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127.天球の回転について 20130330


天球の回転について

 お寺に登る石段の両端にある斜めの石をなんと呼ぶのかわからないが、滑り台のようになっている幅の狭い坂を駆け下りている時に途中でつまづいた。幼稚園児のやりそうなことである。勢いがついたままそのまま前転してゴロゴロと石段のふもとまでゴロゴロと転がっていった。ゴロゴロ。晴れた空の青と石段の灰色が勢いよく交互に現れたのは覚えている。幸いなことに怪我もなくケロリとしていたところ、当然のごとく親からは叱責された。反省してもつまづく前からやり直すことはできないので、反省しても無駄なのになあと思いつつおとなしくしていた。それ以降は階段の脇の坂を駆け下りることはしていない。勢いよく交互に現れる青と灰色。

 一つ間違えれば大怪我どころか命にかかわるところであったが、運がいいことになんということもなかった。「運がいいと思いこんでいたのはいつ頃から?」

 ある時、ふと思いついた。あの時、自分が転倒して空中で回転していたのではなく、私が見た通りに世界が回転していたとしたら……まさしく逆コペルニクス的転回。すなわち回転的スクニルペコ。

 なぜ世界が回転するかというと、私が物理法則のクビキから解き放たれたからであり、なぜ解き放たれ、私を中心に世界が回転するかというと、この世界は私の想像にすぎないからだ。なぜ私の想像により世界が存在するかというと、元居た世界とのつながりが断たれようとしているからで、なぜつながりが切れそうなのかというと、転倒して、今まさに石段に強く頭をぶつけて死亡することが明らかであるからだ。

 という妄想にとらわれて逃げ出す。どこに逃げても目をつぶれば青と灰色が交互に現れる。逃げ続けていたところに彼女が現れる。妄想にとらわれている自分を受け入れ、はげまし、見守ってくれる。妄想は薄れ、彼女は一緒に喜んでくれる。自分は誓う。立ち直り、妄想に逃げずこの現実の中で両足でしっかりと踏み締め生きていくことを。私を見つめている彼女は微笑み、私のの前に凄い勢いで石段が迫ってくる。

「さあ、いきましょう」彼女は幼稚園児の私の手を取って上の方昇っていく。ずいぶん下に見える石段には長い赤い線が石段をどこまでも流れていくのが見える。

「ねえ、どこにいくの?」彼女は僕の顔を見て微笑んだ。

「それは、これからあなたが決めるのよ」


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