黒い髪の人々でごった返した街並みを眺めていると、故郷に帰ってきたのだとしみじみ実感出来る。思わず小さな安堵の溜め息が零れ、それに気付いた隣に座る男が綺麗な微笑を向けた。
久し振りの帰国で空港にて出迎えられたのは、中学からの同級生で彼の親友ともライバルとも呼べる男であった。今その友人の車に強引に乗せられ、久し振りの逢瀬を過ごす羽目となっていた。

「誰にも知らせておらなんだのに、何処から知ったのじゃ?」

気を悪くするでもなく顎を撫でながら面白そうに訊ねる男に、友人も又楽しそうに目を細めて笑った。悪戯が成功した時に子供が浮かべる表情にも似ている。

「あなたさまのどうこうをしることなど、わたくしにとってはぞうさもないこと」

何人も魅了するかのような優美な仕草と華麗な容姿を持つ友人の、得意げでありながらも可愛らしい企みに男は苦笑を浮かべた。

「暇でもあるまいに、物好きな事よ」
「おや。わたくしのでむかえは、めいわくでしたか?」

首を傾げ、上目遣いで問い掛けるそれは、否定される事など全く心配していない癖に妙に思わせ振りな雰囲気を纏っている。他の者であれば、男女問わずその魅力に眩暈を起こしている事であろう。しかし目の前の男はそう易々とその誘惑には惑わされない。

「まさか。久し振りの友人に会うて、喜ばぬ儂では無いわ」
「ふふ」

中睦まじく笑いあう二人をサイドミラー越しに睨み付けているのは、友人の男の秘書であり義理の娘でもある美しい女性であった。ギリッと歯を食い縛り、ハンカチを握り締めて悔しさを耐えている様は、容易に声を掛け辛い雰囲気を醸し出している。
幸か不幸か、助手席で不穏な空気を出している事に気付かない運転席の青年は、彼女とは対照的に、鼻歌でも歌いそうな暢気さでゆっくりと高級ホテルの駐車場へと車を進めた。





運転手は勿論直江で!(そこ重要)






20080302