■ Vol.14 | 2010年4月21日号 ■
「二つの架け橋」
上海のボックスギャラリー『牛心』オーナーの 松田奈月さんとO君
 年末年始に上海へ行ってきました。
 牛心(うしごころと読む)という名前のボックスギャラリーをされている松田奈月さんのお店を訪問しました。お正月の3日です。90年代初めに大阪商工会議所の留学生里親里子交流会対面式で出会って以来、縁あるO君が、上海に住んでおり、まだ会った事もない人にお正月の3日に、アポイントメントもとらずにと渋っている私を、「行ってみましょう」と上海南駅に近い住まいから東湖路というパリの町並みのような一角に連れ出してくれました。銀座の並木通り、はたまた大阪堺筋にも似ている淮海路を曲がって少し歩いたところ。昔は豪邸だったのかと思われる石造りの格式あるホテルの前のビルの奥にありました。
 入るとご本人が一人でおられました。「たまたまお店番の人がいなくて、私が交代で‥」
 実は松田さんのお母様とは10年前から、ある音楽祭でお知り合いになり、奈月さんがTBSと講談社が主催するデレビドラマ小説に応募して大賞をとられたことをお聞きしていたのです。同時にボックスギャラリーという30〜50cmくらいのボックスにアマチュアからプロ作家までの作品を月極貸しをして作品を展示するというお店を上海でされていることに興味を引かれていたのです。普段のお仕事は日本語放送のテレビ会社のディレクターをされていて、なおかつギャラリーオーナーも?
 第一印象はテレビディレクターという時間とにらみっこで緊張感のあるお仕事をされているとは思えない、穏やかなほっこりした雰囲気を醸し出していて、ゆっくりとニコニコとぽつぽつ話される松田さん。
 二つ折りの生成りの紙に書き初めをしてくださいと請われてO君が書いた「天・地・人」の左上に添えた二文字「楽進」を見て、「いいですねえ」と言った奈月さん。忙しくてもハードでも環境が好くなくても楽しく前向きに捉えて地球の一角=上海にひょいひょいと暮らしている彼女自身のように思えました。  O君の奈月さんへの感想も私と一致していました。
 小説を一気に書き上げる才能とチームワークで現場でめまぐるしく作り上げて行くお仕事と、いろいろな作家の希望を受け入れてお客様を待つという全く違うものを、三位一体のように、でもふわふわと柔らかい雲のようにとけ込ませているのでしょうね。「ここでいろいろな人に出会えますから。これは、仕事というより、トントンでいいんです」とにっこり、首をすくめたように言われたのが、いい感じでした。
 ブースを仕切っている中央に低い丸いテーブルに電気鍋が置いてあり、中にはお雑煮がくつくつと音を立てていて、薦められるままにO君といただきました。まったりとした関東みそ味!
 中国らしいデザインのネックレスと、切り絵のように鮮やかな色彩の年画と言われる、おめでたいときに飾る絵を買いました。上海の街をデザイン化したような作風で、一枚は日本人の作品。 上海に住みついている日本人は7万人くらいとのことですが、商社マン、技師、起業家だけでなく、文化芸術やジャーナリストなど多方面の職種で生きる人々が、これからは増えるのかなと感じたのです。
 彼女は、日本語のテレビを通じて、上海や日本の架け橋となってますます活躍されることでしょう。なまの中国の庶民の暮らしはどうなの?いろいろな上海人、出稼ぎ中国人の暮らし、日本人の暮らしとは違いがあることでしょうが、どのようにとけ込んだり、時には住み分け?たり、交流しているのでしょうか。大上段からではなく、トリビアルなところから、たぐってほしいなと思いましたし、<うしごころ>はまさに大きな上海のちいさな?なのかもしれませんね。「いいなあ。」って大阪のオーケストラの女性コントラバス奏者の W さんならきっと共感してくれそう。
 一方 O君は、約20年前、北京から大阪に舞い降りました。大阪市内、上町台地の一角、上汐町という元の大阪外国語大学跡に造られた大阪国際学友協会日本語学校の寄宿生から、東京の大学、大学院を卒業し、弁護士になりました。精神的里親として進路相談をされたことが、いつも思い出されます。「貴方は経済学部よりも、法学部がいいわ。歴史が好きで、文章能力があるけど、銀行マン証券マンには向かないわ。中国はこれから変るし、経済が変れば国際法も勉強しなくてはならないから、日本と中国の架け橋になる弁護士になれば?」とアドバイスしたことを見事に実現しました。よく東京、大阪に出張し、中小企業から大手企業の中国進出の際のリーガサービスをしています。大手銀行の東京の支店などでたくさんの企業家の前で講演をするようになりました。日本の弁護士先生のお誘いで元鹿鳴館だった東京倶楽部に行く事もあるそう。
 こちらも風貌はおっとり穏やかですが、東京で同じく中国からの留学生だった女性と出会って結婚していてパパです。若い世代がこれからいろんな色の虹の橋をかけて行くのでしょうね。

胡桃庵記


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