現在の解析ツールでは、これらの3つの難点をつぎのように解決しています。
 1つ目のすべりのある境界での不安定性への対応ですが、2つ方法があります。
1つは従来から利用されている物体間に弱いばねを自動生成する方法です。もう1つは計算の初期段階に仮想の粘性抵抗を与えて接触認識時の不安定状態を解消し、計算終了までにこの粘性を取り除く方法です。現在では特に後者を自動化した方法が主流になっているようです。但し、仮想粘性の歪エネルギーが物体の歪エネルギーを十分下回る環境下で実施すべきという制約があります。仮想粘性の歪エネルギーが大きすぎると、現実の挙動とは異なる結果が得られてしますからです。収束した結果を鵜呑みにするのではく、正しい計算がなさているか確認すべきでしょう。

 2つ目の塑性変形に伴う材料特性の変化については以下の手順で計算されます。
(1) 材料特性である応力−歪曲線を多点折れ線グラフで設定します。
(2) 最初の計算では、初期荷重に対して、原点を中心とした曲線の傾きでたわみを
  計算します(物体は初期状態で接触位置にあるとします)。
(3) 材料特性が非線形ですので、(2)で導出した解は(1)の曲線上にはありません。
  そのため、次の処理として応力−歪曲線上に解がフィットするように、ニュートン・
  ラプソン法と弧長法などで反復計算をして収束解を求めます。
(4) 計算が収束し解が曲線にフィットしたと判断されると、付加荷重の増分処理が
  なされ計算は次段へと移っていきます。
詳しい点は専門書に譲りますが、最近では設定した応力−歪曲線の曲率に応じて付加荷重の増分を自動で調整する機能や折れ線の点間を高次関数で補間する機能などがあり、未収束に終わる計算を大幅に低減しています。

 3つ目の有限要素の歪への対応ですが、これはリメッシュ機能という素晴らしい機能が登場しています。ある程度要素の歪が大きくなるとその部分の要素を再分割します。その時点での計算結果は、データマッピングにより新しい要素に割り当てられるため、リメッシュにより計算結果が異なることはありません。この機能により未収束に終わる計算が大幅に削減されました。

 このような技術の進歩から、プレス加工解析は概ね解析結果が得られる水準に達しています。解析手法の陽解法の実用化も大きいでしょう。10年前までは簡単な塑性変形の解析が出来る程度でした。それがプレス加工に特化した解析ツールまで登場するようになったのです。素晴らしい技術の進歩ですね。

(2013.8.2)


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