『口遊』といえば九九が載っていることで有名であるが、この九九を実際にど
 のように唱えていたのかはわからない。
  現行の九九では、ニニンガシ・ニサンガロク・ニシガハチ・サンニガロク・
 サザンガク、というように答えが一桁の場合には、ガを付けて唱える。単なる
 リズムの問題でないことはニゴジュウと比較すれば分る(ただこれを〈ガが0
 を現わす〉とまでいうのは行過ぎだろう。ニゴジューガ・シゴニジューガ……)。
  このような唱え方はいつごろまで遡れるものなのだろうか。今手元に有る明
 治五年刊『本朝三字経』に「九九之数」が付いている。これによれば、今とは
 唱え方が違いそうである。
  二二ヶ四 二三ヶ六 二四八(!) 二六十二 二七十四 二八十六 二九十八
  (なし) 三三ヶ九 三四ノ十二(!!) ……
 
 こう見ると、今の唱え方は後から整備されたものかも知れないと思えて来る。
 
 とはいっても、2・4・6・8・10でも、ニーシーローハート・ニーシー
 ローヤート・ニノシノロノハノジュ・ニノシノロノハノト・ニーシーロクハチ
 ジュ・ニノシノロンポヤイテジュなど、様々な唱え方があるわけで(参照)、
 この頃にニシガハチ式の数え方がなかった、とまでは言えないのであるが。
 
 「二三が六」を唱えると、もう「三二が六」は言わないのは面倒でなくてよ
 い。これは口遊の伝統を引いている訳である。
 また、インイチガイチなんていう、掛け算の概念を知るため以外にはあまり意
 味のないのは、口遊には載っているがこの本には載っていない。。