ほめてほめて



「やりましたぞ、お館さまぁあああ!」

キラキラとした瞳で満面の笑顔を浮かべながら一目散に駆け寄ってくる。
一寸の戸惑いも無く無邪気に抱きつこうとする愛弟子を敢えて殴るのは、自分にとって日常茶飯事である。殴られて吹き飛ばされた身体を直ぐ様起こしてこちらを窺う彼に、厳しい面をそのままに声を張り上げる。

「幸村っ! 慢心するでないぞ!」
「はい! この幸村、より一層精進致しまする!」


己に褒めて欲しくて頑張るその姿がいじらしくも愛しく思う。その求めるままに褒めてやりたいと思う時もあるが、心を鬼にして激を飛ばすのは彼の為を思っての事。


その心と身体、誰より強くあれと願うは、その者を誰より深く想う故。


「お館さま。幸村は必ずやお館さまと共に上洛を果たす事、叶えてみせまする」
「…儂が倒れ臥した時は如何とする?」
「そのような事、幸村の全てを以って阻止し、お守り致しまする!」

己が力を信じ、真っ直ぐ直向な思いを注ぐ若武者に笑みを零す。

「まだまだ多くを学ばねばならぬ事、覚悟の上か?」
「は! お館さまの御為とあらば、如何程の苦労など苦にはなりませぬ!」
「よう言った! なれば着いて来るが良い! 儂の目指す道は険しいぞ!」
「無論! この幸村、何処へなりともお供する所存!」

真摯な瞳を受止め、共に目指す京の都に思いを馳せた。


END




素直でないお館さまに愛。
後半よりお題から逸れた感が否めません。犬は犬なのだが(苦笑)。
ううむ…難しい…。


20080217