「ようやってくれた」

満足げな機嫌の良い笑みを向ける端正な男を前に、彼よりは一回りは上であろう無骨な姿をした男が畏まったように頭を下げた。

「いえ、まだまだこれからにございます。ですが、お館さまにお褒め頂けるのは拙者の喜び。それを励みに、更なる我が社の発展を目指しましょうぞ」

力強いその言葉に、その男――信玄は大きく頷く。まだまだやらねばならない事は山積みで、それが更なる意欲を信玄に湧かせていた。

「うむ。して、勘助」
「は」
「今夜はどうだ? 時間があるなら祝い酒に軽く付き合わぬか」

ニヤリと悪戯小僧のように笑って誘う信玄の言葉に、勘助は直ぐにでも頷きたい気持ちを抑えて、苦笑を浮かべながら困ったように口籠もった。

「どうした?」
「いえ、勿体無きお言葉でございまするが…」

珍しく小さな声で言葉を濁す勘助に、信玄は虚を突かれたように目を丸くした。

「何じゃ、先約があったか」
「いいえ。……その、それに姫さまも同行させてはいけませぬでしょうか」
「……おぬしの奥方をか?」

僅かに眉間に皺を寄せ、信玄は勘助の顔を窺う。勘助は申し訳なさ気に後頭部に手を当てたまま口を開いた。

「拙者一人でお館さまとこれ以上過ごしたと知られれば、姫さまに殺されてしまいましょう」
「…まさか」

惚けたように肩を竦める信玄に、勘助はホトホト困った顔でぼやいた。

「お館さまの下で働いているというだけでも毎朝恨めし気に送り出されておるのです。これ以上はどうにも…」

ともすれば単独で会社に出向こうとする妻を必死に宥めているのだと、常日頃から周囲に零していた。完全に尻に敷かれている勘助の状況を改めて知り、信玄は苦笑を浮かべた。
気の強い所は変わってないのだと、気丈なその美しい姿を脳裏に浮かび上がらせる。

「勝頼は息災か」
「は。姫さま共々、元気にやっております。おお、そうじゃ。勝頼さまは最近大学の研修で遅くなっておりまするが、今夜はお戻りしておるやもしれません。お館さま、勝頼さまにも連絡して宜しゅうございますな?」

大真面目な顔で問い掛けられ、信玄は幾度か瞬きした後肩を竦めた。
別れた元恋人とその子供(認知済)を同伴するのが当たり前と感じている勘助の立場と、それを許可せねばならない己は一体何なのであろうかと悩むが、全ては勘助の策略の結果と信玄の人徳の成せる業であった。

「……全く、おぬしらは面妖且つ難儀な奴らじゃのぅ」
「お館さまがお相手でございますれば」

ニヤリと笑みを浮かべて告げるその台詞は、勘助の心からの言葉だった。





大人達のパーリィ(笑)。

※一応追記説明(えー)
姫(諏訪姫)はお館さまの学生時代での元恋人で、2人の間に子供(勝頼)がいます。全ては勘助の策略(お館さまの子が欲しい!と/笑)で、責任を以って勘助が姫と結婚して幸せ家庭を築いています。
勿論、3人共お館さまラブです。愛を競い合ってます(爆)。






20100509