鼻行類ゼミ第4回

各グループの記載 古鼻類

Aug. 21

 いよいよ今回から具体的な種についての記載の部分を扱う。第一回目は古鼻類、前回のゼミを復習して欲しいのだけど、あの系統樹で最も根元に近い枝にあたるのがこの古鼻類だ。
 左の図がその古鼻類、ムカシハナアルキ。古鼻類はこの1種しか知られていない。見たところちょっと不細工に鼻の大きいネズミみたいな感じなんだけど、大体そんな理解でいいんじゃないかと思う。
 つまり、生活の仕方はとてもネズミ、正確にはハイアイアイに生息する鼻行類以外の唯一の哺乳類であるトガリネズミによく似ている。昼間は巣穴で休み、薄暗い時間に外に出てきてエサを採る。
 このムカシハナアルキは4本の足で歩く。鼻は歩行には使われない。ただし、こいつらのエサとしているのは巨大なゴキブリで、掴んでおくのにちょっと力がいる。で、それを食う時には鼻で体を支え、四肢を全部使ってゴキブリを掴んで食うワケなのだ。図の中では左上にいる個体がお食事中だ。
 このようにムカシハナアルキの鼻はまだあまり機能が分化していない。エサを採る時に体を支えるというだけのことだ。でもその鼻をよく見てみると、うまく鼻の縁が広がり、そして粘着性の強い鼻汁が体を安定させるのに役立つ、といった具合に実にうまく出来ている。これからさらに機能を強化した鼻が派生することは十分に想像できる。
 かつてハイアイアイには原始的な食虫目がいて、それが2つ(あるいはもっと多く)に分かれ、一方がムカシハナアルキのような形のものを起点とする鼻行類、そしてもう一方がヌマチトガリネズミになった、という説にだいたい落ち着いているのだけれど、一つ疑問なのはなぜトガリネズミの方の流れはそれから先に進めなかったのか?ということだ。
 可能性として考えられるのは大形のゴキブリを効率良く食べることのできるムカシハナアルキの(様な古い形の鼻行類たちの)性質が生存に驚くほど有利に働いたと言うことだ。そしてもう一方の流れを圧倒する形で鼻行類の祖先たちが殖え、さらに様々な形に分化し、ハイアイアイにおけるあらゆるニッチを占めるようになった。そうなればもう一方の流れから分化してきた哺乳類の入る余地はない。
 鼻行類の繁殖能力は一般にあまり高くない。ムカシハナアルキの繁殖生態についてはあまり研究が進んでいないが、他の種ではたいてい子を一度に一頭しか産まないし、妊娠期間も平均で7カ月と長い。それにも関わらず結果として残っているのは鼻行類たちなのである。しかし、鼻行類の繁殖能力が低いというのは根元的な性質というよりはむしろ、競争相手のいない状況が保証されて初めて生まれたものであると考える方が自然かも知れない。
 もう一つ気になるのは鼻行類の多くがとても小さい体を持っているということだ。実際、現存する鼻行類のほとんどは体長10cm前後あるいはそれ以下であり、ナゾベーム類は高さが1mにも達するがこれはむしろ例外と言ってよい。離れ島にとって必然的な狭い生活空間をうまく利用できる適応能力を持つものだけが生き残ることができたのだ。ムカシハナアルキの近縁種の化石が発見されているが、それはイエネコほどの大きさがあった。そのような大きな体をもつ種は次第に滅んでいったのだろう。
 ということでだいぶ話が拡がってしまった。今回はこの辺で止めておく。次回はムカシハナアルキとも関係の深い軟鼻類など。


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