PN 葦座那由他 (よしざ なゆた)
がやがやがや・・・
とある教室での昼休み。
ごくごくありふれた光景。
自分にはあまりにも広すぎるように感じる教室の中は、皆の明るいさざめきに溢れている。
聞けば、昨夜のテレビの話だとか、先日知り合った女子校生がなんだとか、どうでもよい話題が飛び交っている。
窓の外を見渡せば、明るい日差しの中でボールを追いかけている数人の姿が見える。
だが、そんな中で自分が感じているのは孤独だ。
孤独・・・。
そう、自分ひとりだけが、別の空間に迷い込んでしまったような違和感。
そこから感じる焦燥と孤立感。
まるで、自分がどこかに迷い込んでしまったような疎外感。
周囲の明るい空気に比べ、自分の周りにねっとりとした黒い靄のようなものがまとわりついているのが分かる。
この感覚は・・・
不安・・・?
焦り・・・?
それとも絶望・・・?
そしてちくちくと僕をさいなむ視線。
まるで自分を・・・どこか蔑んでいるようにも感じる。
気のせいか?
いや、実際、自分の半径数メートル以内には誰一人として近付こうとしていない。
そのくせ、彼らの一部はこそこそとこちらを覗いている。
中にはひそひそと何かを耳打ちしあい、ふふっと笑いをこぼしてる者もいる。
僕のことを笑っているのか?
いや、やはり気のせいだ。
僕の考えすぎだ。
くだらない。
そうだ、くだらない。
そもそも、奴ら自体がくだらない存在なのだ。
そんなくだらない存在の言動に、いちいち振り回されるのはもっとくだらない。
ふと、顔を向けると、視界にあの娘が入った。
いまどき珍しい、ポニーテールがよく似合うあの娘。
まるで子猫のような可愛い声で笑うあの娘。
いつでも明るくて、誰にでも優しくて、こんな僕にも明るい笑顔を向けてくれるあの娘・・・。
かつてはこの娘がいれば、こんな暗い世界でも生きていける、と考えたこともあった。
この娘の存在だけが、僕をこの世界に繋ぎとめていてくれるものだと思った。
だが、その淡い恋心は、彼女に既にお似合いの男がいることを偶然知ったことによって音も無く終わりを告げた。
それでも彼女の存在は、今でも自分にとって大切な何かを押しとどめているような気がする。
くだらないこの世界と自分を繋ぎとめている、世界にたった一つ残された大切な絆。
そう、彼女は僕にとって絆であり、希望なんだ。
しかし、考えてみれば、そんな彼女とも、もう何週間も話が出来ていないような気がする。
そうだ。
ここのところ、僕の調子がおかしいのはそのせいだ。
周りの視線が全て敵のように見えるのも、明るい日差しの中に闇を感じるのも、全ては彼女のせいだ。
そうに決まっている。
だって彼女は僕と世界を繋ぐ絆なんだから。
そう、こののしかかるような焦燥感から抜け出すには彼女の声が必要だ。
彼女のしぐさが必要だ。
彼女の微笑が必要なんだ。
でも、今更なんて声をかけたらいい?
「こんにちは」?
「おひさしぶり」?
「元気?」?
なんだか、どれも違う気がする。
そうだ。
そもそも人に話し掛けるときって、何と言って話し掛ければいいんだっけ?
・・・・・・・・・・。
なんで僕はこんなになってしまったんだろう・・・。
昔は・・・もっと昔は僕はこんなんじゃなかった気がする。
そう、この学校に来たばかりの頃は僕だって、あの娘とも普通に話せていたじゃないか。
そもそも、考えてもみろよ。
彼女は絆なんだ。
絆である彼女が僕を拒絶するわけがないじゃないか!
世界がどんなに腐っていても、どんなにくだらなくても、彼女だけはいつも変わらずに明るく微笑んでいる。
それが絆ってヤツじゃないのか?
深く考えることはない。
どんな声を掛けたって、彼女は笑いながら答えてくれるはずだ。
そして・・・その微笑が僕をこの闇から救ってくれる!!
僕は意を決して彼女に声をかけようと椅子から立ち上がる。
しかし彼女は僕には目もくれず、くだらない奴らの輪の中に入っていく。
あれ?
どこへ行くんだい?
キミは僕を救ってくれるはずだろ・・・?
そして、僕は見た。
彼女が他のくだらない奴らと一緒に僕の方を見ながらくすりと笑ったのを・・・。
その眼差しは・・・今まで見たことも無いくらいの卑下と哀れみの光に満ちたものだった・・・・・・。
「うわっ!!」
えも言われぬ不快感と不安感に襲われた僕は反射的に目を開けた。
視界に入るのは天井からぶら下がった、つけっぱなしの蛍光灯。
部屋の隅のテレビはついたまま、砂模様。
身体中にびっしょり汗をかいて、僕は部屋の真ん中で横になっていた。
どうやら、テレビも電灯もつけっぱなしでうたたねをしていたらしい。
「夢・・・か・・・。」
とにかく嫌な夢を見た。
詳しい内容は覚えていないが、とにかく嫌な昔の夢だったと言う感覚だけは覚えている。
なにげなく時計に目をやると、針は3時半を示している。
一瞬、昼間の3時半なのか明け方の3時半なのか迷ったが、テレビの様子を見るに、前者であるわけが無い。
というのは、実はこの部屋はもう、何年も前に閉めた雨戸が閉まりっぱなしで、昼間でも殆ど光が入っていないのだ。
だからこういう時、一瞬朝なのか、夜なのか迷う。
まぁ、別に今が昼間だろうが、夜だろうが、今の自分の生活においてはあまり大きな問題ではないのだが。
「腹・・・へったな・・・。」
ふらふらと疲れきった足取りで、キッチンの方へと向かう。
冷蔵庫を漁ってみるが、既にろくなものは入っていない。
調味料だとか、賞味期限切れの卵だとか、そんなものばかりだ。
我慢をしようかとも思ったが、その考えがよぎった瞬間に腹の虫がうなった。
どうして人間というのは、こう思い通りにならないのだろう。
こうなったら、何か食べ物を買出しにいかなければならない。
この時間だと・・・コンビニか・・・。
僕は部屋中に散乱している脱ぎっぱなしの服のポケットから財布を捜す。
CDのケースやマンガや雑誌などをどかしながら心当たりの服のポケットをまさぐる。
あった。
3日前に、同じようにコンビニに出かけたときに着たジャケットのポケットの中に、そのときのレシートと一緒に財布は入っていた。
僕はそのまま、そのジャケットを羽織ると、夜食には遅すぎるが、朝食には早すぎる飯を求めて近所のコンビニに走った。
目的のコンビニは自分の部屋から徒歩で数分。
今のコンビニは本当に便利だ。
大抵の生活用品が手に入るし、今ではお金を下ろすことも出来る。
実際、僕はここ数ヶ月、このコンビニと自分の部屋の道のり以外の「外」に出ていない。
つまり、人と会うと言うことを殆どしていない。
まして、今日のようなこんな時間なら途中で人とすれ違うことすら殆ど無い。
コンビニなら店内で「お弁当は温めますか?」などといった必要最小限の会話をするだけで、買い物は終わる。
生きていくにはこれだけで十分である。
自分のような境遇の人間には実に住みやすい時代だ。
例によって、自分はその「必要最小限の会話」で割子そばと野菜ジュースを購入し、部屋に持ち帰った。
これからこの半端な飯でも食べて、気が向いたらゲームでもして、明け方ぐらいに二度寝でもしようか・・・、そんなことを考えながら見慣れたドアを開けた。
「・・・・・・!!?」
何かがおかしい。
いつもの見慣れた部屋の配置に不自然なものが混ざって視界に入っている。
それが何であるのか、気が付くまでに僕には数秒の時間が必要だった。
自分の部屋は六畳一間に小さなキッチンがついただけの物件で、玄関からキッチンを通して、部屋の全貌が殆ど覗ける。
その部屋の奥、丁度さっきまで自分が寝転がっていたあたりに何かがある!?
いや、いる!?
それは一人の少女だった。
何の前ぶれも無く、ひとりの少女が自分の部屋で眠っていたのである。
自分がコンビニに買出しに行ったほんの数分の間に!
何者?
いつの間に?
どうやって入った?
一体何が目的?
自分の頭の中に「?」のマークが飛び交うのが分かったが、しばらくして思考を停止してしまった。
コレも噂に聞く「ゲーム脳」とか言うヤツの前兆だろうか?
ゲームばかりしていると、脳は反射的な刺激に慣らされて、じっくりものを考えることが出来なくなる、というアレだ。
まぁともかく、実際どちらにしても、彼女が何者で、何をしに僕の部屋にいるのか、それを知る必要がある。
しかし・・・かと言って何の手がかりもない。
自慢ではないが、先にも言ったように僕はここしばらくろくに人とも会っていない。
電話もしていない。
インターネットのチャットやメールくらいならしているが、彼らとはお互いのハンドルネーム程度しか知らない。
とにかく心当たりが全くない。
こうなれば、直接本人に聞く以外に知る手立ては無いだろう。
そもそも彼女の目的が物取りであるなら、とっくに目的のものを盗んで立ち去っているだろう。
とは言っても、こんなダメ人間の部屋に物取りが喜びそうな物など何一つないのだが。
そもそも、見知らぬ男の家で眠り呆けていることからして不自然だ。
とりあえず、この少女に見覚えがないかどうか、その寝顔を覗いてみる。
歳の頃は・・・15,6にも見えるが、ちょっと判別がつきにくい。
そもそもこの頃の女性の歳というのは、見た目だけで判断するのはなかなか難しい。
やけに大人びている10代の娘や、若作りの20代、世間にはいろいろな人がいる。
まして、普段、殆ど人に会ってすらいない自分だ。
こんな微妙な判断ができるわけがない。
それに、こんな間近に女性を見ること自体、何年ぶりだろうか?
髪はうっすらと茶色がかった黒髪で、セミロング、といった長さか。
服装は黄色のタンクトップに青いホットパンツという、ややファンキーな、そしてなかなか目のやり場に困る格好だ。
現に横向きで眠っている彼女の肩の脇からブラの肩紐が見え隠れしている。
それを見つけるとなぜか急に気恥ずかしくなって、慌てて目をそらしてしまった。
それでも時折彼女をちらちらと見やりながら様々な憶測を張り巡らした。
彼女は何者だ・・・?
彼女は・・・そう、きっと僕みたいな、仕事も学校にも行っていない、それどころか人と会うのも怖がっているようなダメ人間を校正するために神様が遣わした天使・・・な訳ないな・・・。
えっと・・・それならば・・・、そうだ。
先日雨の中でにゃーにゃー泣いていたあの捨て猫。
ふとした気まぐれでミルクをあげたあの捨て猫が人間の姿を借りて恩返しにやってきたんだ。
「おかげさまで助かったニャン。お礼になんでもご奉仕するニャン。」なんてね。
・・・・・・・・・。
・・・・・・バカか、僕は・・・。
それは先日クリアした某エロゲーのお話だろ?
そもそも捨て猫にミルクなんてあげてないだろ・・・。
じゃあ、これだ。
最近ニュースなどでよく僕らのような境遇の人間が問題になっていると聞く。
それに合わせて、なんとかっていう若い政治家も対策に乗り出すとかなんとか。
きっとこれはその対策の一つだ。
可愛い女のコを送り込んで、僕らダメ人間を社会復帰させる・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
長年外にも出ない、人にも会わない、なんて生活を続けるうちに僕は頭がおかしくなってしまったんだろうか・・・?
ゲームやアニメの見過ぎか?
こんなわけの分からない妄想を繰り広げている僕の隣で当の本人はスースーと可愛い寝息を立てて眠っている・・・。
「・・・・・んッ・・・あ・・・ああーー・・・。ん・・・?あ・・・おはよう・・・。」
しばらく時間が経過した後だった。
すでに日も高くなり、近所のおばさんが布団を干しだした頃、ようやく彼女は目を覚ました。
彼女が目覚めるまでの間、自分は何をしていたかといえば・・・・・・
何もしていなかった!
さっきのような妄想を浮かべてはそれを打ち消す・・・そんな不毛なことを何時間も続けていたのだ。
まともなヤツなら警察を呼ぶなり、叩き起こして事情を聞き出すなりしているだろう。
ひどいヤツなら既に彼女に襲い掛かっていたかもしれない。
しかし、自分は彼女のあまりに平和な寝顔にそれらの対処を完全にしそびれていた。
いや、本当は、そうして目を覚ましたこの娘に「あの時」のような眼差しを向けられるのが一番怖かっただけのかもしれない・・・。
そう、僕が人間を「怖い」と思うようになった「あの娘」のあの時の視線・・・。
「ねーー、洗面台、借りてもいい?」
素っ頓狂な彼女の声にはっと我に返った。
僕の葛藤を他所に、彼女はまるで自分の彼氏の家にでもいるかのように無遠慮に振舞いだしていた。
ぱたぱたと手際よく布団を畳んだ彼女は眠い目をこすりながらキッチンのほうに向かう。
「ねぇ、どうなの?ちょっと歯磨きとか顔洗ったりとかしたいんだけど?」
まるでそうであるのが当然であるかのように、彼女はこちらを見ながら微笑んでいる。
「あ・・・?ああ・・・。どうぞ・・・。」
僕は彼女のあまりに自然な振る舞いに押され、ただただ、頷くしかなかった。
「ありがと!ちょっと待っててね。」
そう言いながらキッチンの脇にある洗面台にむかう。
しばらくすると、洗顔をする水音や歯磨きの音が聞こえる。
いつの間にそんなものを用意してきたのだろうか?
いやいや、状況に飲まれている場合じゃない。
とにかく、彼女が何者なのか、何が目的なのかを聞き出さなきゃいけない。
しかし、ここ数年、人と会話らしい会話をしてきてない自分にとってそれはあまりに難易度の高いリハビリだ。
いきなり見ず知らずの、しかも女性とお話するなんて・・・。
物事には順序というものがある。
プロ野球のピッチャーだって、肩が温まるまではいきなり全力で投げたりしない。
キャッチボールなどで肩を慣らした後、ブルペンでゆっくり投げ込み、肩が温まってから初めてマウントに上がるものだ。
どんな有名なピッチャーだって、いきなり全力で投げ込んだら肩を傷めてしまう。
それは人との接触だって同じことだ。
そんなことを考えていると、さっぱりした顔で彼女がキッチンから戻ってきた。
化粧の類はしてないが、髪はいわゆるツインテールに縛ってあった。
「あの・・・、訪ねるうちを間違えていませんか?」
コレが、彼女が洗面をしている間、精一杯頭を絞って考えた切り出しの台詞だった。
何の面白みもないが、一番真っ当な台詞だったと思う。
数年ぶりに行う他人との会話としては上出来だ。
彼女はこの質問にちょっと驚いたような表情をしたが、すぐにしたり顔で、
「え?でもキミ、斎藤明人(さいとうあきと)君だよね?」
と逆に尋ねてきた。
そう、それが僕の名前だ。
って、何でこの娘は僕の名前を知っているんだ?
アパートには表札も出してなかったはずだし・・・。
まぁ、今の世の中、人の名前くらいは本気で調べようと思えばいくらでも調べる手段はあるらしけれども。
ちょっと前に個人情報保護法なんていう法律ができて、企業は顧客情報などをきっちり管理しなきゃいけなくなったようだけど、そのあともあっちこっちから、やれ名簿が流出だの紛失だのといったニュースが絶えない。
現に今こんな生活をしていても、ダイレクトメールや怪しい勧誘の電話はしっかりかかってくる。
まぁ、それはそれとして。
「いや、でも、僕はキミのこと、全然覚えてない・・・っていうか、名前も知らないし・・・。」
彼女がどんな手段で、いや、どんな目的で僕の住所や名前を調べたのかは分からないが、とにかく関わらない方がいい。
僕の敏感な対人センサーがそう警告を発していた。
そりゃそうだ。
わざわざ住所や名前まで下調べしてやってきている女だ、きっと良からぬ事をたくらんでいるに違いない。
例えば・・・泥棒・・・。
いや、泥棒だったらとっくに盗んで逃げているだろうって考えはさっきしたな・・・。
そんなこちらの思惑をよそに、彼女は口元に人差し指をあてながら、ちょっとわざとらしく、
「んん〜〜、名前は・・・そうだな、舞夢(まいむ)とでも呼んでください!」
と、明るい笑顔を向けながらそう言った。
僕は不覚にもこの屈託のない笑顔に一瞬ひるんでしまった。
「いや、そんなことを聞いているんじゃ無くて・・・」
「ところで今日は暇なの?」
突然、そんな話題を振ってこちらの質問を遮ってきた。
そもそも初対面(?)の相手にいきなりそんな聞き方をするとは、なかなかに失礼なヤツだ。
僕は舞夢と名乗った少女から目をそらしながらわざとぶっきらぼうに答える。
「あ?見て分からない?コレが忙しそうな人間にみえる?」
「じゃ、学校も仕事も無いんだ?」
「・・・・・・・・・。」
こいつ・・・人の痛いところをずけずけと・・・。
そもそもよく考えてみれば、こんな得体の知れない少女の戯言に僕が付き合う必要はどこにもない・・・はずだ。
「キミの目的はなんだか知らないけど…もう、帰れよ。」
そう言いながら僕はふてくされるように寝転がると、畳まれた布団をわざとらしく広げてそれに包まった。
布団からはほのかにいい匂いがした。
きっと・・・あの娘の匂いだ・・・。
女のコの・・・匂い・・・。
僕は軽い興奮を覚えたが、それを押し込むようにして目を閉じた。
彼女は布団の向こう側でなにかわめいていたが、僕はそれを無視した。
そもそも、僕は人と話すこと自体が苦手・・・というか、怖いのだ。
まして、女のコと話すなんて・・・。
正直、どうしたらいいのか判らない。
こんな事で悩むくらいなら、とっとと出て行ってもらった方がよっぽどラクだ。
僕は一人でも生きていける。
友達も彼女もいらない。
まして、見ず知らずの他人と仲良く話す必要なんてどこにもない。
・・・・・・・・・。
そう、考えてみれば、この舞夢とか名乗る少女、赤の他人ではないか。
なぜ、こんな赤の他人に振り回されなければならないのか。
こんな理不尽な事があるだろうか。
そうだ!これはきっと夢だ。
そう、状況があまりにも荒唐無稽すぎる。
今時こんなシチュエーション、エロゲーのシナリオでもよう見かけない。
そう、今僕は夢を見ているのだ。
でも、こんな夢を見るということはやはり「人との触れ合い」とかいうやつに僕も飢えているのだろうか…。
いや、もう、どうでもいい。
夢ならとっとと目覚めてしまおう。
そんな事を考えているうちに、意識が遠くなった…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
数時間も眠っただろうか・・・?
香ばしい香りに誘われるようにして、僕はふと目を覚ました。
なんだろう、この匂いは…。
・・・・・・・・・・・・・・・・。
ああ、アレだ。
僕が好きなカップ麺、「デカップらーめん」のスープの匂いだ。
っていうか、なんでラーメンの匂いが僕の部屋の中でするんだ?
むくりと起き上がると、目の前に何食わぬ顔で僕の「デカップらーめん」をすすっている少女の姿があった。
そう、あの舞夢と名乗ったさきほどの少女だ。
ということはやはり夢じゃなかったのか・・・?
「僕の・・・ラーメン・・・。」
とりあえずぼそりとつぶやいた。
その声に、僕が目覚めていることに初めて気がついたのか、一瞬きょとんとした視線をこちらに向けた後、照れ笑いを浮かべながら、
「ああ、ごめぇん。わたしの好きなラーメンがあったんで、つい・・・・・・。」
「・・・・・・。まぁ、いいや。まだストックがあったはずだし。」
勝手にラーメンを食べられた怒りよりも、彼女が自分と同じ好みだったことに微妙な歓びを感じた僕は思わずそう頷いてしまった。
はにかみながら、ぺろりと舌を出す舞夢のしぐさに思考回路をやられた、という説もある。
「・・・ン・・・?わたしの顔になんか付いてる?」
「あ・・・いや・・・。」
美味しそうにラーメンをほおばっている舞夢の横顔を無意識のうちに見つめてしまっていた。
どうかしている・・・な・・・僕・・・。
こんなことでしどろもどろしている自分が恥ずかしくなり、照れ隠しにテレビのスイッチを入れる。
僕の持っているテレビはいわゆるビデオとの一体型のタイプである。
便利そうだと思ってこの部屋に越してきた時に買った物だ。
なにげにそのリモコンを持ってスイッチを入れると、
「ああ〜〜ん。だめだめ、もっと・・・。」
突然部屋中に淫猥な喘ぎ声が響き渡った!
画面にはややロリ顔な女優がバックから犯されて悶える様が映し出されている。
しまった!
昨日見たAVがそのまま入りっぱなしになっていたのをすっかり忘れていた!!
手元を見てみると指は「再生」ボタンの上に置かれていた。
慌てて「停止」ボタンを押す。
しんと静まり返る空気。
おそるおそる舞夢の顔をこっそり伺い見る。
が、舞夢の表情は意外にも冷静に見えた。
「いやぁ、一人暮らしの男性だもん、こんなの当然・・・よね。」
言葉自体は当たり障りのない台詞だが、発音が微妙に棒読みになっている。
やはり少なからずの衝撃を与えてしまったようだ。
さすがにこの年頃の少女には刺激が強かったか?
僕はそのまま視線を外すと、平静を装いながら、
「ええ・・・っと、暇だし、ゲームでもやろうかな。」
とゲーム機に手を伸ばし、電源を入れた。
今度は見慣れたタイトル画面がディスプレイに映し出された。
ゲーム機に入れっぱなしになっていたそのソフトは、今僕がハマッているネット接続RPGの『ファイアー・ファンタジア]』だ。
すでにレベルもマックス近くなっており、さしてすることもなくなってしまっているのだが、惰性でだらだらと続けてしまっている。
しかしそれでも、チャットやらなにならと時間をつぶせてしまうのが、この手のゲームの最大の利点だ。
キャラ選択画面をぼーっといじくっていると、突然画面が真っ黒になった。
「!!?」
慌てて視線をディスプレイから落とすと、例の舞夢がリセットボタンを押していた。
「何すんだ・・・」
文句を言おうとした僕の目の前にふとゲームのパッケージを差し出した。
『ギルティー・ランサー W』。
ちょっと前に流行った格闘ゲームだ。
「これ、勝負しない?」
舞夢が不敵な笑みを浮かべる。
・・・のやろ・・・調子に乗りやがって・・・。
見てろ、コテンパンにのしてやる・・・。
「いいけど、結構強いよ、僕。」
やや脅かすような口調で答える僕。
先手の読み合いと、コンボの繋がりが重要なこのゲーム、こちらも実は結構やりこんでいた。
まぁ、基本的に暇だしね・・・。
「ラウンド・ワン! ファイト!」
ゲーム開始を叫ぶ、聞きなれたサウンド。
ちょっと驚かせてやろうと、開幕直後に飛び込み攻撃をしかける。
このまま一気に連続コンボを叩き込んで、戦意を喪失させてやる、それが僕の作戦だった。
が、しかし。
「聖龍拳」
お約束の対空攻撃であっけなく叩き落される。
あれっ!?
その後、何度か不意打ちを試みるが、ことごとく反撃技で叩き落される。
こいつ・・・結構やりなれてやがる・・・。
じりじりと間合いをはかりながら、ふと、舞夢の方に目をやった。
・・・・・・・・・。
さっきまでは気が付かなかったが、結構、胸・・・あるな・・・。
最近の娘は発育がいいのか?
ふと、舞夢が画面を覗き込むようにして前にかがんだ。
ゆるんだタンクトップの胸元からちらりとこぼれ見えるブラ・・・。
思わず手が止まった。
その瞬間!
ガガガガッ、ゴッゴッ、「白虎青龍拳」!
12ヒットコンボ。
あっ!!?
あっけに取られて彼女の方を振り向くと舞夢はしてやったり、と言わんばかりの笑みを浮かべた。
さっきのブラ見せは作戦だったのか!
「…のやろっ!容赦しねぇ!」
が、結局出鼻をくじかれたこのラウンドはあっけなく舞夢の勝利で終わった。
「アレ?結構強いんじゃなかったっけ?」
ニヤニヤしながら挑発する舞夢。
「今のは・・・ちょっと油断しただけだ。次見てろ、次!」
おそらくは10歳近くも離れていると思われる少女相手にムキになるのも大人気ないという考えもふと頭をよぎったが、彼女の予想外のプレイに僕のゲーマー魂はすでに熱くなってしまっていた。
バシバシバシ、ガキン、「ゲイザー・キャノォ〜ン」
「ああ!やったわね。」
「へへん。このくらいは当然だっつーの。まだまだいくぜ。」
気がついたら、もう3時間もこの謎の少女と仲良く格ゲーを楽しんでいた。
他人と、ましてや女のコと仲良く話をするなんて、僕にはもう不可能なんじゃないかと思っていた。
しかし、今僕は見ず知らずの女のコと楽しくおしゃべりをしながらゲームをやっていた。
これだけで、僕にとっては大きな「革命」だ。
その後も舞夢はまるで僕の部屋に昔からいる家族のように振舞った。
例えば、近くのスーパーで適当な食材を買い出して来ると、勝手にキッチンを使って夕食を用意した。
明太子スパゲッティーにロールキャベツ・・・。
なぜか僕の大好物ばかりが並んでいる。
ロールキャベツは・・・ちょ・・・っと塩辛かったが、他は、まぁ、美味しかった。
そもそも、ここのところコンビニ弁当しか食べていなかった自分にとっては「女のコの手料理」というブランドだけである意味、お腹いっぱい、と言った感じだったが。
夕食後も何気にテレビを見てくつろいだりして、少女が帰る気配はまるでない。
このまま、うちに泊まる気だろうか?
いや、こんな見ず知らずの、それも社会不適合者とも言える僕の部屋に泊まるなんて、自殺行為もいいところだ。
それとも、単に世間を知らないだけなんだろうか?
そうだとしたら、はっきりと教えてあげるもの必要なことかもしれない。
「あの・・・サ・・・。」
「ん?」
「今日は・・・このまま僕の部屋に泊まっていく気?ひょっとして・・・。」
「・・・そうだと・・・まずい・・・?」
「いや、まずいって言うかさ・・・。」
舞夢のきょとんとした眼差しに逆に言葉を失ってしまった。
ああ、もう、なにをかいわんや!
そんなわけで、気が付くと、この見ず知らずの少女と一つ屋根の下で一夜を過ごす羽目になっていた。
これだから人生何があるか分からない。
「なんだか悪いネ、寝床取っちゃったみたいで。」
「ああ、まぁ、気にするなよ。」
流石に女のコを床に寝かせるわけにはいかないので、普段使っているベッドは舞夢に使わせ、自分は座布団などを床に敷き詰めて布団の代わりにした。
電灯を消すと、あたりは真っ暗になった。
もう、舞夢の顔も見えない。
・・・・・・・・・。
僕はいま自分が置かれている状況に対してまた思い直していた。
そもそも、「彼女は何者なのか?」という当初の疑問は全く解消されていない。
それどころか謎は増すばかりだ。
現段階で彼女について分かっていることと言えば、
1 名前は舞夢(苗字は分からない上に、偽名の可能性も大)
2 意外と格闘ゲームが上手い。
3 料理の上ではそこそこ。
4 なぜか僕の名前を知っていた。
この4つだけだ。
正直、何の手がかりにもならない。
こんな材料であれこれ推量するより、いっそ直接聞いた方が早いな。
そう考え、口を開こうとする、と。
「ねぇ・・・。」
彼女の方から声を掛けてきた。
「な・・・何・・・?」
出鼻をくじかれてしどろもどろする僕を尻目に彼女はぼそりと尋ねた。
「どうして・・・こんな生活しているの?」
この質問は・・・僕にとっては重大な質問だ。
僕だって好きでこんな生活をしているわけじゃない。
できれば外に出て普通の生活がしたい。
いつまでも親の仕送りに頼って生きていくわけにもいかないだろうし、せめてアルバイトでもしようと思ったことは何度もある。
しかし、その度に思い出されるのは「あの時」の眼差しと嘲笑・・・。
それを思い出すだけで、僕の膝はがくがくと震えだすのだ。
「・・・・・・昔・・・といっても数年前だけど・・・好きな人がいたんだ。」
「・・・・・・。」
「彼女には・・・他に好きな男がいたんだ。
だから僕は別に彼女と付き合おうと思っていたわけじゃない。
相手の男も僕なんかと違ってイマドキのイケメンで、彼女にはお似合いだったしね。
でも、僕にとっては彼女の存在自体が救いだった。
学校・・・そう、学校で彼女の笑顔を見られれば、それだけで良かったんだ・・・。」
・・・・・・・・・。
なぜ僕は今、こんな見ず知らずの、それもずっと年下と思われる少女にこんな話をしているんだろう・・・。
「ねぇ。」
ふいに舞夢が口を開いた。
「明日・・・映画でも見に行かない?わたし、見たい映画があるんだ。いいでしょ?」
「・・・・・・・・・。」
映画か・・・。
言われてみれば、もう何年も映画館で映画を見るなんてしていないような気がする。
せいぜい、たまにレンタルビデオで借りてきてみるぐらいなものだ。
「映画・・・悪くないな・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「そう・・・さっきの話の続きだけど・・・。
そんな彼女が、ある日、『他のヤツら』と同じ目で僕を見ていることに気が付いたんだ。
僕を・・・蔑むような、哀れむようなあの視線・・・。
それ以来、僕は人の視線が怖くなった。
人を好きになるのが怖くなってしまったんだ。
もう・・・あんな思いはしたくない・・・。」
「・・・・・・・・・。」
不思議と舞夢からは返事がない。
彼女もまた、僕を・・・裏切っているのだろうか・・・?
不安に思った僕はむくりと上体を起こすと、彼女の方へ顔を向けた。
電灯が消え、雨戸を締め切ったこの部屋は真っ暗だったが、すでに目が慣れてきており、ぼんやりとあたりを伺う事はできる。
その闇の向こう側にいるはずの舞夢は・・・スースーと可愛い寝息を立てながらすでに眠ってしまっていた!
「こいつ・・・人に話を振っておいて・・・。」
そうは言ったものの、不思議と怒りはなかった。
むしろ心のどこかでほっとしているのが分かる。
考えてみれば、見ず知らずの女のコの前で、僕はかなり恥ずかしい過去話を暴露しようとしていたのだ。
それを聞かれずに済んだのはある意味で幸運といえる。
・・・・・・・・・。
それにしても・・・無防備だ・・・。
こんな姿を見せられて、襲わずにいられる男なんて・・・いるのだろうか・・・?
時々ひくひくとぴくつく小鼻は、どこか自分を誘っているようにも見える。
彼女に触れたい。
そんな思いが自分の中で大きくなってきていることに気が付いた。
ドキドキとびくつきながら手を伸ばし、そおっと彼女の頬に触れてみる。
さらさらときめの細かい肌と、その下の柔らかい肉の感触が手のひらから伝わってくる。
緊張のあまり、耳の後ろでキィーーンと音が鳴り響く。
心臓の音が激しく高鳴り、周りの音がまるで耳に入らない。
何もしていないのにのどが渇き、ごくりとつばを飲み込む。
僕の目線は可愛らしい寝息を立てている口元に向かっていた。
ふっくらとした彼女の口唇は寝息に合わせてときどきふるふると震えている。
その小刻みな動きに僕は不思議な興奮を覚える。
そおっと自分の口唇をそこに近づけていく。
彼女の寝息がさわさわと僕の頬に触れ、さらに僕の中の何かが高ぶっていく。
そして、今にも・・・彼女の・・・口唇が・・・、
「んん〜〜、映画・・・約束だからね・・・。」
突然の彼女の寝言にびくりとし、飛びのいてしまった。
舞夢は相変わらずの無防備な姿で寝入っている。
僕はそのまま自分の蒲団に戻ると、そのまま朝まで眠ることにした。
朝。
「ほらほら、一緒に映画に行ってくれるって約束でしょ?早く早く!」
朝一番の舞夢の甲高い声で無理やり起こされた。
こちとら、昨夜の・・・・・・で、あんまり良く眠れなかったというのに・・・。
眠い目をこすりながらうろうろと支度をする僕を、甲斐甲斐しくてきぱきと手伝う舞夢。
ここまで人の世話を焼く彼女は一体何者なんだろう?
そもそも、そんなに映画が見たいなら、一人で行けばいいじゃないか。
「だぁ〜め。キミと二人で行くことに、意味があるんだから!」
結局僕の消極的意見はあっけなく却下され、僕は久方ぶりの外界へ放り出された。
久々に歩く街。
まぶしい太陽。
さざめく人並み。
吹き抜ける青い風。
その風の中には既に散ってしまった桜の花びらが混じっている。
いつも深夜にふらりと近所のコンビニにしか行っていなかった僕は気付いていなかったが、世間はすっかり春になっていたのだ。
僕は風に混ざる桜の花びらと、既に葉桜となった街の街路樹を眺めながら、柄にもない感傷に耽った。
こんな風に季節を肌で感じたのは何年ぶりだろうか?
最後に自分の目で本物の桜の花を見たのは・・・何時だっただろうか・・・。
それにしても、今日は普通日だったと思うのだが、通りには意外と人が多い。
皆、そんなに暇なのだろうか?
僕は周りの視線を気にしながらきょろきょろと歩く。
20代も後半な自分が、見た目15,6の女のコと歩いているこの図は、他所から見たらどんな風に映るのだろうか?
そんなことを考えると、なぜだか、無性に人の視線が気になりだした。
今すれ違ったカップルも、きっと僕らのことを馬鹿にしているに違いない。
「ナニアノ、不自然ナカップルハ?」
「アンナカワイイコガ、ナンデアンナダメ人間ト一緒ニイルンダロウ?」
そして、突き刺さる視線。
その中で感じる、あのえも言われぬ孤独感・・・。
まるで自分だけが、周りと違う空気を纏ってしまったようなあの孤立感・・・。
あんな思いはもう二度としたくない。
あんな思いをするくらいなら、いっそ・・・。
「こら!」
ずん、と頭に軽い衝撃が走った。
はっと、我に返る僕。
振り向くと、舞夢が隣から僕の頭に漫才のツッコミのようなチョップを当てていた。
「こんな可愛い子がすぐ隣にいるのにそんな顔しているなんて失礼じゃない?」
失礼なのは、お前だ!
と言おうと思ったが、すぐにその台詞を引っ込めた。
そのときに彼女が僕に向けていた笑顔・・・それはまさに僕がかつてこの世界との「絆」にしていたあの笑顔と同じものだったからだ。
もちろん、「あの娘」とこの舞夢は似ても似つかない顔立ちだ。
でも・・・なぜかダブって見えたのだ。
その笑顔を見たとき、僕の中で何かがはじけた。
彼女といられるなら、他の人間にどう思われてもいいんじゃないか?そんな気がした。
そう、彼女は「絆」なんだ。
この「絆」さえあれば、僕はこの世界の中で生きていける。
そして・・・この舞夢は「あの娘」とは違う。
決して僕を裏切るような事はないだろう。
根拠は全くなかったが、不思議とその確信だけはあった。
目的の映画館は意外と近くにあった。
自宅から歩いて30分ほど。
そんなことも知らないほど、僕は外の世界と断絶していたらしい。
「え・・・っと・・・、まだ始まるまで結構時間があるみたい。どうしよ?」
「だから、そんなに急がなくてもいいって言ったじゃないか。」
「え?何時そんな事言った?」
「・・・・・・。」
結局僕らは近くにあったアクセサリーショップを冷やかすことで時間をつぶすことにした。
もちろん、舞夢の提案だ。
「いらっしゃいませ。」
爽やかな笑顔で店員が出迎える。
辺りにはオシャレに配置されたガラスケースとそれを覗き込むカップルや女性の集団。
それに比べて、今の僕は・・・。
数年前から穿き続けている擦れたジーンズに、僕から見てもダサいシャツ。
明らかに場違いだ。
これはちょっと・・・いくらなんでもキツい・・・。
そもそも、こんなオシャレ空間に自分が存在していること自体、何かの間違いだ。
僕は店員が目をそらした隙にそぉっと店を出ようと後ろを振り向く。
が、舞夢がそれを許さなかった。
彼女は僕の手をきゅっと握ると、そのままつかつかと店員に話し掛ける。
僕は彼女に引きずられるようにしながら、その後をついて行く。
「えっと・・・ピアスを探しているんですけど。」
「どのようなものをお探しでしょうか?」
「そうね・・・。ちょっと渋めのシンプルなヤツ!」
「それでしたら、こちらなんかいかがでしょうか?」
舞夢と店員は僕のことを脇において、勝手にほいほいと話を進めている。
あ〜あ〜、ピアスねぇ・・・。
ピアスってたしか、耳たぶとかに穴あけて付ける変な飾りだよな。
なんで女って言うのはそんなものを欲しがるのかねぇ。
穴あけたりなんて、痛そうなのに・・・。
ってか、どうせ付けるなら、その・・・乳首とか・・・?××とか・・・?
・・・っツ・・・、やっぱり変なゲームのやりすぎかな、僕・・・。
「って、明人、人の話、聞いてる?」
「はい?」
「『はい?』じゃないよ!こっちとこっち、どっちがいいかって聞いてるでしょ?」
指差されたピアスはどちらもシンプルなものだった。
片方はシルバーで、小さな十字架がかたどられている。
もう片方はやはりシルバーだが、小さなアクアマリンがはめ込まれていた。
っていうか、気が付いたらなぜか呼び捨てにされているし・・・。
「・・・別にどっちだって大差ないよ。好きにしたら?」
僕はぶっきらぼうに答えた。
本気でどちらでも良いと思ったし、そもそもこんなものを買ったことすらないから、僕にそんなセンスを聞かれても困る、それが本音だった。
しかし、そんな僕の味気ない答えに対し、彼女は多少怒ったようだ。
「ちょっと、こっちは真面目に聞いているんだから、真面目に答えてよ!」
「いや、真面目だって。本気でどっちでもいいと思うし。」
「本気でどっちでもいいの?これ、明人がするんだよ?」
「は!?」
彼女の意外な回答に唖然とする僕。
何時からそんな話になってたんだ?
「だって言うじゃない?ピアスをすると運勢が変わるって・・・。だからサ・・・」
「『だからサ・・・』じゃないって!僕はピアスなんかする気ないからな!」
「あ、さては、怖いんでしょ?ピアスの穴、あけるの・・・。」
舞夢がニヤニヤとこちらを覗く。
店員は苦笑を浮かべながらこちらのやり取りを黙ってみている。
くそっ!この店員もきっとバカにしているに違いない!
余計な恥かかせやがって・・・。
「いや、アレだよ!親から貰った大事な身体を無意味にいじくるのがイヤなんだよ!」
僕はあまりにも使い古されたそれっぽい答えを搾り出した。
「ふうん。ま、いいや。どうしても明人があけないって言うなら、代わりにわたしが貰っちゃお!」
そう言いながら、舞夢はアクアマリンのピアスを店員に付けてもらっていた。
本音を言うと、ピアスの穴をあけることは・・・怖かった・・・。
穴をあける痛みが怖い・・・というのも、全く無いと言ったらウソになるが、それ以上にピアスをあけることで自分の中の何かが変わってしまうのではないかという事が怖かった。
そう、後で考えてみれば、僕は単に自分を変えることに妙な恐怖心を抱いていたのだ。
「それでは13000円になります。」
鏡を見ながら、新しいピアスの感じを確かめている舞夢の後ろで呆けている僕に店員が声を掛けてきた。
一瞬、僕は自分が話し掛けられていることに気が付かなかった。
「へ?あ・・・?僕・・・?」
僕は素っ頓狂な声をあげて舞夢と店員を代わる代わる見る。
舞夢は当然、という顔をしながら、
「そりゃ、そうでしょ?これは、明人のために買ったんだから。明人がいらないって言うから代わりにわたしが付けちゃったけど。
それとも、なんですか?こんな小さな女のコにこんな大金払わせるの?」
くぅ・・・、こいつ・・・初めからこれが目的だったのか?
なんだか、激しく騙されている気がするぞ!?
「ねぇ、お願い・・・。」
舞夢が得意の笑顔を向ける。
ああ、そうだった。
彼女は僕と世界を結ぶ「絆」だった。
そんな彼女が僕を騙すわけがない、そう確信したばかりじゃないか。
・・・・・・・・・・・。
「ふふっ。ありがと。どう?結構似合うでしょ?」
舞夢は僕の周りをくるくると回りながら、耳たぶに光る新しいピアスをアピールしている。
結局あのまま、僕はお金を払ってしまった。
って、なんかこんな詐欺商法、聞いたことあるぞ。
確か、「恋人商法」とかなんとか、そんなの・・・。
あ〜あ、自分には関係ないと思っていたけど、意外とひっかかるもんだな。
ふぅ・・・。
しかし、目の前で無邪気にはしゃいでいる舞夢を見ると、「まぁ、いいか。」という気になってしまうから不思議だ。
いや、もとい、末期だ。
そもそも考えてみれば、アレだ。
はじめからこれが目的だとしたら、あまりにも手が込みすぎている。
ピアスを買うお金が欲しかったのなら、昨日のうちに僕の財布や通帳を奪って逃げるチャンスはいくらでもあったはずだ。
そう考えると、舞夢が単なる「恋人商法」の仕掛け人とも考えづらい・・・。
「ところで、さっきも言ったけど、このピアス、本当は明人のものだからね。返して欲しくなったら言ってね。」
彼女はさっきから何度もこの台詞を口にしている。
これが更に僕を混乱させているわけなのだが・・・。
「あ、そろそろ、映画の時間だね。行こうか?」
そう言うと、舞夢はまた僕の手を引いて、映画館の方へかけていく。
僕は彼女に引かれるようにして、映画館の建物へと吸い込まれていった・・・。
「でさ〜、あそこのシーンのヒロイン、すっごい可愛かったよね〜〜、やっぱ、女の子って一度はああいうのに憧れるよねぇ〜〜。」
映画を見終わった僕と舞夢はそのまま近くのファミレスに入り、ドリンクバーとデザートを注文してちょっとした休憩をしていた。
舞夢は今見てきた映画の内容やシーンについていろいろと熱く語っていたが、正直自分は映画のことなんかあまり頭に入っていなかった。
映画自体はなんでも、話題の超大作の完結編らしく、壮大な大団円を迎えたようだった。
しかし、前作を全く見ていない僕にはよく分からない話だった。
確かにCGの技術や特撮は凄かったし、出演していた女優さんはキレイだったと思うが・・・。
そもそも、僕の頭を真っ白にしているのはそんなことではない。
この、女のコと二人きりで映画なぞを見、果てはファミレスで仲良くお茶なんかしているというこのシチュエーションだ。
しかも、挙句の果てには成り行きとはいえ、僕は彼女にアクセサリを買ってあげている。
これは・・・遠目に見ればデートと言えなくも無いのではないか?
こんな経験、何年ぶりだろうか?
いや、ひょっとすると初めて・・・?
正直言って・・・たのしい・・・。
ぶっちゃけた話、この時自分は高揚のあまりほとんど舞夢と会話らしい会話ができていなかったように思う。
彼女の質問に対し「うん」とか「まぁ」とか曖昧な返事をしているだけで、傍から見たらとても楽しんでいるようには見えなかっただろうが、気持ちの底では不思議な幸福感に包まれていた。
もっとも、後になって考えてみれば、こんな、ろくに会話も出来ていない僕相手に舞夢はよく楽しそうに相手をしていたものだと感心すらしてしまうが・・・。
しかし自分は、常に何か得体の知れないものに怯えながら、部屋に閉じこもっていたここ数年では味わったことのない不思議な高揚感をふつふつと感じていた。
もしかしたら、ちょっと顔も赤くなっているかもしれない。
これが、ひょっとして、いわゆる・・・・・・
「ねぇ?聞いてるの?あたしの話・・・。」
怪訝そうに僕の顔を覗き込みながら尋ねた彼女の声に、はっと我に返る。
「え!?ああ、聞いているよ、もちろん・・・。」
「ふ〜ん・・・。なら、いいんだけどさ・・・。・・・・・・あっ・・・!!」
彼女は視線の先に何かを見付けたらしく、すっと席を立つと、レジの方にパタパタと駆けていく。
僕の方はと言えば、この不慣れな感情を制御するのが精一杯でうつむきながらぶつぶつと自分に暗示をかけていた。
「ごめん、ごめん。ちょっとさ・・・、こんなの見つけて。」
そう言いながら彼女が差し出したのは様々な求人情報が載せられた無料配布の雑誌であった。
言われてみれば最近、この手の雑誌はよくあちこちで見かける。
自分の行きつけのコンビニにも置いてあったような気がする。
だが、僕は今まで極力それを見ないことにしてきていた。
それは・・・僕の本能が反射的にそれらを避けてきたせいだ。
そう、何か仕事をしなければいけないことは分かっている。
今のまま、親からの仕送りに頼っている生活をいつまでも続けるわけにはいかないことも分かっている。
しかし・・・、こわい・・・。
外に出て、見知らぬ人と一緒に行動を共にするのが・・・とてもこわい。
今日は舞夢と一緒だったから、「絆」と一緒だったから、外に出られた。
話も出来た。
しかし、これが自分一人だったらどうだろう?
たった一人で、「あの視線」に怯えながら、見ず知らずの他人と仕事をしていくことなんてできるのだろうか?
そして、今、そのための雑誌が舞夢の手によって僕の目の前に突きつけられている。
黄色いバックにスーツを着た女性モデルがガッツポーズをしている表紙・・・。
その女性は根拠の無い明るい笑顔をこちらに向けている。
その不可解な笑顔が自分にとってはとても不気味なものに見えた。
そして、その表紙の女性から聞こえないはずの声が聞こえる。
「シゴトモデキナイ、ダメニンゲン・・・。」
その声を聞いた瞬間に、今まで盛り上がっていた気持ちは一気に心の奥底にしまいこまれた。
そして、再び、あのえも言われぬ不快感が僕を襲う。
キィーーンと耳鳴りがし、周りの音が一切聞こえなくなる。
自分の額から嫌な汗が流れ出ているのが分かる。
胃の奥のほうから、妙なカタマリが逆流してくるような嘔吐感・・・。
タスケテ、タスケテ、タスケテ・・・。
頭の中にもう一人の自分の声が木霊する・・・。
舞夢はそんな僕を置き去りにして、無思慮にぱらぱらとページをめくる。
「へぇ〜、いろんな仕事があるんだねぇ・・・。イベントスタッフ・・・時給950円か・・・。なにするんだろ?
あ、これすごい。フロアレディー、時給2000円から、だって。でもフロアレディーってなんだろ?」
僕は既に彼女のそんな無邪気な質問に答える余裕すらなくなっていた。
うつむいていても嫌な汗が背筋を、腋を伝っているのがいるのが分かる。
傍からみたら、自分らはどんな風に見えているのだろうか・・・。
ダメ人間な兄貴をなんとか校正させようとしてる健気な妹・・・とか・・・?
精神病患者をリハビリのために外に連れ出した駆け出しの看護士?
「ホラ、ヤッパリ、アンナヤツガ仕事ナンテ無理ヨ。」
「シャカイフテキゴウシャ。」
「人ニ迷惑バカリカケテ。」
「アンナ大人ニ、ナッチャダメヨ。」
向かいの席の二人組の女性が、通路向こうの家族連れが、自分を見ながらそんな話をしている・・・。
舞夢には・・・いや、普通の人には聞こえないかもしれないが、僕には聞こえる。
聞こえんるんだ!
聞こえる・・・。
「!! どうしたの!?顔色が・・・!・・・あっ・・・! もしかして、コレ!? ごめんっ!!」
ようやく僕の変化に気がついた舞夢はその原因がその求人雑誌にあったことに気付き、慌ててそれをしまう。
だが、一度入ってしまった僕の鬱のスイッチは簡単には戻らない。
「とにかく、ここを出よう!」
舞夢の手に引きずられながらファミレスを後にした。
それからどうやって自分の部屋まで戻ったのか、記憶が無い。
ただ、耳の奥で反響している、聞こえないはずの自分を非難する声が怖くて、怖くて、部屋の隅でガタガタ震えていた。
舞夢はそんな僕に何か話し掛けていたが、僕の耳には届かなかった。
むしろ、耳元で囁かれる舞夢の声は僕を言いようのない屈辱感に駆り立てた。
僕はこんな少女にさえ気を使ってもらわないと、生きていけない弱虫なんだ・・・。
そんな思いが僕の心をより深い闇へと誘う。
そして、彼女の言葉の端々から、漏れ出る、僕をさいなむ声。
カワイソウナ明人クン・・・。
面倒見テアゲナイトダメナ明人クン・・・。
「うわぁぁぁぁ・・・っ!!」
僕は何かを振り払うように両手をぶんぶんと大きく振り回した。
まるで小さなダダっ子だ。
振り回した僕の手の甲が彼女の頬に当たった。
それは、ちょうど彼女にビンタを食らわせたような形になった。
もうダメだ。
僕はもうダメだ。
流石の舞夢も・・・最後の「絆」も、今の僕には呆れ果てているだろう。
仕方がない。
俄然、僕が人並みの幸せを感じようなんて虫が良すぎたんだ。
昨日、今日と、僕は楽しい時間を過ごせたじゃないか。
もうそれだけで十分だ。
さようなら・・・僕の「絆」・・・。
しかし、舞夢は殴られた頬をさすることもせず、逆に僕の頭を優しく抱え込むと自分の胸にふわりとあてがった。
そこは僕が想像するよりも柔らかく、温かかった。
そうして触れた額から、彼女の優しい鼓動が伝わる・・・。
トクン
トクン
トクン・・・
そのゆっくりとした鼓動は不思議と僕の心を落ち着かせた。
「どう・・・?落ち着いた?」
「・・・・・・・・・。」
確かにさっきよりは落ち着いた。
先ほどの不安感がウソのように楽になった。
不思議だ・・・。
しかし、まだ、大丈夫と胸をはれるほどではない。
それでも精一杯顔を上げて舞夢の目を見据えた。
「こうすると、不思議と人は落ち着くんだって、何かで読んだから・・・。」
僕はそんな彼女の心遣いが嬉しかった。
そのまま彼女に甘えるようにして、両手を彼女の背中に伸ばすと彼女の身体を抱き寄せ、彼女の胸にそっと耳を押し付けた。
しばらくそうしていると、ふと舞夢が僕の頬に手を触れ、すっと正面を向かせる。
その瞬間、口唇にふわりとした感触が伝わった。
あたたかく、やわらかく、しっとりとした・・・。
それが彼女の口唇の感触だったと気が付くのに僕には数秒の時間がかかった。
だが、同時にこの感触は僕をあの漠然とした不安感から完全に救い出してくれた。
す・・・っとはずされる、僕と舞夢の口唇・・・。
「えへへへ。」
ちょっと気まずそうに照れ笑いを浮かべる舞夢の顔を見ながら、僕は心の奥底から今までとは別の感情がふつふつと湧きあがるのを感じた。
もっと彼女に触れたい。
もっと彼女の事を知りたい。
もっと彼女の体温を感じたい。
気が付くと今度は自分から舞夢の口唇に襲い掛かっていた。
舞夢は一瞬ビックリしたような表情を見せたが、すぐに舌を絡めて応えてくれた。
僕は夢中で彼女の舌を、口唇を貪った。
彼女もまた、僕の舌を吸い込むようにしたりしながらそれに応える。
長い接吻の後、離した二人の口唇からきらりと一筋の糸がひかれる。
僕はそのまま舞夢をベッドに押し倒す。
舞夢はそれに抵抗もせず、なすがままに倒れこむ。
そうしながら、僕は震える手で彼女のタンクトップを下から捲り上げる。
思っていたより大きなブラに護られている胸が露になり、舞夢は頬を染めながら顔をそむける。
そのしぐさに胸の奥をぎゅっと掴まれたような感覚が襲う。
僕は夢中で彼女の背中に手を回すと、そっとブラのホックを外す。
それと同時にさっきまで布生地に護られていた柔らかな二つのかたまりがぶるん、とはじけ出る。
その先端では、つんととがったピンクの突起がいとおしげにこちらを見ている。
おそるおそる、そのはじけ出たふくらみをそっと両手で包み込む。
先ほど服の上からあの感じた柔らかさが、さらに柔らかみを増して僕の手の中におさまる。
僕は、おもわず彼女の胸の谷間に顔をうずめる。
とく、とく、と脈打つ彼女の鼓動が聞こえてくる。
心なしか、さっき聞いた時よりも早くなっているような気もする。
そのまま口唇と舌を柔らかい肌の上に這わせながら、あのピンク色のこりこりとした突起に向かう。
「あっ」
辿り着いた舌をその突起にからめ、軽く吸い上げると彼女は甘い吐息を洩らし始めた。
もう片方の乳首は右の指でふにふにと弄んでいる。
こうしていると、ひどく気分が落ち着く。
泣き出した赤ん坊が、母親の乳首を口に含むと泣き止む理由がなんとなく分かった気がした。
アレはきっとお腹が満たされることへの満腹感だけではないのだ。
「・・・ふぅ・・・、ふぅ・・・。」
そうこうしているうちに彼女の吐息が荒くなってきているのに気が付いた。
内腿も、もぞもぞさせている。
僕は彼女の太腿に左手を走らせると、そのままホットパンツの隙間から、彼女の敏感な部分に手を忍び込ませた。
「あっ・・・んっ・・・。」
舞夢の身体がピクンと反応する。
僕が直接触れたのは彼女の下着であったが、それでも敏感になった彼女自身にとっては十分な刺激だったのだろう。
そして、そこは、まるで洩らしたかのようにぐっしょりと濡れていた。
僕はそのまま下着の奥にまで指を滑り込ませた。
そこはぐっちょりと水っぽく、そして熱かった。
ちくちくとした陰毛をかきわけてワレ目状になっているところを見つけると、そのワレ目に中指を沿わせる。
するとその奥からまるでジュースでも搾り出すかのようにじゅわっと愛液が漏れ出る。
「はうぅっ・・・!!」
彼女はぴくぴくっと身体を震わせると切なそうに僕に抱きついてきた。
僕は構わず指を上下にこすり上げる。
「んんんん〜〜っ・・・。」
声を押し殺してもだえる舞夢を僕は心から可愛いと思った。
しばらくそうしていると、ワレ目の付け根のあたりにちょっとした突起があることに気が付いた。
コレが・・・噂に聞く・・・クリトリスと言うヤツだろうか?
試しにその突起をちょんちょん、と人差し指でノックする。
「ひあっ!!ダメッ!そこ・・・。」
予想通りの反応に僕はなんだか嬉しくなった。
「ねぇ・・・そろそろ・・・脱がしてよ・・・。パンツがぐちょぐちょで・・・気持ち悪いの・・・。」
たしかにそれもそうだろう。
コレだけ濡れていたら、小水を洩らしているのと大差が無い。
弄くるのに夢中でそんなことにも気が付かないでいた。
僕は慌てて彼女のホットパンツに手をかけるが、引っ張ってもなかなか脱がせられない。
「おちついて。お尻のほうから脱がせてくれないと、脱げないよ。」
そういいながら彼女は軽くお尻をあげて、脱がせやすい体勢をとってくれた。
僕は彼女に言われた通りにお尻のあたりに手をかけると、下着もろとも剥ぎ取った。
生まれてはじめて生で見る女性の股間はちょっと不思議なものに見えた。
あっけないほどすっきりした股間にさわりと生えた陰毛・・・。
見慣れた股間の棒と袋が無いだけで、こんなにも違って見えるのか・・・。
しかしそのシンプルなつくりがこの上なく魅力的なものに見えるのだから、不思議と言えば不思議だ。
じっと股間を凝視している僕に舞夢は恥ずかしそうに訴える。
「あたしだけじゃ・・・恥ずかしいんだから・・・。」
そういいながら、彼女は手早く僕からシャツを剥ぎ取り、ズボンのチャックに手をかける。
ジジ〜〜・・・。
ジッパーを下ろすとそのままホックも外し、下のトランクスごと一気にズボンを脱がす。
びんっ!!
それと同時に既に興奮のあまりびんびんになっている僕の肉棒が露になる。
それは誇らしげに天を向き、先っぽからはヌルヌルとした透明な液体が既に漏れ出ている。
「うわっ・・・!!もう・・・こんなに・・・。」
そういいながら、舞夢は柔らかい手で僕自身を優しく包み込む。
生まれてはじめて他人に触れられた僕の肉棒は悦びのあまりびくびくと脈打つ。
舞夢は右手で僕の棒を刺激しつつ、左手と舌を使って乳首やわき腹を愛撫する。
コレが・・・なんとも言えずに気持ちいい。
乳首で感じるのは女のコだけはないらしい。
そのまま彼女の舌はいったん僕のヘソの周りをうろついたかと思うと、次はそおっとてらてらした亀頭部分に触れてきた。
そしてそのまま先っぽに口唇をあてがうと漏れ出ていたと透明な粘液をすすりとる。
その行為に一段と硬度を増した僕の棒を、今度は彼女がゆっくりと口の中に含んでいく・・・。
ねっとりとした口内の粘膜に包まれて悦ぶ肉棒・・・。
舞夢はじゅぽじゅぽといやらしい音を立てながら、夢中でしゃぶりつづける。
また、彼女は時折口から棒を外して、裏すじに舌を這わせたり、玉袋を舌先で弄んだりした。
その度に肉棒は新しい快感に咽び震えた。
そんな快感の中で・・・僕は耐え切れなくなってきていた。
「ねぇ・・・。」
「んんっ・・・。なに・・・?」
「そろそろ・・・舞夢の膣中に入りたい・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・いいよ・・・。」
彼女は僕を仰向けに寝かせると、そのまま天井を向いてびくびくと跳ねている肉棒を掴み、そっとその上に腰を下ろしてきた。
いわゆる騎乗位というヤツか・・・。
じゅる・・・んっ・・・。
「は・・・んっ・・・。」
舞夢はそっと自分の入り口に僕を案内すると、一気にその身体を沈めてきた。
それにあわせて僕の肉棒はあっけなく彼女の膣内に吸い込まれた。
はじめて感じる女のコの膣内。
そこは、思っていたより広く、熱かった。
それでいてむにむにとした肉壁がまんべんなく自分の棒を刺激しているのがわかる。
「動くよ・・・。」
「ん・・・。」
そういうと舞夢は腰を前後にずらしてきた。
その度ごとに身体を突き抜ける快感。
僕はもう夢中だった。
「あっ・・・あっ・・・くうっ・・・イイ・・・・・、いいよォ・・・。」
僕はいつの間にか彼女の腰の動きに合わせて激しくピストン運動をしていた。
誰に教わったわけでもないのに、とにかく自然に腰が動いてしまう。
そうして舞夢の膣奥を攻めるたびに、彼女は快楽に顔を歪ませる。
その表情を見ることで僕の興奮は更に加速していく。
「んあっ・・・、ハァ・・・ハァ・・・。あああっ・・・。ちょ・・・ちょっと・・・もうダメ・・・。んんっ・・・。」
更に僕はそれだけでは飽き足らずに上半身を起こすと舞夢のおっぱいを揉みしだき、乳首を吸い、唇にキスをした。
首筋に舌を這わせ、耳たぶをくにくにと甘噛みすると彼女の身体はぶるぶると震える。
「・・・っ!!・・・」
そうこうしているうちに限界が近付いてきた。
肉棒の付け根辺りがむずむずと反応し、とにかくぶちまけてしまいたい欲求に駆られる。
「ダメだ・・・そろそろ・・・出る・・・。」
「あ・・・ああ・・・あたしも・・・イキそう・・・。イく・・・。一緒に・・・イクっ・・・。」
「ああああああ・・・・、ダメだ・・・・・・もう・・・」
「イクっ・・・イクっ・・・イクよぉ・・・」
「あああっ!!」
彼女の膣内がびくびくっと収縮するとそれにあわせて僕の肉棒も熱いマグマをどくどくと吐き出す。
お互いに身体をぶるぶると震わせながら、お互いの性器の反応を感じとる。
「ああ・・・熱い・・・。」
ちょっとまずいかな・・・などと思いながらも、結局最後の一滴まで彼女の膣内に白いマグマを吐き出してしまった。
そして、そのマグマと一緒に自分の意識も流れ出ていくような感覚に襲われた。
そんな僕を、舞夢は上気した顔で微笑みかけ、
「これで、もう、だいじょうぶだね。」
と呟いた。
僕の意識はその言葉の意味を考える暇も与えずに、沈んでいった・・・・・・。
気が付くと、朝であった。
そのまま、軽くのびをすると、むくりと上体を起こした。
僕はここではじめて違和感を感じた。
なぜ、朝だと気がついたのだろう?
いつもなら、年中雨戸がしまっているせいで、目覚めの瞬間に「朝だ」と感じた事などなかった。
そうだ、この部屋、明るい!
いつの間にか締め切られていたはずの雨戸が開かれ、朝の日差しが部屋の中に入り込んでいる。
そう、まぶしい太陽の光が自分の顔を照らし、それで目が覚めたのだ。
僕はしばらく呆けたように、その朝日の中に佇んでいた。
いや、待て・・・。
何か・・・忘れている・・・。
そう!
舞夢だ!
僕は起き上がってあたりを見回したが、彼女の姿はどこにも見当たらない。
当然トイレにもバスルームにもいなかった。
玄関には靴も無かった。
夢・・・だったのだろうか・・・?
そう、その名前のように・・・。
考えてみれば、僕は結局彼女のことについて何も分からなかった。
生い立ちも年齢も、なにもかも。
知っているのは名前だけだが、それだって本名かどうかはわからない。
でも・・・確かに・・・・・・。
そう、確かに彼女は存在した。
それは・・・体のぬくもりだけが覚えている。
それに・・・。
ふと、テーブルに目をやると、そこにはファミレスで見たあの求人雑誌が置かれていた。
そして、その上には、彼女に迫られて買った、あのアクアマリンのピアス・・・。
僕はピアスを横にずらすと、覚悟をきめて、その求人雑誌を手にとる。
例の黄色い表紙にガッツポーズの女の写真・・・・・・。
だが、もう彼女は何も言わなかった。
ただ、カメラ目線で屈託のない明るい表情をうかべている。
不思議なことに僕にとって、その笑顔はもう、不気味なものではなくなっていた。
その数分後、その求人雑誌をめくっている自分がいた。
そして、おもむろに自分の携帯電話を手にとり、
「あ、求人の雑誌を見てお電話した、斎藤というものですが・・・」
数日後・・・
僕はとある本屋の店員として働いていた。
担当はマンガやゲームの攻略本なんかが置かれているコーナーだ。
僕が多少なりともその方面に詳しいことが分かると、すんなりそのコーナーを任された。
とは言っても、まだまだ見習いで、仕事を覚えるのに精一杯であるが。
「ねぇ、斎藤さん。」
「はい?」
平積みにされたマンガを整理していると、同じバイトの同期の女のコに声をかけられた。
「その、アクアマリンのピアス、似合ってますね。どこで買ったんですか?」
「・・・・・・。ああ・・・コレですか・・・?コレは・・・。」
明日はまた違う自分に会えそうな気がした。
FIN