・午後11時就寝
・午前4時起床
  左後足を12回なめて、3回かむ。
  右前足で顔を3回洗って静止。
・午前4時2分就寝。





カーテンを開けて、窓の外のどんよりした空を見ながら 里美は大きく
ため息をついた。
つい一週間前に かなり大型の台風が 通り過ぎたばかりだというのに、
昨日から今朝にかけての集中豪雨。
9月になったというのに まだまだ燃えさかる夏は、雨のせいで 涼しく
なってくれたりはしない。
湿度の高い ゼリー状の蒸し暑い緩やかな風になって 勝ち誇る。
「あかん。えらい暑いわ。頭からかき氷 かぶったろかしらほんま。」
ぶつぶつ言ってると階下から、里美の名前を呼ぶ声が聞こえる。
姉の芙佐子だった。
降りてみると姉は、けげんそうな顔で言った。
「なんかおるで。あそこ。網戸にはりついてんねん。」
そういって芙佐子は、小学校に面した道路側の窓を指さした。
                              (5/9)  
里美はじっとそれを凝視した。
でも、見つめても見つめても それがいったい何なのか よくわからなかった。
全長15cmの細い体。 目やにだらけで つぶれてしまってる目。
やたら 細い顎。 手足は妙に長い。 しっぽは ちぎり取られたように何もない。
地球上のいろいろな生物を 頭の中に 次から次へと投影してみるのだが、
ぴったりと当てはまる感じがしない。
「里美、私どこかであれに似たやつを見たことが‥‥‥」
芙佐子は しばらくじっと考えて、
そして ぱっと顔を明るくさせて言った。
「そや、野毛山動物園のサルや。ほら、二人で見たやんか。
ドゥ‥‥なんやったっけな、ドゥ‥‥ドゥクラングールや
ドゥクラングールの赤ちゃんや。」
「‥‥‥‥‥。」
「ちょっとマニアックやったかいな?氈B」
その時、それが 想像を絶するような高い声で ニャーニャーと鳴いた。
「‥‥‥猫? えっ? 猫なん? へえー。」
その子猫は、今度は突然 ウニャニャ ウキウキ カカカと、
不可解な声を発しながら、細いつめで 網戸をバリバリいわせながら、
もう30cm程上まで よじ登ると、その辺にとまっていた虫を はたき落とした。
「‥‥そやな、姉さん、どうも猫みたいやな?氈B」
「里美、あんな目がつぶれてるちゅうことは、風邪かなんか ひいてんのと
 ちゃう?」
「姉さん、あかんで。いうとくけど、サルベージはごめんやで。
うちには元サルベージ猫が3匹もおるんやから、これ以上はもう 無理
や。 絶対、目なんかあわしたりしなや!姉さんの悪い癖やで。
ほら 仕事の用意しよ。時間や。」
「目をあわすな て そんな、怖いお兄さんにいうみたいな事、言わんでも
‥‥」
小学校の終業のベルが、風に乗って部屋の中に入ってきた。
郵便屋さんの バイクが 窓の向こうを通りすぎた。
「里美?B‥‥‥ あの?」‥‥」
「どないしたん、姉さん。」
「あの?」‥‥目を‥‥目を‥‥あわしてしもた!」
(5/15)

鬱蒼とした森を歩いている。
ものすごく風が強いのだけれど
まったく音がしない。
からだは冷えきっているのに
皮膚だけがチーッと熱い。
木々の間から かすかに光のさすあたりは
静かに色鮮やかに晴れわたっているが
私のまわりは 風と青と灰色だ。
その境界すらもない。

鬱蒼とした森を歩いている。
いや 歩いているのか、走っているのか
わからない。
宙に浮いているような気がしないでもない。
というより 私がいる場所は
本当はここではないような気もする。
でも はっきりと私は前を見つめているのだ

川が見える
あふれんばかりに青く流れていく
まるで 生きてるみたいだ

あっ お休み旅館の番頭さんだ
川の向こうで のぼりを立てて
はよ きなはれ ‥‥ はよ きなはれ ‥‥と
手まねきしてる
最近太ったかな?
手まねきがどんどん早くなる

どこか遠くで 嬌声が聞こえる
私は振り向いた
手をおもいっきりひろげて走ってくる
体中 凍りついた
そいつは ニッと歯を見せて笑った
とがった乳歯だ
私の中で時計の針がものすごい速さで逆回りしている

そうか、あなたは幼稚園の時 さんざんいじめた
せんちゃん ‥‥ 桃組
                          (6/1)
ひざの上の文庫本を 落としそうになって、はっと 目が覚めた。
銀座線の 蛍光灯の灯りが、車内を白っぽく包んでいる。
外は 無味乾燥の 地下鉄構内の壁。 窓に 幾何学模様を 流して走っている。
何か 変な夢を見ていたような 気がするけれど思い出せない。
どこを走っているのだろう。一瞬、灯りが消えて また車内が明るくなった。
駅に到着だ。電話をする。姉の芙佐子さんがでた。
私は、彼女がサルベージしてしまった子猫を、一週間 預かることになったのだ。
そいつが かかっている風邪が たいへん 悪質で、ほかの猫に感染するといけないので
完全に直るまで 誰かに預かってもらうようにと、行きつけの獣医さんに
いわれたのだそうだ。
小川姉妹にはいつもお世話になっているし、それ以上に あの強力な関西弁で
しゃべられると太刀打ちできないのだ。
それにしても、あの清楚な美人姉妹が どうしてあの関西弁なのだろう。
ギャップがすごい。
                          6/10(つづく)
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あとがき(まだ終わってませんが)

始めに写真ありきでして‥‥
写真があまりにもおもしろかったので
次に題名を考えて‥‥(笑う犬の生活さんからもらっちゃったりして‥‥)
扉にしてみたら、自分で作ったのに
10分ぐらい笑えまして‥‥
こりゃあもう、書くしかないなと‥‥
ほかにいっぱい勉強することがあるんじゃないのとか
おしかりも受けてはいるのですが、
まあ こういうのもあってもいいのではないかと‥‥
本当に 全く 遊びだと思ってお付き合い くださればと‥‥
              
                          清水 翠‥‥