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PN 葦座那由他 (よしざ なゆた)


物語の舞台

近未来の某都市。舞台となる時代は既に自律思考型AIを搭載した二足歩行ロボットが広く普及し、一般社会の中にも浸透しはじめた頃である。ただし、最先端開発中のロボットや、特殊仕様ロボット、例えば局所作業用ロボットや軍事用などであるならまだしも、一般社会で普通に市販されている「自律思考型ロボット」と銘打たれているものはそのコストの面などの問題からもその実、まだまだ十分な自律思考ができるとは言いがたく、厳密には「自律思考らしきもの」ができるにとどまっているのが現状である、と言う時代。

それでも一般家庭において炊事洗濯の手伝いをさせたり、子供の子守りをさせたり、ちょっとした愛玩用にするには十分なレベルでの機能を持っており、それなりに普及してきている、といった開発途上的な状態にある。

また、人の住む都市自体も中心街はそうした技術レベルに合った、高いインフラが整備されている。いたるところに情報端末デバイスが設置され、携帯電話やモバイルPCなどを用いることで様々な情報のやり取りのサービスが受けられるようになっている。分かりやすく言うと、例えば、電話通信はもちろん、現在位置の確認からピザの注文までが可能と言った総合情報端末でなのである。また、街の各所に設置された街頭モニターには、絶えずニュースやCMなどの映像情報が流れている。これは都市内で犯罪が起こった際のそれに対する報道などにも役に立っており、それがそのままその街の治安維持に役立っていることは言うまでも無い。

だが一方で、労働ロボットの普及によって下層の労働者層は仕事にあぶれ、失業者が増加していた。そうした失業者たちはいつしか都市の周辺に集まり、そこは自然とスラムと化していった。当然このスラム街では中心街のような高いインフラは整備されておらず、治安も非常に悪い。元々は中心街とほぼ変わらない規模での開発が行われた筈なのであるが、メンテナンスなどが殆ど行き届かない状態が長年続いたために、結果としてインフラの整備が不十分、といった形になってしまっている。こうした状況から、おおよそ都市中心部をドーナツ状にぐるりと囲むようにスラム街が形成されており、中心部の人間は他都市へ出る際はスラム街を出来るだけ通らないで済む手段、例えば幹線道路や鉄道を使うのが常である。警察などもこのスラム街に踏み込むのは極力避けたい、と言うのが本音であり、そうした状況がスラム内での治安の悪化に拍車をかけている。

逆に言えば、こうしたスラム街は犯罪者などが逃げ込むには絶好の場であり、その意味でスラム内では様々な独自の組織や設備が設置されつつある。時の政府などもこの問題には非常に頭を悩ませてはいるのだが、これと言った抜本的打開策が無いのが現状であり、事実上、都市中心部とスラム街は中心街とは殆ど別の都市と化しており、互いの住民が交流することなどは滅多にない。

そんな時代状況であるが、一方で経済状況、殊にロボット開発をはじめとした重工業、それを制御するための情報工学はめざましい成長を遂げていた。そんな中でも特に自律思考型二足歩行ロボットの開発のトップとして急速に業績を伸ばしてきた会社があった。株式会社エメラルドコーポレーションがそれである。現在エメラルドコーポレーションは他の同業他社と競合し、「Organization of Z」すなわちZ協会、通称OZ(オズ)を立ち上げ、事実上、世界レベルの自律思考型二足歩行ロボットの全技術を掌握していると言っても過言ではない。

こうした状況になれば、当然浮上してくるのが国家レベルでの政府組織、とくに軍事関連施設との癒着関係である。自律思考型二足歩行ロボットとはすなわち軍事的には破壊されるまで自律して作戦を遂行できる兵士と同義であり、一般兵士を用いた場合に課せられる人件コストや補償を一切考慮に入れずに使うことの出来るまさに夢のシステムである。こうしたロボット兵士の開発に大国が目をつけない筈もなく、このエメラルド・コーポレーションをはじめとする開発組織OZが国際レベルで軍事ロボットの開発に心血を注いでいるのではないか、との噂もまことしやかに囁かれているが、その真実は未だ闇に閉ざされたままである。

 

物語の開始

モノローグ (大人のドロシーの声による) 舞台となる近未来の街の風景をバックに


「それは私がまだ世界は単純に正義と悪に割り切れるものだと考えていられるほどに幼かった頃だった・・・。」

 

舞台となる近未来のある都市の風景


高い高層ビルが立ち並び、道にはスマートな形状の自動車が走っている。また街路樹なども計画的に植えられており、道行く人々の心を癒している。小奇麗な街を行く人々に混じって自律型二足歩行ロボットも普通に歩いている。街道にはゴミなども殆ど落ちておらず、非常に綺麗であるが、これは街中のあちこちに設置された清掃用ロボットが働いているおかげである。

また、街の所々には最新ファッションの看板などとともに街頭モニターがいくつも設置され、そこでは某軍事用ロボット脱走のニュースや新型メイドロボットのCMなどが流されている。人々にとってはそれはあまりにもあたりまえな風景であり、誰も皆、そんなものにはさして気にも止めず平和な生活を満喫している。公園の噴水の前で憩うカップル。携帯端末をいじりながら忙しげにかけていくスーツ姿の男。集団で下校中なのか、騒がしく通り過ぎていく女学生の一団。買い物を頼まれたのか、両手に買い物袋を下げながらまっすぐに歩いていくメイド用ロボット、など・・・。


そこから場面は一転する。

真っ暗な画面


 ガンガンガンガン・・・(何か金属のようなものを叩く音)


 ブ〜〜ン  (叩かれた衝撃で何かが起動する)


目が開くように、少しずつ明らかになる視界。


目の前には10歳前後の少女が怪訝そうな顔をしてこちらを覗きこんでいる。


状況を説明すると、つまりは機能が停止して転がっていたロボットを、この少女が軽い気持ちで叩いてみたら、たまたま起動した、という状況である。

周りは先ほど垣間見た小奇麗な中心街と同じ街中のものとは思えないほど荒んだスラム街である。街の全体は打ちっぱなしのコンクリートの灰色と錆の茶色で覆われており、時折、柄の悪い集団が通り過ぎる。街道にはゴミくずや糞尿などが散らばり、片隅にはネズミやゴキブリなど言った連中が巣を作っている。道に沿って立ち並ぶ建物の一階部分の窓ガラスは殆どが割られているか、羽目殺しになっており、治安の悪さが既に限界レベルであることを物語っている。中心街では普通に見られた情報端末デバイスには落書きが施され、配線も切られていたりする物が多く、街頭モニターも殆どのものが割られている。空の色だけは中心街とも変わらないはずなのに、ここから見る空を、どことなく暗く感じるのは何故であろうか・・・そんな感じの風景の広がるスラム街・・・。
 
 このロボットはそんなスラム街の一角にある、金網で囲まれた廃棄物置き場のような所の隅に打ち捨てられるように転がっていたのである。

少女はスラム街の片隅で廃棄同然に捨てられていた(ように見えた)このロボットに興味を持って叩いたり弄くり回したりしていたのであった。

少女はまさかロボットが起動するとは夢にも思ってなかったようで、きょとんとロボットの方を眺めている。

ロボットは自分の置かれた状況を直ちに判断すると、少女に話し掛けた。

ロボット 「こんにちは、お嬢さん。こんな所で何をしているの?」

少女 かなり困惑した感じで

「あ、あなたこそ、何でこんな所に捨てられていたの?まだ動くのに・・・。」

ロボット 「さぁ・・・何故でしょう・・・?私にも判りません・・・。」

このときこのロボットは自分のメモリの大部分が消えていることに初めて気がついた。基本的な初期状態のデータはあるのだが、AIの個性にあたる「記憶」や「学習」にあたるメモリ領域のほとんどにアクセスが出来ない。メモリ自体が消えてしまったのだろうか?消えているとしたら自分が倒れている間にデータが壊れてしまっただけなのだろうか?それとも何者かにメモリを消されてここに捨てられていたのだろうか?いや、本当はまだデータは消えておらず、たまたま現在の起動が不十分で単に回路的にアクセスできないだけかもしれない。いずれにしても今のこのロボットにはそれを知る術はない。

少女 少し緊張した感じで 「ふぅ〜〜ん。へんなの。ところであなた、お名前は?」

ロボット ブーンとメモリにアクセスする音がして、答える。

「名前のメモリはあるみたいですね。ティンと呼ばれていたようです。貴方のお名前は?可愛いお嬢さん。」

少女はロボットが好きなのか、初めて出会ったロボットと意思の疎通が出来たことに嬉しそうに答える。

「私の名前はドロシー。ドロシーよ、ティン!」

ティンと呼ばれたロボットは答える。

「そうですか・・・ドロシーですか。良い名前ですね。」

 

そう言いながら、ティンの目はドロシーの向こう側を見ていた。そう、ここは治安の悪いスラム街。こんな所にこんな歳の少女が一人でいるのは狼の群れの中に羊がいるようなものだ。今も早速怪しい男達が数人、十メートルほど離れたところからドロシーの様子を伺っている。そもそもこんな幼い少女がティンが倒れていたところまで何事も無くたどり着いたことすら奇跡に近い。よっぽど運がよかったのだろう。メモリの一部が消えているとは言え、そう言った最低限の判断が出来るレベルにはAIは十分に機能しているようだ。

ティンは自分の関節の稼動を改めて2,3度確かめる。思ったより錆付などが無いようで、すぐにでも動けそうだ。それを確認すると、すっくと立ち上がった。

「ではドロシー、ちょっとお散歩に行きましょうか?」

そう言いながら何気に男達の視線を遮るようにドロシーの後ろに回りこむ。男達はそれを見ると、ちっと舌を鳴らして去っていく。

ロボットが間に入っては面倒なことになると考えたのだろう。ロボットの中には当然、無線で非常警報を警察などへ転送できる機能を持ったものもある。こういったロボットに絡んでしまうと後々面倒なのはここの住民なら皆知っている。

一方でドロシーはこのチンピラたちとティンの一連のやり取りには気付かずに、無邪気に立ち上がり、服の埃をパンパンと払った。子供と言うものである。

「そうね。なんだかココはつまらないし。」

既にドロシーはティンに対して強い警戒心を抱いていない。ドロシーが子供過ぎてあまりにも無警戒なのも確かにそうなのだが、基本的にこの時代の全てのロボットにはいわゆる「ロボット3原則」、すなわち

「第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また何も手を下さずに人間が危害を受けるのを黙視していてはならない。

第二条  ロボットは人間の命令に従わなくてはならない。ただし第一条に反する命   令はこの限りではない。

第三条 ロボットは自らの存在を護(まも)らなくてはならない。ただし、それは第一条、第二条に違反しない場合に限る。」

が適応されており、ロボットそれ自体が人間に危害を加えることはまず無い、と言うことをドロシーは既に体験的に知っているため、このティンにも簡単に心を許したのである。

 

ティン 「とりあえずこの辺りは危なそうだから、安全な街の中心までお供いたしますよ、ドロシーお嬢様。」

ドロシー 嬉しそうに 「わぁい。頼もしい。ドロシーのナイトになってくれるって訳ね?よろしくね、ティン!」

どうやらドロシーはロボットがかなり好きな子供らしい。ドロシーはまるで自分だけのナイトを手に入れたような気分になり、嬉しそうにティンの手をとると、元気に歩き出した。

 

当初、ティンは近くの情報端末にアクセスして現在位置を確認して、ドロシーの家と帰路を検索し、その情報を頼りにドロシーを家にまで連れて帰る予定であった。

しかし、ここで予想外のことが二つ起きる。

一つはここがスラム街であるため、情報端末が殆ど見つからないことである。たまに見つかっても何者かに壊されていたりして、殆ど使い物にならない。スラム街はこうしたインフラのメンテナンスなどの業者も立ち入るのを嫌がるため、一度壊れた設備や施設はなかなか直らないのが常なのである。

もう一つはドロシーが家に帰りたがらず、正確な家の場所や自分のフルネームを名乗らないことである。これでは住所の検索のしようが無い。「ドロシー」なんていう名はこの街にもありふれており、まさかそれに該当する全ての住所を虱潰しに探していくわけにもいかない。

 

ティン ちょっと困った様子で 「ねぇ、ドロシー、そういえばドロシーのお父さんとお母さんは今、どこにいるの?」

ドロシー 一瞬はっとしたような顔になり、そのまま機嫌の悪そうな表情になる。

「知らない、そんなの。」

ティン 「もしかしてドロシーは迷子なのかい?」

ドロシー ムキになって反論 「違うもん!ドロシーは家出して来たの!あんな家には絶対帰らないもん!」

ティン 困ったように 「そっか・・・。じゃ、とりあえずお父さんとお母さんの名前、教えてもらいたいな。」

ドロシー 更に態度を硬化 「そんな事言って、どーせドロシーを家に帰すつもりなんでしょ?ふんだ!絶対帰らないもん!」

ドロシーはそう言うと、すっと立ち上がった。

ふと、ドロシーのポケットからロケットが転がり落ちる。地面に落ちた衝撃でそのロケットが開くと、中にはドロシーの両親と思われる優しそうな夫婦の写真が挿まれていた。

それに気付いたドロシーはそれを拾い上げると、「こんなの!」と遠くに放り投げてしまう。

そしてそのまま、ティンと繋いでいた手を離し、すたすたと今まで歩いてきたのと反対方向に歩いていってしまう。ここでドロシーをこのまま一人にしたら、今度こそ彼女の命はないだろう。流石に困ったティンはドロシーの後を追いかけ、前に回りこむとドロシーに優しく話す。

ティン 「分かった。じゃぁ、ドロシーをムリに家に帰すのは止めた。」

ドロシー とたんに表情が明るくなる 「ホント?そんな事言って警察とかに連れて行くのも無しだよ?」

ティン、おどけて 「ロボット、ウソ、ツカナイ。」

ドロシー、それを見て笑う。 「きゃはははっ!」

 

それにしてもティンとしてはかなり困ったことになった。ドロシーを家に連れて帰らず、このまま彼女を連れまわしていたら、自分は誘拐犯だ。何よりとりあえずこのスラム街から脱出する必要があるわけだが、自分がここまでたどり着いたまでのメモリが無いので(もしくは一時的に検索できないだけか?)道がさっぱり分からない。当然ロボットには「勘」なんてものも存在しない。ドロシーは少なくともティンが倒れていた所までは一人で歩いて来たに違いないので、もしかしたらドロシーには多少は分かっているのかもしれないが、その記憶は殆どあてにならないだろう。色々な意味で。

途中、ティンたちは一匹の野良猫に遭う。

積み上げられたスクラップの陰から飛び出すようにちょこんと現れる子猫。まだ小さな子猫で世の中の危険などについてもまだ十分に認知できていないようだ。(その意味ではドロシーも同レベルか・・・?)人懐っこく、ティンとドロシーに近づくと、二人(?)の足元で「にゃー」と鳴く。

ティンは万が一この野良猫がドロシーを傷つけては、と思い、子猫の前に立ち塞がると、脅かして追い払おうとする。

それを止めるドロシー。

「止めて!かわいそうでしょ?こんな小さな子驚かせちゃ・・・。」

野良猫に無用心に近づくドロシー。

「ほらほら、怖くないよぉ・・・。おいで・・・。」

野良猫は恐る恐るドロシーに近づくと、そのまま差し出したドロシーの指をぺろぺろと舐め始めた。

「あはははっ。ざらざらする。(ティンのほうを振り向いて)ほら・・・こわくないでしょ?」

そう言いながら野良猫を抱きかかえるドロシー。

それをちょっと一歩後ろから見守るティン。

 

ティンはふと気がつく。

確かに相手は小さな子猫だ・・・。万が一、子猫が暴れたりすればひっかかれる程度の怪我はするかもしれないが、わざわざ脅かして追い払うほどのものでも無いはずである。なぜ、自分はこれほどまでに臆病・・・いや、用心深いのか・・・?これも自分がメモリを無くす以前のAIの「学習」が身に付けさせた何かなのか?それとも・・・?

そんな事を考えていると、ふと、ティンの視角デバイスにフラッシュバックが挿入される。

おいしそうにオートミールを頬張りながら、こっちを見て笑いかける男。

何かを叫びながらこちらに突進してくる男。

血まみれのまま何かにおびえている男・・・。

そんな意味不明なフラッシュバックがちらちらと映し出され、ティンは自らの動きを止めた。なんだ、この映像情報は・・・?

ドロシーは相変わらず野良猫と遊んでいたが、ふとティンを呼び止めた。

「ねぇ、ティン!ティンもそんな所でぼーっとしてないで、こっち来てよ!」

その声にはっとする(ロボットがはっとするというのも変な話だが)ティン。

もうフラッシュバックは消えている。

ティンはそのままドロシーと猫に近づくと、ドロシーが抱きかかえた猫に手を差し伸べた。猫はティンの金属製の手を怪訝そうに叩いたり引っかいたりしていたが、そのうち、ドロシーの腕からぴょん、と飛び出してしまった。

「あっ!」

ドロシーが慌てて追いかけようとすると、もう一匹の、こっちは大人の猫が子猫の行く先に立っていて、子猫に向かって「にゃー」と鳴く。

ティン 「きっと・・・お父さんかお母さんだね。」

ドロシー ちょっとさびしそうに 「・・・・・・・・・。」

子猫は一度ドロシーの方に振り向いたが、そのまま親猫と思われる猫の方に走っていき、二匹はそのまま壁を飛び越えて見えなくなってしまった。

ドロシーはこの猫たちを見て、少し家が恋しくなったのか、少しさびしそうな顔をしながら二匹を見送った。知らず知らずのうちにドロシーはティンの硬い指をぎゅっと握り締めていた。

そんなドロシーに気がついたティンはドロシーにこっそりと尋ねる。

 

ティン 「ねぇ、ドロシー?どうしてドロシーはおうちを出てきたの?」

ドロシーは暫くうつむいてその質問に答えなかったが、ふと、顔を上げるとぽつりぽつりと話し出した。

ドロシー 「ドロシーのうちにはね、いつもドロシーのこと、大事にしてくれていたロボットがいたの・・・。」

 


ドロシーの家の回想シーン

 ドロシーの家は大きな塀にぐるりとか囲まれた一等地の一軒家、むしろ「屋敷」と言った方が正しいかもしれない、といったほどの立派な建物であり、庭木なども綺麗に刈り込まれ、整備されている。内装も決して派手ではないが、小奇麗にまとめられており、中流階級というにはあまりにも立派なたたずまいである。

つまりこれはこの家が決して家族のだけの手によって維持されているわけではないことを物語っている。つまりかなり裕福な家であることを思わせるものであり、ドロシーがその中で何不自由なく育てられたお嬢様的な存在であることをほのめかす情景である。

そんな中でお転婆にはしゃぎ回るドロシーをあたふたと追いかけながら一生懸命お世話をしている旧型のメイドタイプロボットがいる。旧型であるため、昨今のメイドロボット(冒頭の街頭モニターのCMなどで最新版のメイドタイプのロボットの形状などが流されている)のように人型に近い形やスマートな体型をしておらず、メカメカしい、いかにも「ロボット」なロボット。所々塗料がはげ、錆が浮いてきたりもしている。声帯もまた合成音で発声の抑揚もやや不自然。そして何より自律思考用のAIが旧型であるため、会話もたまに食い違ってしまうほど、あまりAIが高度に機能していない。

そんな情景をバックに流れるドロシーのモノローグ


「名前はトートー。パパの会社で一番初めに作られたメイドロボットがトートーと同じタイプのロボットで、パパが、私が生まれた時に会社から特別に貰ってきてくれたの。」

「トートーは・・・生まれた時から一緒で、ドロシーにとっては・・・もう一人の自分って言うくらい大事なお友達なの・・・。」

「確かにちょっと古いから・・・ティンみたいな自然なおしゃべりが時々出来なかったり、たまにとんちんかんなことをやったり・・・特に最近は関節がさびついたりして時々動きが悪くなっちゃったりしてたけど・・・。」

ある朝、2階の自室で目を覚ましたドロシー。ふと窓から目下を見下ろすと、家の前で大きなトラックが荷物の積み下ろしをしている。ドロシーの父親もそれを指示しており、それが父親によって行われている作業であることを示していた。

ドロシーは積み込まれている荷物の大きさに何か気がついたようにはっとして飛び起きると、慌てて着替え、部屋を出た。そのまま階段を駆け下りると、そこには作業を終えてちょっと疲れた顔をしたドロシーの父親が立っていた。父親は階段を駆け下りてくるドロシーに気付き、笑顔をドロシーに向け、そのままドロシーを抱きかかえようとした。ドロシーは父親の一瞬手前で止まると、父親に尋ねる。

「トートーは?トートーは何処へいったの?」

そう、いつもならこのタイミングでドロシーが階段を駆け下りれば、奥の部屋からトートーが必ず「お嬢サマ、危ナイです・・・」などと言いながら駆け出してくるのだが、そのトートーの姿が見えない。代わりに玄関の隅に見慣れない最新型のメイドロボットが突っ立っている。

父親は一瞬ちょっと困ったような顔をしたが、すぐに笑顔に戻ると、

「トートーはね、新しくなったんだ。前のトートーじゃ古くてドロシーも困っただろ?学校のお友達もみんな、もっと新しいロボットを持っているはずだ。だから今日からアレが新しいトートーだ。

父親が指差す先は玄関の隅に立っている最新式のメイドロボット。このロボット、すなわち2代目トートーはドロシーと目が合うや否や、

「おはようございます、ドロシーお嬢様。」

と流暢に挨拶をし、お辞儀をした。

が、ドロシーはそんな事には目もくれない。あの、古くてちょっぴり油とさびの匂いのする不恰好なトートーは何処?

ドロシーは叫ぶ。

「あんなのトートーじゃない!トートーは何処?どこに連れて行ったの!?」

父親は困った顔をしながらドロシーに話し掛ける。

「ドロシー・・・トートーはね、もう古くなっていたんだ・・・だからね・・・」

「パパなんてだいっきらい!」

ドロシーは父親の言葉を最後まで聞かずに大声でそれを遮ると、そのまま家を飛び出した。

 

父親はあとを追いかけようとしたが、今は何を言っても無駄だと考え、追いかけるのをやめた。(このとき父親はまさかドロシーがこのままスラム街にまで行ってしまうとは思いもしなかったのである。)そんな父親の後ろにドロシーの母親がやってくる。

母親 「あなた・・・やっぱり前のトートーを引き取って貰うのはやめた方が良かったのかも・・・。」

そんな母親の言葉にちょっと怒りながら父親 「馬鹿。あのロボットはホントにいつ止まってもおかしくないくらいだったんだぞ!?もし万が一、急に止まったりしてドロシーの上にでも倒れてみろ!下手すれば大怪我じゃ済まないかもしれないんだぞ!?」

母親 「それにしても・・・。」

父親 「まぁ、ドロシーがあんなにも前のトートーの事を気に入っていたのは・・・予想外だったが・・・。」

そのままたたずむ二人・・・。

 


回想シーン終了

 

 


ドロシー 「と言うわけでね、パパが前のトートーを元に戻して、ドロシーに謝りに来るまで帰らないの!」

ティンはここまでドロシーの話を聞いて内心色々な意味で驚いた。まず一つはドロシーが思った以上のお嬢様であった事。これではますます騒ぎを大きくするわけにはいかなくなってきた。

そして、10歳ほどにして父親との喧嘩をきっかけにスラム街にまでプチ家出を敢行してしまうドロシーの恐ろしいほどの行動力である。一体、スラム街までどうやってたどり着いたのかは想像できないが、適当に地下鉄などを乗り継いで、更にぶらぶらとさ迷い歩いたりして辿り着いたのだろう。最も本人は自分がそんなに危険な地帯にいるという自覚はあまりなさそうであるが・・・。

いずれにしてもドロシーの話のとおりなら、ドロシーが家を飛び出してからまだ数時間しか経っていないようである。今ならまだ、騒ぎを大きくしないで事件を解決する事が出来る筈である。

ティンはそうした思考を読み取られないように、とりあえずトートーの話に反応することにした。

「そっか・・・。ドロシーはそのトートーのことがよっぽど好きだったんだね。」

ドロシー うつむきながら答える 「・・・うん・・・。」

ティン 「でも、僕が思うに、ドロシーがトートーの事好きなのと同じくらい、ドロシーのお父さんはドロシーのことが好きなんだと思うよ。」

ドロシー ちょっと驚いたような感じで顔を上げて 「えっ!?どうして?ドロシーの大事なお友達を・・・どっかに捨て・・・捨てちゃったのよ!?」

ティン 「確かに・・・ドロシーにとってはそれは辛いことだけど、お父さんにとってはドロシーを危険から遠ざけたい一心でそうしたんだと思うよ。」

ドロシー 「なんで?トートーは危険なロボットなんかじゃないわ!ドロシーのお友達よ!?」

ティン 「でも古くなったロボットは実際、思っているように動けなくなったりすることもあるんだ。例えばそれはAIの故障だったり、配線の断線だったり、関節の不具合だったりするんだけど・・・。」

ドロシー 「・・・・・・。」

ティン 「同じロボットだから分かるんだ。今のロボットにはこういった事故をある程度自分で未然に防ぐような装置が入っているけど、やっぱり古くなると、その装置も正常に作動するとは限らないし・・・。それにもし、万が一トートーがドロシーを傷つけるような事故が起こった時、一番悲しいのは、そりゃ、当然お父さんやお母さんも悲しがると思うけど、トートー自身がやっぱり一番悲しがるんじゃないかな?大事なお友達が、自分のせいで怪我する、こんなに悲しいことは無いでしょ?ドロシーもそうでしょ?」

ドロシーはうつむいたまま、答えない。

ティンは続ける 「だからさ、きっと、ドロシーのお父さんが勝手にトートーのことを連れて行ってもらったんじゃなくて、トートーと、そしてお母さんと相談して、もしかしたらトートーが自分で言い出して、そういうことになったのかもしれないよ?」

もちろんそれは方便である。

なぜならば旧型のメイドロボットにそこまで複雑な思考回路は搭載されていないからである。10年近くも一緒に暮らしてきたドロシーにもそれはうすうすわかっている。

でもドロシーはこんな風に慰めてくれるティンの言葉が嬉しかった。

ドロシーは目に涙を浮かべながら、きっ、と顔を上げた。

「そうね、ティンがそんなに言うならそういうことにしてあげる。でもパパのこと、完全に許したわけじゃないよ?」

そんなドロシーの態度を嬉しそうに(やはりロボットが嬉しそうと言うのも変な話だが)、見るティン。

きゅっと涙をふき取るドロシー。

 

そしてふとドロシーは何かに気付いたようにティンに尋ねる。

「そういえばティンってば、まるで人間みたいね。ううん、もしかしたら人間より人間っぽいよね。ドロシーのこと、こんなに心配してくれるし・・・。
大体うちのトートーなんて、時々全然おしゃべりも出来ないんだよ?おんなじこと何度も聞いたり、言ったりさ・・・。」

ティンはちょっと照れたように答える。

「そういわれると、すごく嬉しい。というのは、今の僕はメモリが壊れてしまったみたいで暫くの間の記憶が取り出せない状態なんだけど、なんだか一つだけ強烈に覚えている事があるんだ。」

ドロシー 「へー。なにそれ?」

ティン 「うん。僕は・・・人間になりたい。」

ドロシー ちょっと不思議そうに 「人間に?」

ティン 「そう人間に。」

ドロシー 「なんで?わざわざ人間になってもいいことなんて多分あんまり無いよ?」

ドロシーは今までにもいろんなロボットを見てきたが、こんなことを言うロボットははじめてである。

ティン 「なんでかは・・・僕にも分からない・・・。でもなんか、そういう感覚だけがメモリの奥に強烈に書き込まれているんだ。」

ドロシー 首をかしげながら 「ふぅん・・・。何かよく分からないけど・・・不思議だねぇ・・・。」

ティン 「人間っぽい言い方をすれば、『人間になるのが夢』って・・・そんな感じかな?」

ドロシー 「でも、なんかわざわざ人間にならなくてもいいくらい、ティンは人間っぽい気がするけどなぁ・・・。
大体人間になるとおなかはすくし、眠くはなるし、怪我はするし、大変よ?」

ティン 「そうだね。僕も見ていて人間は大変だと思う。でも・・・何かが・・・そう思わせるんだ・・・。」

ドロシー 「そもそもそれが人間ぽいよね?」

ティン 「人間にもあるのかい?こういう感覚が・・・?」

ドロシー 「うん。よくあるよ。何でかはよく分からないけど、、急に何かがしたくなったり・・・。何かを好きになったり・・・。
あ、そうだ、例えばおなかが減ってないのにケーキが食べたくなったり・・・。」

ティン 「それはただのくいしんぼう?」

ドロシー 「そうかも。」

「あはははっ。」

二人の笑い声。

 

「そうだっ!」

ドロシーが急に声を上げる。

「ドロシーのパパ、さっきも言ったようにロボットを作る会社に勤めているんだ。そんでね、そこのちょっと偉い人なんだって言ってた。確か・・・エメラルド・・・何とか・・・。」

ティン ちょっと驚いたように 「もしかして・・・エメラルドコーポレーション?」

ドロシー 「そう!多分それ!よく知っているね、ティン。」

ティン 「ロボットを作っている会社の中じゃいちばん有名だからね。ドロシーのお父さんはそこでロボットを作っているんだ?」

ドロシー 「そうよ。トートーもパパのチームで作ったって言ってたもん。」

 これでドロシーの話に合点がいった。ドロシーの父親は天下のエメラルドコーポレーションの開発部の役職に付いている重役のひとりなのである。確かにそれならば普通の中流階級なんかとは比べ物にならないほどの高給取りであることは疑う余地がなく、ドロシーがお嬢様的な育てられ方をしてきたのも当然である。

ドロシー、得意げにティンの顔を覗き込みながら 「ドロシーがさ、パパに頼んであげる。『ティンを人間にして』って。パパの会社の人、みんなすごい頭がいいっていつもパパが言っているから、きっとティンを人間にする方法も知っているよ!うん!絶対!」

ティン 「そうだね。じゃぁ、その前にパパと仲直りしてもらわなくっちゃ・・・ね・・・?」

ドロシー 「!・・・・・・。」

そのティンの言葉を聞いてちょっと元気を無くすドロシー。

そんなドロシーを見て、ちょっと心配になるティン・・・。

でもそれは杞憂に終わった。

ドロシーは元々元気で明るい娘である。

すぐにすっくと立ち上がるとこう言う。

「そうね、ホントはパパのことなんてまだ嫌いだけど、ティンのためだもん、しょうがないから仲直りしてあげる。」

ティンはそんなドロシーの言葉を聞いてほっとする。

ティンにとってはドロシーが父親にロボットが人間になる方法を聞いてくれることなんて本当はあまり重要ではないのだ。そんなことよりも口では素直じゃない言い方をしているものの、父親と仲直りをする決心をしてくれたドロシーのことが「嬉し」かったのだ。

ドロシー 「そうと決まれば・・・しょうがない、あんまり帰りたくないけど、おうちに帰るか・・・。」

そう言ってドロシーは立ち上がるが、それと同時にドロシーのおなかがぐ〜となる。

ドロシーは顔を赤らめながらティンに言う。

「えへへ。おなか、すいちゃった・・・。」

 

ドロシーとティンは近くで見つけたみすぼらしい店でホッドドッグを見繕うと、ちょっと小高くなっているスクラップの山の上で食事をした。

当然廃棄同然に捨てられていたティンは全くの無一文であったが、ドロシーがそこそこのお金を持ってきていたようで、ホッドドッグ一本を買うには十分であった。一本で十分である。なぜならティンはロボットなので食べられないから。

というわけでドロシーはティンの隣に座ってホッドドッグを頬張る。

ティンはそんなドロシーをじっと見守っている。物が食べられる・・・、もしかしたらそこには羨望のまなざしも混ざっていたかもしれない。

そんなティンに気がついたドロシーは自分が食べていたホッドドッグを半分にちぎると、ティンに手渡した。

ドロシー 「はい、これ。」

ティン ちょっと不思議そうに 「いや、ドロシー、気持ちは嬉しいけど、僕はロボットだから食べられないよ。」

ドロシー 「でもティンは人間になりたいんでしょ?」

ティン 「そうだよ。」

ドロシー 「だったら、ホッドドッグぐらい食べられないと!人間はみんな食べられるんだよ?」

ティン 「それは・・・まぁ・・・そうだね・・・。」

ドロシー 「だったら、ほら。かっこだけでも食べようよ。」

ティン 「そうかい・・・。じゃぁ・・・。」

ティンはそう言いながら、口にあたる部分の金具を外すと、そこに空いた穴の中にホッドドッグを突っ込み、それを噛み砕く真似をした。

ドロシー 「どう?おいしい?」

ティン 「う〜〜ん、分からない・・・。」

ドロシー 「おいしいものを食べた時はもっとおいしそうな顔をするの。それも人間になるには必要なことよ?」

そんな事言われても・・・とティンは内心困りつつも、そんなドロシーの心遣いが嬉しかった。

人間になりたがるロボットなんてきっと世間じゃ奇異の対象としか見られないだろう。

でもドロシーはまるで長年連れあった友人のようにその夢をドロシーなりに本気でかなえようとしてくれている・・・。

ティンはドロシーに勧められるまま、ホッドドッグを口状の穴に突っ込んでいたが、やがて、音声出力の調子がおかしくなってきた。

ティン 「ド・・・ドロシー・・・何か・・・声・・・声が・・・上手く・・・」

青ざめるドロシー。

きっと無理やりピザトーストなんて突っ込んだものだから音声出力用のスピーカー部かどこかにかけらが入り込んでしまったのだろう。

ドロシーはあたふたしながらティンに謝る。

「ごめんなさい。ごめんなさい。まさかこんなことになるなんて・・・。」

ドロシーはふと、スクラップの山の中に運良く古くなった工具セットを見つける。

ドロシー 「ああ、丁度いいところに・・・!待ってて、いま直してあげる。」

ドロシーはティンの口の辺りから胸の辺りの保護板のハッチをその工具で手早く開けると、中に詰まったホッドドッグをせっせと取り出した。小さな少女とは思えない手際のよさだ。

ティンの音声も戻ってきた。

ティン 「いや・・・びっくりしたな。ドロシーにこんな特技があるなんて・・・。」

ドロシー ちょっと顔を恥ずかしそうに背けながら 「ドロシー・・・ロボット好きだから・・・、こっそり勉強とかしてて・・・、大きくなったら・・・ロボット作る人になりたいから・・・。」

ティン 「それがドロシーの『夢』?」

ドロシー 「そう、そうよ、それがドロシーの『夢』・・・。笑っちゃうでしょ?女の子なのにってよく言われる・・・。」

ティン 「そんな事は無いよ。手際もすごくよかった。ドロシーならきっといいロボットの専門家になれるよ。」

ドロシー ちょっと照れ笑い 「えへへ・・・。」

ドロシー 「でも今まではただ、『ロボットつくる人になりたい』ってだけだったけど、今日からもっとちゃんとした夢が二つも出来た。」

ティン ちょっと驚いたように 「え?それは・・・どういうこと?」

ドロシー 「うん。一つはいつか絶対、トートーを生き返らせること。もう一つはもしティンがパパの会社で人間になれなかったら、ドロシーがティンを人間にしてあげる!この二つ!」

ティンは胸の保護板のハッチを閉めながら、おそらく人間であれば「喜び」と感じるのであろう、不思議な感覚を覚えていた。

それにドロシーの「夢」。

本人が自覚しているかどうかは分からないが、おそらくはこれは父親の影響であろう。

そう、ドロシーは口では父親のことを嫌っているような素振りを見せていたが、その実はホントに父親のことを尊敬し、大事に思っているのだ。こうした人間だけが持つ「絆」といったもの、もしかしたらこれもティン自身を人間に憧れさせている要因の一つなんかもしれない・・・。

 


そのままティンとドロシーはしばらくスラム街を歩き回り、ようやく見つけた、壊れていない情報端末にアクセスした。

ドロシーは携帯機器を何も持っていなかったが、ロボットのティンには情報デバイスが標準で装備されている。腰の辺りからのびているケーブルを情報端末のバスに差し込めば、そのまま直で通信や情報検索が可能なのだ。そして、それを用いて現在位置とドロシーの家の位置を検索する。

ドロシー 「ドロシーの全部の名前はドロシー・A・ゾンターグ。パパはヘンリー・O・ゾンターグ、ママはエム・O・ゾンターグよ・・・。」

ティン 「ヘンリー・O・ゾンターグ・・・と・・・。」

ドロシーの家はすぐに見つかった。何しろ天下のエメラルドコーポレーションの役職の家である。

どうやらドロシーの父親はエメラルドコーポレーションの「第7開発部長」という役職らしい。

だが、ここで困ったことが一つあった。

実は今までティンたちは何も考えずに適当に歩いていたのだが、その実、ドロシーの家、すなわち街の中心街の方とは反対方向に歩いていたのである。お陰で街の中心街からはかなり離れた、スラム街の奥にまで来ていてしまっていた事に、初めて気がついたのである。

既に日も大分傾き始めている。そしてここは治安の悪いスラム街、できれば日が暮れる前にここを出たかったが、幼いドロシーを連れて今から日没までに中心街へ戻るのは至難の業である。ここには地下鉄も定期バスも無いのだ。

ティンはそのままドロシーの自宅へ電話をかけ、何とか現状を伝えようとした。だが、向こうが電話に出たとたん、急に端末の調子がおかしくなり、回線が切れてしまった。そのあと、ティンは何度も通信を試みるが、一度切れてしまった回線はうんとも寸とも言わない・・・。

ティン 「ドロシー、大変だ。今までも僕たちはドロシーの家とは反対の方向に歩いてきてしまっていたみたいだ。このままじゃ今日中におうちに帰れないかもしれない・・・。おうちのほうに連絡しようとしたけど、上手くいかない・・・。」

ドロシー ちょっと驚いたような顔で 「えっ・・・!?ドロシー、家のほうに戻っているつもりだったのに・・・。」

やはり先の怪訝どおり、ドロシーの記憶はあまりあてにはならなかった・・・。

ティン 「とりあえず、少しでも家のほうに進もう。ドロシーの家の位置はもうインプットしたから今度は大丈夫。そして、出来れば別の情報端末を探そう。パパかママに連絡が取れるように。

最悪の場合、ここで一晩明かすことにあるかもしれない・・・。」

ドロシーはそれを聞いて、ちょっと緊張した面持ちになったが、ティンのほうに向き直ると、

「でもその時はティンがしっかり守ってくれるんでしょ?」

ティンはそれにめいっぱい自信を持って答える。

「もちろん!ドロシーには指一本触れさせないよ。それに僕は寝なくていいしね。一晩中見張っていてあげるよ。」

ドロシー 明るい笑顔で答える 「じゃぁ、どんな所だって安心よ。」

それからティンとドロシーは端末を探しながら家のほうに歩きつづけたが、やはり使用可能な端末は見つからず、とうとう日も暮れてきてしまった。

ドロシーの疲労も限界で、既に歩きながらこっくりこっくりしている。やはり今日はこの辺りで一晩過ごすより他に方法は無いらしい。

 

ティン 「やっぱりダメみたいだね・・・。仕方ないからここら辺りで眠れそうな場所を探してみるよ。ドロシーはここで休んでいるといい。すぐに戻ってくるから。」

そういってティンはドロシーを人に見つかりにくい路地裏に降ろすと、適当な雨露のしのげそうな場所を探しに出かけた。ドロシーは眠気眼でそれを見送る。

だが、そんなドロシーたちを陰から見ていた一団の集団がいた。彼らは一目でそれと分かるようなチンピラ集団である。

彼らはティンがその場を去ってしまうのを見届けると、そろそろとドロシーに近づいた。

ドロシーはうとうととして彼らの接近に気が付かない。

 

ドロシーは急にこのチンピラの一人に口を抑えられ、羽交い絞めにされた。

ドロシーははっと目を覚まし、自分が置かれた状況をはじめて理解したが、もう遅い。ドロシーはチンピラたちに完全に囲まれ、動きも封じられていた。

何とかもがいて逃げ出そうとするが、所詮10歳前後の少女の力ではどうすることも出来ない。

チンピラ1 ドロシーを押さえつけ、口を抑えながら、 

「おとなくししなよ、お嬢ちゃん・・・。おとなしくしてりゃァ、命まではとらねぇからよ・・・。俺達も鬼じゃねぇからよ・・・。」

他数人のチンピラがへへへへ・・・と笑う。

なお、チンピラ1はドロシーを後ろから羽交い絞めにして口をふさぎ、チンピラ2がドロシーに顔を近づけて脅し、3が少し後ろで鉄パイプを肩に掛けるようにして持ち、その更に後ろに4が控える、といった立ち位置。

チンピラ2 ドロシーに顔を近づけ、舌を出しながらおどけた調子でドロシーを脅す 「こんな所に女の子一人で遊びにきちゃダメでちゅよ〜〜。俺達みたいな危ない連中がごろごろいるんだから・・・。」

チンピラ1 「さぁ〜て、どうしようか・・・?こんなガキじゃどうせ大した金も持ってないだろうし・・・。」

チンピラ3  「じゃ、やっぱアレかな、こういう場合の相場ッつったら・・・。」

そういいながらチンピラ3は舌なめずりをして涎を乱暴に拭う。

チンピラ2 「おいおい、まだガキだぜ?本気かよ?」

チンピラ3 「ばーか、そこがいいんじゃねぇか・・・。」

チンピラ1 「へっ!相変わらず病気だな、お前は・・・。」

チンピラ3 「とかなんとか言ってもどうせお前らもヤるんじゃねぇか?ぶっちゃけ、もう、準備万端なんだろ?」

そう言い、下卑た笑いを浮かべながらドロシーに近づくチンピラ3

めいっぱい身体をよじってなんとか逃げようとするドロシーだが、やはりかなわない。目には涙を浮かべている。

ドロシー 「ん・・・んん・・・――!」

チンピラ3 ドロシーの顔を覗き込み、何かに気が付いたように 「・・・・ん・・・?こいつ・・・よく見たらアレじゃねぇか?エメラルドコーポレーションの第7開発部長ヘンリーの娘のドロシー!」

チンピラ1 「おいおい、そんなお嬢様がこんな所にいるわけねぇだろ?お前の見間違いだろ?」

チンピラ3 「いや、間違いねぇ。こう見えてもオレは昔はエメラルドコーポレーションの下請け会社で働いていたことがあるんだ。そん時にちらっと見たことがある。」

チンピラ2 「そんな事言っても、もう何年も前の話だろ?」

チンピラ3 「いや、間違いねぇ。オレがこの年頃の女を見まちがえる筈がねぇだろ?」

チンピラ1 「ははは。それもそうだな・・・。流石はロリコンは博士!おい、だとするとこりゃ、超ラッキーだぜ!?」

チンピラ4 「そうだな。とりあえずこのガキの家に連絡して、もしホントに娘がいなくなってりゃこっちの話に喜んで乗ってくるだろ。」

チンピラ2 「したら、身代金要求して・・・ってな具合か?いいねぇ。一石二鳥じゃねぇか。」

この会話を聞く限り、やはり彼らだけが知っている、もしくは使える情報端末というものはこのスラム街の中にあるのだろう。ドロシー達には見つからなかったが・・・。

チンピラ3 「ぐへへへ〜〜。じゃぁ、オレいっちばーん。」

今まさにチンピラがドロシーに手を出そうとした瞬間!

突然少し後ろに控えていたチンピラ4が身体ごと吹き飛んできて、ドロシーが掴まっている壁の横に激突してずり落ち、そのままぴくぴくと痙攣した。

チンピラ3 「何もんじゃぁい!?」

チンピラたちが振り向くと、そこにはティンが立っていた!

あまりのことにドロシーを抑えていたチンピラ1も抑える手を緩めている。

ドロシー 「ティ・・・ティン・・・?」

ティンは何も言わずにチンピラたちに近づいた。

チンピラ3 「このやろぅ!」

チンピラ3は手にした鉄パイプで殴りかかってきた!

ぎぃん!

だが、ティンはそれを難なく鋼鉄の右手で受け止めると、そのまま反対の腕で強烈なボディーブローを見舞う。

チンピラ3 「む・・・むごうぅ・・・。」

チンピラ3はそのままもんどりうって動かなくなる。

次は2が音も立てずににナイフを取り出して切りかかる!

が、ティンはナイフを持った手ごと捕まえると、そのまま腕を逆の方向にへし折った!

チンピラ2 「ぎゃ・・・ぎゃァァァァッ・・・!」

不自然な方向に曲がった腕を抑えながらチンピラ2はのた打ち回っている。

チンピラ1 「ひ・・・ひィ・・・ッ!」

1は無残に倒された仲間たちの姿を見ておびえ、捕まえていたドロシーを放し、そのまま逃げ出そうとした。

ドロシーも一連の出来事に思考がついていかず、ただ呆然と見守っている・・・。

 

そのとき、再びノイズのまじったザッピングのようにティンの視覚デバイスにフラッシュバックが映る。

狂ったように銃を乱射する兵士。

涙を流しながらハンドガンを自らのこめかみに当てている兵士、など・・・。

 

が、ティンは逃げ出そうと後ろを向いた1の後頭部を掴むと、そのまま高く持ち上げた。

ティン 「死ネ・・・。」

ティンがそのままコンクリートの地面に1の顔面を叩きつけようとした瞬間!

ドロシーが叫んだ。 

「ダメぇッ・・・!」

その声に反応し、ティンは瞬間的に動きを止めた!

チンピラの顔面は地面と数センチのところで止まった!

ドロシー 泣きながら 「だめだよぉ・・・。死んじゃうよ、その人・・・。人間になりたいんでしょ?だったら・・・ダメだよぉ・・・人殺しになんてなっちゃ・・・絶対・・・。」

ティン 不自然な機械音声で 「デモ、コイツラ、どろしーヲ・・・。」

ドロシー 更に叫ぶように 「それでもダメなの!人なんか殺しちゃ・・・絶対人間になんてなれないよ・・・。」

泣きつづけるドロシーを見ているうちに、まるで憑物がおちたように、ティンの様子が変わった・・・。

「分かりましたよ、ドロシー。もう何もしません。」

ティンはそう言ってチンピラを放した。

チンピラは地面に叩きつけられる際の恐怖で既に気絶していた。

力なく崩れ落ちるチンピラ1

それを傍目に今までのティンに戻ったことに気が付いたドロシーはそのままティンにしがみつく。

ティン ドロシーの頭をなでながら 「こんな所にドロシーを一人置いて行った僕のミスだ。ごめんね。怖かったね?」

泣きつづけるドロシー

ティン 「そう、向こう側に丁度いい空家を見つけたんだ。今日はそこで一晩明かそう。もちろん僕が寝ずに番をするから、ドロシーは安心して眠っていてね。」

そう言ってドロシーを連れてスラム街の闇に消えていくティン・・・。

 

このときドロシーがもう少し大きかったりしたり、もしくは冷静な判断が出来る状態であれば、ロボット3原則の一つである「人間に危害を加えてはいけない」という原則を、ティンが無視していたことに気が付いたのだが、この時点でのドロシーにはそんな判断力は欠如していた。

 

 


夜が明け、次の日のお昼過ぎ頃。

ドロシーとティンは無事にドロシーの家の前まで来ていた。

ドロシーの回想で見た邸宅そのものである。ドロシーの家はぐるりと塀に囲まれた大きな庭を持っており、その門の前に二人(?)は辿り着いていた。
そして、よく見ると玄関口の辺りにはドロシーを心配しておろおろしている父親ことヘンリーがいる。

それを見た瞬間、ティンの動きが止まった!

ヘンリーの網膜に自動走査が入る。

そして回路が激しく動く音がする。

今まで何度か見たフラッシュバックが再びティンの視覚デバイスの中を踊る・・・。

セピア色の視界の中、次々に現れる記憶の断片らしきフラッシュバック。

そのどれもが、戦争や戦場、そして人の死に関わるものであった。

 

が、ドロシーはそんなティンの様子には気がつかず、一目散に父親の元に駆け寄る。

「パパァ!!」

ヘンリー 驚いた調子で 「ドロシー?ドロシーかい!?」

娘の、ちょっと薄汚れてはいるが、無事な姿を見つけたヘンリーは満面の笑顔で走ってくる愛娘を抱きかかえた。

ヘンリー 涙声で 「ドロシー・・・心配したんだぞ・・・。」

ドロシーも涙声で 「ごめんなさい・・・パパ・・・でもね・・・あそこのティンがね・・・助けてくれたの。」

その言葉に顔を上げるヘンリー。

それに合わせてティンが動いた瞬間!

いつの間に控えていたのか、庭蔭、門の蔭、屋敷の後ろから何十人と言う武装警官と武装ロボットが現れ、ティンに銃などを向けて取り囲んだ!

ドロシーはあまりのことにあっけに取られているが、ティンは全て納得したようにおとなしい。

 

ドロシー 「パパ・・・何・・・?この人たち・・・?ティンは・・・悪いロボットじゃないよ?スラム街に迷い込んじゃったドロシーを助けてくれたの!」

そう言いながらティンに走りよろうとするドロシーをぐっと押さえつけるヘンリー。

ヘンリー 「いいから、パパの言うことを聞きなさい。アレはホントは怖いロボットなんだ・・・。」

ドロシー 「嘘よ、ティンはドロシーのお友達よ!?お友達の事をそんな風に言わないで!」

ヘンリー 「アレは、パパが開発したTIN−25型汎用兵装ロボット。分かりやすく言うと戦争に行って人を殺すためのロボットだ。そしてあのロボットは作戦中に脱走してスラム街に逃げ込んでいたんだ。既にあいつは戦場で何十人、何百人と言う人を殺している、とっても危ないロボットなんだ・・・。アレを・・・作ったパパが言うんだから間違いないよ・・・。」

ドロシー 涙目でティンに話し掛ける。

「ウソ・・・ウソでしょ・・・。」

ティン ちょっと諦めたような口調で 「パパの言うとおりだよ、ドロシー。僕は今までたくさんの人を殺してきた悪いロボットだったんだ・・・。ドロシーのパパの顔を見て、全部思い出したよ・・・。」

実はエメラルドコーポレーション製の全てのロボットは会社の人間、特に役員クラスの人間に対しては最優先でその人物を保護するための臨時プログラムが組み込まれているのである(映画『ロボコップ』など参照)。そのため、エメラルドコーポレーションの第7開発部長であるヘンリーを網膜走査した際、臨時プログラムが発動し、何らかの機械的作用でそれまでアクセスできなかったメモリ領域にアクセスが可能になったのである。

ドロシー 「そ・・・そんな・・・ウソよ・・・。それに・・・例えホントだとしても、ティンはもう人を殺したりなんかしない!ドロシーと約束したもん!人間になるために人を殺さないって・・・。」

するとここの司令長らしき一人の刑事がドロシーに尋ねた。

「もしかして、あのロボットは、ドロシー、キミに『人間になりたい』といったのかね?」

ドロシー 懸命に答える 「そうよ!だからパパの力を貸してあげて!」

刑事 「そういう症状もあのTIN−25型に搭載されているAIの特徴なんですよね。ゾンターグさん?」

ヘンリーは力なく頷く。

 


刑事のモノローグに何度かティンが見たフラッシュバックの完全な映像が流れる。

今までティンが見てきたフラッシュバック、それは戦場の、特に死を目前にした兵士などの映像であった。

この世での最後の食事と知りつつ無表情にオートミールを頬張る兵士。

致命傷を負い、確実な死を目前にしながらも何かを叫びながら銃を撃ちつづける兵士。

自爆テロを試みる民間人。

自分が助からないことを知って自殺を図る兵士・・・など・・・。

 

刑事のモノローグ

「このタイプのAIは・・・非常に優れた学習型のAIである。自分にとってもっとも興味を持つべき対象はなにか?それを瞬時に判断して自らその学習を進んで行うことの出来る、言わば次世代のAIだ。だが、一方で戦場などで何度も人の死を目前にしていると、そこで死んでいく人間そのものに興味を持ち出すらしい。優秀な兵器ロボットにとって人間の思考パターンは特に知っておかなければならない対象だ。その学習機能がある程度リミットを越えると、今度は自分がその人間そのものになりたがろうとするらしいのだ。言ってみれば・・・このTIN−25型の自律思考型AIが兵器ロボットに用いるには優秀すぎた・・・とでも言うのだろうか・・・。」


そして現実に戻る。

 

ドロシー ヘンリーに泣きつき、激しく泣きじゃくりながら 「パパ、ドロシーなんでもする。これから絶対いい子になる。だからティンを許してあげて・・・。」

ヘンリー 「残念だけど・・・それは出来ない・・・。ごめんよ、ドロシー・・・。」

ドロシー ティンのほうを向いて 「ティン・・・。」

ティン 悲しげな感じで 「残念だけど、ここでお別れだ・・・。」

ドロシー 「そ、そんなのダメよ!絶対!ドロシーが人間にしてあげるって約束したじゃない!」

ドロシーはヘンリーの手をかいくぐるとティンの方へ走り寄ろうとした。

それをみたティンはドロシーに手を差し伸べようとする・・・。

それは刑事の目には拳銃を取り出しているように映った。

ガガガガガガガガ――――・・・・・・・・!!

間髪いれず、武装警官と武装ロボットによる一斉掃射がティンに向けて放たれた!

その圧倒的な弾幕の中でティンの装甲は次々に剥ぎ取られ、火花を散らしながら文字通り蜂の巣のように穴だらけになっていく・・・。

それを目前にしながら呆然と立ち尽くすドロシー。

我を忘れたようにその光景を見守る刑事・・・だったが、はっと我に返り叫び声を上げる。

「う、撃ち方やめっ!!」

いくら相手が戦闘用ロボットとは言え、明らかにオーバーキルだ。

すでにTIN−25型は殆どスクラップになっていて、元の原型をとどめていない。

刑事は僅か10歳前後の女の子の前でこのような残虐な光景を見せる羽目になった自分を呪った。

ドロシー 「ティ・・・ティン・・・・・・・。」

よろよろと力なくティンと呼ばれたモノであった残骸の元に歩み寄るドロシー。

あちこちからオイルや蒸気が噴出し、火花が飛び散っている。

ドロシーにはそれらがまるで血のようにみえた。

 

ふとドロシーはその残骸の中にティンの手だったものらしき部分を発見した。

しゃがみこんでその中を確認すると・・・。

その手に握られていたのはドロシーがスラム街で投げ捨てた筈の、両親の写真が入ったロケットであった・・・。

 

 


場面は移り、20年後。

場所は某工科大学のキャンパス内の機械工学部。そのキャンパス内を大勢の学生や研究者が歩き回っている。そんな中でひときわ目立つ美人女性研究者が一人、颯爽と歩いており、何人かの生徒や研究者が挨拶する。それに答えながらその女性は研究棟の中に入っていく。

生体工学研究室(Laboratory of Biological Technologies)と書かれた研究室にその女性が入ろうとした時、通りすがりの学生がその女性に声を掛けた。

「こんにちは、ドロシー先生!彼氏はまだ出来ないの?」

女性は・・・つまり成長したドロシーである。

「余計な事言わないの!それよりレポート、ちゃんと期限までに出すのよ?あと、『ドロシー先生』じゃなくて『ゾンターグ先生』でしょ?」

学生 「はーい、ドロシー先生!」

そう言っておどけながら去っていく学生をため息混じりのちょっと困ったような苦笑顔で見送ったドロシーはそのまま向き直って研究室に入る。

 

「お帰りなさい、ドロシーお嬢様。熱いお茶でも入れましょうか?」

「そうね、お願い。」

「かしこまりました。」

そう言って出迎えたのは先の回想シーンで登場したトートーそっくりの旧型(この時代では既に旧旧型ほどだ)のメイドロボット。

よく見ると傷の位置や錆の位置まで前のトートーと同じである。違うのはその流暢なしゃべり口と、正確な状況判断である。

そのままドロシーは自分の実験用端末の前に座ると、早速何か仕事を始めた。

その横にはドロシーの注文どおりの熱いお茶を入れたトートーが立っている。

ドロシー 「ありがと、トートー。」

トートー 「それではまた、ご用があったらお申し付けください。」

そう言ってトートーは下がる。そこ・・・、トートーのかげになっていて見えなかったスペースには、ティンそっくりの、いや、ティンの頭部が置いてある。

ティンである証拠にその表面の装甲は銃弾で出来た無数の穴がある。

ドロシー 一休みするようにティーカップを持って 「早く・・・貴方とおいしいホッドドッグが食べたいね・・・。」

 

 

FIN