結婚して間もない頃、少しでも収入が欲しくて、生命保険会社にセールスとして出ていたことがある。
その時、私を連れて回ってくれた先輩はめっぽう魅力的な女性で、可愛い人だった。
一回り年上なのに、一緒にいると、私の方が年上に見られたりすることもあるほどだった。しかし、見かけによらず仕事のできる人で、右に出る者のいない程のトップセールスだったのだ。
上司は彼女を「人に魔法をかける」と表現していた。
彼女のセールスを間近で見ていると、確かにその表現が一番ぴったりしていた。
目先だけにとらわれずに、平気で半年先、一年先の仕事も同時にしていたのである。
彼女のすごさに尊敬と羨望の眼の私は、金魚のフンのごとき有様で四六時中ついて回っていた。
たまたま私が一緒にそばに居ただけなのに、お客さまの方から「保険に入るよ」という話になると、惜しげもなく私にその成果の半分を与えてくれた。
私にしてみれば棚からぼた餅みたいな話である。
毎日、「すごい! すごい!」と心の中で連発しながら、彼女の仕事を観察していた私だった。
そんなある日、彼女のお宅に立ち寄ることになり、お邪魔すると、だんな様がいらっしゃった。
お家の大きさにビックリしている私に、だんな様が「いつも、家のがお世話になります」という。
私はますますビックリした。
お世話になっているのは、こっちの方なのに、高々30歳にも満たない若い私に、40歳ほどの大人の男性が頭を下げたのだから、私はどう受け応えていいものやら戸惑ってしまった。
後で、彼女に「さっき、だんな様が『いつもお世話になります』って私に言ったんですよ! 私の方がお世話になっているのに!」
と報告すると、彼女はこう返事した。
「ああ、あの人、私は何もできないから、本当にお世話になっているって思ってるんじゃないかな」
ス、スゴイ! 夫婦して、すご過ぎる。
それまで「お世話になります」という言葉が、大人の社交辞令だとしか受け止めていなかった私は、それ以来大好きになった。
いい言葉だなあ「お世話になります」って!
|