内閣総理大臣の公的な資格での靖国神社への参拝等に関する質問主意書

(辻元清美議員提出)


平成十三年六月二十八日提出
質問第一二一号

内閣総理大臣の公的な資格での靖国神社への参拝等に関する質問主意書

提出者  辻元清美  

 以下の事項について質問する。

一 政府は「国民や遺族の多くが、靖国神社を我が国における戦没者追悼の中心的施設であるとし、靖国神社において国を代表する立場にあるものが追悼を行うことを望んでいるという事情を踏まえ」、内閣総理大臣が靖国神社に公的な資格で参拝を行うことが、「憲法第二十条第三項の禁じる国の宗教的活動に当たることはない」としている(質問一五一第五八号土井たか子議員提出「小泉内閣発足にあたって国政の基本政策に関する質問主意書」への政府答弁書、平成十三年五月八日)。一方、一宗教法人である靖国神社において戦没者の追悼を行うべきではないとする国民や遺族も少なくないが、政府が「国民や遺族の多くが、靖国神社を我が国における戦没者追悼の中心的施設であるとし」ているとする根拠はなにか。

二 政府自身も「靖国神社を我が国における戦没者追悼の中心的施設」と位置づけているのか。

三 内閣総理大臣の靖国神社への公的資格での参拝は、昭和六十年八月十五日、当時の中曽根内閣総理大臣によって実施されたのみであり、その後は、我が国国民や遺族の方々の思い及び近隣諸国の国民感情など、諸般の事情を総合的に考慮し、慎重かつ自主的に検討した結果、差し控えられてきたとのことである。現在、小泉総理大臣によって、靖国神社に公的な資格で参拝を行うことが検討されているが、我が国遺族の方々の思い及び近隣諸国の国民感情などにどのような変化があったと判断しているのか。その根拠をお示しいただきたい。

四 「日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)」第十一条により、我が国は極東軍事裁判所の裁判を受諾している。政府として、同裁判の結果A級戦犯とされた者は、戦争責任を有する戦争犯罪人であると考えているか。

五 靖国神社はホームページ等で、極東軍事裁判は国際法違反の不当な裁判であり「日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号)」第十一条の受諾は敗戦国として刑の執行を約束したに過ぎず極東軍事裁判そのものを認めたものではないと主張しているが、この主張に対する政府の認識はどうか。

六 同じく靖国神社は、「A級戦犯などという忌まわしい呼称は、日本の国内法に基づいて生まれた呼称では」なく、「昭和二十八年当時から政府は戦犯者を国内的には犯罪人と認めていない」と主張しているが、事実か。

七 A級戦犯が合祀されている靖国神社を、内閣総理大臣が公的な資格によって参拝することは、結果的に極東軍事裁判によって戦争責任を有するとされた者の名誉回復、ひいては日本軍国主義の名誉回復にもつながると考えられるが、そのような認識はあるか。

八 政府は、米国のアーリントン墓地等の戦没者追悼施設と、靖国神社を同じ性格のものと認識しているのか。戦没者追悼の施設としては一宗教法人たる靖国神社よりも千鳥ケ淵戦没者墓苑の方が適切であり、諸外国の施設との位置づけも近いと考えられるが、どう考えるか。

九 英国エリザベス女王やニクソン米国大統領が訪日の際、当初予定されていた靖国神社参拝をとりやめたのはA級戦犯合祀や政教分離が理由であると聞いているが、それは事実か。事実とすればその理由について政府はどのように把握しているか。

十 これまで日本を国賓として訪問された諸外国代表が靖国神社を参拝した例はあるのか。具体的な事例を示されたい。

十一 小泉内閣総理大臣が靖国神社への公的資格での参拝を表明していることにたいして、近隣諸国から厳しい批判があるが、政府はこれを内政干渉と認識しているのか。

 右質問する。


内閣衆質一五一第一二一号
平成十三年七月十日
答弁第一二一号

内閣総理大臣 小泉純一郎  

  衆議院議長 綿貫民輔 殿

 衆議院議員辻元清美君提出内閣総理大臣の公的な資格での靖国神社への参拝等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員辻元清美君提出内閣総理大臣の公的な資格での靖国神社への参拝等に関する質問に対する答弁書

一について

 御指摘の質問主意書に対する答弁書等において「国民や遺族の多くが、靖国神社を我が国における戦没者追悼の中心的施設であるとし」ていると述べたのは、靖国神社に合祀されている先の大戦による戦没者が極めて多数に上っていること、各界・各層にわたる有識者によって構成された「閣僚の靖国神社参拝問題に関する懇談会」が昭和六十年八月九日に当時の藤波内閣官房長官に対して提出した報告書において「国民や遺族の多くは、戦後四十年に当たる今日まで、靖国神社を、その沿革や規模から見て、依然として我が国における戦没者追悼の中心的施設であるとして」いるとされていること等を踏まえてのものである。

二について

 政府としては、靖国神社を「我が国における戦没者追悼の中心的施設」であると位置付けているわけではない。

三について

 現在、小泉内閣総理大臣において、公的な資格で靖国神社への参拝を行うか否かについて、お尋ねのような点を含め、諸般の事情を総合的に考慮し慎重に検討しているところであると承知している。

四について

 極東国際軍事裁判所において被告人が極東国際軍事裁判所条例第五条第二項(a)に規定する平和に対する罪等を犯したとして有罪判決を受けたことは事実である。そして、政府としては、日本国との平和条約(昭和二十七年条約第五号。以下「平和条約」という。)第十一条により、極東国際軍事裁判所の裁判を受諾している。

五について

 平和条約第十一条は、前段の前半部分において、日本国が極東国際軍事裁判所等の裁判を受諾することを規定しており、これを前提として、その余の部分において、日本国において拘禁されている戦争犯罪人について日本国が刑の執行の任に当たること等を規定しているところである。

六について

 我が国の法律には「A級戦犯」という用語を用いた規定は存在しない。

 なお、昭和二十八年当時、平和条約第十一条による刑の執行及び赦免等に関する法律(昭和二十七年法律第百三号)に基づき、平和条約第十一条による極東国際軍事裁判所及びその他の連合国戦争犯罪法廷が刑を科した者について、その刑の執行が巣鴨刑務所において行われるとともに、当該刑を科せられた者に対する赦免、刑の軽減及び仮出所が行われていた事実はあるが、その刑は、我が国の国内法に基づいて言い渡された刑ではない。

七について

 内閣総理大臣の靖国神社への公的な資格での参拝は、専ら戦没者一般への追悼を目的としてそれにふさわしい方式等で行うものであるから、これを行うことが、御指摘のようないわゆるA級戦犯の名誉回復等につながるものではないと認識している。

八について

 いわゆる戦没者追悼施設には様々なものがあり、これらを一概に比較することは困難である。例えば、お尋ねのアメリカ合衆国(以下「米国」という。)のアーリントン墓地については戦没者等が埋葬された米国政府の施設であると承知しているところ、靖国神社については戦没者等を祭神として祭る宗教法人に属する施設であり、千鳥ヶ淵戦没者墓苑については遺族に引き渡すことができない戦没者の遺骨を納めるための国の施設であると理解しており、これらは同じ性格のものではないと認識している。

 靖国神社及び千鳥ヶ淵戦没者墓苑の性格については、右に述べたとおりであり、いずれもいわゆる戦没者追悼施設として重要なものとされていて、戦没者の追悼を行う上でいずれか一方がより適切なものであるとは言い難いと考えている。

九について

 昭和五十年五月のグレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国エリザベス女王の来日の際に靖国神社参拝が予定されていた事実はない。

 また、米国ニクソン大統領にあっては、米国大統領在任中に訪日している事実はないと承知している。

十について

 昭和三十六年十二月にアルゼンティン共和国フロンディシ大統領が訪問している事例がある。

十一について

 「内政干渉」という用語は必ずしも一義的ではなく、また、お尋ねの批判の個別具体的な内容も明らかではないので、それが「内部干渉」に当たるか否かを一概に述べることは困難であると考えている。


千鳥ケ淵戦没者墓苑の遺骨収容施設の改善に関する質問主意書

(保坂展人議員提出)


平成十三年五月二十八日提出
質問第七五号

千鳥ヶ淵戦没者墓苑の遺骨収容施設の改善に関する質問主意書

提出者  保坂展人  

 五月二十八日、午前十一時より四十五分間、厚生労働省主催による「千鳥ヶ淵戦没者墓苑拝礼式」がとりおこなわれた。「政府が派遣した戦没者遺骨収集団等により、旧ソ連、フィリピン、硫黄島等において収集しました氏名不詳の戦没者の遺骨千四十二柱が同墓苑に納骨されます」と厚生労働省社会・援護局は説明している。モンゴル・ビルマ・タイ・パプアニューギニアから収集された遺骨もここに含まれている。

 六角堂にむけて拝礼を終えた後に、私は思わぬ事実を戦没者遺族から知らされた。実は十年ほど前に、六角堂はすでに遺骨で満杯となっており、その後の遺骨は本年の納骨分も含めて、六角堂の裏の垣根に囲まれたコンクリートの地下収容施設に入れられているということだった。早速、六角堂の裏手にまわると、何人かの遺族の方々が持ち寄った花瓶に生けられた花をその前に添えて、拝礼をする姿があった。

 そこには、厚生労働省が昨年に建てたという看板があった。「納骨堂はこちら側にもございますので、立ち入りは御遠慮願います」というものだ。遺族の方々の話によると、以前はコンクリートが地表に出ているだけで、「浄化槽」のようなものにしか見えず、何も知らない人々がビニールシートをしいて花見をする姿も認められたという。

 雨露をしのぐ屋根もなく、献花台もない。しかも、墓苑のパンフレットにも案内板にもいまだに六角堂以外に納骨施設があることを表示もしていない。驚いて遺族の話を聞く私の傍らに、「まさか、そんなことが」と初めてこの事実を知る遺族の人たちが何人もいた。

 国は、戦没者の慰霊のために最大限の配慮をすることを、ことあるごとに明らかにしているが、今日の遺骨収容施設の現状は早急な改善が必要ではないか。長きにわたって千鳥ヶ淵戦没者墓苑に通い続けてきた戦没者の遺族の方々にとり、国民全体にとっても、放置することの出来ない重大な問題につき国会法所定の期間内に答弁を頂きたい。

一 「こちら側の納骨堂」の正式名称は何と呼ぶのか。

二 「こちら側の納骨堂」に屋根がないのはなぜか。

三 「こちら側の納骨堂」は納骨堂と呼べるような建造物は存在せず、納骨保管施設ではないのか。

四 「こちら側の納骨堂」に拝礼をするための献花台がないのはなぜか。

五 「こちら側の納骨堂」が、墓苑の案内版・パンフレットに掲載されていない理由は何か。

六 「こちら側の納骨堂」に過去十年間、氏名不詳ならぬ身元が判明している遺骨が納骨されていると聞く。その数を明らかにされたい。

七 六角堂要領図には「第一室本土周辺」「第二室満州」「第三室中国」「第四室フィリピン」「第五室東南アジア」「第六室太平洋・ソ連」と六つ地下納骨室の存在が記されている。その表示通りに納骨をしていたのは何時までか。その後には、厳密に区分できずに納骨されていると遺族は指摘するが本当か。また、「こちら側の納骨堂」の方は方面別の区分はされているか。

八 政府は六角堂と「こちら側の納骨堂」は一体の施設だと説明を求める遺族に対して答えているが、道で隔てられて雨露をしのぐ屋根もないコンクリートの地下施設を目のあたりにして、遺族感情をふまえ適切な主張と言い切れるか。

九 六角堂を拝礼しても、その奥にひそかにある「こちら側の納骨堂」を拝礼したことにはならない。肉親の遺骨が「こちら側の納骨堂」にあるなら、そこに献花して拝礼したいという遺族の訴えにどう答えるか。

十 千鳥ヶ淵戦没者墓苑にまつわる以上の経過を国民の前に公表し、遺骨収容施設の現状の改善など、改めるべきところは改める決意はあるか。

 右質問する。


内閣衆質一五一第七五号
平成十三年六月十二日
答弁第七五号

内閣総理大臣 小泉純一郎  

  衆議院議長 綿貫民輔 殿

衆議院議員保坂展人君提出千鳥ヶ淵戦没者墓苑の遺骨収容施設の改善に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員保坂展人君提出千鳥ヶ淵戦没者墓苑の遺骨収容施設の改善に関する質問に対する答弁書

一について

 千鳥ヶ淵戦没者墓苑(以下「墓苑」という。)内において平成二年度及び平成十一年度に増設した御指摘の「こちら側の納骨堂」(以下「増設納骨室」という。)は、墓苑内のいわゆる六角堂(以下「六角堂」という。)と一体のものであり、増設納骨室に固有の呼称はない。

 なお、六角堂の地下の納骨室についても、固有の呼称はない。

二及び三について

 増設納骨室は六角堂と一体の施設であると位置付けており、両者の一体感を保つために、増設納骨室の上には特別の建築物は設けなかったところである。

四について

 墓苑における拝礼及び献花については、墓苑の全遺骨を代表する遺骨が納められている六角堂中央の陶棺に対して行われてきており、六角堂と一体のものである増設納骨室に拝礼及び献花を行うための献花台は設けていない。

五について

 増設納骨室については、六角堂と一体のものとして増設したものであることから、墓苑全体の案内板及びパンフレットには特記しなかったものである。なお、平成十二年十月には、遺族や住民が誤って立ち入らないよう、増設納骨室の前に表示板を設置したところである。

六について

 平成七年度以降増設納骨室に納骨された遺骨のうち、身元は判明したが遺族による引取りがないものとして把握しているものは、三十九柱である。

七について

 六角堂の地下の納骨室は、先の大戦における主要な戦域に応じて六室に分かれているところであり、竣工当時は各戦域の遺骨収集において収集した遺骨の一部のみを当該戦域における戦没者の遺骨の象徴として我が国まで送還することとしていたことから、これらの送還された遺骨を戦域ごとに区分して納骨していた。しかしながら、昭和四十二年度以降は収集した遺骨はすべて我が国まで送還することとしたため、送還される遺骨が増加し、当該納骨室が手狭になったことから、昭和五十年代以降は戦域ごとに区分した納骨は行っていない。また、増設納骨室においても、戦域ごとに区分した納骨は行っていない。

八について

 増設納骨室と六角堂との一体感を保つために、増設納骨室の上には特別の建築物は設けなかったところである。一方で、遺族等の間に施設の改善に関する要望もあることは承知しており、現在、厚生労働省と環境省との間で協議を行っているところである。

九について

 墓苑における拝礼及び献花については、墓苑の全遺骨を代表する遺骨が納められている六角堂中央の陶棺に対して行われてきている。一方で、遺族等の間に御指摘のような要望もあることは承知しており、現在、厚生労働省と環境省との間で協議を行っているところである。

十について

 現在、厚生労働省と環境省との間で遺族等の要望も踏まえた協議を行っているところであるが、当面、墓苑における表示を現状に適合した分かりやすいものに改めるとともに、今後の墓苑の構造等については、関係者を交えて検討を行ってまいりたい。


小泉内閣発足にあたって国政の基本問題に関する質問主意書

(土井たか子議員提出)


平成十三年四月二十七日提出
質問第五八号

小泉内閣発足にあたって国政の基本政策に関する質問主意書

提出者  土井たか子  

 小泉内閣発足にあたって国政の基本政策にたいする総理大臣ご自身の認識を知るため、次の問題を質したい。いずれも内閣総理大臣就任の前にも、自民党総裁選挙ならびに総裁就任時の記者会見での発言をめぐって疑義のある問題点であり、国政の基本問題として看過できない。

 したがって、次の事項について質問する。

一 小泉氏は集団的自衛権について、憲法解釈を変更して、その行使を認めることを検討すべきだとしているが、いままでの政府の見解はどうか。また、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を認めることは許されるのかどうか。あらためて小泉内閣の統一見解を問う。

二 小泉氏は自衛隊を軍隊と位置付けるべきだとしているが、政府としてかつて、自衛隊を軍隊と位置付けたことがあるのか、現行憲法の下で、軍隊と位置付けることは可能なのか。

三 内閣総理大臣が靖国神社に参拝することについては、憲法違反であるという指摘があるが、政府としてどのような憲法解釈をしているか。歴代総理のなかで一度参拝をした後、取りやめるに到ったすべての事例とその経緯を明らかにされたい。

 右質問する。


内閣衆質一五一第五八号
平成十三年五月八日

内閣総理大臣 小泉純一郎  

  衆議院議長 綿貫民輔 殿

衆議院議員土井たか子君提出小泉内閣発足にあたって国政の基本政策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員土井たか子君提出小泉内閣発足にあたって国政の基本政策に関する質問に対する答弁書

一について

 政府は、従来から、我が国が国際法上集団的自衛権を有していることは、主権国家である以上当然であるが、憲法第九条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものであると解しており、集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されないと考えてきている。

 憲法は我が国の法秩序の根幹であり、特に憲法第九条については過去五十年余にわたる国会での議論の積み重ねがあるので、その解釈の変更については十分に慎重でなければならないと考える。

 他方、憲法に関する問題について、世の中の変化も踏まえつつ、幅広い議論が行われることは重要であり、集団的自衛権の問題について、様々な角度から研究してもいいのではないかと考えている。

二について

 自衛隊が軍隊であるかどうかは、軍隊の定義いかんに帰する問題である。しかしながら、自衛隊は、外国による侵略に対し、我が国を防衛する任務を有するものであるが、憲法上自衛のための必要最小限度を超える実力を保持し得ない等の制約を課せられており、通常の観念で考えられる軍隊とは異なるものと考えている。

 政府としては、このような見解を従来から採ってきているところであり、現在においても変わりはない。

三について

 内閣総理大臣の靖国神社への公式参拝(内閣総理大臣が公的な資格で行う靖国神社への参拝をいう。)は、国民や遺族の多くが、靖国神社を我が国における戦没者追悼の中心的施設であるとし、靖国神社において国を代表する立場にあるものが追悼を行うことを望んでいるという事情を踏まえて、専ら戦没者の追悼という宗教とは関係のない目的で行うものであり、かつ、その際、追悼を目的とする参拝であることを公にするとともに、神道儀式によることなく追悼行為としてふさわしい方式によって追悼の意を表することによって、宗教上の目的によるものでないことが外観上も明らかである場合には、憲法第二十条第三項の禁じる国の宗教的活動に当たることはないと考える。

 また、内閣総理大臣の地位にある者についても、私人として憲法上信教の自由が保障されていることは言うまでもないから、私人の立場で靖国神社に参拝することは同項との関係で問題を生じることはないと考える。

 内閣総理大臣の靖国神社への公式参拝は、昭和六十年八月十五日、当時の中曽根内閣総理大臣によって実施されたのみであり、その後は、我が国国民や遺族の方々の思い及び近隣諸国の国民感情など、諸般の事情を総合的に考慮し、慎重かつ自主的に検討した結果、差し控えられているが、公式参拝は制度化されたものではないので、今後とも、その都度、実施すべきか否かを判断すべきものと考える。

 また、私人の立場で行われる内閣総理大臣の靖国神社への参拝については、個人の信教の自由に関する問題であり、政府として立ち入るべきものではないと考える。