米国と日本――成熟したパートナーシップに向けて


2000年10月11日 

INSS=Institute for National Strategic Studies,National Defense University (国家戦略研究所、米国国防大学)

この報告書について

●以下の報告書は、日米関係に関する超党派の研究グループによる見解をまとめたものである。政治的な文書ではなく、研究会のメンバーの意見を純粋に反映したものである。当グループが試みたことは、対アジア関係において重要と考えられる事柄に対し、一貫性と戦略性を持たせようとすることである。

●当研究グループの構成メンバーは下記の通りである。

Richard L.Armitage(アーミテージ アソシエイツ)
Dan E.Bob(William V.Roth上院議員事務所)
Kurt M.Campbell(CSIS)
Michael J.Green(CFR)
Kent M.Harrington(ハリントングループ)
Frank Jannuzi(上院外交委員会民主党スタッフ)
James A.Kelly(CSISパシフィックフォーラム)
Edward J.Lincoln(ブルッキングス研究所)
Robert A.Manning(CFR)
Kevin G.Nealer(スコウクロフト・グループ)
Joseph S.Nye(ハーバード大学ケネディスクール)
Torkel L.Patterson(ジオ イン サイト)
James J.Przystup(INSS)
Robin H.Sakoda(サコダ アソシエイツ)
Barbara P.Wanner(フレンチ&カンパニー)
Paul D.Wolfowitz(SAIS)

●この報告書における意見、結論、提言内容は純粋に著者たちのものであり、国防大学や国防省、他のいかなる政府機関やNGOの見解を示すものではない。

●アジアは歴史的変革の陣痛期にあり、米国の政治、安全保障、経済、その他の利益において大きな比重を占めている。世界の人口の53%、経済の25%、そして毎年6000億ドルの対米貿易額を有するアジアは、米国の繁栄にとって必要不可欠な地域である。政治的には、日本、豪州、フィリピン、韓国、台湾、そしてインドネシアなどの国々は、民主的な価値を共有している。中国は社会的、経済的な変化に直面しており、その向かうところは明らかではない。

●少なくとも向こう30年ほどの間、欧州における全面戦争は考えにくいが、アジアにおいて紛争が発生する見通しは否定できない。この地域には世界最大の軍隊、もっとも近代的な軍隊があり、核戦力があり、いくつかの核保有国がある。朝鮮半島および台湾海峡では、現時点において大規模紛争が発生し、米国が直接矢面に立つ可能性がある。インド亜大陸も同様である。いずれの地域においても、戦争は核の連鎖を招きかねない。加えて世界第4の人口を抱えるインドネシアでは騒乱が長引き、東南アジアの安定を脅かしている。米国はこの地域の数か国と同盟関係にあり、事実上の安全保障の設計者となっている。

●将来有望であると同時に、潜在的な危険もあるこの地域において、日米の二国間関係は以前にも増して重要である。世界第2位の経済大国であり、装備された強力な軍備を持ち、われわれの民主的な同盟国である日本は、米国がアジアに関与する際の鍵となっている。日米同盟は米国の世界的な安全保障戦略上の中心である。

●日本もまた重要な変革を体験しつつある。グローバル化に伴い、第二次世界大戦後の社会的、経済は変容のさなかにある。日本が体験している社会、経済、国家のアイデンティティ、そして国際的な役割の変化は、明治維新以来の抜本的なものになる可能性がある。

●この変化が何をもたらすかはまだ明らかではない。西側諸国がかつて、明治維新から誕生した近代国家を過小評価したように、この変化はそれほど劇的なものではないと無視する意見が多い。米国にとっては、21世紀において同盟を維持・発展させることの鍵は、日本において現在進行中の変化の結果を踏まえて、二国間関係を再構築することにある。

●戦後の日本はアジアで前向きな役割を演じてきた。教育程度が高く、活発な有権者を持つ民主国家として、日本は政府の変化が平和裏に可能であることを立証した。日本政府は積極的な外交と経済的な関与により、地域の安定を高め、信頼を醸成することを助けてきた。

●1990年代初めに日本がカンボジアの国連PKOに参加したことや、防衛協力や安保対話、さらにはARF(アセアン地域フォーラム)への参加、そして最近の「ASEAN+3」などは、日本外交が活発化している証である。それ以上に、日本の米国との同盟関係が、地域の安定に果たしている役割は大きい

●我々日米関係にとって重要な6つの要素を検討し、21世紀のための持続的な同盟関係の基盤を作るべく超党派の行動課題としてまとめた。


冷戦後の漂流

●広い意味での西側の一員として、日米両国は冷戦に勝ち抜くため共同歩調を取り、アジアにおいて民主主義と経済的機会の新しい時代を開くよう協力してきた。にもかかわらず、ともに勝利を得た後の日米関係は方向を見失い、焦点と一貫性を失った。これは両国にとって、真の脅威とリスクの可能性をもたらすものであった。

●ソ連封じ込めという戦略的な制約からいったん自由になると、日米双方は二国間同盟の真に現実的で差し迫った必要性を無視してしまった。しっかりした協調や明確な目標設定に代わるものを求め、善意の努力が行われたものの、散漫な議論に終わって共通の目的を明確に定義することはできなかった。国際安全保障という新しいコンセプトの実験は断続的に実施されたが、二国間同盟に代わる確固たる結果は得られなかった。

●両国関係が焦点と粘りを欠いa怩P990年代前半は、とくに日本市場へのアクセスの問題で、二国間の緊張が高まった。日本との経済競争を脅威だと受けとめる米国人もいた。だが過去 5年間で通商摩擦は消え去った。日本経済の強さへの嫉妬と懸念は、不況と金融不安に対する失望に変化した。

●日米いずれもが同盟を再定義し、再活性化する必要を感じていなかった。実際、双方はそれを当然と考えていた。同盟の漂流は、90年代中頃に朝鮮半島危機や沖縄における少女暴行事件が起き、日米双方の政策当事者の耳目を集めるまで、誰の目にも明らかだった。これらの事件が、双方に対して二国間関係を無視するコストを認識させた。96年3月の台湾海峡における緊張は、太平洋における二国間防衛同盟を再確認するはずみをつけた。

●1996年の日米共同宣言は、双方が同盟を磨き直す必要を喚起して、確固たる変化への道を開いた。その結果、日米防衛協力のためのガイドライン見直し、SACO(沖縄地位協定)最終報告、TMD共同研究への合意などに結実した。しかるに96年の共同宣言は孤立したものであり、首脳レベルの注意は持続しなかった。その結果、日米はすぐに小競り合いや貧弱な政策協調に逆戻りした。

●日米関係が荒廃したツケは、見えないところでも進んでいた。90年代の終わりまでに、米国の政策立案者の多くが、自己改革のできない日本への関心を無くしてしまった。実際のところ、長引く不況は日本の政府高官をも意気阻喪させていた。

●ワシントンは傲慢であり、みずからの指図が世界的に適用できるわけではないことを分かっていない、と見ている日本人は多い。少なからぬ政府高官やオピニオンリーダーたちが、米国の手法は自国の商業的、経済的利益を合理化するものであると見て、自己中心的なグローバル化を押し付けることに怒りを覚えている。

●米国の注意と関心がアジアでも他の方面に向かったことも明らかであった。直近では、米国の政策当局者の主要な関心は、中国との二国間関係になっている。1989年の天安門事件での民主化要求以来、何度も関係が危ぶまれたにもかかわらず、である。96年の宣言まで、日米が積極的に安全保障問題を取り上げることを避けたのは、中国が敵対的な反応を示したことが大きな理由である。

●中国は、日米関係はワシントンによる対中封じ込め政策の重要な要素であると見なしていることを隠そうとしない。米国は、そしてある程度は日本も、中国との関係を改善しつつ、封じ込め戦略を控えめにするよう望んでいる。

●事実、日米間で機能しているほとんど唯一の安全保障対話は、北朝鮮を宥和することの副産物として生まれている。日米韓は密接な協力体制を取り、ピョンヤンに対するもっとも効果的な戦略を打ち出す目的で一致している。

●このように遠慮がちで、不確実で、方向の定まらない過去の経緯にはさまざまな理由があり、その責めを誰かに負わせるべきではない。むしろ日米同盟を新たに改善し、再活性化し、焦点を絞り直すべきときが来たと認識すべきであろう。

●日米双方は、アジアにおける不確実な安全保障環境に直面している。おりしも両国は政治的な移行期と重要な変化のさなかにあり、米国では新政権の誕生が待たれており、日本は長引く経済、政治、社会の変容の過程が続いている。加えて、中国とロシアの政治的、経済的不透明や、朝鮮半島におけるデタントの脆弱さ、インドネシアの長引く不安定などが克服すべき条件となっている。

●日本は取り返しのつかない没落過程にあり、遺産を食いつぶしていると論ずる人々に対しては、国際社会において米国の力量が低下しつつあるといわれたのが、わずか10年前のことであったことを想起してもらうといいだろう。現時点で日本の力を過小評価することは、80年代や90年代に米国の潜在的な力を見過ごした日本人がいたのと同じように馬鹿げたことである。


政治

●日本ではこの10年、与党自民党が内部分裂や伝統的利益団体の衝突、そして有権者の分裂の拡大などに直面し、政権にしがみつくことに汲々としてきた。その一方、野党も信頼に足る政策提案ができないできた。その結果、自民党は政権を何とか維持し、野党は受け皿を提供できず、国民は渋々自民党に政権を委ねてきた。

●しかし、国際経済のグローバル化の圧力により、経済の改革と再構築が必要とされており、政治の世界にも変化が生じそうだ。これらの経済的な動きのために、政官財による強力な「鉄のトライアングル」は崩壊しつつあり、力は拡散しつつある。日本の政治秩序は終わりなき変化を経験している。

●日本における政治的変化は、日米関係を試すと同時に、再活性化させる比類なきチャンスをもたらすことができよう。イデオロギー対立の時代が終焉し、政治家の中でも若い世代の間では、安全保障問題に対する現実的な考え方が高まっていることは、創造的な新しいアプローチを試みるいい土壌を与えてくれよう。

●現在の指導者に、急激な改革や世界的な舞台での高い地位を期待することは非現実的であろう。日本の議会制度は、長期的な利得のために短期的な痛みを伴う政策を実行するのに適していない。日本の政治システムはリスクを避けている。しかし、次世代を担う政治家や国民は、経済力のみではもはや日本の将来を保証することは不十分であることに気付いている。それどころか国民は国旗や国歌を法制化し、尖閣諸島の領土問題などに関心を示すなど、国民国家の主権や尊厳に新たに関心を払っている。これらの変化が日米関係に投げかける意味は大きい。

●米国でも同様の動きがある。外交において議会の役割や、州・地方政府の影響力が増大している。さらには技術の革新や個人へのエンパワーメントにより、経済の変化の担い手として劇的に変容しつつある民間部門が影響力を増し、かつては一極集中型だった外交政策の決定機構は改められつつある。

● しかし日本におけるリスク回避型の政治的リーダーシップが、経済の変容を遅らせてきたように、ワシントンが明確な方向性を打ち出さなかったことは同様な犠牲を生んだ。政府の出たとこ勝負の方針により、米国は周到な対日政策を生み出すことができなかった。これはひるがえって、日米同盟の重要性への政治的支援と国民の理解を台無しにしてしまった。つまるところ、米国で進行中の政治、経済、社会の変化は、外交問題におけるトップのリーダーシップをさらに重要なものにしている。

●米国が日本との関係において、傲慢になることなく指導力を磨けば、日米両国がこの50年間に培ってきた協力関係のポテンシャリティを実感することができよう。日本において進行中の変化が、いずれ強力かつ機敏な政治・経済システムを生み出すことになれば、今後、日米関係のシナジー効果は大いに高まり、両国が来るべき時代において、地域でも地球規模でも、基本的かつ建設的な役割を果たす能力は向上するだろう。


安全保障

●日米両国はアジアに極めて深い利害関係を有しており、21世紀における両国関係について共通の認識とアプローチを策定することが緊急の課題である。アジアにおける紛争の可能性は、目に見える現実の日米防衛関係によって劇的に低下している。米国は日本国内の施設・区域の使用を許されていることにより、太平洋から湾岸地域に至るまでの安全保障環境に影響を及ぼすことができる。新たな「日米防衛協力のための指針」は共同防衛計画の基盤となっているが、これは太平洋を越える同盟関係において、日本の役割を拡大するための終着点ではなく、出発点となるべきである。また、冷戦終結後の地域情勢が抱える不確実性によって、2国間の防衛計画は一層、弾力的なアプローチが必要となっている。

●日本が集団的自衛権の行使を禁止していることは、同盟への協力を進める上での制約となっている。これを解除することにより、より緊密で効率的な安保協力が可能になるだろう。これは日本国民だけが決断できることである。米国は、これまで日本の安保政策の性格を形成する国内的な決定を尊重してきたし、これからもそうあるべきである。しかし、ワシントンは日本がより一層大きな貢献を行い、より平等な同盟のパートナーとなろうとすることを歓迎する旨を明らかにしなければならない。

●我々は、米国と英国の間の特別な関係が、日米同盟のモデルになると考えている。こうした準備には以下の要素が必要となる。

○防衛コミットメントの再確認。米国は日本防衛に対するコミットメントを再確認し、日本の施政権下にある地域には尖閣列島を含むことを明らかにすべきである。

○有事法制法案の成立を含め、新たな日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を鋭意実施すること。

○米軍の3軍全てと日本の自衛隊との揺るぎ無い協力体制。日米両国は、施設の共同使用の拡大と訓練活動の統合に努力し、また1981年に合意された米軍と自衛隊の間の「役割と任務」を見直し、更新すべきである。日米双方とも、従来のパターンに追従するのではなく、現実に沿った訓練を重視すべきである。また、両国は年来の潜在的な脅威と同様に、国際的なテロや国境を越える犯罪活動など、新たに出現しつつある挑戦に対し、いかに助け合うか、さらに平和維持と平和執行活動でいかに協力するかを規定すべきである。

○PKOおよび人道的救援任務への全面参加。日本はPKO活動に従事する他の国に負担をかけないよう、1992年に自ら課した制約を解除する必要がある。

○兵力の展開においては、多機能性、機動性、柔軟性、多様性及び生存可能性を持たせること。いかなる調整も人為的な数字に基づくことなく、地域的な安保環境を反映して決められるべきである。この過程において、兵力構成を変更するときは、双方の協議と対話を通じて行ない、相互が賛同しうるものでなければならない。米国は技術革新や地域の発展を利用し、列島への前方展開を再構築すべきである。我々は米軍の能力が維持される範囲内で、日本における米国の軍事的足跡を減少させるように努力すべきである。これには米軍基地の継続的な統合と、1996年のSACO合意(日米沖縄特別行動委員会)にある諸事項の迅速な実施が含まれる。

○米国の防衛技術を日本へ優先的に移転すること。防衛技術は同盟関係全般における重要な要素と見なされるべきである。我々は米国の防衛産業に対して、日本企業との間で戦略的提携関係を築くよう奨励し、先端技術の軍事・軍民両用技術に関する双方向の流れを拡大させるべきである。

○日米ミサイル防衛協力の範囲を拡大すること。

●我々が日本に対して役割の拡大を提起することにより、両国内では健全な議論が行われるであろう。米国の政府及び議会関係者は、日本の政策の全てがただちに米国と同一になるわけではないことを認識する必要があるだろう。今やバーデンシェアリングをパワーシェアリングに発展させるべきときであり、米国の次期政権はこれを実現するために必要な時間を十分にかける必要があるだろう。


沖縄

● 在日米軍の大半(約75%)は沖縄に駐留している。これら米軍が安全保障のために駐留しているのは、距離によるところが大である。沖縄は東シナ海と太平洋が交差する場所に位置しており、朝鮮半島、台湾および南シナ海から約1時間の飛行距離にある。

● 嘉手納にある米空軍基地は、この地域への米国の前方展開にとって決定的に重要な拠点となっている。同基地は日本の防衛にとっても重要である。沖縄の第3海兵機動展開部隊は、この地域の問題に迅速に対応するための自己完結型の統合前方展開部隊を提供しており、その役務は非戦闘員の待避から、侵略を撃退する大規模展開を可能とする最新鋭の戦闘部隊としての活動に至るまで広がっている。

●しかし、沖縄に米軍が過度に集中していることは、日本に対しては明白な負担となるとともに、米国にとってもさほど明確ではないものの、例えば訓練についての制約のような負担がある。米国海兵隊は激しい運用ペースや比較的若い年齢構成のため、日本の世論の特別な関心を集めており、日本の最南端に位置する沖縄県で、米国の軍事的プレゼンスを変更するよう求められている。

●海兵隊側としてもよき隣人たらんと努力してきている。しかし、基地周辺の過密化により制約が大きくなり、即応性や訓練に影響が出てきている。統計上、米国人による不法行為の件数は激減しているが、現在のような政治状況下においては、極めて不幸な行為が発生すれば、事件に対する関心は大きく誇張されることになる。

●1996年のSACO合意は、沖縄における米軍基地の整理、統合及び縮小を求めた。日米両国は合意事項を実施しなければならず、その中には普天間の海兵隊飛行場を含め、約5000ヘクタール及び11の施設にわたる米国資産の縮小が含まれている。

●我々は、SACO合意にはアジア太平洋地域全体への分散化という4つ目の重要な目標があって然るべきであったと考えている。軍事的な観点からは、米軍はこの地域で広範囲かつ柔軟なアクセスを有することが重要である。しかし、政治的な観点からは、沖縄県民の負担を軽減することにより、我々のプレゼンスを維持可能で信頼性のあるものとすることが不可欠である。日本における兵力構成についての米国の検討は、SACO合意にとどまるものであってはならない。米国はこの地域の海兵隊のために、より広範でより柔軟な展開と訓練のための選択肢を検討すべきである。


諜報活動

●日米双方にとって、東アジアにおける潜在的な脅威や明白な危険はその性質を変化させつつあり、両国間では諜報活動の協力と統合を進めることが求められている。日米同盟の重要性にもかかわらず、日本と共有している諜報活動は、我々がNATOのパートナーと行っているような緊密なものとはきわだって対照的である。グローバルな発展が続く一方で、資源は限られており、PKOなどの新たな任務があると考えれば、諜報活動におけるより一層の協力と統合が求められている。

●皮肉なことに冷戦の終了と共に、脅威はより曖昧になり、政策上の選択肢はより複雑になり、このため世界中の安全保障への脅威について、死活的な情報を調査し収集することへの必要性はますます強まった。日本政府は、現状の日米諜報協力がその必要を満たしていないことを明らかにしている。

●米国にとっては、この分野で日本と協力を拡大する可能性は明らかである。同盟国は分析を比較し、また競合させることで政策を一致させる必要があるが、同時に相違点を明らかにすることも必要である。諜報を共有することは最終目的をも共有することを意味する。それ以上に、分業(相互の比較優位に沿って分析作業を分かち合うこと)は諜報部隊に恩恵をもたらす。日本は世界中に関与しており、戦略的諜報対話のために貴重な情報と分析をもたらす能力を有している。

●おそらくそれ以上に、日本との戦略的な諜報協力は遅きに失したといえる。日米の諜報協力をしないままだと、同盟にとって共通の理解と行動が必要になったときに、われわれの認識、さらには政策までもが分裂してしまいかねない。

●日本にとっても、米国との間の情報協力の発展は重要である。日本の更なる国際貢献のためには、より強力な日本独自の諜報力とともに、米国との協力拡大が必要である。

●諜報協力の強化は、日本が政策決定、危機管理、意思決定をする際の手助けとなるだろう。加えてアジアの内外において、日本はより多様な脅威、より複雑な国際的な責任に直面している。そのためには諜報機能を持ち、国家安全保障上の必要性に対してより良き理解を深めなければならない。

●諜報協力は、2国間同盟における日本の役割をも強化する。日米の諜報部隊では規模が大きく違っているので、より均衡の取れた分担をするためには時間がかかるだろう。しかし長期的な成果(潜在的脅威に対する情報の改善、競争による分析の成果物、そして補完的な見解)は、両国にとってより良い情報を提供するとともに、協力を充実させよう。

●8日米の国家レベルの問題については、日米の諜報協力は国家レベルでの管理が必要である。新しい形をつくるとともに、既存の関係を拡大する協力が必要である。

●米国が行うべき事は以下の通りである。

○国家安全保障担当補佐官は、諜報協力の強化を政策上の優先事項としなくてはならない。

○CIA長官は米国の政策策定者と調整し、日本の国家安全保障上の優先事項と合致するような方法で、日本との協力を拡大しなければならない。不法移民・国際犯罪・テロ等の国境を越える諸問題は、すべて両国で省庁間の調整を必要とする。

○米国は、日本が自前の情報衛星を含む、独立した諜報能力を開発したいという合理的な願望を支持すべきである。共有する質を改善することが重要である。

○米国が政策的な優先順位をつけるべきは、分析センターの人材を統合すること、互恵的な教育プログラム、そして諜報ネットワークを充実させるために肩を並べるような活動を行うことである。

●日米間のより緊密な情報関係には、両国の政治的な支援も必要となる。この観点から、日本は以下の数点の措置を取る必要がある。

○日本の指導者層は、機密保持のための新たな法律について国民的、政治的支持を得ることが必要である。

○諜報能力の改善は日本の政策決定の支援体制を改善することになるが、日本の指導者たちはみずからの意思決定プロセスをも改善する必要がある。諜報の共有は日米間だけではなく、日本政府内でも行われるべきである。

○これまでの経験からいって、諜報プロセスにいかに国会を含めるかについての議論が必要である。民主主義国家における諜報の監視は、政治的な支持を維持するにあたり決定的に重要な要素である。

●要するに、日本が将来の防衛の必要性を論じ、行政改革に取り組んでいる今こそ、いよいよ日米の諜報協力を箪笥から取り出すときが来たということである。


経済関係

●経済的に健全な日本は二国間関係にとって必要不可欠である。実際、アジアにおける米国の利益は、繁栄し、成長し、かつ活発な日本経済の恩恵を受ける。日本は依然として、米国製品の第3位の顧客国であり、その不安定性が続くことは米国の労働者やビジネスにとっての機会喪失を意味する。弱い日本はグローバルな資金の流れに不安定と不透明性をもたらす。加えて日本国民が、内向き、不満、かつ不安定になれば、日米同盟においてより大きな役割を果たせなくなるか、躊躇するようになるだろう。

●不幸なことに、日本は経済的な停滞と不況の10年を体験した。92年から99年にかけて、年平均の実質成長率はわずか1%だった。97年から98年にかけては景気後退を体験し、99年後半にも再び後退して90年代を終えた。

●日本における経済の自律的な再生は、市場を開放するために手を打つことと、民間部門がグローバル化に対応できるようにすることが経済回復の鍵だと認識することにある。このためには、たゆまぬ規制緩和と貿易障壁の削減、そして市場開放を支援するための強力なルールと機関が求められる。

●このことは日本の政策エリートの間では理解されている事実であり、1986年の前川レポートなどの公的な文書にも記されている。70年代半ばから、外国人は日本の政策立案者に対して経済の透明性と開放性を高めるよう働きかけてきた。米国の政権は何代にもわたって不満をつのらせ、日本側が一連の通商政策や経済政策を受け入れるように促してきた。

●改革の障壁となるものは無数にある。高齢化した労働者(依然として2〜30%は終身雇用をエンジョイしている)、保護されている産業、いろんな産業を守って現状を維持することに慣れてしまっている官僚たちなど。それ以上に日本人は急進的な変化を好まず、他の選択肢がなくなって初めて行動を起こす。この国の経済問題は、いまだ危機的な水準に至っていないと主張する者までいる。緊急性への認識の欠如と、確立された慣習を変更することを嫌う国民性により、政治的にも心理的にも痛みを伴うリストラ策は、たとえそれが必要なものであっても受け入れることは難しい。

●それと同時に、日本が経済問題においていくつかの前進を遂げていることを認識することは重要である。たとえば、ビッグバンと呼ばれる金融セクターの規制緩和と、98年の金融機関の処理を、高く評価する西側のエコノミストは多い。外国からの直接投資は劇的に増加した(もっとも、いまだに他の先進工業国の間では最低レベルだが)。これらの前進は、より多くの競争と新しいビジネスモデルを導入した。経済界は、関係の深さよりも収益性に重きを置くようになり、こうした変化は旧態依然の系列システムをじょじょに弱めつつある。起業家精神が勃興し、ベンチャーキャピタル市場が拡大しつつある。

●ITセクターは急成長している。新しい企業が次々と立ち上げられ、他の多くのセクターに対して少なからぬ効果を及ぼしている。しかしITセクターの伸びが過去10年の経済の停滞を救うに足るかどうかについては、経済学者の意見は分かれている。規制の障壁が成長を抑制し、他の産業のITへの適応を遅らせている。しかるにITセクターの潜在的な重要性を考えれば、経済が明るい方向に向かうためには、一層の改革と規制緩和が必要であることは明らかである。たぶんITがなしうる最大の貢献とは、日本経済の広範な分野に規制緩和と柔軟なビジネスモデルが浸透するように楔を打ち込むことにあるのだろう。

●それでも回復に対する障害は残っている。とくに金融問題はいまだ適切に認識されておらず、財政刺激策も長期的な成長を促す可能性はあるにせよ、利益誘導型の公共事業に偏っているのが現状だ。こうした欠陥のある財政政策が、対GDP比で1.2倍にもなる赤字を生み出しており、これは主要な先進国経済において未曾有の水準である。

●民間セクターのダイナミズムを活かし、経済の変革を加速するような革新的な手法が求められている。日本にとって、その代価は高いものになるだろう。日本経済の長期的な健全性を回復するためには、日本の政治家がこれまで拒否してきたような短期的なコストを必要とする。米国は日本に対し、次のような政策を取るように仕向けるべきである。

○日本経済の一層の構造改革を促進する。市場に信頼を置き、内外を問わずすべてのプレイヤーに対して開放することが、持続的な回復には不可欠である。

○短期的には財政と金融による刺激策を継続する。日本の赤字は拡大するものの、将来的な成長につながるような分野には思い切って注力すべきである。利用者がいない橋やトンネルや新幹線を作るような時代は終わらせねばならない。

○企業会計や商慣習、ルール作りにおける透明性が必要である。日本の経済統計の質は改善すべきであり、金融機関や地方自治体は真の財政状態が明らかになるように求められるべきである。政府は同様に、政府情報の公開が必要である。

○規制緩和を加速し、とくに電気通信など経済に恩恵を施す可能性のある分野で推進すること。

○シンガポールとの間のFTA(自由貿易協定)をテストケースとして歓迎し、韓国、カナダ、米国や他の国との間でも進めること。

●日本市場を開放し、構造変革を加速する力は、米国政府からは消えつつある。改革が行われないことによって、米国企業の利益が冒され、世界経済が危機に瀕する場合は、米国は正当な権利を持つ。企業行動の基準作りや商習慣の透明性の拡大などの分野においては、米国政府の注意や行動は今後も重要である。

●米国は2国間関係を改善するべく、今後何年間かは以下の鍵となる目的を追求すべきである。

○米国の経済的な利益はひとつにまとめて表明すべきである。ワシントンは、日本で現在進行中の構造的な変革が効率的になるように、優先順位を持つべきである。この点において、米国の次期政権は重要な経済的な課題に関して米国民の支持を得なければならない。

○ワシントンは、対日直接投資を喚起するための対話を始めるべきである。外国企業は新しい技術やビジネスモデルを持ち込み、日本企業を直接的に助けるとともに、競争を通じて刺激を与えることができる。

○次期政権は、グローバルな通商交渉において新ラウンドの開催を最重要課題としなければならない。このイニシアティブにおいて、米国の指導力は死活的に重要である。この過程において、米国とその相手国は工業製品への関税、農業補助金、金融サービスへの障壁を撤廃すべきである。また、国際的に受け入れられる会計基準(とくに金融機関に対して)の交渉を行うべきである。

○日米経済関係の重要性に鑑み、二国間通商交渉は引き続き重要な手段足り得る。そのことは日米がWTOを重視し、紛争処理や新たな協力の場とするようになっても変わらない。

○米国は日韓間で生まれかけている経済協力を奨励すべきである。


外交関係

●米国は伝統的に、日本が国際的な役割を拡大するように奨励してきた。見過ごされ勝ちであるが、日本はこうした動きに積極的に対応し、とくに人道援助や、安全保障上のこれまでにない分野で貢献し、米国との協力を密にしている。日本は世界銀行、IMF、国連、アジア開銀、そして主要な多国籍機関のすべてにおいて、1位ないしは2位の出資国となっている。現在の協力関係を維持し、新たな2国間の努力を開くためには、日米両国の国民的な支持を得ることが欠かせない。

●外交における協力も行われるべきである。日本はワシントンとの協議なしにAMF(アジア通貨基金)のようなアイデアを推進したことがある。米国もまた外交政策では、手後れになってから日本に呼びかけることがしばしばある。両国はともに、こうした後知恵外交でしくじっている。日本との協力において、米国が小切手外交のイメージを持ち続けるのは時代遅れである。日本は従来からのドナーの立場を超えて国際的なリーダーシップを取るならば、リスクを負わなければならないことを認識しなければならない。

●米国の政策は日本の目的を考慮し、われわれの課題が日本政府にも理解され支持されるように努めなければならない。ワシントンは、日本にとって多国間協調が重要であることを認識しなければならない。日本政府はこうした試みが、米国のリーダーシップを損なうものではなく、国家的な独自性の発露であると見なす。物静かに、舞台裏で戦略の擦りあわせを行う方が、2国間首脳会談でぎりぎりのタイミングで劇的に発表するよりも効果的である。

●日本が外交政策で独自性を求めることは、米国外交の障害になるものではない。実際、日米はほとんどの外交上の目標を共有している。両国は多くの共有の利害を持っている。

○アジアにおける米国の関与と前方展開を維持すること。

○国連を改革し、紛争を防ぎ、平和維持と平和執行を効果的にできるような機関とすること。米国は日本の常任理事国入りの要求を引き続き支持すべきである。しかしながら、その場合は日本が集団的自衛権の明白な義務を負わなければならない。

○中国が、地域における政治的、経済的な問題でポジティブな存在であるように努めること。日米はこの問題で戦略的な対話を続けるべきである。

○朝鮮半島における和解の推進。日米両国政府は半島問題に関する日米韓の3カ国協議を引き続き推進し、協力を一層拡大することを求めるべきである。

○極東におけるロシアの安定性を支持し、天然資源の開発を活かすこと。対ロシア政策において日米はより効果的に協調すべきである。

○日米は個々のASEAN加盟国に対しては違った政策を持つものの、ASEAN全体がより活発で、独立し、民主的で繁栄するように奨励すること。

○インドネシアの地域的統一性と復活を支持するよう努めること。

●世界第2位の経済大国である日本は、経済上の問題を理由にこれまでの対外援助政策を逆転させ、被援助国に恩恵をもたらすという方針を放棄することがあってはならない。日本の政策はアジアにおける経済成長と開放を促進するものであるべきである。日本政府が目指す円の国際化は、日本の金融市場が透明なものでなければ成功しない。


結論

●ペリー提督の黒船が東京湾に到着してから約150年たつ。良かれあしかれ、この間の日米関係が日本とアジアの歴史を作ってきた。新しいミレニアムの幕開けに際し、グローバル化の逃れがたい力と、冷戦後のアジア安全保障の力学は、日米両国に対して新しく複雑な挑戦を提示している。両国が個々に、また同盟国としていかに対応するかが、アジア太平洋地域の安全と安定性を決定しよう。ちょうど新しい世紀の可能性が、過去の経済や政治や戦略の枠組みに影響を与えるように。


※原文は http://www.ndu.edu/ndu/SR_JAPAN.HTM 参照