司法書士がなす法的役務の提供行為と弁護士法第72条との関係について



目   次

T  はじめに

U  司法書士がなす法的役務の提供行為と弁護士法との関係について

V  法律家の使命と司法制度における司法書士職能の位置付け

   @ 法律家の使命と存在意義

   A 司法制度における司法書士職能の位置付け

W  司法書士が提供する法的役務の中身

   @ 司法書士職能はどの様な法的役務の提供を得意とするか。

   A 司法書士がなす法的役務(交通整理)の意義

X  正当業務行為に線引きが必要か

Y  司法書士職能の存立基盤の確立

Z  成年後見の分野と司法書士職能

   @ 成年後見の分野は新しい業務分野か

   A 成年後見の法的需要

[  最後に



T はじめに
   近年においては、司法書士の社会的使命を果たす意義が叫ばれ、司法書士会としても各種法的サービス提供する機会が着実に増大してきている。
  また、平成11年度からは、司法書士会も組織として市民社会に対して各種法的サービスの提供に資することを目的として、連合会と共に会則変更がなされ、会則第3条の事業目的に「国民に対して司法書士が提供する法的サービス
の拡充に関する事項」という規定が新設されたことにより、司法書士会の役割として、各司法書士が法律実務家として国民に対して各種法的サービスを提供し、その拡充を図る為の諸施策を企画し、実践する為の各種事業を展開することになった。
  更にまた、平成12年4月1日以降、民法改正による成年後見という新しい制度が施行されたが、この受け皿として、司法書士界は「社団法人成年後見センター・リーガルサポート」を設立して、この運営主体に司法書士がその得意とする分野で関わることによって、社会的使命を果たすべく、既にその為の準備や研修なども着々と行われております。また成年後見制度のPR活動もあって、成年後見に関する相談事例や受託事例も徐々に出始めている状況にある。
  この様に、司法書士界は、今後、いっそう司法書士がその持てる能力を発揮して市民社会に対して様々な法的サービスの提供する機会が益々増大して行くことになるものと思われる。
  ところが、将来的に、司法書士が具体的な行為として果たそうとするこれら法的役務については、必ずしも司法書士法第2条に表記されていない業務も視野に入っているために、弁護士法第72条(法律事務の独占規定)、第74条第2項(法律相談、法律事務取扱の標示禁止規定)との関係をどの様に評価し、理解すべきかという弁護士との職域問題が避けられず、現状ではこれが未解決のままとなっている。つまり、司法書士が行おうとしている様々な法的サービスの提供行為自体が、弁護士職能との関係でどの様に整合性を有することになるのか、そしてまた、それら行為が果たして司法書士職能の正当な業務行為と言えるのかどうかと言った論点にも及び、これら未解決の問題は、日本の司法制度における法律家職能の位置付けを根幹から問い直すべき問題を内包している。この為、当然弁護士の側からは、非弁活動ではないかという攻撃と軋轢を生じさせる要素を常にはらんでおり、司法書士が法律実務家として様々な法的サービスを提供したり、その輪を広げて活躍すればするほど、この難題がいっそう頭を持ち上げてくることになります。
  これら司法制度における未解決部分は、前記社団法人の設立認可が法務省によってなされたとしても同様で、弁護士法の例外規定にはならない問題です。

  従って、連合会及び各司法書士会の会則改正が先の様になされたとはいえ、今後、市民社会に対して司法書士会として様々な法的サービスの拡充を図ることが必須の状況である今、司法書士職能集団たる司法書士会としては、その前提として、先の司法制度のうえから避けては通れない論点について、どの様な理論構成をもって整合性を持たせるのか、という解決の道筋を明確にしなければならない時期にきております。
  社会の変革期である今、我々司法書士は、「弁護士法第72条、74条」との関係を真正面から受け止め、もう一度自らの足元を見つめ直し、職能集団の存立基盤を整序、確立して、これを組織として自覚すると共に、対外的にもアピールする必要があると考えます。

U 司法書士がなす法的役務の提供行為と弁護士法との関係について
  さてそこで、司法書士職能が様々な法的役務を提供する行為と弁護士法との関係について、日本の司法制度を視野に入れたうえで、検討してみたい。
  司法書士職能と弁護士法との関係については、結論から述べれば、従来に見られた司法書士法第2条の業務規定と弁護士法第72条、74条を単純に表面上から対比する文理解釈では、整合性をもった理論の構築は不可能だと考えます。つまり、この様な手法では、弁護士側からの攻撃にまともに反論できないばかりか、結局は呪縛に陥り、解決の道筋が見えない堂々巡りに終わるものではないでしょうか。
  この関係について、私見を述べれば、弁護士法第72条、74条に基づいた弁護士からの主張に対しては、右のような文理解釈に留まらず、弁護士法の沿革と司法書士法の沿革を対比させつつ、法第2条に加え、第1条の目的規定、第1条の2の職責規定を含めて、司法書士法を更に深く掘り下げた職能の根幹部分から吟味し直し、そこから導き出される司法書士職能の存在意義は如何なるものか、といった司法書士職能の専門性、独自性の本質(中核部分)から論理解釈を展開することが必要となってくるものと考えます。

V 司法制度における位置付けと法律家の使命 
  そこで、この論理解釈を展開する糸口として、司法書士職能は、日本の司法制度における法律家職能の中で、どの様な位置を占め、そこにどの様な職務の専門性.独自性が認められるのでしょうか。また、そもそも法律家の使命と存在意義は、如何なるものでしょうか。換言すれば、この様な法律家としての司法書士職能の足元を再吟味してみて、初めて正当に反論できる論拠が見いだされるのではなかろうかと思います。

 @ 法律家の使命と存在意義
  法律家の基本的使命は、法的に意味のある事実を見極め、この事実に法律や判例を適用し、その適否や行為の行方を法律判断することを契機として、紛争の解決や紛争の予防或いは権利の実現.確保を図ることが本来的な役割である(注1)。
  司法書士の本来業務である登記事務も裁判手続書面の作成業務も、法律実務家たる司法書士としての根幹は、この法律家の基本的使命に由来して、その根幹部分は共通であることをここで再認識しておく必要がある。もしこの把握を怠ると、登記事務と裁判事務、或いは様々な法的役務の提供行為は、それぞれ別個な業務ではないかとの疑念が生じて、司法書士法第2条を表面上から文理解釈する従来型の業務分析に終始することになりかねない。

 A 司法制度における司法書士職能の位置付け
  法律家の基本的使命という観点から見れば、司法書士も法律実務に携わる者として法律家の一員であることに異論はなかろう。次に、司法書士法の沿革(弁護士法と司法書士法の沿革の対比は別稿に委ねる)から見ても、司法書士は、司法代書人の時代から、一つの柱として、弁護士による代理人訴訟とは異なった法的需要を背景に、本人訴訟を行おうとする当事者その本人に対し、裁判手続書面の作成、助言、事件管理などの法的役務を提供する援助型関与(注2)を通じて、本人訴訟を脇から支え、憲法第32条の「裁判を受ける権利」の一翼を担ってきた。また、もう一つの柱である登記事務の分野では、「対抗力の取得(民法第177条)」などの登記手続を通じて「財産権の保護(憲法29条)」に関わる法律事務を、また会社や法人登記手続を通じて法人格に関する登記手続を担ってきた実績をもつ。
  つまり、これら二つの大きな柱を担ってきた職能が司法書士であり、そのこと自体が、日本の司法制度に於けるもともとの司法書士職能の正当な位置付けであったのではないだろうか。しかし、この場合において残念なことに、司法書士職能によって現に果たしている、若しくは果たしてきた法的役務の中身についての自己分析がなされず、この為、その分析結果に立脚した正当な評価を職能集団の共通の認識基盤となし得ず、従って、この重要な観点からのピーアールが世間に対して行われて来なかった要因もあって、司法制度における司法書士職能の正当な位置付けが未確立に留まっていると見るべきではなかろうか。

W 司法書士が提供する法的役務の中身
 @ 司法書士職能はどの様な法的役務の提供を得意とするか。
  ところで、この二つの大きな柱を担ってきた司法書士とは、本来、司法書士は、依頼者との関係でどの様な法的役務を提供することが得意で、どの様な法的場面で社会的有用性を発揮しているのであろうか。一人の司法書士としての実務体験から、法的役務の中身を分析してみたい。
  そこでまず、経済取引や市民生活から派生する種々な法律事象を想定してみよう。
  法治国家においては、現実に権利を保全したり、実現しようとするためには、最終的には執行(裁判)手続や登記手続に精通していることが不可欠です。法律に明るいだけでは、いざ権利を実現しようとする際には役立ちません。法律の手続に乗せてこそ、権利が確保されたり、実現できる仕組みとなっていることはご承知のとおりです。
  登記手続を考慮しない不動産取引や和解条項又は判決、或いは執行手続を考慮しない担保権設定契約などは絵に描いた餅に等しい。また、訴訟における挙証責任.要件事実をわきまえない法的助言、契約書の作成などは紛争の火種になり得るばかりでなく、役に立たない。
  この様に、法生活を営むうえで権利の実現や保全を図るという実践面で考えると、法的需要者たる市民や企業のために、本当の意味で役立つ法律実務家とは、本来、この様な最終の法律手続に精通した法律実務家である筈です。現実には、最終の法律手続に精通せずして、的確な法的助言や事件のふるい分けもできないし、法律相談も中途半端な相談に終わらざるを得ないのが実状です。逆に、登記手続や執行(各種裁判を含む)手続を考慮しないまま法的助言をしたり法律相談に応ずることは、あとで法的手続として通用しないお粗末な結果に結び付く恐れのある無責任な行為とも言える。
  従って、法律手続に精通した司法書士が、依頼者のために最終の法律手続(裁判手続や登記手続)を踏まえて法律相談に応じたり、的確な助言などを行う法的役務の提供は、むしろ職能としての正当な業務行為であると解すべきでしょう。

A 司法書士がなす法的役務(交通整理)の意義
  ところで、司法書士がなす法的役務のうち、司法書士法第2条に直接表記されない種類の法的役務については、弁護士法との関係においては、如何に評価すべきでしょうか。
  これまで検討してきたことから明らかなとおり、司法書士の存立基盤は、@法律家の基本的使命という根幹部分が深層にあり、A更にその上に、「司法書士は、高度な法律知識を有しつつ、裁判手続や登記手続に精通している(注3)」専門家であると位置付けられるので、司法書士職能が、法的需要者たる市民や企業の求めに応じて、最終の法的手続(各種裁判手続や登記手続)を踏まえたうえで、職能の本領を発揮して誠実に法律相談に応じたり、様々な法的サービスを提供する行為(交通整理)は、ごく当たり前な「正当業務行為」と解さざるを得ないことは明らかです。もし仮に、そのことをもって弁護士法違反の行為になると攻撃されたり、評価される様なことがあれば、それは、どう考えてもおかしいな論拠であることに気が付きます。職能として誠実に対応することで非難され、途中で依頼者に、それから先は弁護士の仕事であると放り出して、依頼者の要請に敢えて応えないことが社会正義となる様な主張は、どう考えても正しい論拠とはいえまい。

X 正当業務行為に線引きが必要か
  ところで、この様な論理解釈を展開した場合、司法書士法第2条に直接表記されていない様々な法的役務は、弁護士法72条、74条との関係で、線引きを必要とする事柄であろうか。

  世の中の社会事象から派生する様々な法律問題は、ある時点から突然司法書士の業務から線引きされ離脱して、弁護士業務の範疇に入るものではなく、時間の経過や取引内容の変更、或いは、生身の人間が織りなす相手方の主張の変容、諸条件の変化などにより常に変動しているのが実態である。これらの場合、職能として臨機応変に対応したり、的確な助言や別の法律手続を選択することなどによって、必ずしも最終の法律手続に乗せないで問題の解決や保全策を果たせることも多い。
  この様なケースに、弁護士法との関係でいちいち線引きをする必要は、原則としてないだろう。もしあるとすれば、途中で相手方との間に紛議が生じて依頼者から相手方とその紛議について代理人として直接交渉して欲しいなどとと依頼されたような場合は、司法書士の業務範囲を超えるので、自ら線引きする必要があろう。
  しかし、その様な紛議性を生ぜず、特に代理人として相手方と事件交渉をする必要のない日常生活から派生する一般の法律事件については、司法書士の立場で最終の法律手続を踏まえて対応する限り、自ら線引きをする必要はないものと解して、依頼者の期待に応えることの方が社会正義に沿った職能の関わり方であると考える。
   この様に検討してみると、司法書士が依頼者から依頼された主旨に沿った対処をする限り、たとえその法的役務自体が最終の裁判手続や登記手続に至らないで終結したとしても、それはそれで立派な「職務行為」であるといえよう。
  もし、この様な司法書士の関わり方に対して、弁護士の側から非弁活動ではないかとの主張や攻撃を受けることがあれば、それは社会常識に叶った正しい論拠とは到底考えられないので、職能として反論しなければなるまい。

Y 司法書士職能の存立基盤の確立
  以上、司法書士が果たす様々な法的役務について、弁護士法との関係で職能の存立基盤が何処にあるのかという観点を中心に検討してきたが、ここで、改めて整序しておきたい。
  第一に、司法書士職能の特徴を一言で言えば、「司法書士とは、高度な法律知識を有しつつ、裁判手続や登記手続に精通している法律実務家である」ことに集約される。
  第二に、法治国家においては、現実に権利を保全したり、実現しようとするためには、最終的には執行(裁判)手続や登記手続に精通していることが不可欠である。
  司法書士が依頼者から様々な法的役務を求められた場合には、最終の法律手続を念頭に置きつつ、専門家の立場から的確な助言や法律手続を選択して法的解決を図るための正しい交通整理(様々な法律事務)を行う行為は、職能としての社会的使命に沿った当然の行為であって、他から非難されたり、又は自ら抑制すべき行為ではない。
  第三に、従って、弁護士法との関係では、この様な法律手続に精通した司法書士職能が、依頼者の求めに応じて依頼の主旨に沿って誠実に様々な法的役務の提供をする行為は、弁護士法第72条の「その他の法律事務の取り扱い」の禁止行為には該当せず、司法書士の正当な業務行為であると解することが社会正義に合致する。
  この様に、改めて司法書士職能の存立基盤を整序してみると、司法書士は、その得意とする分野において、様々な法的需要に対してその持てる能力を発揮して正々堂々と社会的使命を果たし得る根拠が明らかとなったのではなかろうか。

Z 成年後見の分野と司法書士職能
 @ 成年後見の分野は新しい業務分野か
  ところで、司法書士界は、来春の民法施行に伴う新しい成年後見制度においては、その得意とする分野で関わることになろうが、この分野は、司法書士法2条にはない新しい分野として捉えるべきか、それとも既に述べた司法書士職能という存立基盤から導き出される当然の分野として捉えるべきであろうか。
  成年後見に関わる法律事務の内容は、いろいろな局面で千差万別であり、具体的な事務を想定し、その行為の法的意義を分析してみないと、その行為の評価はできないが、新しい分野として捉える見解は、概括すると、司法書士法第2条の業務規の解釈を従来型の文理解釈に留め、弁護士法との関係をすり抜けようとする見解に結び付きやすいのではなかろうか。従って、非弁活動ではないかとの主張.攻撃に対しては、もろい部分を抱え、様々な役務の展開を図ろうとする都度、弁護士法との関係で、呪縛に陥りやすい欠点を持つ。更に、この様な受けとめ方は、司法書士制度の存立基盤を曖昧なものにする恐れがあるし、同時に、司法書士とは本来どの様な特質を有する職能であるのかという自己分析の視点が欠落する結果となり、この為、より良き司法書士制度の発展を図るという観点からは、阻害要因となる恐れもあるのではなかろうか。
  この様に検討してみると、司法書士が成年後見に関する分野に関わることの受けとめ方は、既に述べた法律家としての基本的使命と司法書士職能の存立基盤から演繹される司法書士職能の正当業務の一場面でしかないものと捉える方が妥当性を有するものと考える。
  もちろん、司法書士が任意後見や家裁による選定後見によって後見人になったとしても、当該後見事務を行う行為自体は、司法書士法第2条に表記されていないので、その限りでは新しい業務とも言えなくもないが、もともと後見人の制度は、被後見人を保護するための民法の法制度の問題であって、職能法とは直接関連がないものであるので、そのこと自体をもって新しい業務と捉え、職能法に定められた業務が拡大されたと評価することは出来ないと考えます。

 A 成年後見事務の法的需要
  次に、成年後見の法律事務を想定するなら、どの程度の需要が考えられるであろうか。
  恐らく、成年後見に関連する分野の法的需要のうち、後見人を必要とする事例が将来仮に生じたとしても、その割合はごく僅少ではなかろうか。そしてこの制度を利用しようとする法的需要が生じたとしても、後見人候補者は、第一義的には、まず信頼関係のある家族や親族となるでしょう。次いで、第二義的には、それまでの人生において何らかの関わりのあった友人や知人という順序となり、司法書士の出番があるとすれば、一番最後の部類であることが予想できます。そしてこの最後の部類のうち、司法書士に報酬を支払ってまで後見人を選任しなければ財産の保全管理が出来ないという高齢者のケースは、そう滅多にあるものではないでしょう。この様な極めて希なケースがあったとしても、そこに至るまでの間の依頼者との関わり方は、相当強い信頼関係の構築が為されていない限り、その様な法的需要を生ずる見込みも期待薄である。
  この様に想定してみると、民法改正により司法書士が成年後見人になるというケースは、極めて希な場合に限られると予想しておく方が実際的なところであろうし、もし会員において、成年後見という分野で業務の拡大と報酬の増大を期待しているとすれば、それは全くのお門違いであり、期待はずれに終わると見て良いだろう。
  しかし、実際問題として、人間が生活するうえにおいては、様々な法的手当が必要となる場面は多い。高齢者を抱えた周囲の家族関係から派生する場面でも同様で、この様な法的手当を必要とするときに、一般市民は必ずしも法律知識や法律手続に精通しているわけではないので、潜在的には、誰しも気軽に相談に応じてくれる身近な法律実務家を求めていることに変わりはない。これら実社会の法的需要から想定してみると、成年後見の法律事務に司法書士が関わることになる本当の意義は、後見人や後見監督人となるもっと以前の段階の、普段の生活から派生する様々な法的需要に対して、専門家の立場から法律相談に応じたり、的確な助言をしたりする法的役務の提供をする場面の方が、圧倒的にその需要が多い筈であり、むしろそちらの方が司法書士報酬の増大につながる余地が大きいと言えよう。
  この様な潜在的な法的需要に対し、成年後見の新制度を契機として、司法書士が身近な場面で、地に足のついた関わり方をして行くことが定着してゆけば、おのづと司法書士のすそ野が広がり、その実績を積み上げることにより司法書士が広く社会に認知されるきっかけになることは間違いのないことであり、そのことの方が最も重要なことであると考える。

[ 最後に
  司法書士職能の存在意義と存立基盤は、法律家としての基本的使命と司法書士職能の独自性、専門性の中核部分に由来していることは、既に述べてきたところである。
  そして、この存在意義と存立基盤に基づいたところに職能の立脚点を据えると、司法書士が法的役務を提供する場面は、相当幅の広い法的需要に対して「正当業務行為」として対応することが可能であることが明らかとなったのではなかろうか。
  冒頭にも触れたように、司法書士会の会則が変更され、会則第3条の事業目的に「国民に対して司法書士が提供する法的サービスの拡充に関する事項」という規定が新設されたことを契機として、今後各地域において、個々の司法書士が様々な場面で、市民社会に対してより一層身近な法律実務家として役立ち、司法書士制度を大いに活用してもらうための原動力となるためにも、我々司法書士自身において、今一度自らの足元を見つめ直し、職能集団の存立基盤を改めて整序確立して、これを組織として自覚することが今日求められている最重要課題ではないでしょうか。
  それと同時に、対外的には、司法書士職能を一言で理解してもらうにふさわしいキャッチフレーズなどを考案(注4)し、対外的にも大いにアピールする必要があると考えます。
以上



参考文献


注1 横浜司法書士会会長諮問に対する平成9年3月17日付制度委員会答申書 「司法書士制度の変革の方向性
とその対応」《司法書士の果たすべき役割と司法書士像》Yの3


注2 「司法改革と司法書士」九州大学教授 和田仁孝
  法学セミナー 1993年3月号 P55以下において、裁判事務の関与の仕方として「援助型関与の優位性」
を論じている。


注3 前記答申書 Yの5
 司法書士法 第1条の2(職責)
 「司法書士は、常に品位を保持し、業務に関する法令及び実務に精通して、公正かつ誠実にその業務を行わなけれ
ばならない。」としている規定と結びつく。


注4 司法書士職能のキャッチフレーズ(案)〔当司法書士のホームページより引用〕

  法治国家においては、現実に権利を保全したり、実現しようとするためには、最終的には
執行(裁判)手続や登記手続に精通していることが不可欠です。法律に明るいだけでは、いざ
権利を実現しようとするときに役立ちません。法律の手続に乗せてこそ、権利が確保されたり、
実現できる仕組みとなっています。
  「司法書士は、高度な法律知識を有し、裁判手続や登記手続に精通した法律実務家です。
法律手続に精通しているからこそ、各種法手続の行方を考慮しつつ、的確な法律相談や法的助言
ができる職能集団なのです。」

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神奈川県司法書士会

司法書士 野田 順一

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