NIKON AMUSING LENSES
1998年の正月明けも間もない新橋駅での事である。
まだ正月休みで閉じている店が多いためか、いつもに比べると人影もまばらな改札に4人のオトコが人待ち顔でたたずんでいた。
各々の体格はバラバラだか、共通している点は、全員目立たない黒っぽいジャケットを着て、大振りなショルダーバッグやディパックを背負っており、あたりさわりのない雑談をしながらも油断無く辺りに目を走らせている、という点である。
どうやら、まだ誰かが待ち合わせ時間に現れていないらしい…
やがて、改札口よりアポロキャップを目深にかぶったひときわ人相の悪い男がくわえ煙草をしながらやってきた。
彼が一行の首領とみた。
「あ…どうも…」などどあたりさわりのない事を言いながら、その男はおもむろにかついでいたショルダーバッグをどさりと駅の通路におろした。
新年の挨拶も適当に受け流して、「それじゃ、お渡ししておきましょうかね…」などどいいつつ、エアーキャップにくるまれた金属製の筒を3本、バッグから取り出す。
そのうちの2本はソフトドリンクの缶ほどの大きさしかなかったが、残りの1本は直径5センチ、長さ20センチほどもあった。
いずれも、光線の反射を抑えるためツヤ消しの黒に塗装されている。
「それじゃ、簡単に使い方を…」と言いながら、その男はくわえ煙草のまま無造作に一番長い筒の端を取り外し、向きを反対にして元の筒に取り付ける動作を行った。
どうやらこの筒は入れ子式になっていて、組み立てると元の筒の長さのほぼ倍の長さになるようだ。
その間、この奇妙な物体を引き取る事になる男は、駅の通路にしゃがみながら自分の財布より何枚かの千円札を取り出した…
残った3人のオトコは、この取り引きを遠巻きに素知らぬ振りをよそいながらも、辺りへ鋭い視線を送り続けていた。
私が、Koh氏よりニコン面白レンズ工房一式を手に入れたのはこういったいきさつからだったのです。
こんなところを公安当局の人間に目撃されたら、ロケットランチャーや擲弾頭で武装した集団が、新年早々の銀座で流血の大惨事を引き起こそうとしているのではないか?!と誤解されてもしょうがありませんよね。
さて、こうして手に入れた面白レンズ工房はどんなものでしょうか?
結論から言えば、本当に面白いレンズです。
まず、NIKON AMUSING LENS 20mm F8ですが、今まで28ミリより短いレンズを使った事がない人間にとっては、ファインダー視野に写る景色はまるで別世界です。
見る側からすれば、ウンザリかもしれませんが、魚眼レンズ特有の歪曲した写真を沢山とって遊ばせてもらっています。
厳密に言えば収差やシャープネスなどで問題があるのかもしれませんが、これを使ってでき上った写真のパノラミックな世界に圧倒されてまったく気になりません。
問題はF8固定なので、使える状況が限られてしまうという点です。
NIKON AMUSING LENS 400mm F8は逆に超望遠レンズならではの圧縮効果が楽しめるので気に入っています。
ただ、半逆光くらいの条件からゴーストが出てくるは問題ですね。 F8固定なのと、400ミリという長焦点のためファインダー視野が暗く、手ぶれになりやすいのですが、条件が揃った時はやっぱりよく写ります。
マクロやソフトはまだ使い道が思いつきませんが、いずれ何かでつかってやろうと思います。
ただ、面白がってこればっかり使っていると、なんか感覚が変になって来て、35mmと85mmの画角の違いがよくわからなくなってくるという思わぬ弊害が(^^;… |