青年の主張


書類を提出しに軍部へと訪れたエルリック兄弟だったが、部外者が度々中に入るのは良くないからと遠慮した弟が司令部の前庭にあるベンチでぼんやりと腰掛けていた。その後ろを偶然通りがかった大佐は、見知った姿を見つけて声を掛けようとしたのだが…ふと零れた小さな深い溜息を聞いてしまい、開口一番に尋ねてしまっていた。

「何か悩み事かね?」
「え? あ、大佐! こんにちは、ご無沙汰してます」

慌てて立ち上がり丁寧にお辞儀をする弟を見ると、彼の兄にももう少し己を年長者として上司として敬う態度があれば良いのにと願う。いや、あれもあれで悪くは無いのだが…等と内心思っている事は、勿論見て見ぬ振りをする。

「ああ、久し振りだね。元気そうで何よりだ。しかし何故君が一人でこんな所に居るんだ? 鋼のを待つなら中で待てば良いものを」

此処まで連れておきながら外で一人待たせる様な事をする性格で無い事を知る大佐は、ふと思った疑問を何気なく口にした。それに対して弟は困った様に大きな身体を縮こませると、遠慮がちに答えた。。

「いえ、部外者が気軽に出入りしてはご迷惑がかかりますから…」

良識有るこの弟は、自分の立場とそれに対する影響を考慮した結果この場に残る事を選んだらしい。そう理解はしたが、他ではどうあれ自分の居る所ではこの二人は自由に出入りして良い立場だと既に主だった人々は皆そう思っているのだったから、軽い調子で遠慮は無用だと告げてみた。

「完全な部外者と言う訳ではなかろう? 国家錬金術師の家族なのだからな。それに、君が訪れれば中尉や他の連中も喜ぶ」
「…そうでしょうか?」

大きな鎧が首を傾げて考える様子は、一見不似合いな様だが彼がやると何故か微笑ましく感じる。彼がまだ子供だと知っているからだろうか。

「ああ。きっと今頃君の兄は、擦違う連中一人一人に弟はどうしているのかと聞かれている事だろう」
「……」

自分の言葉を少々疑っている様子の弟に、二人の存在がどれ程自分達に影響を及ぼしているのか自覚の無い事を知り、その微笑ましさに苦笑を漏らす。

「それで?」
「え?」
「何か悩んでいる事があるのじゃないかね? 先程深刻そうな溜息を吐いていた様だから」

最初の疑問を掘り返してみる。そう言えば、弟とは落ち着いて話をした事が無い事に今更ながら気が付いた大佐は、もしかして今が好機なのではないだろうかと思った。なにせいつもは話しかけようとしても、彼の隣にぴったりとくっついている兄が何かと邪魔をして、ついぞまともな会話が出来なかったのだから。

「あっ…。えーっと」

戸惑った様子の弟に、兄の上司とはいえいきなりプライベートな質問は不味かっただろうかと考える。……しかし人の好奇心というものは抑えられないもので、警戒されない様にあくまでも気楽な調子で話続けた。

「私で良ければ相談に乗るが? いや、余計な節介でなければだが」

押した後一旦引いてみせて更に安心させる様にニッコリと笑顔を見せられれば、確実に好感度は上がる。その駆け引きの上手さは流石に浮名を流しているだけあるなと半ば感心しつつ、少し考える仕草で弟は首を傾げる。

「でも、お仕事中じゃ…」
「いやいや。今は気分転換に抜け…ゴホ、ゴホン、休憩中なのでね。気にする事は無いよ」
「…はぁ」

納得したのかしてないのか、何となく気の無い返事を返して黙り込んでしまった弟を優しく見詰めた。

「話し難い事かな?」

すると、「えーと」と困り果てた様な悩むポーズを繰り返し、暫くしてから上目遣いにこちらを見詰めた。自分より大きな鎧に上目遣いで見詰められると言うのも変な話だが、別に嫌な気はしなかった。

傍から見たら異様な光景かもしれないが。

「………あの」
「ん?」
「兄の事なんですけど」

切り出した言葉は予想通りの範疇だった。
あんな兄を持てば、この気の優しい弟はさぞかし悩みが尽きなかろうなと常々思っていたので。

「君の悩み事なら、そうだろうね」
「………」

あっさりと大きく頷く大佐の様子に、弟は複雑な気分を味わっている様だった。あえて言うなら否定したいけど否定出来ないと言った所だろうか。

「兄は今、何かの任務を受けていますか? もしそうなら、その仕事って……危ない事だったりするんでしょうか?」
「は?」

いきなり何の話だろうと眉を顰める。
とりあえず最近の記憶を瞬時に辿ってみるが、思い当たる事は無かったので素直にそう告げた。

「今現在彼に与えている仕事は無かった筈だが…。今日提出して貰ったレポートは、以前の事件の経緯を詳細に伝えるだけの為のもので、既に解決している問題だしな」

大佐の台詞に、弟は「そうですよね…」と小さく呟いて俯いた。幾分落ち込んでいる様に見える彼に何と言って良いのか判らず、人気の疎らな広場に視線を移した。
深く追求する事を止めて黙って隣に居てくれるその存在に、不思議と心が軽くなって来る気がした。その雰囲気が、自分の兄を感じさせると思ったのかもしれない。口に出したら二人共嫌そうな顔をする事は間違い無いけれど。

「最近、夕方になると宿からいなくなる事があるんです」

突然ポツリと話し始めた弟に、大佐は当て所も無く彷徨わせていた視線を再び彼に戻して静かに見詰めた。

「夜遅く戻って来る事もあれば、朝になるまで帰って来ない事もあって。急に調べたい事を思い出したからとか書置きを残してくれてはいるんですけど、ボクとしては睡眠を削ってまでして欲しく無いし、どうしても緊急だと言うならボクが行った方が効率良いだろうと言ったんです。だって兄には睡眠が必要だけれど、ボクは眠らないんですから。でも、兄は自分でやりたいからと言って一向に聞いてくれないし」
「…ほう?」

夜中に調べ物など何処でやれると言うんだ?と胡散臭そうに思ったが、とりあえず黙って話を聞く事にする。

「せめてその後ちゃんと寝てくれれば良いんですけど、何だか出掛ける前より疲れた顔してベッドに直行して数時間爆睡、そして幾らも経たない内に起き出して出掛けて〜の繰り返し。あれじゃあその内体がボロボロになっちゃうのに…」

悲しげに呟かれた台詞の内容に、大佐は眉間に皺を寄せた。

傍で見ていても判る程溺愛している弟に、無闇に心配させる様な奴では無かった筈だが…。

妙な興味を覚え、あらゆる可能性を捜して考えを巡らし始めた。
兄の仕事のスケジュール等、直属の上司である自分が把握しているのは当然であり、何も覚えが無い以上、彼の一連の行動は真にプライベートな事柄だと断言出来るだろう。大体夜にこそこそ一人で調べなければならない仕事など己が頼む訳も無く。疲れて帰って来ると言うことは、疲れる様な事をして来ていると言う事だろう。

夜に疲れる様な事だと…?

目を大きくして慌てて弟に視線を移すが、驚く自分には気付かずに俯いたまま言葉を続ける。

「それに気の所為か、そういう風に黙って外出した後は決まって目を合わせてくれないんです。だからもしかしてボクに黙って一人で無茶してるんじゃないかって気になって、…でも後を付けるのも気が引けて」

その言葉で自分の考えが間違っていない事を確信する。よもやあの子供がなぁ…などと、何となく感慨深いモノを感じて心の中でうんうんと頷いていた。

「それであの、こんな事貴方にお伺いするのは見当違いかもしれませんが……兄が何をしているのか、何か知りませんか?」
「………」
「大佐?」

純粋に本気で悩んでいる弟の様子に、大佐はどう答えて良いものか頭を悩ませた。
個人の心情など普通なら知る由も無い事だったのだが、彼の人となりと今聞いた動向で判ってしまった内容は……果たして聞かせて良い事なのかどうか自分には計り知れなかった。

「知っている、と言うか、…予想なら簡単につくな」
「え? 何ですか?」

吃驚した所為か、声のトーンが少し上がる。彼には全く想像出来なかったらしい。
さもありなん。この純粋な弟ならば。

「だが多分、彼は君には知っていて欲しくは無いのだろう」
「何故ですか? まさか、やっぱり一人で無茶を…」

再び心配し始めた弟に、変に隠し立てして杞憂を募らせるのは可哀想だと勝手に判断し、いつまでも隠し遂せるものでも無いのだからこの際構わないだろう、と兄の努力を無視して説明してやる事にした。勿論、人間知らない方が幸せだと言う事柄もあるという事は、ひとまず棚に置いておく。所詮他人事だ。

「いや、そうではない。何と言うか…鋼のも、年頃だと言う事だろう」
「……?」

何の事か判らない弟は、益々首を捻ってしまう。そんなに捻ったら鎧の首が落ちてしまうのでは無いかと、余計な心配をしつつ。

「君は、夜はいつもどうしているのかね? 彼の寝ている側にいつも居るのかな?」
「え? ええと、まぁ大抵は。部屋が幾つか有る時は隣の部屋で本を読んだりとかしてますけど。…後は、ごくたまに散歩に出掛けたりする位でしょうか? あ! それは兄には内緒にしておいて下さいね。心配して怒り出しちゃうと思うから」

何でそんな質問をされるのか判らなかったが、とにかく素直に答えた弟の言葉に大佐は小さく笑い、そして自分の予測が正しい事を認識して軽い溜息を吐いた。

「それじゃあ仕方ないな」
「え?」
「部屋で出来ない以上、外で発散するしかなかろう。幸い彼は意外と人気があるようだしな。誘えば相手になってくれる女性が大勢居れば、自ずと外出がちにもなるというものだろう」

直接的には言わなかったものの、暗に含めた意味に弟も理解した様だった。

「………ああ、そうか」

ようやく思い当たった事柄に胸がスッキリした様子だったが、心持ち落胆した様な印象を受けて、何となく面白いモノを見るかの様に見詰める。
そんな大佐の視線に気付かず、己の中に芽生えたモヤモヤした感情を不思議に思い、弟はそんな己に戸惑いを感じた。

「ボク、兄さんに気を遣わせちゃっていたんですね」

少し落ち込んだ様子で呟いた言葉を、大佐はあっさりと否定した。

「気を遣っていると言うか、単に後ろめたいだけだろう」
「後ろめたい…?」

それは“自分だけが肉体を持っている”という罪悪感故に表れた感情なのだろうか?

いつも自分に対して罪悪感を持ち続けている兄の姿は、弟に更なる悲しみと切なさを植え付けていた。そんな風に自分を責めたりしないで、と、心の中で呟いた弟の想いを知らずに大佐は驚くべき事実を口にした。

「本当は君に手伝って欲しいのだろうが、それをひた隠しにしている辺り、まだまだ子供だと言う証拠だな」

何だ、その事には気付いてなかったのか?と、無責任にも兄の隠し事を全て暴露してしまおうとする辺り、「だから目の敵にされるんです」と常に傍らに居る美しい副官に又窘められそうだなと思う。

弟は大佐の台詞の意味が判らず、再び首を捻って考え込む。それを面白そうに見ている大佐の様子は、よく兄が自分をからかう時にする表情と同じで、弟は訝しそうに小声で問い返した。

「手伝うって…何をですか?」

恐る恐る窺う彼に意地悪く微笑んでみせる自分は、大概性格悪いなと心の中で呟く。

「知りたいかい?」
「えーっと…」

返事に困っている弟の声に被さる様に、大きな声で怒鳴りながら人影が割り込んで来た。

「こぉんの、クソ大佐! 人の弟に何してやがるッ!」
「兄さん」

赤いコートを翻し、鎧の弟を庇う様に背に隠し(きれてはいないが)、金の髪を逆立てて己を睨み付ける兄の相変わらずの態度に、大佐は呆れた様に肩を竦めて問う。

「何だ、鋼の。用事は終わったのかい」
「終わったのかい、じゃねぇ! 終わらせようにも書類を渡すあんたがいなきゃ話にならねぇだろうが!!!」
「はっはっは。それは悪かったな。つい話が弾んでしまってね。時が経つのを忘れていたよ」

豪快に笑って見せれば、兄は憤慨して殊更ムキになる。だからこそからかわれるんだと言う事には気付かずに。

「この…。おい、アル! こんな無能の言う事を真面目に聞いちゃ駄目だぞ」
「無能って…。全く君は相変わらず上司への言葉遣いがなってないな」

溜息混じりにそう言えば、負けずに減らず口を叩く彼の言葉に声を無くす。

「るせー! とにかくレポートは提出したからな。ほら、早く戻らねぇと中尉に射撃の的にされるぜ」
「うっ…」

確かにそろそろ戻らないと、いかな暗黙の了解とされる己の勝手な休憩時間もその内完全に禁止される事になるだろう。それはマズイと流石に危険を感じて、大佐はこの場は大人しく戻る事にした。
とは言っても、最後に一言やり返しは忘れない所が彼の大人気ない所だったが。

「ああそうだ。アルフォンス。気が変わったら、いつでも相談に乗るよ」

ニッコリと弟のみに向かって笑いかけ、さっさと立ち去られてしまった二人には暫し気まずい沈黙が流れていた。

「…相談って?」

眉を顰めて顔を覗き込む兄の険悪な空気に、思わず明後日の方向を見てしまう。

「ええっと」
「悩みがあるんだったら、あんな奴に相談しないでオレに言えよ!」

率直に不満を唱える兄の台詞に、とりあえず曖昧に頷きを返した。

「えー…あ、うん」
「何だよ? オレには言い難い事なのか?」
「うん、まぁね」

今度はあっさりと頷かれ、兄は大げさにショックを受けた。

「……!!! 弟よ、たった一人の兄に隠し事か?! 兄ちゃんは悲しいぞ」

嘆き悲しむ素振りをする兄を見て、弟は反対に拗ねて言い返した。

「隠し事って…隠してたのは兄さんの方じゃないか」
「え?」

いきなりの反撃に、兄は驚いた顔で弟を見詰める。多分、どれの事が咄嗟には思い浮かべられないのだろう。それ程兄は弟に多くの隠し事を抱えている。相手を気遣っての事だと判ってはいても、それが殊更自分を悲しくさせるのだと言う事に、どうして気付かないのだろう。

「気が利かないボクも悪かったけどさ。…兄さんが最近夜出掛けてる理由、教えて貰ってたんだ」
「……え」

ギクリとした表情になる。まさかそんな話題を持ち出されるとは予想して無かった様で、そ知らぬ振りも咄嗟に出来なかった。

「ボクが居たら、確かにやり辛いよね。でも不特定多数の人と…って、あまり良くないと思うんだ」
「い、いや…その、な」

蒼くなって慌てて誤魔化そうとする兄の態度を他所他所しく感じ、何だかいきなり二人の間に距離が出来てしまった気がして寂しさを感じる。生身の身体だったら酷い顔をしているんだろうな、と、今は変わることの無い鎧の顔に少しだけ感謝した。

「ねぇ、兄さん。なるべく宿は二部屋以上ある所にしよう? そうしたらボク、夜は寝ている兄さんの部屋には絶対入らないから」

真剣に案を出し始める弟に、最早誤魔化しが通用しない事を感じ、動揺と焦りが襲い掛かる。

「ちょ、ちょっと…アルフォンスさん?」
「そうだよね。兄さんもいつまでも子供じゃないし、そういう事って必要だったんだよね。ゴメン、気付かなくって」
「え…いや、その」

落ち込んだ声でそう言われても、何て答えたら良いのか彼には判らなかった。判ったのは、己の行動が弟にすっかりバレていると言う事だった。

「本当はちゃんとした恋人とするのが望ましいんだろうけど、兄さんまだそういう人いないみたいだし。まさかボクが手伝ってあげるなんて訳にもいかないしね」
「てっ!!!?」

弟の爆弾発言に兄の頭の中は真っ白になり、言葉を無くして弟の顔を凝視する。慌てて弟が弁解をした。

「あ、大佐がね。冗談なんだろうけど、ボクが手伝ってあげたらどうかって。さっきの相談って、そのやり方を教えてくれるって…もう、こんな話、昼間に話す事じゃないや」

今更ながら周りをキョロキョロと見回して、近くに誰もいない事に安堵する。が、兄はそれ所では無かった。必死の形相で弟に詰め寄った。

「ちょっと待て。それって受けたのか?!」
「え? 何を?」

首を傾げて問い返す弟に焦れて、ハッキリ問い詰めようとする。

「だから! その、…」

が、口に出しては憚れた。その様子に、先程の話題の事だと気付いた弟が、呆れ気味に言い放った。

「教えて貰う訳無いだろ、冗談なんだから」

大きな溜息と共に零された言葉に、兄は苦虫を潰した様な顔で呟いた。

「あながち、冗談でも無いんじゃねーか?」
「え? 何、兄さん」
「何でもねぇ」

不貞腐れた様子を不思議に思いつつも、話を戻して暫くは妥協案を受けて欲しいと再度伝える。

「とにかく。勝手に部屋に入ったりしないから、気にせず思う存分やってて下さい」
「……あのな」

ガックリと肩を落としてしまった兄に、弟は胸が痛む気がした。鎧の胸が痛む筈も無いけれど、でも。

「だって、ボクが居たら出来ないでしょ?」
「………」
「隣の部屋に居るのも気になるなら外行ってても良いし」
「………」
「やっぱり女の人としたいなら…止めないけど」

俯いて黙り込んでしまった兄の様子に、やはり自分の我侭を押し付けるなんていけないよね、と思い直そうとする。例え自分がどれ程嫌だと思っていても…それを言う資格は自分には無いから。

「……れより」
「え? 何?」

蚊の鳴くような声で呟かれた言葉を聞く為に、弟は屈んで兄の顔を覗き込んだ。兄は真っ直ぐに弟を見詰めると、今度はしっかりした口調で言った。

「それより、おまえとしたい」
「………は?」

今度は弟の頭の中が真っ白になった。今、兄は何と言ったのだろう?

「だから! オレは、おまえとしたいんだよっ!」

真っ赤な顔でもう一度繰り返したその台詞に、ようやく理解した弟は思わず飛び退こうとしたが、何時の間にか腕を捕まれていてそれは叶わなかった。

「……ボク? ええっ?! だって、ボク鎧だよ? どうやってするのさ!」

気が動転していて、その前に男同士だとか兄弟だとかいう理由は頭に無かった。

「だから大佐が言ってたんだろ?」
「…ああ、手伝うやり方? って、兄さん知ってるの?!」
「……まぁな」

突っ込む所は其処かよ、と思いつつ、複雑な気持ちで頷いた。

まさか「いつかもしかして機会が訪れるかも…と思ってずっと密かに研究してました」なんて、正直に言える筈も無い。

「………」

考え込んでしまった弟の様子に、軽蔑されてしまっただろうか?と内心焦りを感じる。鎧の姿では表情が読めないのでその分不安は増し、どうして良いか判らなくなる。いっそ笑って誤魔化して冗談で済ませる事も…今なら可能であろうとは思ったが、そうはしたくは無かった。どうせいつかは言わずにはいられないだろうから。
ぐっと手を握り締め、意を決して問いかける。

「嫌、か?」
「え…と。でも、何か変じゃない? こんな…鎧とだなんて」

困った様に問うその声音には、とりあえず嫌悪は混じっていなさそうだった。それに力を得て、自分の気持ちを真摯に伝える。

「変じゃねぇよ。どんな姿でもアルはアルだ。…オレはアルとしたいんだ」
「兄さん…」

キッパリハッキリと言い切られ、弟はこんな時であるというのに感動していた。
否定されなかった事に気を良くした兄は、いつもの悪戯げな顔でニカっと笑った。

「そうと決まったら行くぞ! 今夜泊まる宿を探さなくっちゃな」
「え? え?! あ、二部屋ある宿を…だよね」

突然元気になった兄に戸惑いつつ問い返す弟を振り返り、確信犯の笑みを浮かべる。

「何でだよ。必要無いだろ? 今夜はおまえが手伝ってくれるんだから」
「………」
「今夜は放さねぇからな!」
「に、兄さん?!」

上機嫌で手を引っ張られ、気が動転したままの弟を宿に連れ込んだその行方は、二人だけが知っていた。





END


ギャグです。笑って許して下さい……っ!!!(殺)



20041030