核軍縮関係文書(その他団体)


1981年12月15日 

今こそ平和を求めなければならない
核兵器と戦争防止を訴える科学者の声明

 最近の世界の動きは核時代における人類が重大な危機に直面していることをかんじさせる。去る六月に開かれた第四回科学者教頭会議は核兵器の廃絶を訴え、とくに日本政府が核による抑止政策から脱却して非核三原則を堅守し、核軍縮のために世界にむけて積極的な提案を行うよう要請した。以下に名を連ねる私たちの考えと決意を述べ、これが広く社会の各層によって検討され支持されることを願うものである。

 1955年7月、ラッセルとアインシュタインら11名の科学者が、強大な破壊力をもつ熱核兵器の出現によって生じた事態を重視し、人類が絶滅か戦争放棄かのきびしい選択を迫られていることを強く訴えてから既に四半世紀を経た。この間にも核軍備の拡大、核兵器体系の多様化はとどまるところを知らず、その量は人類を繰り返し消滅させうるまでになり、またその精度の著しい向上は核兵器の先制的使用を動機づける条件を生みだしている。1978年の国連軍縮特別総会の最終文書も「人類は今日前例のない自滅の脅威に直面している。」として当面の深刻な危機を憂慮している。

 このような状況は核兵器の脅威によって戦争を抑止できるとする「核抑止戦略」が虚妄であるばかででなく相対峙する双方を果てしない核軍備競争に駆りたてる不安定かつ危険な戦略であることを示している。最近とりわけ欧州において重大な関心をよんでいるいわゆる「戦域核兵器」の配備と「限定戦争」戦略の展開は、核兵器を実際に使用する危険性を増大し、全面核戦争への道をひらくものである。

 このような核戦略体制にくみこまれた「防衛」が国民の声明・財産や国土の保全を意味するものでないことは明らかである。また、核戦力に依拠する「力の政策」は巨額の軍事費のために国民の生活や福祉を圧迫し、言論・思想・表現の自由に対する統制と制限をともないつつ、国民の眼から危機の実態をおおいかくし、文化的荒廃をすらひき起こす。そして民主主義が危うくされるなかで、少数者の手によって国民の運命を左右する危険な意思決定がなされる道を歩みかねないことは歴史の示すところである。

 私たちは、わが国の憲法がその前文において「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないよう」、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と述べていることを改めて想起したい。それはすぐれた先見性と合理性をもって、核時代の今日の危機にあたって人類の進むべき道を示しているといえよう。わが国が人類にとって最初の核兵器の惨禍を経験した国であることとわが国の今日の国際的地位とを考えるとき、わが国こそ率先して核兵器の廃絶を武力によらない新しい世界の安全保障の確立に向けて強く世界に呼びかけるにふさわしい立場にあると私たちは考える。

 私たちは、わが国の政府が今日の核戦争の危機の実態を直視し、「核抑止戦略」と「核の傘」を肯定する立場から速やかに脱却し、次の諸点の実現のために真剣に取り組むよう強く求めるものである。

(1)核兵器の廃絶と全般的軍縮の実現をめざし、「力の政策」による軍事ブロックの解消をふくめて有効な国際的取り決めが行なわれるよう努力すること。とくに明年開催される第二次国連軍縮特別総会はそのための重要な機会である。
 わが国に関しては、まず「非核三原則」を遵守・徹底するための具体的措置をとるとともに、それに基づいて日本を含む非核武装地帯の設置、核保有国との間の核兵器不使用協定等の実現に努力すること。

(2)軍備に費やされる資源の平和目的への転換に努力すること。
 周知のように現在世界の軍事支出は年間五千億ドルを超えている。他方世界の広範な地域と世界人口の大きな部分が飢餓と貧困・病魔のはびこるままにおかれている。世界の軍事支出を減らし、これをこれらの地域、人々のへの援助に振り向けることは、それが真に人間的目的をもつ国際協力によって遂行される限り、国際的緊張をやわらげ、戦争を回避する有効な手段となろう。この立場からわが国が率先して「平和のための基金」を設定し、これらの事業にあてること、またその一部として世界平和の維持とそれを可能にする機構についての内外の研究を促進・助成することは極めて有意義である。

 私たちは科学の研究と教育にたずさわるものとして、科学が反人類的・反人間的目的に利用されることを黙視しえない。私たちは核兵器の廃絶と全般的軍縮の達成を願い、今日の危険な力の政策に反対し、人類自滅への動きを押し止めて戦争のない世界秩序と人間の生きるにふさわしい新しい世界の実現をめざし、今こそ多くの科学者が広汎な人々とともに考え行動するよう訴える。

核兵器廃絶と戦争防止を訴える科学者会議


1982年1月20日

核戦争の危機を訴える文学者の声明

 地球上には現在、全生物をくりかえし何度も殺戮するに足る核兵器が蓄えられています。ひとたび核戦争が起これば、それはもはや一国、一地域、一大陸の破壊にとどまらず地球そのもの破滅を意味します。にもかかわらず、最近、中性子爆弾、新型ロケット、巡航ミサイルなどの開発によって、限定核戦争は可能であるという恐るべき考えが公然と発表され、実行されようとしています。

 私たちはかかる考えと動きに反対する。核兵器による限定戦争などはありえないのです。核兵器がひとたび使用されれば、それはただちにエスカレートして全面核戦争に発展し、全世界を破滅せしめるにいたることはあまりにも明らかです。

 人類の生存のために、私たちはここに、すべての国家、人類、社会体制の違い、あらゆる思想信条の相違をこえて、核兵器の廃絶をめざし、この新たな軍拡競争をただちに中止せよ、と各国の指導者、責任者に求める。同時に、非核三原則の厳守を日本政府に要求する。「ヒロシマ」、「ナガサキ」を体験した私たちは、地球がふたたび新たな、しかも最後の核戦争の戦場となることを防ぐために全力をつくすことが人類への義務と考えるものです。私たちはこの地球上のすべての人々にむかって、ただちに平和のために行動するよう訴えます。決して断念することなく、いっそう力をこめて。

「核戦争の危機を訴える文学者の声明」世話人一同

井伏鱒二、井上清、井上ひさし、生島治郎、巌谷大四、尾崎一雄、大江健三郎、小野十三郎、小田切秀雄、小田実、木下順二、栗原貞子、古浦千穂子、小中陽太郎、草野心平、黒古一夫、住井すゑ、高橋健二、高野庸一、夏堀正元、中里喜昭、中野孝次、中村武志、南坊義道、西田勝、埴谷雄高、林京子、藤枝静男、堀田善衛、本多秋五、星野光徳、真継伸彦、三好徹、安岡章太郎、吉行淳之介、伊藤成彦


1982年1月31日 

核兵器全面廃絶と戦争防止を訴える美術家の声明

 人間社会における真に人間的文化の発展が平和を基底としないかぎり、望みえないことであることを、私たち美術家は創作活動を通じて強く身に感じている。自由で豊かな人間性の発露の上にはじめて人間の幸福の道がひらかれるのであり、それこそ真に人間が人間らしく生きるにふさわしい文化というべきである。私たちの戦争体験はそれを歴史的に証明するものであり、戦争のない世界秩序と人間の生きるにふさわしい、新しい世界の実現をめざすことにつながっている。

 しかるに地球の歴史において今日ほど人類が重大な危機に直面していることはかつてない。それは核戦争による破滅の脅威である。

 私たち日本国民は第二次世界大戦において世界最初にして唯一の核の被害を受けた。以来三十有余年、この間軍備の拡大、核兵器体系の多様化は進み、その結果人類自滅の危機を憂慮せざるをえない状況となった。

 特に米ソを中心とする二つの軍事ブロックの果てしない核軍備競争は、その量の膨大さと精度の向上を生みだし、その脅威は今日その深刻さを増した。「核抑止戦略」が相対峙する双方の不安定かつ危険な戦略であったことの結果といえよう。とりわけ、レーガン米大統領の中性子爆弾製造宣言以来、「戦域核兵器」の配備と「限定核戦争」戦略の展開は、核兵器を実際に使用する危険性を増大させた。

 現在このような事実はヨーロッパ諸国民に重大な関心を呼び起こしたばかりでなく、日本とアジアの諸国民を、新しい核戦争の危険に巻き込みつつあることを疑いの余地なく示している。

 このような状況下にあって、昨年十二月二十八日、五十七年度予算の政府案が臨時閣議で決まり、その軍事費の大巾突出は私たちの不安を一層つのらせることとなった。このような核戦略体制にくみこまれた「防衛」が、日本国民の安全保障の確立に背を向けていることは明らかである。またそればかりではなく、同十二月の国連総会での核軍縮に関する諸決議にあたって、日本政府が「核兵器の不使用」「核兵器の配備禁止」「中性子爆弾の禁止」決議に反対したことは、唯一の被爆国の政府として、まったく理解しがたい行為である。

 私たちはかつての戦争に於て悲惨な生活を体験し、言論、思想、表現の自由が圧殺されたことを忘れることはできない。私たち美術家は、平和こそ表現の自由を守り文化的向上を保障するものであるということを確信している。そして核時代の今日の危機にあたって核兵器の廃絶と武力によらない世界の安全保障の確立こそ、人類の進むべき道であることを確信している。

 よって私たちは、人類の生存を守り、人類絶滅の危機を避けるため、今日の核戦争の危険な実態を直視し、次のことを強く訴えるものである。

(1)「非核三原則」は日本国民の願いであり、それを徹底するためにその法制化を強く求める。

(2)反人類的、反人間的な核兵器の全面廃絶をめざし、「力の政策」による軍事ブロックの解消を強く求める。

表現の自由を守る美術家の会

代表呼びかけ人(五十音順)

畦地梅太郎、糸園和三郎、井上長三郎、板橋義夫、小野忠重、大野五郎、木内広、小島功、小松益喜、白土三平、高田博厚、田中忠雄、建畠覚造、滝平二郎、手塚治虫、寺田政明、鳥居敏文、中村善策、中谷泰、永井潔、西常雄、福田新生、まつやまふみを、向井潤吉、村田勝四郎、吉井忠


1982年2月12日

新劇人会議からのメッセージ

 私たち新劇人会議は、きょうここに開かれる「三・一ビキニデー全国集会」の成功のため、労苦を尽くされた原水爆禁止八二世界大会準備会と三・一ビキニデー静岡県実行委員会の方々に敬意を表すとともに、お集まりの皆様方に、心からの連帯のあいさつを送ります。私たち新劇人会議は、去る二月一二日、米ソ二大国の軍拡競争により、全世界が核戦争の危機にさらされ、人類の破滅をまねこうとしている今こそ、平和を訴え、真の文化・芸術を発展させるべき時であると、次のようなよびかけのアピールを発表しました。

「ゆたかな演劇と文化、そして平和な生活を守り、発展させるために、私たちは、あらゆる核兵器の廃絶を呼びかけます。
 日本が、侵略戦争に突入した不幸な時期から敗戦に到るまで、私たちは多くのすぐれた先輩、仲間をたちを失いました。中国大陸では友田恭助氏を、広島では丸山定夫氏と「桜隊」のメンバーたちを、こともあろうに原爆で失ってしまったのです。こうした仲間たちばかりではありません。この十五年戦争を通じて、どんなに多くの協力者−観客たちを、私たちは失ってしまったことでしょう。劇団は解散させられ、創造活動は停止させられてしまいました。
 新劇人たちは、戦争こそ、国民の生活を破壊し、文化・芸術のゆたかな実りを破滅させる最大の暴力であることを、身にしみて感じています。だからこそ「新劇人会議」は、日本が特定の軍事ブロックに属することに反対して、「日米安保条約」の廃棄を、二十余年にわたって表明し、そのために行動してきたのです。
 現在、米ソ二大国の、ますますエスカレートして行く軍拡競争の中で、私たちの周囲の海は、米・ソの「動く核基地」となり、「日米軍事同盟」のもと、国内の米軍基地は、まちがいなく核基地となり、アメリカの核戦争準備の、もっとも重要な拠点となる役割を、になわされようとしています。
 今、ヨーロッパの各地で、またアメリカの国内で、こうした軍拡競争に抗議し、中性子爆弾をはじめ、あらゆる核兵器の廃絶と核基地の撤去を求める大きな運動がまき起こっています。核兵器の残酷な被害をよく知っている私たちは、今や声をあげることの出来ない犠牲者たちの願いも含めて、核廃絶のための大きな統一行動を、国民の皆さんに訴えます。
 そして、「非核三原則の完全実施と法制化」、「あ