不動産登記法改正(案)に対する意見書/補正手続を立法化せよ



電子情報処理組織を使用する方法による申請の導入等に伴う
不動産登記法の改正に関する担当者骨子案に関する意見

平成15年7月30日


法務省 御中

                      

〒250-0012
                        小田原市本町2丁目1番34号
                         司法書士 野 田 順 一
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意見の要旨

  この度公表された「電子情報処理組織を使用する方法による申請の導入等に伴う不動産登記法の改正に関する担当者骨子案」は、登記制度を利用する申請人の側に立った観点からの「補正手続の近代化」に向けての法整備が抜け落ちている。

  上記不動産登記法改正骨子案の検討に際しては、改正不動産登記法において、次のような補正手続の近代化を図るべきである。

 具体的には、登記申請(申請ファイル)や原因証書、付属書類、申請に添付するファイル(電子情報)などに不備があった場合、不動産登記法上に補正行為の法的位置付けと補正ができる範囲(追完を許す登記申請など)の規定を整備すべきである。

   
理 由

1 補正についての現行法の位置付け
  現行の不動産登記法においては、補正に関する規定は、僅かに不登法第49条但書きに「申請の欠缺が補正することを得べきものなる場合において、申請人が即日にこれを補正したるときはこの限りにあらず。」と規定されているだけである。
  この規定は、法務行政を司る国家が行政処分(却下処分)を発動するという観点に基づいた規定である。
  ところが、登記制度を利用する側の申請人の観点から見ると、登記申請を行った場合において、申請書や付属書類に不備があった場合、申請人が行う補正行為の意義や、如何なる場合に如何なる範囲の補正が、申請人の法律上の権利としてできるかどうかについては、全く考慮されておらず明文の規定もない。

2 補正行為の法的意義
  登記制度を利用する申請人が、申請後、もし登記申請書や原因証書・付属書類、或いは電子ファイルに不備があり、補正をしなけければ却下処分となるような場合は、申請人は、不登法上の順位保全或いは対抗力の付与(取得)を得るために申請書、付属書類などの訂正、補完をなし、不登法上の欠缺のない申請書や付属書類・電子ファイルを補完、訂正して、不動産登記手続における法律上の地位を確保できてしかるべきと考える。すなわち、登記制度を利用する申請人の側に立った場合、却下処分を免れるために行う申請人の補正行為の意義は、不動産登記手続における法律上の権利.地位(順位保全や対抗力の取得)を確保するための不可欠な行為であり、憲法第29条の財産権の保護(基本的人権)と結びついた法律上の権利であると考えられる。

3 現行法の不備箇所
  ところが、現行の不登法上には、先に指摘したとおり登記制度を利用する側の申請人の観点からの補正行為の位置づけが不動産登記法上に全くなされていない法律上の不備がある。
  現行の不動産登記制度は、登記官の形式的審査主義にあまりにも比重が置かれ過ぎ、その結果、社会常識とはかけ離れた形式的審査によって登記行政が運営されていると指摘せざるを得ない面が多い。
  一例をあげると、登記簿上の住所や氏名が1字でも申請書や原因証書、付属書類と合致していないと却下の対象となる(法49条5号)。この却下処分を受けないために申請人は、対抗力を取得する所有権移転登記や抵当権設定登記申請の前提として、住所や氏名の変更若しくは更正する登記名義人表示変更や更正登記申請などが必要となる。原因証書や付属書類自体に誤記があれば、文書の作成名義人か訂正するか、或いは代理人(司法書士など)が訂正権限の委任を受けて文書を訂正する必要がある。しかし、もしこの前提登記たる登記名義人表示変更や更正登記申請を見過ごして、この申請を行わずに本来の対抗力を取得するための所有権移転登記や抵当権設定登記を行えば、順位保全や対抗力の取得を主目的とする右登記申請は、取下をするよう勧告を受けるか、取り下げなければ行政処分(却下処分)の不利益を受ける(法49条)。
 原因証書や付属書類の誤記に気づかず、申請を行った場合も同様の不利益処分を受けることになる。
 現行の登記制度は、このようなちょっとしたミスでも右のように後から所有権登記名義人表示変更登記や前提登記の追完、或いは申請書と一体のものとして添付提出された原因証書・付属書類など書類の誤記の訂正を許さない法律制度になっていて、健全な社会良識や行政の効率的運営からみても、歪んだ制度となって運営されている。
  実際の登記申請の背後には、不動産取引の代金決済と登記が同時履行の関係に立っていたり、銀行の融資などは登記が先履行になって利用されている実態が多数を占めているが、登記制度の利用者たる申請人は、右のようなちょっとしたミスに対しても追完が許されず、却下処分を受けかねない危険負担を負わされているのである。

4 補正行為の法的位置づけと補正をなし得る範囲を明文化すべき
  そもそも不動産登記制度は、物権変動の過程を公示して、権利の順位保全や物権に対抗力を付与することによって第三者の信頼を保護しようとする制度である。
  登記制度を利用する申請人が順位保全や物権の対抗力の取得を目的とした登記申請を行った場合において、登記官の形式的審査主義との関係で先のような前提登記や報告的登記をする必要があるときに、これら登記申請を見過ごしたような場合でも、補正期間内であれば、受付日付や受付番号が遅れても、その追完すべき登記申請を後からすることを補正行為として認める法的手当をなすべきである。これら前提登記や報告的登記は、登記官の形式的審査に適合させる一つの手段であり、もともと登記制度の根幹である対抗力の付与(取得)や登記の順位保全とは関係のない次元の登記に過ぎないので、もしこれら申請が脱漏していたり不備があった場合は、補正期間内であれば追完行為として許すことを認めても、登記制度の根幹に何ら影響はない筈である。たとえ本来の対抗力の取得を目的とする登記申請内容と、不備を補う補正・追完行為としての登記申請の受付年月日が遅れていたとしても、登記簿上、これら前提登記の登記原因と本来の対抗力取得を目的とする権利の登記原因との対比でみれば、全体として整合性を有している問題であるので、不都合はない。
  したがって、不登法上、申請人において申請書、原因証書、付属書類若しくは電子ファイルなどに不備があった場合に、申請人は、法律上の権利として補正ができる旨の規定と、補正期間内であれば追完登記申請が許される新しい法律制度に改正すべきであり、同時に補正行為についても利用者たる申請人側の観点から補正行為ができる範囲とその法的位置付けを明文化すべきである。

5 まとめ 「補正手続の近代化を図るべき」
  電子情報を用いた登記オンライン申請が行われるなら、第3項で指摘したようなちょっとしたミスに対しても、国がもっぱら却下処分を行うという発想と前提にたった旧来型の登記制度では、登記制度を利用しようとする申請人にとって登記申請のオンライン化は、ますます使い勝手が悪くなる一方であり、とても怖くて利用できない登記制度となってしまう。
  電子化されたファイル(見えない情報)を登記申請内容とする限り、登記申請のオンライン化を図るなら、前項で指摘したような補正手続の近代化は不可欠である。

以上


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=追記=

 上記意見書は、法務省の
『 電子情報処理組織を使用する方法による申請の導入等に伴う不動産登記法の
改正に関する担当者骨子案に対する意見募集の実施結果について(報告)』
の中で、補正手続を法定化す
べき意見として報告がなされております。


第2  意見の概要
2  現代語化その他
(7 ) その他
ア  オンライン申請の導入に関するもの
 イ 「ア以外のもの 」
「 補正手続を法定すべきとする意見(2件)」




神奈川県司法書士会

司法書士 野田 順一

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