、オレの事絶対諦めないで追いかけて来るじゃん。4番はお前んだけのじゃねェぞって対抗心バシバシでさ」
「……」
「それがさ、スゲー嬉しいんだ」
「……」

ニカッと一天の曇りも無く笑う田島に、花井は困ったような表情を浮かべて僅かに身を引く。

「花井に追いかけられてると、オレも頑張らなきゃって思うし」
「オレが追いかけてなくたってお前は頑張るだろ」

つい、余計な一言が口を突いて出た。良い加減、自分を卑下するのは止めようと心に誓った筈なのだが。
そんな花井の後悔する気持ちに気付かず、益々大きくした瞳をクリッと向けて首を傾げる。

「そうだけど違ェよ。一人で頑張るより一緒に頑張れる奴がいた方がゼッタイ楽しいじゃん。それが好きな奴なら尚更さ!」
「…すっ?!」
「うん。オレ、花井ダイスキだもん」

恥ずかしげも無くあっさりと好意を口にする田島に面食らいつつ、動揺する己を誤魔化そうと明後日の方向を見ながらなるべく軽い調子で礼を述べる。

「あー…えーっと、ありがとさん」
「花井は?」
「へ?」
「花井はオレの事好き?」
「え…」

突然振られた問い掛けに、誤魔化して落ち着けた筈の動揺が更に大きくなって花井の心に舞い戻ってきた。返事をせずに黙り込んだままの花井に顔を顰め、不満そうに口を尖らせて不平を漏らす。

「何だよー。嫌いなのか?」
「え?! いや、嫌いじゃ…無い…けど」
「けど?」
「うー」

困り果てて田島の顔をまともに見られなくなってしまった花井は唸り声を上げた。田島はそれが益々気に入らない。

「何だよ、煮え切らないなぁ。好きか嫌いか、どっちだよ!」
「…どちらかと言えば、好き…かな」

思わずポツリと零れたその台詞に、田島は目をキラキラさせて花井を見詰めた。

「おお! オレも愛してるぞ!」
「あい…?! イヤイヤ、お前、それは間違ってるだろ」

慌てて逸らしていた視線を下に向けて田島の顔を見る。妙に近くにあったその顔に、内心ドキッと心臓が跳ね上がった。

「えー、何で? 間違ってねェよ」

子供のように膨れて反論する彼に、花井は苦笑して鞄を抱え直した。

「普通、男を捕まえて“愛してる”はねェだろ」
「良いんだよ、花井なら」
「…へ」

固まる。一瞬、意味も判らず期待しそうになる。何に期待しているのか自覚も無かったが。

「だって花井はオレの三番目にダイスキな奴だからな!」

無邪気な満面の笑みでそう断言する田島の言葉に素直に喜べず、僅か引っかかりを感じて眉を顰める。

「三番目…?」

何故か胸がモヤモヤしてきた。その前の二人は誰だというのだろうか。そんな花井の心の声が聞こえた訳では無かろうが、田島は大きく頷いて臆面もなく説明をした。

「うん。一番は勿論野球で、二番は飯! んで三番に花井! 完璧だろ!」

屈託無いその発言に、花井はポカンと口を開けて一拍した後ガックリと項垂れた。

「……野球と飯と同列かよ、オレ。て言うかお前…」
「何?」

頭を抱えてしまった花井を覗き込もうと近付いた。その気配を感じて、花井はバッと顔を上げてクルリと背を向けると、自転車置き場へさっさと歩き出していた。

「あー! ったく、恥ずかしい奴だな!」
「何怒ってんだよー」
「怒ってねェ!」
「あ、照れてんだ?」
「! るせェ!」

顔を背けていても、耳が赤いのが丸見えだ。田島はウシシと笑ってその腕に抱き着く。

「花井ダイスキ」
「はいはい、オレもだよ」
「愛してるぞー」
「はいはい、オレもだよ」

ヤケクソに、諦めたように素っ気無く同意してやるが、けれど照れ臭さを噛み締めるように苦笑を浮かべて振り向いてくれた花井の表情に、田島はキョトンとした顔をした。

「誕生日おめでとさん」

ぽん、と軽く頭に乗せてクシャリと撫でてやる。ぼうっと花井の顔を眺めていた田島は言葉の意味を理解すると、ニヘっと満面の笑顔を浮かべて勢い良くその長身に跳び付いた。

「サンキュー、花井!」

今日という日が、田島にとって何よりも今までで一番嬉しい誕生日になった。




END




落書きしてた話を急遽誕生日話に細工して慌てて更新してみました。…こんなに適当に書いたの初めてかも…!と言う感じの出来ですが、今アップしないともうそのままお蔵入りしそうな気がするので出してみました。ああでも一体どんな状態なんだあんたら…。時間があったら修正するかも…? つかこんなの書いてる場合じゃ!(汗)
とりあえず田島ハピバ! この話は花田に飢えている姉に捧げます(笑)。砂糖吐けるぞ〜!

20061016