核兵器保有と憲法の解釈に関する政府見解

 
核兵器の保有に関する憲法第9条の解釈
 
1、政府は従来から、自衛のための必要最小限を超えない実力を保持することは憲法第9条第2項によっても禁止されておらず、したがって右の限界の範囲内にとどまるものである限り、核兵器であると通常兵器であるとを問わず、これを保有することは同項の禁ずるところではないとの解釈をとってきている。
2、憲法のみならずおよそ法令については、これを解釈する者によっていろいろの説が存することがあり得るものであるが、政府としては、憲法第9条第2項に関する解釈については、1に述べた解釈が法解釈論として正しいものであると信じており、これ以外の見解はとり得ないところである。
3、憲法上その保有を禁じられていないものも含め、一切の核兵器について、政府は、政策として非核三原則によりこれを保有しないこととしており、また、法律上及び条約上においても、原子力基本法及び核兵器不拡散条約の規定によりその保有が禁止されているところであるが、これらのことと核兵器の保有に関する憲法第9条の法解釈とはまったく別の問題である。
(参・予算委1978.3.11、真田法制局長官答弁)
 
※78年3月8日の参予算委員会で峯山昭範委員(公明)は、文書による回答を要求していた。政府は翌9日に文書を提示したが、11日の質疑の際に、内閣法制局長官が朗読した。
 
 
関連:真田秀夫法制局長官の補足
 
 それでは、核兵器の保有に関する憲法第九条の解釈についての補足説明を申し上げます。
1、憲法上核兵器の保有が許されるか否かは、それが憲法第9条第2項の「戦力」を構成するものであるか否かの問題に帰することは明らかであるが、政府が従来から憲法第九条に関してとっている解釈は、同条が我が国が独立国として固有の自衛権を有することを否定していないことは憲法の前文をはじめ全体の趣旨に照らしてみても明らかであり、その裏付けとしての自衛のための必要最小限度の範囲内の実力を保持することは同条第2項によっても禁止されておらず、右の限度を超えるものが同項によりその保持を禁止される「戦力」に当たるというものである。
 そして、この解釈からすれば、個々の兵器の保有についても、それが同項によって禁止されるか否かは、それにより右の自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるか否かによって定まるべきものであって、右の限度の範囲内にとどまる限りは、その保有する兵器がどのような兵器であるかということは、同項の問うところではないと解される。
 したがって、通常兵器であっても自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるものは、その保有を許されないと解される一方、核兵器であっても仮に右の限度の範囲内にとどまるものがあるとすれば、憲法上その保有が許されることになるというのが法解釈論としての当然の論理的帰結であり、政府が従来国会において、御質問に応じ繰り返し説明してきた趣旨も、右の考え方によるものであって、何らかの政治的考慮に基づくものでないことはいうまてもない。
2、憲法をはじめ法令の解釈は、当該法令の規定の文言、趣旨等に即しつつ、それが法規範として持つ意味内容を論理的に追求し、確定することであるから、それぞれの解釈者にとって論理的に得られる正しい結論は当然一つしかなく、幾つかの結論の中からある政策に合致するものを選択して採用すればよいという性質のものでないことは明らかである。政府が核兵器の保有に関する憲法第9条の解釈につき、1に述べた見解をとっているのも、右の法解釈論の原理に従った結果であり、何らかの政治的考慮を加えることによりこれ以外の見解をとる余地はないといわざるを得ない。
3、もっとも、1に述べた解釈において、核兵器であっても仮に自衛のための必要最小限度の範囲内にとどまるものがあるとすれば、憲法上その保有を許されるとしている意味は、もともと、単にその保有を禁じていないというにとどまり、その保有を義務付けているというものでないことは当然であるから、これを保有しないこととする政策的選択を行うことは憲法上何ら否定されていないのであって、現に我が国は、そうした政策的選択の下に、国是ともいうべき非核三原則を堅持し、更に原子力基本法及び核兵器不拡散条約の規定により一切の核兵器を保有し得ないこととしているところである。
 以上でございます
(参・予算委1978.4.3、真田法制局長官説明)
 
※3月11日の参議院予算委員会で政府から「核兵器の保有に関する憲法第9条の解釈について」が示されたが、要求した峯山昭範委員(公明)が内容に納得せず、再提出を求めていたものである。
 
 
関連:角田禮次郎法制局長官の答弁
 
 核兵器と憲法との関係については、これまで再々申し上げておりますが、基本的に政府は自衛のための必要最小限度を超えない実力を保持することは、憲法九条二項によっても禁止されておらない。したがって右の限度の範囲内にとどまるものである限り、核兵器であると通常兵器であるとを問わずこれを保有することは同項の禁ずるどころではない、こういう解釈を従来から政府の統一見解として繰り返して申し上げているところであります。したがって、核兵器のすべてが憲法上持てないというのではなくて、自衛のため必要最小限度の範囲内に属する核兵器というものがもしありとすればそれは持ち得ると。ただし非核三原則というわが国の国是とも言うべき方針によって一切の核兵器は持たない、こういう政策的な選択をしている、これが正確な政府の見解でございます。
(参・予算委1982.4.5、角田法制局長官説明)
 
※柳澤錬造委員(民社)への答弁

(防衛ハンドブック掲載)