非核三原則の形成過程について(メモ)
 
○「核兵器を作らず」の確認   (1955年12月15日、参議院商工委員会)
 自民・社会共同提案の「原子力基本法」第2条において「原子力の研究、開発、利用は『平和目的』に限っている」ことについて、質問に対して発議者の一人である中曽根康弘議員が「原子燃料を使って人間を殺傷するための武器は別である」と答弁。
 「核兵器をつくらず」の原則について与野党の合意が形成されていた。
 
○「核兵器を持たず」の発言(1958年4月18日、参議院内閣委員会)
 岸信介首相は、防御的性格の核兵器は憲法上禁止されないとの解釈をとりつつ、「政策としてはいかなる核兵器も持たない」ことを明言。
 
○「核を持ち込ませず」の発言(1960年4月19日、衆議院日米安保条約特別委員会)
 岸信介首相は、「日本は核武装しない、また、核兵器の持ち込みを認めない」と発言。
 
○「非核三原則」の包括的確認(1967年5月18日、参議院内閣委員会)
 増田甲子七防衛庁長官は、「政府の方針として核兵器は製造せず、保有せず、持ち込ませずというきびしい方針を岸内閣以来堅持している」と確認。
 
○「非核三原則」の発言(1967年12月11日、衆議院予算委員会)
 佐藤栄作首相は、「私どもは核の三原則、核を製造せず、核をもたない、持ち込みを許さない、これははっきり言っている」と発言。
 「非核三原則」の明確化
 
○「核四政策」における「非核三原則」の位置づけ(1967年1月30日、衆議院本会議)
 佐藤栄作首相は、核四政策として、「第一は、核兵器の開発は行なわない、持ち込みも許さない、また保持しない。いわゆる非核三原則である」と発言、続いて第二は核軍縮、第三は米核抑止力への依存、第四は核エネルギーの平和利用を表明。
 
○「非核三原則」決議に首相が時期尚早と発言(1968年2月5日、衆議院予算委員会)
 佐藤栄作首相は、核四政策は与野党間でまだはっきりまとまったものではなく、四政策について同じような考え方になれば将来国会決議することに異議はないが、「核兵器に対する三原則だけ決議することは外交的に見てもあまり利口な方法ではない」と、非核三原則決議は「現時点においては時期尚早」と発言。
 
○「非核三原則」決議に首相が難色表明(1968年3月2日、衆議院予算委員会)
 佐藤栄作首相は、非核三原則の決議について、「ただいまのような約束をすることは、おそらく(日米)安全保障条約の中身について拘束を加えることになり、そういうことを今からするのは行き過ぎではないか、アメリカの行動を制限することになるからそれはできない」と非核三原則に難色。
 
○「沖縄非核決議」を決議(1971年11月24日、衆議院本会議)
 沖縄返還協定審議が紛糾した際、非核を求める公明、民社両党に自民党の保利茂幹事長は、「野党の諸君に対して背信行為になるようなことがあれば、議員バッチはお渡しする」と述べ、両党の本会議出席とバーターで「非核兵器ならびに沖縄米軍基地縮小に関する決議」が成立。
 
○「非核三原則」決議(1976年4月27日、衆議院外務委員会/5月21日、参議院外務委員会)
 NPTの委員会承認に際して、両院外務委員会は「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませずとの非核三原則が国是として確立されていることにかんがみ、いかなる場合においても、これを忠実に遵守すること」(他5項目)との決議採択。決議に「国是」という表現が盛り込まれたのは、三原則の厳守を求める野党と、弾力的表現を主張する自民党が対立したあげく、自民党が折れたためであった。
 妥協によるものとはいえ「非核三原則」が一応国是となったといえる。
 
○「非核三原則」を国是とすることを政府が容認(1978年4月3日、参議院予算委員会)
 3月8日の参議院予算委員会で公明党の峯山昭範議員が、政府に対して、核兵器の保有に関して文書による回答を要求、真田内閣法制局長官は3月11日の参議院予算委員会で、「核兵器の保有に関する憲法第9条の解釈について」との文書を朗読した。ここで「憲法上その保有を禁じられていないものも含め、一切の核兵器について、政府は政策として非核三原則によりこれを保有しないこととしており」とあったが峯山議員は納得せず、再提出を求めた。真田長官は4月3日の参議院予算委員会で次のような補足説明を朗読した。
 「核兵器であっても仮に自衛のための必要最小限度の範囲内にとどまるものがあるとすれば、憲法上その保有を許されるとしている意味は、もともと、単にその保有を禁じていないというにとどまり、その保有を義務付けているというものでないことは当然であるから、これを保有しないこととする政策的選択を行うことは憲法上何ら否定されていないのであって、現に我が国は、そうした政策的選択の下に、国是ともいうべき非核三原則を堅持し、更に原子力基本法及び核兵器不拡散条約の規定により一切の核兵器を保有し得ないこととしているところである」というもの。「国是ともいうべき」という文言が挿入され、政府も非核三原則を「国是」として容認した。
 以後、政府も「非核三原則」を「国是」と表現するようになった。

非核三原則に関する政府答弁など

 
○第58回国会における佐藤総理発言
 「まず第一に、二〇世紀後半の人類は核時代に生きております。この核時代をいかに生きるべきかは、今日すべての国家に共通した課題であります。われわれは、核兵器の絶滅を念願し、みずからもあえてこれを保有せず、その持ち込みも許さない決意であります。」
(1968年1月27日、衆議院本会議)
 「…ご承知のように、我が国の核政策につきましては、大体四本の柱、かように申していいかと思います。第一は、核兵器の開発、これは行なわない。また核兵器の持ち込み、これも許さない。また、これを保持しない。いわゆる非核三原則でございます。」
(1968年1月30日、衆議院本会議)
 
○非核兵器ならびに沖縄米軍基地縮小に関する決議
一、政府は、核兵器を持たず、作らず、持ち込まさずの非核三原則を遵守するとともに、沖繩返還時に適切なる手段をもつて、核が沖繩に存在しないこと、ならびに返還後も核を持ち込ませないことを明らかにする措置をとるべきである。
一、政府は、沖繩米軍基地についてすみやかな将来の縮小整理の措置をとるべきである。
 右決議する。
(1971年11月24日、衆議院本会議)
※自由民主党、公明党及び民社党三党共同提案
 
○核兵器の不拡散条約に関する件の決議
 核兵器の不拡散条約の批准に関し、核拡散の危機的状況にかんがみ、政府は、左の事項につき誠実に努力すべきである。
一、政府は、核兵器を持たず、作らず、持ち込まさずとの非核三原則が国是として確立されていることにかんがみ、いかなる場合においても、これを忠実に履行すること。
二、非核兵器国の安全保障の確保のため、すべての核兵器国は非核兵器国に対し、国連憲章に従って、核兵器等による武力の威嚇または武力の行使を行わざるよう我が国は、あらゆる国際的な場において強く訴えること。
三、(イ)唯一の被爆国として、いかなる核実験にも反対の立場を堅持する我が国は、地下核実験を含めた包括的核実験禁止を訴えるため、今後とも一層の外交的努力を続けること。
(ロ)我が国は、すべての核兵器国に対し、核兵器の全廃を目指し、核軍備の削減、縮小のため誠実に努力するよう訴えること。
四、我が国の原子力の平和利用の前提条件として安全性の確保に万全を期し、政府は、自主、民主、公開の原則にたち、原子力の平和利用の研究、開発及び査察の国内体制の速やかな整備をするとともに、核燃料供給の安定的確保に努めること。
五、世界の平和維持に非核化地帯構想が重要な意義を有していることにかんがみ、我が国はこの為に国際的な努力をすること。
(1976年4月27日、衆議院外務委員会)・(1976年5月21日、参議院外務委員会)
 
○非核三原則にいう「核」
 非核三原則にいう「核」とは核兵器を指し、核兵器とは、原子核の分裂又は核融合反応により生ずる放射エネルギーを破壊力又は殺傷力として使用する兵器をいうと考える。
(1975年1月10日、楢崎弥之助衆議院議員の質問に対する答弁書)
 
○原子力基本法第二条の「平和の目的に限り」の「平和」の意義
 「平和の目的に限り」という意味は、民生安定であるとか、あるいは国民生活の向上であるとか、第1章の第1条の目的を達するためにあるのです。具体的に申し上げれば、エネルギーを確保するとか、学術の進歩とか、産業の振興とか、そういうことに寄与すべきものであって、国防目的のためにそれを使うべきではない、第1条からみてもそのことは当然であります。
(1955年12月15日、参商工委員会、法案提出者中曽根康弘委員)
※1959年3月25日の衆議院科学技術振興対策特別委員会で、岡三郎委員の「軍事行動は自衛行動も含めるものである。従って、わが国がたとい自衛のためとはいえども、軍事行動においては核兵器を使用することはできない。この基本は、このようなことを明確に規定しておるものと原子力委員会はお考えになっておられるものと私ども了解していいのでございますか。」という質疑に対して、当時の有澤広己原子力委員会委員長は、「その通り私は考えております。」と答弁している。
 
○憲法第9条と非核三原則との関係
 そういう防衛だけの戦術的核兵器、いわゆる戦術的核兵器を持つことは憲法違反ではない。第九条第一項、第二項にかんがみてこれは持ち得る、憲法上は。ということになっております。しかしながら、原子力基本法によりまして、日本で開発することは原子力基本法に触れる、持ち込んだり、持つことは別に原子力基本法に触れないわけでございます。つまり原子力基本法というものは、核兵器並びに一般平和利用の核エネルギーを開発する際には、平和利用でなくてはいけない、こういうことになっておるわけであります。これはやはり相当理論的に申さなくちゃなりませんから、長いとおっしゃっても時間にも制限がございませんし、稲葉さんも理論の人でございますから、一応、理論を申し上げるわけでございます。そこで、戦術的核兵器はそういうことであるけれども、原子力基本法に触れるおそれもあるし、われわれは持たない。つまり非核三原則がそこでまたカバーをいたします。しかし、戦術的核兵器の持ち込み、外国の軍隊が日本において持つということは、これはまた憲法違反ではないけれども、非核三原則がまたそこに働くわけでございます。
(1968年4月4日、参議院予算委員会、増田防衛庁長官答弁)