ノアローと大怪我

ノアローが大怪我をして、足に障害が残るかもしれないと嘆き悲しむ私に対して、
ある方はこう言って私を慰めてくれました。
「たとえ障害が残ろうと、その事で本来ノアローが持っている
ノアローの美しさや快活な性質が損なわれることはないだろう・・・」と。

こんな風に、今、振り返ってノアローの事故の話を書ける事は、幸せな事だと思います。

 2003年11月15日、
 ノアローが窓ガラスを叩き割り、両前足をガラスの破片でザックリと切る、という恐ろしい事故が我が家にありました。
 特に損傷が激しかった左の前足は、傷を探るために触った夫の指がズボッと入る程で、動脈も筋も裂け切れてしまうほど酷いものでした。切れた動脈からは血が水鉄砲のように吹き出し、(その一番恐ろしい場面を私は包帯を取りに走り回っていたので見てはいません)夫が機転を利かせて、強力な粘着包帯で前足を内側に折り曲げる形でぐるぐる巻きにし、結果、止血に成功する事が出来ました。
 私も手伝い、夫が巻いた包帯の上から更にvetrapを巻こうとしましたが、vetrap同士が変にくっついてしまうばかりで、全く上手く出来ませんでした。二人とも手はノアローの血でヌルヌルになり、服も顔も血だらけでした。

 その日は土曜日で、後で見た予定表では院長先生が留守の日でした。家から電話した時に、電話に出た獣医さんが「良かったですね。院長先生が帰って来ています」と仰ったのですが、本当にその通りでした。
 土曜日という事もあり、獣医さんへ行く道はいつもより混んでいました。慌てて事故を起こしたり、違反して捕まっていては、ノアローが出血多量で死んでしまいますので、夫は焦りながらも慎重に運転しました。
 止血が上手くいったと言っても、血はジワジワと染み出し、買ったばかり(と言っても中古の激安車)の車の中は血痕だらけになりました・・・。
 あの曲がり角を曲がったら獣医さんの前の道、という時点では、ノアローはハァハァ息をし、車のドアにもたれ掛かる有様で、「獣医さんへ着けば助かる」と、繰り返しそればかり念じてました。

 獣医さんへは電話していましたが、「ガラスを踏んだ」程度の認識だったらしく、今なら笑えますが・・・、
 「あれ?どーしたの?ノアローちゃん♪随分、グルグル包帯を巻いているねぇ」のノリで迎えられました。
で、包帯を取った途端に、血がボトボトボト・・・・。
 「なんじゃ、こりゃ〜〜〜!!!何がどうなっているんだぁ!!?止血、止血!!!」
 先生ビックリ、病院内パニック?に続き、緊急手術と相成りました。

 手術は3時間近く掛かりました。かなりの数の血管が裂け切れていましたので、かなりの数の鉗子がノアローの足首にぶら下がりました。私は隅の方で、時折涙を流したりしながら座わり、出来れば、自分だけノアローが元気に回復している未来にワープしたい気持ちでいっぱいでした・・・。
 手術台のノアローは生きているのか死んでいるのかわからない不思議な姿で、それは、とても辛くて悲しい眺めでした。
 一番問題だった点は、筋が切れていた事です。「あ、これは酷い。ダメだ。ブラブラだ」と獣医さんに言われました。
 足が元に戻らない。にわかには信じられませんでした。そこを夫が何とか繋げて欲しいと頼んで、獣医さんはトライしてくれたのです。

 左前足の処置が終わった時、2時間も経過していて、そこにいた誰もが(皆、血だらけ)驚きました。(私にとってはとても長い時間で、一時間は経っていると思いましたけど)

 今回は、麻酔が覚める前に車の中へ連れて行ったのが良かったのか、覚醒の時、私がずっとそばにいましたが、ノアローは二声苦しそうな悲鳴のような声をあげただけで落ち着き、しきりに私や周囲の匂いを嗅いでいました。
 その夜、ノアローは新しいケージに一人で寝ました。新しいケージはノアローも気に入っていたので、それだけが救いでしたが、新しいケージは旅行へ行く為に用意したものでした・・・。
 寝たのは家へ帰ってから暫くの間だけで、ノアローも夜は眠れなかったようです。
 次の夜、ノアローはケージに入る事を静かに拒否したので、ギブスを付けたノアローにとっても寝心地が悪そうにも見えたし、始め、傷が治るまでケージで寝せようとも思っていましたが、ケージ外でも大人しく安静に出来ましたので、ケージで寝たのは結局一泊限りでした。

 「筋はダメかもしれないよ」と獣医さんに言われてましたので、愛するノアローが、私たちがもっと気を付けていたら防げていたかもしれない家庭内事故によって、一生治ることのない障害を負ってしまうかもしれない、その事が何よりも辛く悲しく苦しい事で、ノアローを見るたびに涙が出ました。

 私が泣くと、ノアローは尻尾をブンブン振って、私の膝の上によじ登ったり、でんぐり返しのような事をして甘えました。ノアローは私を慰めようとしたのでしょうか。そういったおどけた姿を見せるノアローを見ると、余計に泣けてきました。

 事故後の一ヶ月間はとても長く感じられました。ノアローの毛艶が落ち、体重が減ったことははっきりと目で見て取れました。多量の抗生剤を服用していた事で、胃腸の調子が悪くなり、食べ物を吐いたり、下痢したりもあって、その度に神経がすり減りました。
 ある時は、夜、獣医さんも閉まっている時間帯に調子が悪くなり、動かなくなってしまったのです。あの時は、そのままノアローが死ぬのではないかと、言いしれぬ恐怖に襲われ、夜間営業をしている緊急獣医さんの連絡先を知らなかったら、一体どうなっていたかと思います。幸い、大事には至りませんでした。

 そんな時、ネットを通して知り合った犬友達の励ましの言葉が、どんなにか私たちの心を慰めてくれたことでしょう。心から感謝しています。赤の他人の愛犬であるノアローの事を心から心配してくれ、色々と考えて下さった方達に、何とお礼を言って良いのかわかりません。本当にありがとう。

 手術は成功し、ノアローの筋は元のように動けるようになりました。年が明けて1月になっても、完全に治ったとは言えない状態ですが、普通に歩いたり走ったり出来ます。ありがたい事です。

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 ノアローは前々から、外に誰か知っている人がいたりすると、ガラスをガリガリ両前足で引っ掻く癖がありました。それを見る度に、私の母は「怖い、危ない。いつかガラスが割れるからね。そうしたら大怪我するわよ」などと言ったものでした。が、私も夫も「まさか、ノアローの力でガラスは割れないよ」と真剣に取り合わなかったのです・・・。

 そして、忘れもしない11月15日、その日、縁側の前の庭には買ったばかりの激安中古車があり、いかにお得な買い物だったかを自慢するため、夫が知り合いと一緒に車のそばにいました。夫が目に入ると、ノアローは喜んで興奮しますので、その時点でノアローは興奮状態でした。
 そこへ、更に夫の友達がやって来たのです。この方は、家にも遊びに来て、ノアローも懐いている方でした。
 彼は多分、軽い気持ちでノアローに挨拶がしたかったのだと思います。縁側に沿うように歩き、かなり窓ガラスに近い位置にやって来ました。夫も私も「え?」と思いましたが、すぐにその場を離れると思ったのです。大概の人がそうするように。
 ノアローが大興奮して、ガラスをガリガリ始めました。更に悪い事に、夫の友達はガラス越しにノアローをかまったんです。今まで誰もそんな事をした事がありません。

 その結果、激しく喜び、興奮したノアローは、縁側を走って、その勢いで別の窓ガラスをガリガリし出し、さすがに私も「危ない、止めなければ」と席を立とうとした時、ガラスが割れたのです。あっと言う間でした。
 外にいた知り合いは、ノアローの血が飛び散るのをはっきりと見て、かなりショックを受けられたようです。お気の毒な事をしてしまいました。

 今、うちの縁側の窓に沿って、園芸用のラティスを立ててガードしています。これでガラスを引っ掻く事は出来なくなったと思います。更に上のガラスと車のガラスには飛散防止フィルムを貼る予定です。
 ただ、これも飛散防止ではあるけれど、ガラスが割れた場合、ガラスに残った破片で怪我をする可能性はゼロじゃないそうです。

 このように、普段から良く注意し、用心深く生活していれば防げた事故で、誰よりも可愛い大事なノアローが、私も経験したことのないような痛くて怖い思いをして、下手をすれば命を落としていたかもしれないという事実は、一生消えません。
 「助かって良かった。ラッキーだった。万歳!!」という気持ちと、 「何という恐ろしい目にノアローを遭わせてしまったんだろう。可哀想に。痛くてビックリして、怖かったろうね。ゴメンね。許してね」という気持ちが、いつもあります。

 時々、ニュースなどで、親御さんのちょっとした不注意で子供が大怪我をしたり、亡くなる事故を聞くことがありますが、それがどれ程お気の毒で、どれ程悲痛な事であるか、(中にはアレ?というような親御さんもおられるようですが)多少なりとも私にもわかったような気がします。

                                           2004年1月18日


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