■ Vol.3 | 2006年12月6日号 ■
≪ 札幌の音楽カフェ『パリアッチ』店主 蔵 隆司さんのエッセイ Vol.1 ≫
懐かしい響きすらするLP音盤
 昨今は、CDどころかSACDまでもが我が物顔のレコード屋(これも変な標章)だが、我が家(店)にあっては、オープン・テープと並んで数百枚のLPレコードが物置のラックに収まっている。CD発売当初には、もはやこれまでと処分に踏み切った僕ではあるが、どうしても捨てきれない思い出の名盤だけは残しておいた。

 縁あって一昨年喫茶店を開業した僕は、まよわずレコードプレーヤーとオープンデッキを店に据え付けたのである。オルトフォンのMCカートリッジを新調し、マッキンのMC500、タンノイDC386から流れる音質に僕はまずまずと思っている。

 ことしの夏のことである。札幌交響楽団のプレヤーの紹介で一人のご夫人が来店した。クラシック好きの親父のやっている喫茶店という触れ込みがあって興味を持たれたのであろう。それもそのはず、亡夫はれっきとした音楽家、関西楽界では著名なクラリネット奏者なのだ。話が弾むうち夫君が大変なレコード蒐集家であることが判って話は一段と盛り上がり、いずれの日にかの再会を期してお帰りになられた。

 その数週間後、わが店にずっしりと重い宅急便が届く。丁寧な梱包を開くと30枚はあろうかというLPレコード、一瞬制作会社からの直送と思わせる新品同様のジャケット揃いなのだ。これが20年、30年前に発売されたレコード群なのか?不思議な思いに駆られ、それこそ"お宝"に触れるが如く恐る恐る手にとって見た。ミケランジェリ、グールド、ボゴレリッチなどの曲者もいれば、ポリーニ、ブレンデル、アルゲリッチなどの若き日の演奏、どれもが発売当初から話題を集めた逸品ぞろいである。

 聴いてみるしかない。意を決して針を落とす。片面が終わったところで、別なレコードを乗せる。そしてその繰り返し。あっという間に時は流れていった。いずれの音盤からも聴こえてくる音の何という新しさ。そんな第一印象、まさに驚きというしかない!!これが本当に20年30年聴かれてきた音盤の音なのか!!繰り返し口をついて出てきたこの言葉は疑問から驚嘆に変わってしまった。どんなにかLPレコードを慈しみ愛蔵されてこられたか、熱い感動とともにわが店に届いたことの幸運に酔いしれるひとときであった。

 もうお分かりと思います。このLPの持ち主こそ、ノワ・アコルデの平井悦子さん、感謝の気持ちを籠めてこの一文を送る次第です。


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