1.ニコンF3とは?
「F3」は栄光のF一桁シリーズの3番目として昭和55年3月に登場した。当時のカメラメーカーのフラッグシップ機達は、おしなべて保守的な設計となっており、特に純機械式シャッターを搭載した「F」や「F2」はその最たるものであった。
しかしながら「F3」には、「F」「F2」とうってかわって当時の先進のエレクトロニクス技術が惜しみなく投じられ、メーカー自らが「スーパーニコン」と称したほどである。
- 電子クォーツ制御式シャッターの搭載
- 自動露出の採用
- ピンホールミラーの採用によるTTLボディ測光
以上の点が「F3」に採用された最も画期的な技術であるが、今となってはごく当たり前の技術となっている。また、秀逸なボディデザインも古さを感じさせない要因の一つであり、イタルデザイン工房(※1)に託した日本光学工業(当時)の先見の明をあらわしている。この後、基本的な性能をまったく変えることなく20年も作り続けられるのであるが、競争が激しい日本製工業製品としては驚くべきことである。
※1
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イタルデザイン工房
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20歳代で名だたるカーデザイン工房ベルトーネとギアで活躍したイタリア人工業デザイナー ジョルジェット・ジュージアーロが率いる世界でも屈指の工業デザイン工房。我が国でもニコンのカメラ以外にも自動車、電気製品等のデザイナーとして成功をおさめている。
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2.ニコン「F3T」性能仕様(使用説明書のとおり)
型式 |
35mm一眼レフレックスフォーカルプレーンシャッターカメラ |
使用フィルム |
パトローネ入り35mmフィルム各種 |
画面サイズ |
24mm×36mm |
レンズマウント |
ニコンFマウント |
レンズ絞り連動 |
瞬時復元式、被写界深度観測用絞り込みボタン付き |
シャッター |
チタン幕メタルフォーカルプレーンシャッター |
シャッタースピード |
A(オート): |
1/2000〜8秒 無段階電子制御 |
マニュアル: |
1/2000〜8秒 デジタル電子制御(クォーツコントロール) |
B(バルブ): |
電子制御 |
X(1/80): |
電子制御 |
T(タイム): |
機械制御 |
電池消耗時緊急作動シャッター1/60で作動 |
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ミラー |
クィックリターン式、ミラーアップ可能 |
セルフタイマー |
クォーツ制御10秒、LEDによる作動表示ランプ付 |
巻き上げ |
一作動レバー式(140°)巻き上げ、小刻み巻き上げ可能 |
多重撮影 |
多重露出レバー操作により可能 |
フィルムカウンター |
自動復元順算式 |
シンクロ接点 |
専用アクセサリーシュー(ホットシュー)およびJIS−B型ねじ止め式ソケット付 X接点は1/80秒 |
裏ぶた |
蝶番式、メモホルダー付き、取りはずし可能 |
ファインダー |
アイレベル式ファインダー、交換可能、視野率ほぼ100% |
ファインダー倍率 |
0.75倍(50mm標準レンズ使用で∞のとき) |
ファインダースクリーン |
スプリットマイクロ式(K型)標準装備、他19種のスクリーンと交換可能 |
ファインダー内表示 |
シャッタースピード |
A(オート): |
液晶によるシャッタースピード表示 |
マニュアル: |
設定シャッタースピード表示
M・・・マニュアル使用表示
−+・・・露出過不足表示 |
絞り値(光学直視式) |
レディライト: |
専用スピードライト充電完了/調光範囲外・専用スピードライト用ASA/ISO連動範囲外警告兼用 |
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表示方式 |
TTL中央部重点開放ボディ測光 |
測光範囲 |
ASA/ISO100でF1.4レンズ使用の場合
EV1〜EV18(f1.4で1秒〜f11で1/2000秒) |
受光素子 |
SPD |
フィルム感度
(ASA/ISO)セット範囲 |
ASA/ISO12〜6400 |
露出補正目盛 |
+2EV〜−2EV ASA/ISO12で+1EV、ASA/ISO6400で−1EVまで |
メモリーロック |
メモリーロックボタンにより操作 |
イルミネーター |
イルミネーターボタンにより操作 |
電池チェック |
ファインダー内液晶表示により確認(表示限界電圧2.45V) |
電源スイッチ |
レリーズロックレバーを解除位置にセット
シャッターボタン半押しで測光回路スイッチON |
使用電池 |
1.55V銀電池(SR44タイプ)2個
1.5Vアルカリマンガン乾電池(LR44タイプ)2個
3Vリチウム−二酸化マンガン電池(CR−1/3Nタイプ)1個のいずれかを使用 |
大きさ |
約148.5mm(幅)×101.5mm(高さ)×69mm(奥行)
(ボディおよびファインダー) |
重量 |
740g(ボディおよびファインダー) |
左はスタンダード「F3HP」と同じ使用説明書、右は「F3/T」用の説明書
「F3/T」用の説明書の記載文
(画像をクリックすると拡大画像が表示されます。)
3.チタンボディとは?
「F3」のチタン(※2)ボディは、「F3」から発表後2年経った昭和57年3月に登場した。初期にはこのチタンカラーが発売され、昭和60年からはブラック塗装のチタンボディに切り替わり、平成12年に生産終了となった。
裏蓋もチタン製でチタン色になっている。
世界を代表する冒険家、植村直己(※3)氏が昭和57年の南極点単独旅行の記録用カメラに選んだ「F3チタン/ウエムラスペシャル」(※4)の外装のみをF3hpにまとわせて、一般向けに市販したのが「F3/T」である。
この「F3/T」はチタンの甲冑で被われたそうとうタフなボディなのである。
※2
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チタン
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原子番号:
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22
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記号:
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Ti(Titanium)
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特徴:
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空気中で極めて安定し、軽くて強く、しかも耐食性に優れている。無毒で金属アレルギーを起こさない金属である。
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※3
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植村直己
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世界を代表する冒険家。日本人として初めてエベレストに登り、世界で初めて五大陸最高峰を極める。昭和16年兵庫県生まれ、昭和59年2月13日マッキンリーにて消息を絶つ。
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※4
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「F3チタン/ウエムラスペシャル」の改造点
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- 本体はニコンF3アイレベルファインダー
- チタン外装化(チタンカラー)
- フィルムの順巻化(通常の巻き上げとは逆にしている)
- フィルムカウンターの31以降を赤色に着色化
- シャッターボタンにカバー取付
- ボディーの隙間をシーリング化
- 内部のオイル類を耐寒仕様化
- ストラップの金具を外し、糸で縫製
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「F3/T」の特徴的なパッケージング
(HID)
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