在日米軍による低空飛行訓練に関する質問主意書
(濱田健一議員提出)


平成一一年七月一三日提出

在日米軍による低空飛行訓練に関する質問主意書

                                  提出者   濱田 健一

 在日米軍による低空飛行訓練は、全国各地において継続され、地域住民が轟音被害や墜落の恐怖を日々体験している現状にあり、国民の安全と生活を守るためにも、その対策は、緊急を要すると考える。

 従って、次の事項について質問する。

一  一九九九年一月十四日付けで外務省が公表した「在日米軍による低空飛行訓練について」と題した日米合同委員会合意に関連して

 1 なぜ、この時期にこのような合意に達したのか

   米軍機による低空飛行訓練について、日米両政府が合意した文書を公表したのは、初めてのことと認識するが、そのように捉えていいか。従来、外務省は、低空飛行訓練については、「通常の訓練をするのは当たり前」「地位協定五条に定められた基地間の移動にあたる」などと明確にその存在を位置づけることを避け続けてきたはずだが、ここに来て、低空飛行訓練の存在を認め、かつそれが「米軍の不可欠の訓練所要を構成する」ことを容認したことはなぜなのか。

 2 低空飛行訓練の定義はどういうことか

   どのような訓練のことを低空飛行訓練というのか、その定義を明確にせよ。

   例えば、中国山地沿いの地域では、ダムや山の周辺で、旋回したり、谷間をぬって飛んだり、ダムの堰堤をめがけて急降下したりという飛行が確認されている。また、町役場や学校などのある谷間を、かなり低空で飛びさっていくということが、多くの町で確認されている。これらの両方とも低空飛行訓練なのか。

 3 訓練ルート図や開設の時期などの公表

   早明浦ダム事故報告書からは日本列島に八本の低空飛行訓練ルートがあるとみられるが、そのルート図、及び開設の時期などについて、日米合同委員会として確認しているのか。海上などに設定されている訓練空域と同じように、低空飛行訓練空域も、正式に位置づけて、地図上に明記したということか。

   低空飛行訓練ルートは、日米地位協定に基づいて設置されたものでなく、米軍が自らの意志で地図上に線を引いたものと認識しているが、もし、確認しているのであれば、地位協定に明確に位置づけたということか。いずれにしろルート図や訓練所要を公表すべきではないのか。

 4 一月十四日付けの合意事項は、これまでも米国軍によってこのように行われてきたものなのか

   今後この合意に基づいて実施していくというものなのかどうかを、各項目ごとに明確にせよ。

 5 合意項目1は、これまでは考慮されていなかったということか

   合意項目1は、これまでは考慮していなかったが、今後は考慮するということか。例えば、これまで島根県石見空港の上空を岩国所属機が何回も旋回したりすることが目撃されている。また、町の上空を通過する際は、役場、学校、保育所の上空を飛んだり、そこで急に旋回し、逆に向いて飛んだなどの話がたくさんある。これらは、過去のことで、今後は、同様のことは行われないということなのか、それとも、過去においても注意していたが、実際には、約束は無視されていたのか。

 6 従前から日本の航空法の基準が守られていたというのは事実か

   合意項目2は、「国際民間航空機関(ICAO)や日本の航空法の基準を用いている」とのことだが、いつ地位協定が変更になったのか。日米地位協定に基づく航空特例法は、国内法である航空法に定められた最低安全高度(八十一条)、粗暴な操縦の禁止(八十五条)などの義務を除外している。従って日本においては、米軍機には、日本の航空法は適用除外であるため、ごく低高度の飛行が行われているのではないかと捉えていたが、その認識は誤りか。

   また、従前から航空法の基準が用いられていたとすれば、事実は全く異なっていることをどうするのかという問題が残る。パイロットの顔が見えたといった体験を話す住民は後を絶たないし、谷間を飛んだり、峠を越えるときなどは、ほとんど陸地すれすれに飛行することが目撃されており、現実は異なっていることを示しているのではないか。

 7 合意発表の直後に、岩国機が土佐沖で、三沢機が釜石で相次いで墜落したことからも、合意の実効性は疑わしいが、この点にどのような方法を講じるのか

   合意項目4では、飛行経路の研究や、整備要員との点検などを十分行うとあるが、合意が出されて一週間も経たないときに、日本列島の南と北で米軍機が相次いで墜落事故を起こしている。二十日には、岩国基地所属のホーネットが土佐湾で、二十一日には、三沢所属のF-16が釜石市の山林で、相次いで落ちている。たまたま住民が巻き込まれていないだけで、国民は不安を抱かざるをえない。これらが、必ずしも低空飛行訓練であったとは限らないが、通常訓練でも、これだけ事故が起きているのだから、低空飛行ではもっと危ないはずではないか。さらに、部品の落下事故などを含めれば、ひっきりなしに事故が起きているといっても過言ではない。合意がどこまで実行されるのかということに疑念を抱かざるをえない所以である。政府として、この合意を実行するために、どのような方法を講じようとしているか。

 8 一月十四日の合意は、どのような位置づけの下に行われたものなのか

   つまり、合意の冒頭で触れているように、何があっても、安保条約の目的を遂行するために、低空飛行訓練は必要不可欠のものであるとの宣言は、変更しないという意思表示なのか。世界的には、ドイツやイタリアのように、米軍機による低空飛行訓練の空域はどんどん減っていっているのが趨勢である。

   関連して、世界的な米軍機による低空飛行訓練の実態を政府としてどのように把握しているか。現在、ほとんど唯一残っているのが、日本列島なのではないか。そのような文脈を考慮するとき、最終的には日本における低空飛行はなくなる方向性を持ちつつ、暫定的に、その安全性への配慮を求めるというものでなければならないと考える。政府が、本合意を公表した意図は、それとは全く逆に向いているものと解釈していいのか。つまり、安全性への配慮を強化することを条件として、低空飛行訓練自体は、正式に容認したものとして、本合意があるのか。

 すべての質問に速やかに答えられることを切望する。

 右質問する。


内閣衆質一四五第三八号
平成十一年 八月十三日

                                 内閣総理大臣 小渕恵三  

衆議院議長 伊藤宗一郎 殿

 衆議院議員 濱田健一君 提出

 在日米軍による低空飛行訓練に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。

衆議院議員濱田健一君提出在日米軍による低空飛行訓練に関する質問に対する答弁書

一の1及び8について

 政府は、昨年五月から、米軍が我が国において実施している低空飛行訓練に関し、その安全性確保と地元住民への影響軽減のための具体的措置について米側と協議を行ってきた。その後、本年一月十四日に行われた高村外務大臣とコーエン国防長官との会談において、低空飛行別棟の安全性確保と住民への影響軽減のための具体的措置につき意見の一致をみたのを受け、同日午後、日米合同委員会の手続を経て、具体的措置を盛り込んだ文書(以下「本件文書」という。)が公表された。これは、米軍の低空飛行訓練の安全性確保と住民への影響軽減のための具体的措置を取りまとめ、日米間で文書によって確認した初めてのものである。

 一般的に、米軍が訓練を通じてパイロットの技能の維持及び向上を図ることは、即応態勢という軍隊の機能を維持する上で不可欠の要素であり、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和三十五年条約第六号。以下「日米安保条約」という。)の目的達成のために極めて重要である。日米安保条約が、我が国の安全並びに極東の平和及び安全の維持に寄与するため、米軍の我が国への駐留を認めていることは、別段の定めがある場合を除き、米軍がかかる目的の達成のため、低空飛行等の飛行訓練を含め軍隊としての機能に属する諸活動を一般的に行うことを当然の前提としていると解され、政府は従来からこのように答弁してきているところである。

 一方、米軍は全く自由に飛行訓練等を行ってよいわけではなく、我が国の公共の安全に妥当な考慮を払って活動すペきものであることはいうまでもない。政府としても、従来から、日米合同委員会等の場を通じ、米側に対し、安全確保に万全を期するよう申入れを行ってきている。米軍も、この点には十分に留意しており、低空飛行訓練を行うに際し、最低安全高度に関する法令を含め、我が国法令を尊重し、安全面に最大限の配慮を払うとともに、地域住民に与える影響を最小限にとどめるよう努めている旨明らかにしている。本件文書も、かかる観点から策定されたものであり、米軍機による低空飛行訓練が日米安保条約の目的達成のために不可欠な訓練であるとの前提に立ちつつ、安全性を最大限確保し、かつ、住民への影響を軽減するための具体的措置が盛り込まれている。

 なお、他国における軍隊の飛行訓練の実態につき、確定的に申し上げる立場にはなく、また、事柄の性質上、詳細に立ち入った答弁をすることは適当ではないと考えるが、主要各国における飛行訓練の実態につきこれまでに調査を行った結果を踏まえれば、我が国における米軍の飛行訓練の実態が、これら諸国におけるものと比べ、我が国にとって特段不利な形になっているとは考えていない。

一の2について

 これまで米側から受けている説明によれば、いわゆる低空飛行訓練とは、敵による探知及び攻撃を避けるため、低高度で飛行する訓練を指すものと承知している。

 御指摘の飛行事例については、具体的日時、場所等を含め詳細が明らかでないため、答弁は差し控えたい。

一の3について

 米軍の飛行ルートについては、米軍が飛行訓練の目的達成、飛行の安全確保、住民への影響抑制等の必要性を安定的に満たすとの観点から、一定の飛行経路を念頭において飛行することがあること、及び最大限の安全を確保するため、米軍は、低空飛行訓練を実施する区域を継続的に見直していることは承知しているが、具体的なルートの詳細等については、日米合同委員会の場においても確認しておらず、承知していない。具体的ルートの詳細等は、米軍の運用にかかわる問題であり、これらを明らかにするよう米側に求める考えはない。

一の4及び5について

 米軍の低空飛行訓練については、政府としても、従来から、日米合同委員会等の場を通じ、米側に対し安全確保に万全を期するよう申入れを行ってきたところであり、米側も安全面に最大限の配慮を払うとともに地域住民に与える影響を最小限にとどめるよう努めている旨明らかにしている。

 本件文書に示された各項目は、従来から米側が示してきた基本的考えに立ちつつ、低空飛行訓練の安全性確保と住民への影響軽減のための具体的措置を取りまとめ、日米間で文書によって確認したものである

 なお、御指摘の飛行事例については、具体的日時、場所等を含め詳細が明らかでないため、答弁は差し控えたい。

一の6について

 米軍に対しては、日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律(昭和二十七年法律第二百三十二号)により、航空法(昭和二十七年法律第二百三十一号)の一部規定の適用が除外されており、同法及び同法に基づく航空法施行規則(昭和二十七年運輸省令第五十六号)に規定されている国際民間航空条約(昭和二十八年条約第二十一号)附属書の基準に基づく最低安全高度についても同様である。

 しかしながら、米軍は、低空飛行訓練を行うに際し、最低安全高度に関する法令を含め、我が国法令を尊重し、安全面に最大限の配慮を払うとともに、地域住民に与える影響を最小限にとどめるよう努めている旨、累次の機会に明らかにしている。この点については、昨年四月に米軍が公表した低空飛行訓練に関する記者発表文においても、「在日米軍は、最低飛行高度に関する規則(人口密集地三百メートル、その他の地域百五十メートル)等、日本の航空法令に自発的に従っている。」と述べている。

 本件文書も、このように従来から米側が示してきた基本的考えに立ちつつ、低空飛行訓練の安全性確保と住民への影響軽減のための具体的措置を収りまとめ、日米間で文書によって確認したものであり、その中で、最低飛行高度については、「在日米軍は、国際民間航空機関(ICAO)や日本の航空法により規定される最低高度基準を用いており、低空飛行訓練を実施する際、同一の米軍飛行高度規制を現在適用している。」と明記されている。

 なお、御指摘の飛行事例については、具体的日時、場所等を含め詳細が明らかでないため、答弁は差し控えたい。

一の7について

 本年一月二十日に高知県沖において及び同月二十一日に岩手県山中において、米軍機の墜落事故が二日連続して発生したことは、極めて遺憾なことである。

 政府としては、二十一日の岩手県山中における事故を確認直後、直ちに、外務省北米局長から在京米国大使館筆頭公使に対し、二日続けての米軍の航空機墜落事故の発生に関して強い遺憾の意を表明するとともに、徹底した墜落原因の究明、日本側への説明及び事故の発生防止に全力を尽くすことを強く申し入れ、また、本年一月二十八日の日米合同委員会においても、改めて同様の申し入れを行った。これに対し、米側からは、これら事故の発生は大変遺憾である旨の表明があり、再発防止に全力を尽くすとともに、事故原因を調査し結果を日本側に伝達する旨の回答があった。その後、米側からは、本年五月二十七日に岩手県山中の墜落事故に関する事故報告書が公表されている。高知県沖の墜落事故についても、引き続き事故報告書の早期提出を求めていく考えである。

 他方、本件文書は、低空飛行訓練の安全性確保及び住民への影響軽減のための種々の具体的方策につき、昨年五月から日米合同委員会の下で鋭意協議を行い、その内容につき、閣僚間で一致をみたことを受け、合同委員会の手続を経て公表することとしたものであり、日米双方の閣僚が確認している十分な重みを有するものである。

 また、もとより、米軍機のみならず、すべての航空機に関し、安全性に万全を期するためには、当該航空機の管理、運用及び操縦についてこれに関与する組織及び個人が十分な配慮を行うことが決定的に重要であることはいうまでもない。これまでの日米間の協議を通じて、米側においては、低空飛行訓練の実施に際し、日米安保条約の目的達成のための即応態勢維持を図りつつ、安全性確保及び住民への影響軽減に努めていきたい旨を繰り返し表明しており、今後とも米側において十分な努力が行われるものと考えている。

 さらに、今後とも、必要に応じ、日米間で低空飛行訓練について協議していくこととなっている。