春になると雪をかき分けるようにして芽を出し、一面の花畑を作って、かげろうの様にはかなく、あっという間に消えていく花の一群があるが、ヨーロッパではこれをスプリングエフェメラル(春のかげろう)と呼び、カタクリはその呼び名に似つかわしい花の一つである。
北半球温帯に25種程生育するユリ科の花で、日本にも一種生育し、古来からカタカゴ(堅香子、傾篭)として愛でられ、大伴家持が国司として富山に赴任した時に 「もののふの 八十娘(やそおとめ)らが 汲みまがう 寺井の上の 堅香子(カタカゴ)の花」 と詠んでいる。 「もののふの」 は 「多く」 の枕詞で、清水を汲みに来る大勢の乙女達の笑い声や、その周りに乙女を象徴するような可憐なカタクリの花の咲く情景が目に浮かぶ。
カタクリは7−8年の一枚の葉の時代を経て二枚葉となり、やっと花を付ける。 片葉の頃には葉の表面に鹿の子(かのこ)模様が目立ち、その為、 「片葉の鹿の子」 からカタカゴになったとする説や、花の形が傾いた篭に見えるので 「傾篭」 からカタカゴになったとする説がある。 カタクリの名もカタカゴが転化してカタクリになったとする説や根の鱗片の形が栗の片割れに見える為、片栗からカタクリになった等諸説ある。
種子にエライオソームと呼ばれるアリが好む成分を付け、アリに種子を運ばせて分布を広げる特性を持つが、スミレ、ホトケノザ、イカリソウ等、野の花にはこのような花が多い。
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